姿変化、シテマス
「ナインさん。お願いがあります!」
「……んぁ?」
寝ているナインにアデルが意を決したように頼み込む。
「あの鎧を着るにふさわしい冒険者になりたいんです」
アデルはナインに剣の稽古をつけて欲しいと申し出た。
そのアデルのまっすぐな目をナインはさらにその奥までのぞき込む。
(ふん、最初の頃に漠然とレベル十になりたいと言った時よりは多少”道”が見え始めたか? でもなぁ、別にあの糞騎士によろしく頼まれてねぇけどよ)
と思いながらも
「いいぜ。でも泣き言を言ったらそこで終わりだ。ラハ村に帰って一生畑を耕してな!」
「はい! ありがとうございます!」
「だがさすがに街中で剣を振るうわけにはいかねぇからな……」
二人は、かつてシナンが糞尿とゲ○を吐き出しながら、ナインに鍛えられたあの空き地へ向かった。
そこでは地面に立てられた案山子に向かって短い金髪を振り乱しながら、冒険者組合で中古で売っている剣で、誰かが鋭い剣を打ち込んでいた。
(あの人は? ……ま、まさか!)
その後ろ姿はかつて歓楽街で出会った、短い金髪の花売り少年だった。
細い体、細い腕、細い足。
その体はおよそ冒険者向きじゃないとアデルにすら思わせたが、体の動きや打ち込みの鋭さは、自分よりかなり経験を積んでいると見受けられた。
「あ、ナインさんだ。こんにちわ! そちらの子は……ひょっとしてこの前ナインさんが話してたアデル君? あ! はじめましてって言った方がいいのかな?」
「あ、はじめまして……アデルと言います」
ぎこちなく答えるアデルに対し
「なぁに緊張しているんだおめぇは? ん、ひょっとしてこいつの裸を見たからかぁ?」
ナインは”にたぁ~”といやらしい目でアデルとその少年を交互に見る。
「えぇ! 見られちゃいましたかぁ? でもナインさんやフランさんのお手伝いをする子だから、見られても別に仕方ないかなぁ……」
と、その少年は胸に手を当て、頬を赤らめながらアデルを見つめた。
「え! いや見てませんし! と言うか会ったことはあるといえば、え? お手伝い?」
「んん? さっきからなにいってんだおめぇは……って”エアリー”、お前【姿変化の指輪】発動したままじゃねぇのか?」
「あ、いっけな~い」
エアリーと呼ばれた”少年”は舌を少し出しながら薬指につけた指輪を軽くなでると、少年の姿がゆっくりとぼやけながら消え、アデルの目には以前屍回収した蒼白の髪の”少女”エアリーの姿が映っていた。
「あ、エアリー……”さん”?」
ようやく事態が飲み込めたアデルの顔は、何か喉に引っかかったようだった。
(やっぱりこの人も歓楽街に……)
「ラガスの首を切ってくれてありがとう。あと、お見舞いのお花、すごい綺麗だったよ!」
「あ、いえ、どういたしまして」
”ポカ~ン”と軽く口を開けながら、アデルはナチュラルな受け答えをした。
「剣も鎧も壊れちゃたけれど、あのクエストの報酬で鎧はなんとか修理できそうだから。あとアデル君、裸を見たことは別に気にしなくていいよ。覗きをするナインさんに比べればちゃんとしたお仕事だし……。そりゃあフランさんに比べると見劣りするけどね」
顔の前で手を振りながら
”粗末なモノを見せてしまって逆に申し訳ない”
ように話すエアリーだったが、何か別な思いをアデルの顔は含んでいた。
そんなアデルの頭を鷲づかみにし、無理矢理顔を向けさせたナインは
”白状しろ!”とばかりに睨み付けた。
「あ、あの……言ってもいいですか?」
アデルはナインとエアリー交互に目で確認をとりながら、蘇生後お金が無くフランの店を追い出された後のことを話し始めた。
そして歓楽街で少年に姿変化したエアリーが花を売っているのを目撃したと。
「うん、私時々黒薔薇の団さんの紹介で、歓楽街で薔薇を売っているよ。でもよく覚えていたね。ひょっとしてこの男の子の姿、アデル君のお好み~?」
ナインかフラン譲りなのか、エアリーは”にたぁ~”とぎこちなくいやらしい笑みをアデルに向けた。
なおも何か含んでいると見切ったナインは、頭をつかんだ手に力を込めた。
「痛い! 痛いです!」
と叫びながら、あくまで学園の同級生に聞いたこととして話した。
「あの~花売りの人って……実は体を売っ……」
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