死シテ屍(しかばね)拾いマス ―竜の糞にぺちゃんこにされた少年―

宇枝一夫

第一部

序章

取扱説明書

 おお、この書をポチッとしたのか? なに慌てることはない。

 この投影を通しておぬしに語りかけているだけじゃ。

 ぬぅ? 声は聞こえない? 投影から文字が見える??


 なんと!!


 そちらの世界の投影機器はわしの声を翻訳して、あまつさえ文字に投影してくれるのか!

 なんとすばらしい能力を持っているのか!!


 ところでこの書をポチッとしたと言うことはおぬしは


微弱雷駆動投影遊技びじゃくいかづちくどうとうえいゆうぎ


なるもので遊んだ経験があるのじゃな?

 何?意味がわからん?

 ああ! すまんすまん!

 さっきの微弱(略)はわしらの世界での


《腐れ女》


がつけた呼び名じゃった。確かそちらの世界では


《テレう゛ぃしょんガメ》?


だったか? 何? 発音が違う? うるさいわい!


 前置きはこれぐらいにするか。ところでおぬし、その“ガメ”を遊んでいる最中、疑問に思ったことはないか?


 んーそうじゃのう……。例えばおぬしの操る分身、

”ちゃらくとる”が投影遊技内で死んだ時、投影されたメニューのボタンを押すと、いつの間にか宿屋や神殿で蘇っていることじゃ。

 なに? “ガメ”だから当たり前だって?

 

 確かにわしらの世界でも死者を蘇らせることはできる。

 魔法とか”せい法”とかでな。

 

 ん?”聖法”とはなにか?じゃと?

 なんのことはない、おぬしらの世界で言う

“聖なる魔法“、”聖なる呪文”のことじゃ。


 これについてはわしは前々から疑問に思っていてな。

なぜおぬしらの世界では

“聖と魔”、または、”聖と呪”が同じ言葉内で存在しておるのじゃ?


 わしらの世界ではこれら二つの言葉は正に

“水と油”じゃ。口にも出せん。羊皮紙にも書き表すことのできない。

 まさしくおぬしの世界の書物、遊技やガメの内でしか存在できない言葉じゃ。


 だから申し訳ないが先ほどの”聖なる魔法や呪文”は“聖法”として語らせてもらう。

 なあに、慣れれば気にならなくなる、ちと我慢せい!

 

 脱線してすまんな。

 儂が言いたいのはおぬしの”ちゃらくとる”が死んだ時


”誰が”


神殿や宿屋まで運んでいるかということじゃ。


 仲間がいればいいが、一人で冒険に出て死んだ時、またはパーティーが全滅した時はどうじゃな?


 実はガメの”ぷろぐらむ”……おお!この読みであっておるのか! 儂もなかなか……コホン、には職業、クラス、”えぬぴーしー”にも存在しない、

”ぷろぐらむ記述者”が、正に神の見えざる手で入力した


しかばね回収人》


という者達が存在しているのじゃ。

 なに? 初めて聞いた? 当たり前じゃ! 

 儂がこの職業をおぬしの世界で話すのは初めて……じゃからの……と思う。

 自信はないが……。


 まぁ地味な職業&わしらの世界でもほとんど知られてないからゆえ、そちらの世界に星の数ほどある

”空想入門書”や”空想伝記”

からも省かれたとも言えなくはないが……。

 

 というわけでこの書物には、そんな屍回収人のことが書かれている。

 だが本当に儂の話を聞く、いや、読むのか……この書物を……?

 最初に言うがこの書物の内容は正に

 

 《くそ》だぞ!


 そういう嗜好がおぬしの世界にあるのは儂も……まぁ……

知りたくもないが知ってしまったが……。

 いくらなんでも

 

 《おぬしの世界に存在しない糞》


を嗜好できるものは……え! いる!!

 しかもおぬしがまさにその一人! ドン! ピシャ!! ……だとぉぅ。

 

 うむ、少し、いや、か・な・り、お主の世界の人間達を侮っておった。

 ならば存分に余すところなくこの

 

 《物語》


を味わうが良い!

 

 まぁ儂が言うのも何じゃが、おぬしのその“糞”嗜好は、おぬしの世界の公の場では言わない方が良いぞ。


 儂との約束じゃ……。

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