大鴉団のアジト
@Sugra
問題編
大鴉団からの予告状が各新聞、放送局、京都府警に届いたのは4月の終わりのことだった。
大鴉団は国際的に活躍する大物窃盗集団である。狙う獲物は金銀財宝、ダイヤにサンゴ、とにかくキラキラと輝いている装飾美術、そして犯行に及ぶ前に必ず予告状を出す律儀な怪盗団として知られていた。
今回彼らが狙ったのは京都東山に鎮座する三十三間堂に並ぶ仏像の一体だった。
もちろん警察は彼らを捕まえようと努力した。
けれどいつもの通り、彼らはまんまと盗みに成功する。派手に予告状を撒き、観衆を集めてその中に紛れて行動するのが彼らの常とう手段だった。
しかし、今回は少し様子が違うようである……
「兄貴、今回も上手くいきやしたね」
ワゴン車のハンドルを握るひげ面の男が上機嫌に言った。
「ふん、当然だろ」
助手席に座った背の高い男がふんぞり返る。
ワゴン車の後部座席には2メートル近い仏像が横たわっている。二人はつい先ほど三十三間堂から仏像を奪ってきたのだ。
「……しかし、やっぱりいい出来だぜ」助手席の男が言う。「修学旅行で見たときからいつか俺のものにしたいって思ってたんだ」
「へえ、じゃあ今回のターゲットは兄貴が決めたんですかい」
「ああ」助手席の男は鋭い視線であたりを見回しながら言った。「やっとボスにお目通しが通ったんだ」
「え、じゃあ兄貴はボスの顔を見たんですかい?」運転席の男は思わず飛び上がる。「伝説の大泥棒であるボスを!?」
男と同時に車もバランスを失って、危うく隣を走っていた市バスにぶつかりそうになる。
「馬鹿野郎! 手を離すんじゃねえ、あぶねえだろ!」
「へえ、すいやせん!」
運転手は慌ててハンドルを握った。
「いやでも、驚いて」
「別にそんなに驚くような話じゃねえよ」背の高い男は続けた。
「それに直接顔を見たわけじゃねえ。声を聞いただけだ。そんなに簡単に会えるわけねえだろ? この大窃盗集団、大鴉団の大ボスによ」
大鴉団は彼ら二人だけの組織ではない。正確な組織の規模は知らないが、大鴉団は構成人優に100人を超える巨大な窃盗組織である。だからそれは窃盗団というよりも、泥棒の集まりという方が正しい。予告状をばらまき、観衆を集める理由の一つは、その慣習の中に自分たちの味方を何人も紛れ込ませるためでもあるのだ。だから彼らは今まで捕まってこなかったのである。
もっともそれだけが理由ではない。大鴉団の流動性の高さも捕まってこなかった理由の一つである。
泥棒たちの間には一つの伝説がある。
泥棒が一人で盗み出せない巨大なものを狙うとき、どこからともなく手紙が届く。今は待て、俺に協力してくれたら、その盗みを手伝ってやろう。それにこたえると、その泥棒は大鴉団の一員となるのだ。二人の男はもともと二人組の窃盗犯だったが、数年前にその手紙が届き、今回でやっと本願が成就したのである。
「それにしてもよかったですね、兄貴。ボスも忙しい身ですから、中には十年も自分が欲しいものを待たないと盗みに行けないこともあるらしいっすから」
「ああ、運がよかった……でもよ、1000体もあるんだから一つくらいいいだろうになあ、あんな厳戒態勢を敷きやがって」
「ちげえねえっす」あっはっはと二人は楽しそうに笑った。
笑いながら運転席の男はちっと舌打ちを打つ。
「どうした?」助手席の男が問う。
「いえ、別に大したことじゃねえです。ただあのタクシー、いきなり車線買えやがったから。しかし京都っていうのは、どうしてこう運転荒いんだ! 路駐しすぎですよ」
「確かにそうだな」
男は辺りを見回した。京都の車は運転が荒い。バスもたくさん走っているし、車線もそれほど多くはないからどこに行っても混雑している。
「……つけられてたりはしませんかね?」
運転手の問いに、助手席の男は首を横に振った。
「大丈夫だ。俺が尾行なんて許したことがあったか……だけど今回は念には念を入れて尾行を撒くぞ。今回は大鴉団の他の連中にも迷惑が掛かっちまうからな」
「へい」
男たちは念入りに尾行を撒いて、二回車を乗り換えて、大鴉団のアジトへ向かった。
アジトは京都烏丸丸太町の雑居ビルの中にあった。
仏像を運び込んで、二人は一息ついた。
「いやそれにしても今回は大仕事だったな」
アジトで待っていた泥棒の一人が言う。
「違うぜ」背の高い男は言った。「今回も、だろ」
「それもそうだ! 大鴉団の仕事はいつも大仕事だ!」
皆が笑った。
と、その時、
「動くな!」
大きな声がして皆が扉を見た。
「げぇ! 警察!」
そこには何人もの警官が扉の前に立っていた。 ひげ面の男は角に駆け寄る。窓の外も完全に包囲されていた。
「なんでここがばれたんだ!」誰かが叫んだ。答えは簡単だった。
「全員窃盗の容疑で逮捕する!」
その日、大窃盗団大鴉団は壊滅した。
****
「畜生、なんでアジトがばれたんだ!?」手錠をかけらえれた背の高い男は近くの警官に食って掛かる。
警官は笑って答えた。
「気づかなかったのか、ずっと俺たちは追跡していたよ」
「そんなバカな!」
男は愕然とした。警官はそれ以上は答えなかった。
問題です。
警察はどうやって彼らを追跡していたでしょうか?
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