リメンバー

月光 美沙

異世界

思い出せ

―1ヶ月前―


 彼女の姿は、まるで月光の中で祈りを捧げる聖女のようだった。


 上を向いた顔は悲哀に満ちていた。光を失った瞳は何も見てない。

 伸びきった首に巻きつくロープは、七色の毛糸が綺麗に編み込まれて作られていた。


 彼女の死体を取り囲むのは、三人の妹と一人のいとこ。

「おねえちゃま、どーしたの?」

 わずか8歳の少女が重い沈黙を破った。

「ゆりおねえちゃま、ぶらんこ……」

 我に返った三女が末っ子を連れて、死の空間から出た。

 部屋を連れ出された少女は、手を引く私をつぶらな瞳で見上げて来た。

「おねえちゃま。レンも、ぶらんこ、したいですぅ」

 幼い少女は、とても純粋で汚れなく無垢だ。……無知なほどに。

 しかし、それは仕方がない。

 あの死体は、彼女の姿は、どこか異常なほど綺麗すぎた。

 死んでもなお美しい、彼女――――それが脳裏を何度も駆け巡る。


 何か、言わなければ。

 現実を、伝えなければ。

 彼女の死体が消えない。頭から消えない。

 消えない。消えない。消えな……声が出てこない。出ない。身体も動かない。


 次第に頭の中が痺れて来て、真っ白になって、何も考えられなくなった。



 頭の中で響く、誰かの声。それは短く言った。





「お前が殺したんだ」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る