第245話 青のブロストⅡ

私は飛んでくる糸を角で受け、脚を踏ん張り糸を引っ張る!


「シャアッ!?」


 身体を引き摺られたウィドーは瞬時に腹部の糸を切り離す。


「ふんっ!」


 私は切り離された糸を鞭のように使い、オ・ケラの両前脚の関節部に糸を巻き付け、縛った。


「ジィィィッ!?」

「ギチィィィィィィィッ!!」


 レインボーの大顎から七色の衝撃波が私目掛けて発射される!


「オラァァァッ!!」

「ジ、ジィィ!?」


 私は糸を引き、オ・ケラを衝撃波目掛けて投げ飛ばし、衝撃波は全てオ・ケラに命中する!


「ジィィィィィィィッ!?」


 オ・ケラは悲鳴を上げながら地面に落下。


「《炎の角・槍》ッ!」


 私は糸を焼き切ってレインボーに接近、炎の角・槍での突き攻撃を繰り出す。


「ギチィィッ!」


 レインボーは湾曲した大顎を巧みに使い攻撃を逸らす。


「シャアアアアアッ!」


 その間にウィドーが天井を伝って私の真上を取り、右前脚で糸を取り先端を丸め、振り回し始めた。

 そしてその糸を私目掛けて投げて来た!


「っ!」


 私は角での横薙ぎでレインボーを叩き飛ばした後、後方に跳んで糸を回避する。

 今の行動、まるでナゲナワグモのようだな……


 ナゲナワグモは、北アメリカに生息するのクモで、糸で虫を捕らえる種だ。

 先端に粘液の球がついた糸をぶら下げ、獲物の昆虫が近づくとその糸を振り回して昆虫を粘液球に接触させ、獲物が掛かると、糸を引き上げて捕食するのだ。


「シャアアア……」


 私が糸を回避したのを見たウィドーが、今度は左前脚でも糸を振り回し始めた。


「ギチィィィ!!」


 レインボーが私目掛けて再び虹の大顎で七色の衝撃波を放つ!


「シャアアアアッッ!!」


 それに合わせるように天井からウィドーが二つの糸縄を投擲する!


「《炎の角》、《斬撃》、《操炎》っ!」


 私は炎の分裂斬撃で衝撃波を相殺、そのまま翅を広げて空を飛んで糸縄を避ける。

 だがその時、背後から私に襲い掛かる影が!


「ジィィィィィィ!」

「オ・ケラ!」


 先程虹の大顎を喰らって倒れていたオ・ケラだ!

 オ・ケラは縛られている両前脚を光り輝かせ、私の背部に振り下ろした!


 両前脚が私の前翅に直撃、大爆発が起こる!


「ぐあああああああああっっ!?」


 爆発の衝撃で私は地面に激突する!


「ぐ、ぅぅ……」


 やはり奴の爆発の爪は強力だ……よし、前翅にヒビが入っているが、飛ぶのに支障は無い。


「ジィィィッ!」


 先程の爆発で糸が焼け、両前脚が自由になったオ・ケラが私目掛けて飛び跳ね、右前脚の爆発の爪を振り下ろす!

 私は横に跳び爆発の爪を回避!


「シャアアアア!」


 そこを狙ってウィドーが糸縄を投げ、私の身体に粘着性の糸が張り付いた。


「何ッ……!?」

「シャアアアアアアアアッッ!!」


 ウィドーは糸の上を移動し私の背中に取り付き、目にも止まらぬ速さで糸で私の身体を巻き始めた!

 くっ、身動きが……!


「ジィィィィィィィ!!」


 そこに左前脚を輝かせてオ・ケラが跳び掛かって来る!


「させるかっ! 《炎の角・鎧》!」

「シャ、シャアアアアアア!?」


 全身を炎で包んだことで糸は焼け落ち、足先が焼けたウィドーは私から脚を離した。


「飛んでいけぇぇっ!!」

「シャアアアアアアッッ!?」


 私は角を振りオ・ケラ目掛けてウィドーを叩き飛ばした!


「ジィィッ!」

「シャアアッ!?」


 オ・ケラは飛んできたウィドーを邪魔だと言わんばかりに右前脚で叩き落とし、そのまま私に向かって来る!


「《斬撃》、《操炎》っ!」


 私は炎の分裂斬撃でオ・ケラを攻撃!


「ジィィィィィィィィッッ!!」


 迫ってくる斬撃に対して、オ・ケラは両前脚を光り輝かせ、爆発の爪をぶつけ合い、爆発させた!

 爆風と爆炎で分裂斬撃がかき消されてしまう。


「ジィィィィッ!」


 そしてそのまま私目掛けて突っ込み、左前脚の爆発の爪を振り下ろしてくる!


「これなら……どうだぁ!」


 私は角でオ・ケラ左前脚関節部に滑り込ませる!


「ジィィィッ!?」


 どうだ、関節部なら触れても爆発はしまい!


「オォラァァァァァァッッ!!」

「ジィィィィィィィィッ!?」


 そのままオ・ケラを下で私達の戦いを愉快そうに干渉しているブロスト目掛けてぶん投げた!


「……ふんっ!」

「ジィィッ!?」


 ブロストは自らに飛んできたオ・ケラを蹴り飛ばし、オ・ケラは壁に激突した。


「ギチィィィ……」

「シャアアアアア……」


 レインボーとウィドーがブロストの元に戻り、私を警戒している。


「殿っ!」


 私の元にガタクとソイヤー、ドラッヘにカヴキ、テザー、ティーガーとゴリアテが駆けつける。


「ガタク、勇者達の状態は?」

「二人ほど重傷を負っているが、それ以外の者は別段命に問題は無い負傷で御座る、今ベルが治療を行っているで御座る」

「そうか……」

「ふふふふふ、大分痛めつけたんですがねぇ、流石は間人と言った所ですねぇ」

「間人……?」

「ああ、貴方達はハーヴェスターの相手をしていたから聴いていないんでしたねぇ、まぁ別に大事な話でもないので気にしないでくださいねぇ」

「そんな事よりもブロスト、貴様に聞きたいことがある!」


 私達の間を通って、ミミズさんが前に出てきた。


「何ですかぁ? 私に話せることなら何でも話しますよぉ」

「貴様が侍らせているその二匹、そやつらは一体何者じゃ!」

「何者、と言うのは?」


 ミミズさんの質問に首を傾げるブロスト。


「そ奴らからはかつて儂のしもべだったレインボーとウィドーの気配と同じモノを感じるのじゃ……だがあ奴らはすでに死んでいる!」


 そう、その二匹は私もミミズさんの記憶で視た事があり、ブロストの近くに居る二匹はそいつらと姿形までそっくりなのだ。


 故に私は奴らをウィドー、レインボーと呼称している。



「答えろ! そ奴らは何者じゃ!」

「そうやそうや! あいつらと同じ姿しとるなんて気味悪いわ」

「そこに関してはゴールデンに同感だ」


 ゴールデンとゴリアテも口を開く中、ブロストは口元を押さえて楽しそうに笑っている。


「ふふふふふ……答えましょう、彼等は私が造り出したのです」

「造ったじゃと……?」

「ええ、貴方のしもべであったレインボーとウィドーの亡骸からねぇ」

「っ!?」


 ブロストの発言に、ミミズさんが驚愕する。


「要するにウィドーとレインボーの複製品と言うわけです……いやぁ苦労しましたよぉ、かつての戦争跡地を探し回ってようやく骸の一部を見つけ、それを元に彼等を造るのにどれだけの時間を使ったことか……」

「やはり儂の勘は正しかったのか……じゃが、このような形であ奴らと再会する事になるとは……」


 ブロストが愉快そうに語る中、ミミズさんが悲しそうにそう呟く。

 その姿を見たブロストが今まで以上に楽しそうに笑う。


「ふふふふふふふ! 良いですねぇ、貴方のその姿を見れるだけでも彼等を造った甲斐があるというもの」

「……? どういう事だ、その言い方……まるでずっと前からミミズさんを知っているような口ぶりじゃないか?」

「ええ、知っていますとも……そいつは私にとって最も忌々しい存在ですからねぇ」


 ブロストの両目が赤く光る。


「何じゃと?」

「分からないのも無理はありません……何せ種族すら変わってしまっていますからねぇ」

「種族? どういう意味だ」

「貴方と同じですよ魔蟲王ヤタイズナ……いや、異世界からの転生者」

「なっ!?」


 どうして私が転生者だと……いや、問題はそこではない。


「同じって……まさか!?」

「そう、私もあなたと同じ転生者なんですよぉ!」

「何じゃとぉ!?」


 ブロストの発言に、ミミズさんと私が驚愕する。


「まぁ正確にいえば、私は異世界では無く、同じ世界で転生したんですがねぇ」

「貴様……一体何者なんじゃ!」

「ふふふふふふ……お答えしましょう、我が真の名は『アバドン』!」

「アバドン!?」


 私は一度だけその名を聞いたことがある……ミミズさんの記憶の中で!


「そうか……貴様は!」

「思い出したようですねぇ魔蟲王ヤタイズナ! 千年前、貴様によって総てを失う事となった『蟲人』の長ですよぉ!」

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