第41話 成長

 パピリオが羽化して一週間が経過し、その間二つの出来事があった。


 一つ目はレギオンがアントコマンダーに進化した。


 進化したことにより統率というスキルを手に入れたらしく、これにより前よりも他のアント達を正確に指示したり連携が上手くできるようになったらしい。


(これでより一層魔王様の役に立つことが出来るであります!)


『『ギチチチチィィィィィィ!』』


 と、いつもより大きな声でレギオン達が叫んでいた。


 ……大きすぎてちょっとうるさかったけど。


 二つ目は、一週間の間に昆虫の卵が5つ孵化した。

 生まれてきたのは全部アーミーアントで、これによりアント達は合計205匹となった。


 ガタク達も訓練や狩りを行い着々とレベルが上がっていきもうじき進化できるらしい、楽しみだ。

 そして、現在私は自分の部屋で召喚して三日経過した40センチ程の昆虫の卵を見ている。何故かミミズさんも私の部屋に居る。


「しかし、連続でアーミーアントが生まれるとは……生まれてくる虫はランダムじゃなかったっけ?」

「それはあれじゃ、お主の記憶にあったガチャガチャという奴は同じ物が連続で出てくる事があるのじゃろう? そんな感じなのではないか?」

「成程……というか、本当にどこまで私の記憶見たのミミズさん……ところでミミズさん、前から聞きたいことがあったんだけど……」

「ん? 何じゃ?」


 私はミミズさんにずっと思っていた事を聞いてみた。


「私の記憶を見たってことは、私が元異世界人だって事は気付いてるんだよね?」


 ミミズさんは私の昔の記憶、つまりは私が人間だった頃の記憶を見た。

 つまりは私が元人間だと言う事にとっくに気付いてるはずだ。


 私がそう考えていると。


「……え?」

「え?」


 しばらくの静寂、そして。


「ええぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!? お主異世界人だったのかぁぁぁぁぁぁぁぁ!?」


 ミミズさんが叫んだ。


「ええぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!? 気付いてなかったのぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!?」


 私も叫んだ。


「え、嘘!? 私の記憶見たんだから私が異世界人って気付くでしょ普通!」

「い、いやお主が転生者だと言う事は知っておったのじゃが、まさか異世界人とは……」

「いやいやいや! 最初に会った時にお主の世界の言語はあらかた理解したって言ってたじゃん! ていうか明らかにこの世界とは文明レベルが違うんだから気付くでしょ普通!」

「儂900年も地底洞窟にいたから、900年もあればこれだけ発展するのかーぐらいにしか思ってなかったのじゃ……それにお主の世界の言語と言うのは正確にはお主の言葉の意味の事であって、言語自体はこの世界の言語とさほど変わらんかったぞ?」

「何と言う紛らわしい言い方を……」

「す、すまん……しかしお主が異世界からの転生者だったとはのう……」

「やっぱり転生者って珍しいの?」

「いや、転生者自体はそんなに珍しくはないぞ? しかし異世界からの転生者は極めて稀……つまり! お主は超レアな存在なのじゃ!」

「そ、そうなんだ……」

「うむ! しかし異世界からの転生者を生み出すとは流石は儂じゃ!」


 ミミズさんがエッヘンと胸を張る。


「……ミミズさん私が異世界からの転生者って気付いてなかったじゃん」

「こ、細かい事を気にするでない」

「いや細かくないよ……ん?」


 私達が話していると昆虫の卵がパキッ! と音を立てヒビが入った。


「お、始まったぞ!」


 さて、今回はどんな虫が生まれるのだろうか……またアーミーアントだったりして。


 パキパキ……パキンッ!


 昆虫の卵が完全に割れて、中から虫が出てきた。


「キチチ……」

「スズムシだ!」


 卵から生まれたのは体長30センチ程のスズムシだった。


 スズムシとはバッタ目コオロギ科の昆虫で日本産のコオロギ科昆虫の中でもかなり大きい昆虫だ。


 スズムシの特徴は何と言ってもあの美しい鳴き声だ。

 鳴き声はその名の通り鈴の音色のようで、聞いているだけでうっとりとして、古くは平安時代から貴族の間では籠に入れその音色を楽しんでいたという。


 夏の夜は森林に行くとスズムシの鳴き声が辺り一面に聞こえる、まさに夏の風物詩のような昆虫だ。

 どうやってあの美しい鳴き声を出せるのか、その秘密は前翅にある。


 スズムシの前翅には発音器があるのだ。


 右前翅の裏側に鑢状器ろじょうきと呼ばれる鑢やすり状になった部分があり、左前翅の表側には摩擦器まさつきと呼ばれるバチ、ツメ状の部分があり、二枚の前翅を左右に高速で動かすことで鑢状器と摩擦器が擦れ合わせることで音が出る仕組みになっているのだ。


 そして前翅には発音鏡と言うスピーカーのような器官がありその発音鏡に音を響かせて音を大きくしているのだ。

 ちなみにスズムシはオスしか鳴かないのだ。


 私はスズムシを見る。


 翅が大きいのでコイツは間違いなくオスだ。

 しかしまさかスズムシが生まれてくるとは。


 懐かしいなー……昔は夏の夜に森林に行ってよくスズムシを捕まえて家で鳴き声を楽しんでいたんだよなー。


 スズムシは鳴く時翅を立てるんだけどその時二枚の翅が重なってハートに見えるのが可愛くていいんだよなー……いやー懐かしいなー……


「またか……戻ってこんか!」

「あ痛っ!?」


 いかんいかん、またトリップしてた。


「キチチ……」


 スズムシが私の元にやって来る。


(初めましてご主人、僕の名前は何でしょうか?)

「名前……ちょっと待ってくれよ、考えるから」


 さてどんな名前にするか……スズムシ……鈴……よし!


「お前の名前はベルだ」


 鈴は英語でベル、安直だけどやっぱりこれしかないよな。

 ベルが嬉しそうに鳴く。


(ありがとうございます! 僕はベル、これからよろしくお願いします♪)


 名前をとても気に入ってくれたみたいだ。 私はベルに鑑定を使いステータスを見た。










 ステータス

 名前:ベル

 種族:ハウリングインセクト

 レベル:1/35

 ランク:C-

 称号:魔王のしもべ、音楽家

 属性:地

 スキル:なし

 エクストラスキル:癒しの鈴音、闘志の鈴音












 C-か、しかもエクストラスキルを二つ持っているのか……癒しの鈴音は名前からして恐らく回復系のスキルだろう。


「よろしく、ベル、お前はもう鳴くことは出来るのか?」

(はい、出来ます、ご主人が望むのであれば今すぐに鳴きますよ?)

「いや、折角だから皆にベルの紹介をするからその時鳴いてくれるか」

(分かりました)

「よし、それじゃあ早速皆を集めよう!」













 ―30分後、巣の外に皆を集めた。 


「さて、皆を集めたのは他でもない、新しい仲間を紹介するためだ、ベル来い」

(はい)


 ベルが私の元に来る。


(皆さん初めまして、ベルと言います)

「ミミズさんじゃ、よろしく頼むぞ」

「ガタクで御座る! よろしくで御座る!」

「バノンだ、よろしくな」

(スティンガーだよ! よろしく~♪)

(ソイヤーです、よろしくです)

(パピリオです、よろしくお願いしますね)

(俺、テザー、俺、よろしく、言う)

(カトレアですわ、よろしくお願いしますわ)

(レギオンであります! よろしくお願いしますであります!)

『ギチチチチィィィィィィ!』

(皆さんこれからよろしくお願いします、ではお近づきのしるしに僕の鳴き声をお聞きください)


 そう言うとベルは翅を立て、翅が高速に震え始めた。




 リーーン♪ リリーーン♪ リーンリーン♪ リリーン……



 ベルの美しい鳴き声が聞こえ始めた。


 おお……やっぱりスズムシの鳴き声は美しい


 ガタク達も皆その音色を聞き、うっとりとしている。

 そしておよそ2分の演奏が終わり、ベルは翅を畳んだ。


(ありがとうございました)


 演奏が終わると歓声が沸いた。


「ベル、素晴らしい鳴き声だったぞ!」

「うむ! 見事な鳴き声じゃったぞ」

「凄かったで御座る!」

「いやー、こんな美しい鳴き声が聞けるとはなあ」

(ベル、すごーい!)

(素晴らしい音色でした!)

(美しい鳴き声、凄いです!)

(俺、凄い、言う)

(本当、素晴らしかったですわ)

(このレギオン、感動したであります!)

『ギチチチチィィィィィィ!』

(そんなに褒めていただけるとは……嬉しいです)

「いや、本当に素晴らしかったぞ、ベル、良ければもう一度鳴き声を聞かせてくれないか?」

(分かりました! ご主人が満足するまで鳴いて見せます!)


 こうして、私達は夜までベルの演奏を聞いた。













「第13回次回予告の道―!」

「さぁ今回も始まったこのコーナー!」

「今回は新しい虫、スズムシが登場したね」

「うむ、作者は絶対スズムシを出したいと思っていたからのう……今回出せて良かったわ」

「さて、次回はしもべ達がメインの話みたいだね」

「また儂の出番が少なそうじゃのう……」

「それでは次回『しもべ達の一日』! お楽しみに」


 ・注意、このコーナーは作者の思い付きで書いているので次回タイトルが変更される可能性があるのでご注意下さい。

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