第138話 124回1日目〈sakura7〉S★2

 答えは、まだ返ってこない。

 けど、彼は再び私へと振り向いた。


 赤鉄鉱の騎士は沈黙し、ただ静かに私へと視線を注ぐ。

 まるで、私にヒサカさんの面影をみるように。

 過去の、自分の名を取り戻そうとするように。


 それから、ヤサウェイさんは再び私に背を向けると、穏やかな声で訊ねた。


 だが――


「サクラ……」

「はい」


「……君は、ヒサカを救えば、死ぬのか?」

「死にます」


 ――彼の声は、質問を口にする度平静さを失っていく。


「それを……君が死ぬのを、タケは許容したのか?」

 悔しさを噛みしめたような声が――。


「そうです」


「君自身も、それを……受け入れたと?」

 他者を憐れむような声が――。


「受け容れました」


「何故っ」

 信じられないと嘆くような声が――。


「必要な、ことでしたから」


 静寂の中に溶けていく……。

 その後、彼はタケの名を口にした。


「タケ……」


 怒りとも、悲しみともつかない……震えた声で。


「なんてことを……ヤシャルリアっ、君も知って――」


 でも、彼は溢れ出る筈だった言葉をそこで飲み込み。


「――いや……違う」

 ガチャリと鎧を鳴らす。


 彼は両腕、両の手、両指を頭部へと伸ばし。


「まず何より……僕が、浅はかだった」

 鎧兜をがしりと掴むと。


「こんなもので……何を捨てた気になっていたんだ僕は!」

 それを脱ぎ捨て、思い切り石床に叩きつけた。


 当然、赤鉄鉱の兜はけたたましい音を立てて転がっていく。


 直後、彼は石床を蹴るように悠然と歩き出した。


「僕は――ヤサウェイでなければいけなかったっ!」


 自分を責めるように口にしながら――


「でなければタケっ――僕は君に、何も言ってやれはしないっ!」


 ――ヤサウェイさんは歩調をどんどん速めていく。


 私はつい、あっけに取られてその後姿を眺めてしまっっていたが……。

 ふと我に返ると彼の行き先を想像して、すぐさま後を追った。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る