第8話 122回109日目〈7〉 S★1
「うえぇ……やっぱり苦い」
ヒサカは口元を手で抑えると普段の天真爛漫な明るい笑顔を失った。
「我慢するな。なんなら吐き出してもいいんだぞ?」
飲み込むことを強要する気にもなれず俺はそう声をかけたのだが、彼女は首を振って拒否する。
「ううん。もったいないもん……ちゃんと飲み込むよ」
ヒサカは口元から白く濁った液体を垂らしながらも、こくん、こくんと小さく喉を鳴らして口内のものを飲み込んでいった。
ゆっくりと、時間をかけて。
そして、ようやく全てを飲み込むと、彼女は「はぁ」と息継ぎをして口元をぬぐう。
「よく頑張ったな――」
一生懸命なその姿に、俺はつい頭を撫でてしまっていた。
「――あ、すまん」
どうも年が離れているせいか、つい彼女を子ども扱いしてしまう時がある。
とっさに手を離したが、ヒサカは「どうして急にやめたの?」と言わんばかりに不思議そうな目で俺を見た。
この、彼女の嫌がる素振りを見せない態度は俺の「子ども扱い」を助長している気がする。
「うげぇ……すっごく苦かった」
しかし、べーっと舌を出して見せるヒサカの姿しかり、彼女の言動は年齢よりも ずっと幼く見えることが多いのだ。
そんな言い訳と、こんな女の子になんてものを口にさせたのかという罪悪感を同時に胸に抱いた時、ヒサカがいたいけな眼差しを俺に向けながら訊ねてきた。
「ねぇ、これはなんだったの?」
「あ? ああ、オウマキゲナハって言う、虫の幼虫らしい」
俺は今さっき二人で口にしたものを伝える。
すると、彼女は「まずいはずだ」と口元の白濁を袖で拭いながらつぶやいた。
そんなヒサカの様子を見守りながら、俺は手帳を開く。
筆記用具を手に『生食、食用虫(幼虫、詳細不明瞭)』と書き込み、そして、ギルドにいた時と同様『転移せず』と締めくくった。
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