6
「おかえり。どうだった?」
装置の点検に、「自分は役に立たない」と
ベザの時はあれほど
「
「さすが。
そう言い、マリアは俺の口にお菓子を突っ込んできた。
「でも、セシルって色々できるわよね。そんな風には見えないのに」
「玉座に座ってふんぞり返っているだけじゃ軍は動かせないからな。それに、俺は元々技術畑の人間だ。魔王になったのは、前にも言った通り先代や大魔法使いが根回ししてくれたからだ」
今回の作業で、色々と思い出したことがあった。今となっては必要のない話や、ただの
「そんな技術畑の人に、私たちは苦しめられていたのね」
胃に
こちらから言わせてもらえば、
「あとは、
「うん。分かったわ」
歯車を止めることなどそうそうないらしく、ベザたちは俺が直したパイプ以外にも不具合が無いか、特に歯車を重点的に見ていた。
俺がマリアを呼びに行き、
「ベザ、点検は終わったか?」
「今終わった」
「別に急いではいないから、点検は
「問題は無い。全員、プライドを持ってやっている。簡易では終わらせていないし、時間がないからと手抜きはしていない」
ベザが共に点検していたトロル仲間に向かい「そうだろみんな!」と呼びかけると、
「なら、あと百年は問題ないな」
「当たり
ふふん、と笑うベザ。彼らがドワーフでないのが残念だ、という言葉は
彼らは、自分の仕事に、自分がやった仕事に
「魔力炉はここで良いんだな?」
三つあるタンクの内の二つ。魔力の残量を示す窓は真っ暗になっており、残りの一つも今にも消えてしまいそうになっている。
「これに魔力を込めれば良いのね?」
どうすれば良いのか
「何とか頑張って、供給が始まる程度魔力が入ればいい。あとは、エルフに精霊を呼んでもらって魔力を吹き込んでもらうから」
ベザが、俺たちが魔法使いかどうかこだわったのは、ここにあるようだ。この魔力炉がどのくらいの
「何とかやってみるわ」
「よし、じゃあ行こうか」
俺も配置につき、
俺の足元からは、黒色の炎が巻きあがる。マリアの足元からは白と金が混ざった、美しい炎が上がる。
「おぉ……」
その姿を見ていた作業員トロルや、マリアに付いてきた子トロルたちは驚きの声を上げた。
「もう少し本気を出すぞ。吹き飛ばないように注意しろよ!」
「危ないから、皆は私の後ろに来なさい!」
徐々に魔力を流すが、
そこで問題となるのが、俺の魔力は
そんな俺の魔力とは
俺とマリアの力は
「ぐぉっ……ぅ……」
「ふうぅ――くぅ……」
バチバチ、と魔力炉から歯車へと魔力を伝えている魔力回路から
魔力を送り込んでいく量を増やすと、紫電の舞い上がり方がより
その光は
「これくらいで良いか……?」
「どれだけ容量を持っているのよ、コレ。恐ろしいくらい吸い取られたわ」
恐ろしいくらい、といっても、それはマリアの言葉だ。実際に、マリアの中に魔力はまだまだ残っている。
「魔力はほとんど満タンになったようだな」
俺たちの作業を見守っていたベザが、恐る恐るといった様子で話しかけてきた。
「まあな。もう少し容量があるみたいだが、こんな大容量の魔力炉を俺は生まれてから一度も見たことがない。直すこともできないから、この辺りで止めておこうと思う」
「あぁ、その方が良い。ワシもこの魔力炉がここまで魔力を
トロルの
かくいう俺たちもアホみたいに注ぎ込んだから、百年程度は問題なく動くだろう。
「魔力炉は二
「ついでに、最後の一個にも魔力入れておくね」
俺とベザが話している間休んでいたマリアが、最後の一基に魔力を注入してくれるようだ。
「えぇっ!?」
まだ魔力を注ぐと言ったマリアに、ベゾは目をひんむいて
「無理するなよ」
「大丈夫よ。セシルはそれまで働いていたんだから、次は私が動かないと」
マリアは先ほどと同じように魔力炉の前に立ち、魔力を注入し始めた。注入速度は先ほどと全く変わらない。
それどころか、先ほどの注入でコツをつかんだのか、かなり早く注げるようになっている。
「わしの目に間違いはなかった、ということだな」
ベザは、この歯車を直せる人間として俺を選んだことを、自らで
「
そいつらは、たぶん観察をしたかっただけだ。レポートの回収や、評価する
「私の方が、
「はい、終わったわよ」
ベザと話していると、マリアが終わったことを伝えてきた。これで三基とも、魔力が満タンとなった。
「あとは歯車を動かすだけね」
残るは巨大歯車を回すだけだ。さすがにこの大きさが元の速度に戻るには時間がかかるだろうし、揚水量が全開になるのもその先になるだろう。
「それは、アテがあるから大丈夫だ」
「今すぐに回さないのか?」
なぜ自分たちで回さず、アテといわれる何かが必要なのか問う。
「あれは、自転できんのだ。外からの回してやらないと、あの歯車は大きすぎて回り始めることができない」
「なるほど」
巨大歯車は見上げるほど大きく、幅がある。さらに、ごついので重量もかなりあるだろう。
しかも、次に続いていく歯車があるので、回し始めが一番大きな力がいる。
「それで、そのアテっていうのは?」
「巨人に回してもらう。あいつらは、力が強いからな」
なるほど、巨人か。あいつらなら、これだけ大きな歯車も問題なく回せるだろう。ただ、問題がこの
「この世界にも巨人が居るの? どんな種類かしら? ウォークウッド? それともストーンハンガー系?」
向こうの世界では、魔族側でも人間側でもない、敵でも味方でもない巨人族は、その時その時で
ただ、木人族だったり石人族で考え方が変わるので、かなり
そんな種族に何か思い入れがあるのか、マリアはベザに聞き返した。
「巨人族は巨人族だろう? あいつらに、そんな種類がいるのか?」
その答えは、巨人族は一種類しか居ないからか、それとも会うことがないので設計書にあった話しか知らなないからか、いまいち判断に困った。
「それで、その巨人はどこに居るんだ?」
そいつらさえここに来れば、歯車を回すことができ取水が開始される。早くすればするほど、川を
「今から
「「はぁ!?」」
俺とマリアの驚きがハモってしまった。今、サラッとおかしなことを言ったぞ!?
「だから、今から探しに行くと言っている」
「居る場所は分かっているんだよな?」
「おおよそは、な。奴らは決まったところにしか行かない」
つまり、いくつか
「どのくらいで戻って来られるんだ?」
「半年もあれば見つかるだろう。そこから歯車のことを話して、それから戻ってくるまでだから――大体、一年もあれば良いだろう」
アバウト過ぎるだろう。しかも、探すのは良いとしても何で帰ってくるのに一年もかかるんだよ。
「もっと早くならないのか?」
「無茶を言うな。探すのにも時間がかかるし、戻ってくるのも巨人たちがこの近くの場所に
理由は、巨人は自分たちのルートで、彼ら独自の予定で動けないと暴れるんだそうだ。何という面倒くさい生き物だ。
歯車を動かすために、自転装置を作っておけよ、と昔これを作った魔法使いに怒鳴ってやりたかった。
今から俺が作ったら、と思うが、あんな装置に新しく物を付ける勇気はない。これで失敗して全部動かなくなったら、それこそ大変だ。
一年――一年か。両伯にどのくらいの人的資源や資金が残っているか分からないが、戦争をしている一年とは両領地とも
「もういい。私が動かしてみる」
長いスパンで考えているトロルたちに嫌気がさしたのか、マリアはこの巨大歯車を自分で回そうと
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