最強勇者と最強魔王の異世界線スローライフ

いぬぶくろ

プロローグ

プロローグ

 とある無人島。

 そこでは、魔王と呼ばれる少年と、勇者とあがたてまつられる少女が対峙していた。

 両者とも凄まじい殺気を放ち互いに牽制し合っているが、その顔は二人とも悲しみに満ちていた。


 ――殺し合いなどしたくはない、と。


 それでも殺気を放ち、相手を視線だけで射抜き殺さんとしているのは、そうしなければ仲間がこの無人島にやって来て被害が増えるからだ。


「どうしてこんな風になっちゃったんだろ……」


 勇者は瞳に涙をにじませ魔王に問うた。


「いつの間にか、俺たちは強くなりすぎたんだろうな。あとは、離れて暮らす時間が長すぎた……か」


 二人は、生まれた時から魔王と勇者ではなかった。

 それぞれ、成長する過程で素質を見出されて、他者・・によって魔王と勇者に仕立て上げられたのだ。


 共に大義名分があり、自軍を勝たせるために命を投げうって敵軍を滅ぼす覚悟だった。だが、相手が誰かを知ってしまってから、そんな気は無くなってしまった。

 魔王セシルと勇者マリアは、幼き頃を共に過ごした幼馴染であり、成長した未来、必ず会いに行くと約束した仲だった。

 そんな二人が、運命の悪戯イタズラか二極化した勢力の武力トップとして邂逅かいこうした。


「殺し合いなんてしたくない……」

「俺もだ」

「もう、どうにもできないの?」


 一縷いちるの望みをかけて、勇者は魔王に問いかけた。しかし、魔王は口を一文字に閉ざし、答えを出してはくれなかった。


「…………うっ――」


 勇者の瞳から涙がこぼれた。

 何も答えてくれないということは、最後に残った方法ころしあいしかないからだ。


「一つ――」

「っ……!?」


 再び口を開こうとした勇者だったが、それより数瞬早く言葉をつむいだ魔王によって止められた。


「一つだけ聞きたい」

「……なっ、なに?」


 殺気を放ちあっているにも関わらず、両者とも情けなくなる声量と声色だった。


「仲間を裏切る気はあるか?」


 勇者の心臓が跳ねあがった。それはまさに、悪魔のささやきだったからだ。

 だが、勇者にその気はなかった。あの・・言葉を言われない限りは。


「俺にはある」


 再び、勇者の心臓が大きく跳ね上がり、鼓動こどうが早くなる。


「今まで、俺は別の世界に行くことを考えていた。魔王とか勇者とか、そんなの関係ない世界に行くために」


 今度は、勇者が口を一文字に結ぶ番だった。この言葉を言わせて良いのだろうか――と。

 そしてすぐに首を振り、そんな・・・考えを頭から振り払う。


「こんなところで命を散らすなんて馬鹿らしい」



 セシル魔王は、子供の様な満面の笑顔でマリア勇者に言った。



「まだ見たことがない世界へ、一緒に行こう」


 両陣営とも、この瞬間のことは隠しきれるものではないとすぐさま発表した。

 魔王と勇者が対峙をしていた無人島で、チカリ、とした光を視認した瞬間、光球が膨れ上がると共に発生した衝撃が両陣営を襲った。


 爆風が吹き荒れる世界で監視者が必死で目を開けて見た光景は、その現象の始まりの地点から周囲10キロ程度に渡り、島どころか海すら・・・なくなった光景だった。

 そして、当時のことを語る者は皆、口をそろえてこう言う。



「何て恐ろしい戦いだったんだ」と。



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