傷痕はユメウツツ
振悶亭 めこ
1
「あっちゃー、派手な傷だねぇ」
切り傷、擦り傷に多少の打撲痕の残る男の手当てをする。肌は白く、程よい筋肉の付いたその男は、傷に滲みる消毒液の痛みに時折顔をしかめる。じっとしているようでピクリと身体が動く度に、少々長めの黒髪が揺れた。
「動けるんだ、この程度マシな方だってミサトも知ってるだろ?」
「まあね。営業メインのヤツは、みんなそう。オモテの奴ら、私達をちょっと高額なエアドール程度に思ってるんでしょ。ウンザリしちゃう……」
傷の手当てをしていた、男物の着物にポニーテールの少女は、はぁ、とため息をつく。男の太もも辺りの少し深めの切り傷に包帯を巻いてキュッと縛る。
「はい。出来たよアズマ、服着て平気。てかさっさと着ろ」
「あー、ありがとな」
今のご時世、オモテの人間はグレーゾーンの人間を、同種の生き物として扱わない。ましてや、オモテとグレーゾーンを行き来しているミサトやアズマ達は忌むべきものとされると同時に、都合良く使い捨てられるパーツ程度の存在として駆け引きに使われる事もある。簡単に利用出来なければ忌み嫌い、簡単に利用出来ればパーツ、原材料、そんなもの。だって、オモテの人間からして見たら、同種の生き物では無いのだから。
「あー、アズマの手当てが終わったなら、2人ともこっち来てくれないか?次の仕事が有るんだ」
隣のオフィス・ルームから、ギルドオーナーの声が聞こえた。ミサトとアズマは、すぐにオフィス・ルームへ入る。
「で、次の仕事なんだが……」
「無茶な営業じゃないでしょうね?アズマ、怪我して帰ってきたばっかりなのよ?」
立場の割に年若く、チャラい印象の茶髪の男が、安いキャスター付きの椅子に座って振り返る。三郷は遠慮のカケラも無い口調で、すぐに突っかかっる。
「いやぁ、営業のキミ達に連続して似たような仕事は入れないよ。身体が資本、これ基本」
オーナーは、困った表情を浮かべてヘラリと笑う。
「で?内容は?」
ジト目で詰め寄るミサトに、オーナーは咳払いを一つ。少し間を開けてから、薄い唇をゆっくり開く。
「バーゲンセールの客引き、及び警備が仕事。オモテに行く事になるけど、比較的楽な内容ではある……たぶんね?」
「たぶんって……オーナーのそういう所、時々ムカつく!で、その仕事は私とアズマだけなの?」
「いいや、傭兵部の北朝カスミも一緒だ。客引きがミサトとアズマ、警備がカスミって事で行って貰うよ」
「三人で、本当に大丈夫とか思ってないでしょうねー?」
はぁ、と、頭の痛そうな様子でオーナーはため息をつく。オーナーは依頼人の認識の甘さが招く惨劇や、依頼人との腹の探り合いを何度も見ている立場なのだと分かっているアズマは、何も言わずにただ話を聞いていた。
「ミサト、大丈夫かどうかの判断と人数の指定は、依頼人中心に決まるんだ。だからどうにもならない場合は、依頼人そのものの認識の甘さだと既に伝えてあるんだよ」
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