労い
二日目の朝が来た。
朝飯を食わせてラジオ体操をする。
パツキンの朝飯も好評だったが、プレハブに寝泊まりさせた事はかなりの不満があったようだ。
朝からブーブーうるせーのだ。
まぁ、いちいち相手をするのも面倒なので無視をしたが。
因みに俺と暑苦しい葛西は朝飯もカレーだ。
「朝はシャケとか食いてぇなぁ…」
そう、ボソッとぬかした暑苦しい葛西に、優しい俺はシャケフレークをカレーにガバガバ掛けてやる。
暑苦しい葛西は何やらギャーギャー騒いでいたが、やはり面倒なので無視をした。
ラジオ体操が終わったら、神体の掃除をやらせる。
俺は本日の工程の確認やら何やらで掃除をする暇は無いから行けないが。
決して面倒だからではない。
忙しいから仕方無くだな。
因みに神崎とパツキンは仲良くタマとポメラニアンの散歩に出掛けた。
俺の神崎は勿論最高だが、パツキンもなかなかの器量。暑苦しい葛西には非常に勿体無い。
葛西の小汚い爺さんも手伝うと言うので、バカチン爺さんと共に俺の手元に置く。
機械でデカい石を取り除こうとした所「これ位の石、ワシが寄せてやるわぃ」と、頼みもしないのに石を持つ。
グキッ!との音と共に、小汚い爺さんがそのままの姿勢で固まった。
「ギックリ腰だろ小汚い爺さん!だから無理すんなっつったろが!」
「そ、それより助けてくれんか!」
俺は小汚い爺さんから石を取り上げ、そのまま病院に連れて行った。
午後にミーティングを行い、事故の報告をする。
「そんな訳で、暑苦しい葛西の小汚い爺さんは開始三分で病院送りとなった。当現場は、労災は適用しない。無駄な金と時間を怪我に使わぬよう、気を付けろ」
暑苦しい葛西は神妙な顔をしていたが、怪我とはギックリ腰と聞いて安堵し、大笑いしていた。
パツキンにもの凄く叱られて謝る事になったが。
その時は美しい土下座は見られなかった。凄く残念に思う。
三日目ともなると慣れてきたようで、神体の掃除に我が守護神と会話したり、神界の話を聞いたりしていたようだ。
下地が終わった俺達は、砂利の上にコンクリートの板を敷く仕事に取り掛かる。よく見る歩道に敷いている、レンガみたいなアレだ。
「うわっ!蛇が出たっ!」
バカチン爺さんは蛇にビビって転びそうになった。
「それはキングコブラだ」
「キングコブラ!?何故ここに?」
驚く爺さんに、キングコブラがここに居る経緯を説明する。
「なんと!!これがナーガの転生体だと!?」
爺さんは拳を握り締めてワナワナと震えた。
「呪いの話なら聞いた。爺さんの仲間も何人も死んだらしいな。だが、今は地獄で罪を償って転生した、ただの蛇」
それ以上言わせない、と言わんばかりに、爺さんはデカい声で返事をする。
「解っているよ!!」
解っているならいい。
怨みに駆られて『ただの蛇』を殺すような真似をしないならばいい。
俺は爺さんを促す。
「仕事に戻るぞ爺さん」
爺さんは蛇に背を向け、此方に戻ってくる。
途中、蛇の方を振り返ると、蛇は頭を下げるような格好をし、そのま林に消えて行った。
「…あれはナーガじゃない、ただの蛇だ!!」
自分に言い聞かせているような爺さん。
俺はそんな爺さんに「早くしろ爺さん!」と叱咤する。
爺さんは慌てて俺の手伝いに戻った。
四日目には暑苦しい葛西の班の水道工事が終わり、俺達の手伝いに来た。
暑苦しい葛西は、漸く労働から解放されると喜んでいたが、バカチン達が親方と教皇を手伝おうと言ったらしく、渋々手伝いに来たようだ。
因みに水道は12箇所に設置させた。
これは神崎が「最後の神様が何処に居たいか解らないから、色々な箇所に設置しましょう」と、鶴の一声の如くに提案したのが始まりだ。
おかげでいらん時間と金がかかったが、神崎には逆らえないので、黙って従った。
まぁ、それは兎も角、バカチン達は率先して仕事をした。
解らない事は俺に聞き、要望などもちゃんと言う。
暑苦しい葛西は組合長なのだが、全く役割を果たしていなかった。
おかげで仕事は進む。
無表情の班も仕事が片付き、俺は葛西じゃなく爺さんに指揮を取らせて、無表情の班と木の手入れに取り掛かる。
爺さんは「出世した!」と、やたら喜んでいた。
五日目にはモヒカンの班も終わった。
そして一週間後……
裏山の工事が完了したのだ。
「お前等よく頑張った!!ささやかだが、礼をしたい!!」
バカチン達に着替えて待つよう指示を出す。
やがてチャーターしたバスが到着する。
「北嶋、どこかに行くのか?」
無表情が訊ねて来るので、ドヤ顔で答えた。
「お前等銭湯好きだったろ?今から行くのは健康ランド。銭湯より楽しいぞ!!」
銭湯と聞いたバカチン達は歓喜する。
富士山が描かれた、広い風呂が好きになったらしい。
「風呂上がりにビールをグイッといきたいなぁ!!」
モヒカンがジョッキを煽る仕草をしたので、やはりドヤ顔で言った。
「無論、ささやかながら宴会もする!!当然ビールも付くぞ!!」
またまた歓喜するバカチン達。風呂上がりのビールの旨さは万国共通に違いない。
「テメェにしちゃ太っ腹だな!!」
暑苦しい葛西が上機嫌宜しく俺の肩を叩いてくるので、宴会に至る経緯をちゃんと答えた。
「ああ、スポンサーが着いたからな」
「スポンサー?」
俺は葛西に指を差す。
「スポンサーとはお前だ暑苦しい葛西!!お前の嫁が金を出してくれたんだ!!」
「な!?なななな!!なんだとぉ!?」
暑苦しい葛西は目玉が零れ落ちそうになる程、目を見開いた。
「今日は組合長のおごりだ!!ガンガン呑め!!」
ウォーッ!と歓喜するバカチン達。
暑苦しい葛西だけは呆然としていたが。まあ、無理も無い。まさに寝耳に水だろうからな。
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
「ソ!ソソソ!ソフィアぁ!!」
「何?キョウ?」
大声でソフィアを呼んだら北嶋の家からヒョイと姿を現したソフィア。俺は当然のように詰め寄った。
「何?じゃねぇだろ!何で俺がコキ使われた挙げ句、打ち上げの金を払わなきゃならねぇんだよ!!」
北嶋ん家の工事を手伝うってのもかなりの苦痛だったのに、更に金を払うなんて理不尽過ぎるだろ!!
「だって、キョウ達は迷惑ばっかり掛けていたでしょ?組合長なのに、その責務も果たさないし」
迷惑だ!?寧ろ迷惑を掛けられたのは俺だろうが!!
「迷惑なんか掛けてねぇだろが!!」
「お義父さんなんか、直ぐにギックリ腰でリタイアしたし、キョウなんて文句ばっかりで指示あまり出さなかったらしいじゃない」
……まあ…確かに、ジジィの件は兎も角、やる気の無かった俺は、ヴァチカンの連中にあまり指示を出さなかった。
仕方が無いので、連中は見よう見まねで仕事をしていたが、奴等…ソフィアにチクってやがったのか!!
「ヴァチカンの人達をこのまま帰したら、キョウの評判は良く無いままよ?全世界に居るヴァチカンの人達に『仕事もしないで威張りくさっているクズ』とか、言われてもいいの?」
ヴァチカン連中の評価なんざ知った事か!!文句がありゃあ力付くでねじ伏せてやるぜ!!
そう言おうと口を開きかけたその時の事だった。
結構な剣幕の俺だったが、動揺に変わる出来事が!!
ポロッとソフィアの瞳から涙が一滴零れ落ちたのだ。
「お、おいソフィア…」
肩に手を掛けようとした俺だが、ソフィアは顔を覆いながら身体を捻って、それを拒絶する。
「そうよね。余計な事したよね。全世界の人達から嫌われても、私だけはキョウの味方で有るべき筈なのに…キョウを『守ろう』なんて、出過ぎた真似をしたわね……」
サメザメ泣くソフィア。それに対してオロオロする俺。
気が付くと、俺とソフィアの周りには、北嶋やヴァチカンの連中が囲んでいた。
「ごめんなさいキョウ。あなたの為とか勝手に思って、頑張って貯めていた500円貯金を使ってしまって…」
500円貯金だ!?アレを使ったのかよ!!
確か20万近くまで貯まっていた筈だぜ!!
「ありゃあ単車のパーツを買う為に、少ねぇ小遣いから捻出した…」
俺の続く言葉を遮るように、ソフィアは遂に声を上げて泣き出した。
「ごめんなさいキョウ!!気を遣ったつもりで、団体割引とか料理の種類とか、勝手に決めちゃって!!ごめんなさいキョウ!!愚かな私を許して!!わ~ん!!」
団体割引だ?どこまで用意周到なんだよ!!
つか、俺が女を泣かせたって視線が痛ぇ…
「解った!解ったからもう泣くな!」
本当なら泣きたいのは俺の方なんだが、この場を収める為に許す事にした。
だが、ソフィアは泣くのをやめない。
「わ~ん!!そんなに私が憎いなら、殴ったり蹴ったり、いつものようにしてくれても構わないわ!!それでキョウの気が晴れるなら!!わ~ん!!わ~ん!!」
ちょっと待て。殴ったり蹴ったりだと?した事無ぇだろうが!!
俺はどんだけDVなんだよ!!
って、お前が俺の評判落としてどうすんだよ!!
俺の懸念の通りに
周りが俺を見る目が
「おいソフィア!!やめろ!!おい!!」
手を伸ばす俺。だがソフィアは身体を捻って躱す。
周りのヴァチカン連中が、ざわざわと騒いで来た。
「暑苦しい葛西、お前、あんなに出来た女を泣かせるなよ」
北嶋が調子に乗って偉そうに俺に指を差す。
うるせぇ!!元はと言や、テメェが…
言葉を飲み込む。今は馬鹿に構っている暇は無い。
この事態を収拾させなきゃならねぇ。
仕方がねえ…あれをやるか…
ソフィアが怒ったり泣いたりして収拾が付かない時にやる技を出す。
しかし、ハッキリ言って、これは出したく無かった。北嶋ん家でやるのは二度目だしな…
俺は覚悟を決める。
俺は心臓が真っ二つに割れそうな感覚に陥る程の痛みを感じながら、地べたに両膝を付き!背筋をピシッと伸ばす!
「俺が悪かったから泣き止んでくれ!!」
謝罪を伸べながら地べたに額を擦り付けた。
カシャッ!カシャッ!カシャッ!カシャッ!
誰かが写メを撮っている音がするが、俺は顔を上げる事は無かった。
ポンと肩を叩かれ、その時初めて顔を上げた。
ソフィアが涙の跡など全く無い顔で、笑いながら言う。
「解ればいいのよキョウ。さあ、みんなと楽しんできてね」
「……………おう…………………」
俺は心の中で号泣した。
したくも無ぇ工事を無理やりやらされたり…
払う必要も無ぇ金を払ったり…
北嶋に土下座を二度見られたり……
俺は一体、何しに此処に来たのか………
我が身を呪いたくなる衝動に駆られながら、チャーターしたバスに乗った………
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
「ふぅ、少し落ち着けるわ」
お茶を煎れてソファーに思いっ切り身体を預けた。バタバタしていたから意外と疲れた。
「明日にはヴァチカンの人達も帰っちゃうから、元の静かな頃に戻れますよ」
私の正面のソファーに腰をかけるソフィアさん。バタバタの原因の一人でもあるんだけど…そこはまあまあ。
「今までも静かって訳じゃなかったけどね」
北嶋さんとタマと私だけでも充分賑やかだった。
葛西もソフィアさんも明日に帰る。
私はソフィアさんに頭を下げた。
「ありがとう。本当に助かったわ。私だけじゃ食事の事は無理だった」
本当に感謝している。ソフィアさんが来てくれてから、ヴァチカンの人達はちゃんとお腹いっぱい、食べられた。
しかも少ない予算の中、本当に頑張ってくれた。
「お礼を言うのは此方ですよ。キョウにヴァチカンとの繋がりを与えてくれて…これから先、キョウはもっともっと強くなれる。ありがとうございます」
逆に頭を下げられた。
「ちょっと待って!葛西にも感謝しているんだから、お礼は言いっこ無し!」
「じゃあ神崎さんもお礼は言わないで。お互い様って事で」
私とソフィアさんは同時に顔を合わせ、同時に笑った。
「それにしても…いいの?」
「何がですか?」
キョトンとするソフィアさん。いや、バタバタの原因の一つなんだけど…
「葛西の貯金を勝手に使ったんでしょ?」
打ち上げの費用、葛西のお金を勝手に使っていいの?と付け加える。
「500円貯金?使っていませんよ?」
「え?使ってない?」
「ええ。打ち上げの費用は私のヘソクリから出したんですよ。いくら一緒に暮らしている、将来を約束した伴侶とは言え、勝手に使ったら泥棒と同じですよ」
そりゃそうか。ならば何故、あんな嘘を言ったのだろうか?
怪訝な表情の私を見たソフィアさんが言った。
「私って、ヴァチカンの人達から見たら、どう思われたでしょうか?」
それは…あの時は葛西の土下座のインパクトが大きくて、冷静に見れなかったが、葛西のお金を勝手に使って、DVを受けているような嘘を言って、葛西に謝らせた訳だから…
「もの凄く嫌な女に思われているかも…」
特にお金をお勝手に使った嘘の辺りが。
「ですよね!」
ソフィアさんは『してやったり』と言う表情を作り、コロコロ笑う。
葛西は北嶋さんに唯一突っ掛かって行った存在だ。
ヴァチカンの人達も、葛西の強さは何となくだが理解しただろう。
だが、確かに仕事では役に立ったが、指示をあまり出さなかった為に、適当な人間と思われたに違いない。
ソフィアさんは自分が悪者になり、葛西は全然悪く無いにも関わらず土下座させ、場を仕切る(収める)力量を知らせたかったらしい。
「結局お金はキョウが出した事になっているんですから、ヴァチカンの人達も感謝はするでしょう?同情もするでしょうが」
やはり笑いながら言うソフィアさん。
「だけど土下座よ?葛西の評価が下がるんじゃ」
「土下座程度でキョウの評価が下がる訳ありません。勿論、今は情けないと思われるでしょうが、繋がりがある限り、これからのキョウを見たら、度量の大きな男と思われる筈。言わば先行投資みたいなもんです」
成程、後々の為か…その為に自分は悪者になってもいいと。
単純に凄いと思った。
全く葛西を疑わないソフィアさんの気持ち。
信じているからこそのあの行動を、裏表無く、本当に凄いと思った。
「尊敬するわソフィアさん」
「私も神崎さんを尊敬していますから。これで漸くおあいこになりましたね」
私とソフィアさんは、再び顔を合わせながら笑った。
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
――妾達は留守番か、つまらんな
妾は完成したばかりの裏山を散歩していた。勇が出かけてしまい暇になったからだ。同じく暇になった灰色狼も着いて来た。
――円形の通路だな
灰色狼の言う通り、新しく出来た遊歩道は、限りなく円形に近く、十二の方向に水道が通された。
尚美が言うには、四柱目が何処に神体を鎮座してもいいように、あらゆる方向に水道を通したらしいが…
――残り一柱で終わらせる気が無いらしいな、あの女は
灰色狼の口元が笑うよう歪む。
だが、それはあくまでも勇次第。
勇は無理に神を捜そうとはしない。縁があったら来ればいい、と言う考えだ。
何よりも勇には護りは必要ない。
あの憤怒の魔王ですら、勇と戦おうとはしなかった。
何か理由があるようだが。
――貴様が仕えている、あの男は一体何者なのだ?悪魔王すらも恐れずに接し、尚且つ退けたらしいな?
――さぁな、妾にも解らぬ。解るのは、勇はまだ底を見せていないと言う事だけだ
むぅ、と唸る灰色狼。仕えている鬼と勇を比べているのだろうか?
――そうだ、面白そうな男が来たぞ。カトリックのアーサーとか言う奴だ
聖剣の他に聖盾をも所有していた。あの聖杯をも出現させたのだ
妾は勇とカトリックのアーサーとの戦いを灰色狼に話した。
灰色狼は不機嫌な表情をする。
――俺はカトリックは好かん!奴等は我等北欧の神々を民から奪い、己を押し付けた奴等だ!
成程、それでカトリック共の前には姿を現さなかった訳か。
単に嫌いだからと言う理由では無いな。
見たら、触れられたら、殺すかもしれぬからか。
だが、灰色狼が手を出そうものならば…
――きっと上空のあの者がさせぬであろうがな
妾達は空を見上げる。
人間には見えない遥か上空に、其奴は居る。
其奴はカトリック共が来た時から、いや、カトリックの頂点が来た時から、勇の家を監視するように、絶えず空を旋回していた。
――グリフォンか…忌々しい!!
灰色狼が牙を剥き出す。
――此処で争う事は妾が許さぬぞ
――今更言われずとも解っている。キョウやソフィアも許さぬだろうしな…
そう言う灰色狼だが、牙は収めておらぬ様子だった。
――貴様も監視などやめて、降りて来たらどうだ!!
灰色狼が空に向かって吼える。
言われてはるか上空からの羽ばたき音。
――来たようだな
グリフォンは灰色狼よりも妾に敵意を向けていた。
無理も無い。妾は奴の仲間三体を、殺しはしなかったが倒したのだから。
大きくなる羽ばたき音。目視可能の距離まで接近していた。
その身体は黄金に輝き、夜空に在るならば星と見紛うばかりに輝いている。
そしてグリフォンは静かに着陸する。鷹の瞳に敵意を満ち溢れさせて。
――九尾狐、それに灰色狼…私をわざわざ呼び寄せたんだ。命が要らぬと言う事か?
成程、カトリックに飼われているから高圧的なのか。それとも、己に絶対の自信があるのか?
――やけに好戦的だな!!カトリックは躾すら出来ぬ訳か!!
毛を逆立てて灰色狼が低く身構えた。いつでも飛び掛かれる体勢だ。
――民に忘れ去られようとしている犬が、よく吼える…!!
グリフォンも翼を広げ、いつでも羽ばたける体勢を取る。
妾はそんな灰色狼とグリフォンに背を向けて家に戻ろうと歩き出す。
――何だ?貴様はやらないのか?
――九尾狐が出るまでも無い!!グリフォン如き、この魔狼の牙で…
妾は振り向く。
――ここで戦うのは許さぬと言った筈。そして妾もここで戦う事は良しとせぬ。妾は貴様等の主に直接申す事にするわ
羽ばたきを止めるグリフォンと、低い体勢から地に腰を下ろす灰色狼。
奴等も解っているのだ。主がこの遊歩道の工事に携わっている事を。
ここで戦い、破壊する事でもあるならば、それぞれの主が落胆すると言う事を。
――勇ならば貴様等の主に責任を取らせるだろうな
クッと笑う妾。
同時に臨戦態勢を解くグリフォンと灰色狼。
――カトリックの頂点が、またあの男に使われるのだけは阻止しなければならぬ…
――キョウは本当に嫌がっていたしな…
――やらぬのならば良い。さぁ、灰色狼、戻るぞ。貴様も暫し休んで行くがいい。明日には主と共に帰るのだろう
それだけ言って妾は家に戻る。
灰色狼も黙って後に着いてきた。
グリフォンは羽根を休めるが如く、その場に佇んでいた。
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
健康ランドでは、暑苦しい葛西以外が楽しんでいた。
「なんじゃいガキ!辛気臭いツラをしおってからに!」
小汚い爺さんが既に酔っ払ってバカチン共に絡んでいたのだが、暑苦しい葛西があまりにも暗いので、チョッカイを出しに来た。
「ジジィ!テメェ仕事してねぇのに打ち上げには来るのかよ!」
「若い者が細かい事を気にするもんじゃないわ!いや~、やはり風呂上がりには生ビールよなぁ!」
ゴブゴブと喉を鳴らしながらビールを流し込む小汚い爺さん。まさに至福な時と言わんばかりに呑んでいた。
「勝手にしろジジィ…」
暑苦しい葛西は風呂上がりなのに、更に暑苦しそうに小汚い爺さんを追っ払う仕種をした。
「葛西は災難だったな…」
俺の隣で呑んでいる無表情が話し掛けてくる。
「災難?なんで?」
「自分の大切な金を、恋人に勝手に使われたり、謂れのない罪を着せられて土下座したりだ」
面白く無さそうにビールを呑む無表情。
成程、やはり暑苦しい葛西は可哀想な奴と認識されたらしい。
「多分だが、あれはパツキンのフェイクだ。金は使って無いと思うぞ」
そう言って俺もビールをゴクゴクと呑む。
「使っていない?なら何故あんな事を言った?何故あんな真似をさせたんだ?」
「解らん。まぁ、パツキンは出来た女だ。だから暑苦しい葛西も尻に敷かれてんだ。だから気にしないでお前も楽しく呑め」
俺はビールの追加をお願いしながら無表情に促す。
「まぁ、北嶋がそう言うのならば」
追加で来るビールの前に、残っているビールを一気に呑み干す無表情。
「お!いいぞいいぞ無表情!ほら追加だ!」
キンキンに冷えたビールを無表情に渡す俺。無表情は笑いながら受け取る。
「北嶋、今回は色々君に教わった。そして色々助けてくれた。言葉では片付けられないが、ありがとう」
「なんだぁ?もう酔っ払ってんのか?俺は対価があったから仕事をしただけだ。気にすんな無表情」
無表情はクックッと笑いながら言う。
「君ならばそう言うと思ったよ。いずれ改めて礼に来る。バームクーヘンを持ってね」
「今後はミルフィーユなんかがありがたい」
「ははは。了解した。ミルフィーユだな」
俺達はそれから話をしながら呑んだ。
途中、暑苦しい葛西が精神的ダメージの為か、あまり呑んでいない事に気付き、無理やり引っ張って来て無理やり呑ませたりしながら。
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