ライオン観察記

しれん

大将の姿

敵将のヘラジカとの初めての勝負を終えて、私達の元に現れた大将、ライオン。


なにかがおかしい。


私が知っている大将は威厳に溢れた凛々しい姿だ。だが、今、目の前にいる大将は、フニャっとしていてどこか抜けているような姿。ヘラジカとの激しい勝負で疲労を感じているせいだろうか、合戦が終わって安心しきったためだろうか。もしくは、ヘラジカとの間に何かあったのか…

色々と試行錯誤している内に、私はだんだんと不安になっていた。


大将を観察していれば何かわかるかもしれない。


そう思った私は、独自に大将を観察することにした。



〜観察1日目〜

私は、昨日の合戦で戦ったフレンズについて大将へ報告した。

「ヘラジカ軍のオオアルマジロとシロサイなのですが、どうやら守りに徹すると相当な堅さを誇るフレンズだったようです。もしかしたら、次の合戦である球蹴りでも驚異になるのではないでしょうか。」

「なるほどな。貴重な報告に感謝しよう。作戦は考えておくから、もう下がっていいぞ。」

「はっ。」

この時の大将に昨日の面影はなく、私のよく知っている大将そのものであった。やっぱり昨日はヘラジカとの戦いに疲れていただけだったんだ。そう思い、私は大将のいる場所を後にした。

その直後、とても大きなあくびが後ろから聞こえてきた。私は驚き振り返るが、その先に見えるのはただ1人、我らが大将ライオンの姿だけだった。


まさか…ね…


私はさらに不安を募らせた。



〜観察2日目〜

「今日は次の合戦について、ヘラジカと話してくる。」

と、大将は言った。自分達もついて行ったほうがいいかと、私も仲間のオーロックスやニホンツキノワグマも尋ねたが、大将は、

「大丈夫だ。」

とだけ言って、ヘラジカの軍のいる方へと1人で歩いて行った。

大将がこうなったのも、ヘラジカが何か関係しているのではと少し思っていた私は、密かに大将の後を追うことにした。

気配を殺して移動し、たまに転々としている茂みに身を隠しながら、大将を尾行していく。ヘラジカの姿が見えた。大将はヘラジカと話を始めたので、観察を始めた。気付かれないようにするため距離が少しあり、会話はほとんど聞こえないが、どうやら真面目に話し合っているように見えた。ヘラジカは特に関係はないようだ、と安心したその時だった。大将がヘラジカの腕を掴んでぶらぶらと揺れていた。どうやら、なにか駄々をこねているように見えたが、それがどうかは遠くからではよくわからない。ただ、1つ言えるのは、2人ともいつのまにか楽しそうに話していたということだ。

2人の話が終わる前には帰っておいたほうがいいだろうと思った私は、楽しそうに話している2人を背中に私は1人歩いて行った。


帰ってきた大将は、いつもの姿でヘラジカと話し合った合戦についてのことを話した。その後、太陽も沈んだため、今日は解散となった。私は、1人、へいげんの夜空を眺めてぼんやりと考えていた。もしかして、大将の本当の姿は私達が知っている姿ではなく、あのフニャっとした姿なのではないかと、部下である私達には見栄を張っているだけなのではないかと、ヘラジカとは実はとても仲良しだったのではないかと…

そんなことをあれこれと考えているうちに私は眠りについていた。



〜3日目〜

私は大将にじゃぱりまんを届けに行った。すると、そこに大将の姿はなかった。私は、仲間達に大将の行方を知らないかと聞いてだいたいの方向はわかったため、探しに行った。

少し行ったところにある木陰、ようやく見つけた、大将だ…いや、あれは大将か?私はその近くの別の木に隠れるような形で、また観察をすることにした。

大将は近くの木で夢中で爪を研いでいる。がりがりがりがり… それなりに距離がある場所でも音は良く聞こえてくる。しばらくして爪を研ぐのをやめたら、この間聞いたのと同じ大きなあくびを1つして、そのまま木陰でゴロンと気持ちよさそうに横になった。


そんな大将を見て、私の考えはどんどん悪い方向へと向かっていく。もしかして、大将は力が弱いのではないかと。そういえば、私はほとんど大将が戦っているのを見たことがない。今までのヘラジカ軍との合戦ではいつも、私とオーロックスだけで勝負がついてしまっていたからだ。前回の合戦でも結果は引き分けとなっていたが、もしかしてヘラジカが仲の良い友達を傷つけられないと手加減したために引き分けという結果だったのではないかと。


ふと我にかえると、大将はこちらの方を見ていることに気がついた。目つきがあまり良くない。もしかしてバレた!?慌てて大将からは見えないように木に体を隠した。その時になって私はようやく気付いた。私の真後ろにそれなりの大型のセルリアンがいたことに。私は驚き、腰が抜けてしまった。セルリアンは私めがけて体当たりをしてきた。動けない、やられる。そう思い、目を瞑った。


「うちの子にぃ…手ェ出してんじゃねぇぞ?」


その時、聞きなれないフニャっとした声と、聞きなれた太い声が聞こえてきた。目を開けると、サンドスターの流れとともに1人の金色の毛を靡かせてセルリアンに目にも留まらぬ速さで飛びかかるフレンズの姿が見えた。その直後、ぱっかーん!と音を立てて消えていくセルリアン。そして、そこに立っているのは、私の知っている大将だった。


私は自分を憎んだ。変な考えを一度でも持ってしまった自分を憎んだ。

「大将、申し訳ございません!私、前回の合戦が終わった時に、大将の様子がいつもと違うようだったので、気になってここ最近ずっとこそこそと観察していました!そして、その結果、大将の本来の姿は私の知っている姿じゃないとか、大将は実は力が弱いのではとか、馬鹿な考えを持ってしまいました!本当に申し訳ございません!!」

私は何度も何度も謝った。

「オリックス、顔をあげろ。」

聞きなれた声で言われた。私はおそるおそる顔をあげた。すると、大将は笑顔を見せていた。

「も〜、そんなに謝らないでよ〜。大丈夫だって。いや〜、こっちこそメンゴメンゴ〜。変な心配かけさせちゃったみたいだね〜。それにしても、無事でよかったよ〜。怪我してない?大丈夫?」

聞きなれない声でフランクに話している大将。多少違和感はあるが、確かに大将だ。

「怪我は、大丈夫…です…」

大将の優しさに触れて私は自然と涙を流していた。

「あーあー、泣かないでよ〜。無事だったんだから、笑って笑って!」

そう言われ、私は涙を拭いて目を真っ赤にして笑顔を頑張って作った。

「あっ、そうだ。私さ、プライドの手前、リーダーっぽくしなきゃなって思って頑張ってああいう態度とってたんだけど、あれ、疲れるんだよね〜。バレちゃったしもうこの際、プライドなんていいから、この本来の私の感じでいこうとおもうだけど〜、いいかな?」

大将は私に問いかけた。答えはもちろん、

「はい!どんな大将でも貴方は私達の大将には変わりありません!これからも私達をずっと部下として、よろしくお願いします!!」

私は笑顔で答えることができた。




帰り道、 少し気になっていた私は、ヘラジカとの関係を聞いてみた。

「ああ、ヘラジカね、戦っていい奴だなって思って、すぐに意気投合してとても仲良くなったんだよ。いや〜、あいつ強いよ、串刺しにされるかと思ったね。」

私の考えはあながち間違えてはなかった、別に悪い方向じゃなかったけど。そう思いながら2人歩いて行った。

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