第四章 『風の街』

「何だか、ワクワクするよ」


「そうかい?」


「うん

 勿論、不安だらけだけど

 いい意味で開き直ってるのかも」


「ふっ

 良かった・・・

 でいいのかな」


「良いと・・・思う・・・」


パンさんの屋敷の敷地を抜けてから

拒まずの森までは

一本道と言うことだった。

途中、1ヶ所だけ分かれ道が出てくる、

そこは必ず自分の意志で選ぶようにとの

注意だけ受けた。

まぁ~1本道とは言ったが、

道以外は芝生みたいな草原な訳で。

わざわざ道を歩かなくても

全てが道みたいなもんだ。

しかも、この道は

定規で引いたように

まっすぐに森まで続いている。

いい意味でその面白みの無い道より

左右に広がる草原を

自由気ままに行こうと

その草原に踏み入ろうと

足を伸ばした瞬間

アルフが優しくボクの肩を引き寄せた。

すると、

一瞬の間を置いて、

例の効果音と共に

アテナが49へと減算した。


「えっ・・・?」


何で数字が変化したのか分からないうちに


「飛ばされちゃうよ」


とアルフが声を掛けてきた。


「えっ・・・」


「さっきはパンダミオさんの

 敷地だったから平気だったけど

 ここはもう敷地外だから

 ちゃんと道を歩かないと

 この景色からは

 想像もできないようなとこを

 彷徨うことになるよ

 ふっ」


「えっ

 そうなの?」


「試してみるかい?」


笑ってる・・・

目以外が・・・


「や・・・

 やめとこうかな・・・」


「あぁ

 そのほうがいいかも

 見方を変えれば

 それも楽しいんだけどね」


「な・・・なんだか、

 良いのか、悪いのか

 訳分かんなくなるね~」


「悪くはないけど、

 今は時間がね・・・」


「そっか・・・

 確かに・・・

 余計な寄り道してる暇は

 ないもんね」


「ちょっとした寄り道ならいいけど

 ちょっとの寄り道では

 済まないと思うよ

 経験上」


「ははっ」


少々、笑いが乾いた。


「あっ

 あとね、アルフ

 刻印の数字が変化したんだ

 アテナが49に減ったんだ・・・」


「そう」


と、驚いた様子も無く、

軽く笑みを浮かべた。


「えっ?

 それだけ?」


ちょっと拍子抜けした。


「キミの戒律の刻印は

 今はまだ予告なんだ

 それが後々、

 結果になるんだよ」


「予告なのこれ?

 ってか、後から役割が変わるの?

 境目がわかんないと

 それが予告なのか結果なのか

 わかんないね・・・

 ははっ」


「ふっ

 今は、純粋に予告として

 わかるだけのものなんだ

 数字の意味するところは

 いずれわかるよ

 そして、

 その境目もね」


「予告・・・ね・・・」


予告だと、

見た途端ハラハラ、そわそわして

きっと落ち着かなくなる。

気になって他に集中できそうにない・・・

ボクの性格上。

ただ、いずれ結果になるとして、

それに意味があるんだろうか。

何かがありました・・・

で、増えました、減りました・・・

『で?』

ってなりそうな気もするが・・・


「キミは人間界でも見えていたんだよね・・・

 人間界ではただの結果・・・

 刻印の意味を知らない人間様に

 結果が見えたところで

 どうしようもないのに、なぜ・・・

 ボクらノア族は年に1回、

 浄化するからいいんだけど・・・」


やっぱり・・・

結果が見えたところで

どうしようもないって

アルフも言ってるじゃん。

なんだか戒律の刻印自体、

ただのマイナス要因でしかないような

気がしてきた。


「ん?

 浄化?

 浄化って?」


「あぁ

 ボクらは定期的に

 刻印の浄化を行うんだ

 自身のメンテナンスとしてね

 ジャッジメンタリアは

 そういう場所でもあるんだ

 詳しいことは追々説明するよ

 今、ボクが

 あれこれ教えたところで

 本人が気付いて理解しないと

 全く意味を持たないから」


「そうなんだ・・・」


「でも、まぁ普通に、

 誰にでも日常的に起きてる事だから

 教えられなくてもいずれ分かるよ

 人間界と違って

 ここは分かりやすいから・・・」


「そっか・・・

 まぁ・・・

 気長に頑張ってみるよ」


「ふっ

 それがいい

 気楽にね」


それにしても、

アルフの声、

話し方・・・

なんでこうも落ち着くんだろう。

説得力とかそんな強制的なものじゃない

柔らかい感覚。

相性の問題だけではないような・・・

そんな気がしていた。

そうこう自分会議をしながら

歩いていたせいもあり

会話はほとんどなかった。

恐らく、

考え事をしてそうなボクを見て

アルフが気を遣って

そっとしておいてくれたんだろう。

そう言えば、

最初の目測で、

あの森まで5分と踏んでいたが

明らかにかれこれ15分は歩いている。


「アルフ

 あの森までどのくらいかかるの?」


「キミ次第だよ」


「えっ?

 ボク次第?」


「あぁ

 望んでるかい?」


「望む?

 何を?」


「早く着きたいって」


「望んでは・・・いないかな

 直、着くでしょ・・・的な・・・」


「ふっ

 それじゃ~

 いつまでたっても着かないよ」


「えっ何で?」


「あの森は

 望まれないと近づいてくれないんだ」


「近づく?

 森が?」


「あぁ

 拒まずの森は動くんだよ

 強く望まれれば望まれるほど、

 近寄ってきてくれる」


「おいおいおいっ 

 アルフ君・・・

 先に言っておくれでないかいっ

 ボクの反応見て楽しんでるでしょ?」


「ふっ・・・

 ごめんよ。

 人間様の

 行動や思考に興味があってさ」


「まぁい~けどさぁ~」


「とは言っても、

 例の分かれ道を越えないと

 どのみち近寄ってこないけどね

 ふっ」


「なっ・・・

 絶対、楽しんでるっしょっ」


「ふっ

 ごめんよっ」


なんだか心地よいやりとりだ。

普通にぎこちない友達という感じだ。

さらに5分程歩いただろうか


「さぁ~着いた

 ここが、分岐点だよ」


とアルフが促すと、

いつの間にか目の前に

幾つもの分かれ道が扇状に広がっていた。


「えっ?

 どっから出てきたのこれ?」


「この分岐点はいつもここにあるよ

 ただ、

 道を選ぶ本人が立たないと

 ただの一本道なんだけどね

 選ぶべき人が立てば

 未来への道が現れるんだよ

 キミには

 いくつの未来が見えてるんだい?」


「・・・1 2 3・・・5・・・

 10、11

 11本あるよ」


「今のキミには

 11の未来があるんだね・・・」


「えっ?

 見えないの?」


「これはキミ自身の未来への分岐点

 だから、

 いくらボクでも見えないんだ

 ここだっていうことしか

 分からないんだよ」


「そう・・・なんだ・・・」


「キミは今、

 11ある未来から

 その一つを選ばないといけない

 さぁ~運命の分かれ道だよ」


「急にそんなこと言われても・・・

 心の準備が・・・

 それに、

 先の見える運命を選べるなんて

 それ、運命なのかな・・・」


「ふっ

 そうだね

 でも、運命を選ぶのに

 心構えをする時間なんてない場合が

 ほとんどなんだ

 下手すれば

 その岐路に気付かないことすらある

 パンダミオさんの屋敷から

 この拒まずの森を抜ける際、

 入る前に

 こうやって岐路を示してくれるんだ

 そこで選んだ未来へと

 橋渡しをしてくれる

 でも、実際は、

 選ぼうと思って

 選べるわけではないんだ

 意思じゃない、

 もっと深いところで決めるんだよ

 考える必要はない・・・

 感じればいい・・・

 目を閉じて、

 自分の心の声に従えば良いんだよ」


「心の声・・・」


「目をつむって意識を集中してごらん。

 何かが見えるはずだよ」


ボクは何の疑いも無く

アルフの助言に従った。

すると、

それぞれの道の先に

違う自分が朧げにだが見えた。

泣いてるボク、

笑ってるボク、

怒ってるボク・・・

ボク、ボク、ボク・・・


「全部・・・

 ボクだ・・・

 ボクが・・・

 ボクを・・・

 選ぶ・・・」


はっきりと見えるわけではないし、

どういう状況かも分からない。

しかし、

感覚的にその全てが

リアルだということは分かった。

どの自分を選んでも

容易く受け入れることが出来る。

ただ、

向かう未来はわずかなりにも違う、

そういう些細な違いが

ボクの判断力を鈍らせた。


「集中・・・しなきゃ・・・」


そう力むボクの肩に置かれた

アルフの手が、

カチコチなボクの心を

一瞬で解きほぐしてくれた。


「大丈夫だよ・・・

 考えるんじゃなくて、

 感じるんだ・・・」


「感じる・・・」


力みが消えた瞬間、

ボクはひとつの道を選んでいた。

あまりにもあっさりと、

あっけなく決まった。

と言うよりは、

ボクじゃないボクが

既に選んでいたかのような感覚だった。


「これ・・・」


「選んだかい?」


「うん」


「じゃ~行こうかカムイ

 キミの選んだ道だ」


「うんっ」


選ぶには選んだが、

結局どの未来を選んだか

全く分からなかった。

これじゃ、

ただのロシアンルーレットだ。

今さっきまで

ボクの目の前に枝分かれしていた

11の未来が

再び一本道に戻っていた。

振り返ってみたが

後ろも当たり前のように一本道だった。


「ふっ」


思わず鼻で笑って正面を向き直ると

森の入り口に二人立っていた。


「うわっ」


「びっくりしたかい?」


「ご覧の通り・・・

 かなり意表を突かれたよ」


「ふっ」


確かに

森が近寄ってくるって

アルフが言ってたが

ボクが想像していた感じと全然違った。


「ご苦労様」


アルフの優しい声に、

ふと我に還った。

我に返ると

あまりの存在感に気おされた。

遠くから見ていた時は

『大きな森』と想像してはいたが、

いざ目の前にすると

森と言うより

完全に別世界への

境界線に立ってるような感覚だ。


「これが・・・

 ジュカイ~ン」


「あぁ」


無数の大樹が模る城壁が

行く手を阻んで警告しているかのようだ。

どっから入るんだ、これ。

よくよく見渡しても

森の入り口らしきものが無い。


「どうやって入るの?」


「半歩だけ利き腕の方に移動して

 森の中を覗いてご覧」


そのアルフの言葉通りに

右に半歩移動して森に目を向けた。


「あれっ」


「見えたかい?」


「すっかすかだ」


「ふっ」


もう一度、

半歩左に移動して見てみると


「ありっ・・・

 すっかすかだ・・・」


「ふっ

 最初の半歩で開かれるんだ

 一度開いたら

 入るまではもう閉じないよ」


「これ・・・開いてるの?」


「何か不自然かい?」


「いや・・・

 開いてるといえばそうなのかな・・・

 入れそうにはなってるからな・・・」


「ふっ」


入る隙間も無いくらい

大樹がひしめき合っていたのに、

今はすっかすかだ。

まばらに聳えた巨木が

なんとなく森の始まりを

物語っている感じだ。

随分とざっくりとした入り口だ。

左右を見ると

どこからでも入れそうだ。

獣道らしきものもなく、

どうとでも分け入ることができそうだ。

改めて、

目の前の森の奥へと視線を投げると

巨木がまばらに乱立している。

次第に樹々の密度が

濃くなっていくのかと思いきや、

なんとなく先が明るい。

良く見るとその部分だけ

樹々がなくなって陽が射しているのか、

もしかしての出口なのかのどちらかだ。

とりあえず、

アルフにも相談して、

まずはあそこを目指してみることにした。

それにしてもこの巨木、

良く見ると全て同じ種類のようだ。

どれも、

樹齢が想像できないくらい太い幹。

樹のてっぺんなんか見えやしない。

相変わらず、

透明感抜群だがガラスのような

冷たさや儚さは感じなかった。


「ん?」


「気付いたかい?」


「同じ種類の樹じゃなくて

 全く同じ樹・・・

 大きさも、色も、形も・・・

 全く同じだ・・・」


「入ってごらん」


「入る?」


「あぁ」


そう促されて、

森の中へと1本目の巨木を超えた。

次の瞬間、

周りにあった同じ樹々が

意思を持っているかのように

一斉に枝振りを変えた。

と同時に

ボクは森の中に

たった独り取り残されていた。


「あれっ

 あれっ?

 アルフっ?」


樹々が様相を変え

景色が一変したことより、

後先考えずに周りを見回したせいで、

自分がどの方向から足を踏み入れたのか

分からなくなった。。


「おいおいおいっ

 冗談きついよ~」


さっきまでの

まばらな巨木の入り口ではなく、

密集こそしてないが

完全に樹々に囲まれていた。

しかも、先ほどとは違い、

同じ種類の樹ではあるが

同じものではない。


「アルフ~っ」


「驚いたかい?」


「うわっ」


まさに、それに驚いた。


「ふっ」


「少々びびった・・・」


「ビビッタ?」


「あぁ~

 驚いたってこと・・・」


「ふっ

 ごめんよ」


「勘弁してよ~

 ってこれど~なってんの?」


「この森は、

 入った者の目的に合わせて

 様相を変えるんだ」


「目的?」


「あぁ

 因みに、

 ボクらはここを抜けるだけだから

 ちょっとした

 サプライズをしてくれてるんだよ」


「サプライズ?

 どんな?」


「キミはどう感じたんだい?」


「遭難した~的な・・・」


「ふっ

 じゃあ、そういうサプライズ」


「えっ・・・趣味悪いな~

 ってか結構、大雑把だね・・・」


「そうかい?

 もうボクが種明かししたから

 そうでもないけど

 知らないでこうなると

 森を出られることに

心から感謝できるよ

 実際、

 ほんの短い時間のサプライズだしね」


「そんな前向きにとれないな~

 迷った時点で恐怖でパニック、

 種明かしされてイライラパニックだよ」


「ま~

 実際は種明かしとかは無いから

 騙されたとか

 サプライズなんて思わないけど

 それ以前にここの皆は

 それを理解して入るから

 逆に楽しみなんだよ」


「そりゃ~

 知ってたら楽しめるけどさ~

 さっきは一瞬でパニックになったよ」


「ふっ

 そっか、ごめんよ」


「いやいやっ

 別に謝んなくてもいいんだけどさ

 それにしても、

 魂魄界はビックリ箱だね」


「お互いにお互いの世界が

 そうなのかもしれないね」


「かもね」


「ボクもいつか

 人間界に行ってみたいな」


そう言うとアルフは遠くを見つめた。


「パンさんとこに来るお客さんは大変だ

 いやっ楽しみなのか・・・」


「状況によるかな

 パンダミオさんも、あ~見えて

 鍵の番人という立場で結構忙しいから

 本来、なかなか会えないんだ」


「鍵の・・・番人?」


「あぁ

 各階層を管理する者は

 『鍵の番人』と呼ばれてるんだ

 任された階層の不調和を

 監視・解消するのが役目なんだよ」


「へぇ~

 ボクらで言う警察というか

 自警団みたいなものかな

 でも、あの雰囲気からして

 もしかしたら、

 何でも屋みたいなもんだったりして」


「ふっ」


そう言えば、

さっきのパンさんとの会話で

『立場上・・・』

って言ってたのを思い出した。


「鍵の番人になるのって

 何か条件があるの?」


「あぁ

 それなりの経験と知識が必要だよ

 あ~みえて800年以上は

 生きてるからね」


「はっ・・・800・・・」


妖怪かっ。


「ふっ

 気が遠くなるだろ・・・」


「800年生きるなんて

 想像もつかないよ・・・」


「ここ、魂魄界では、

 そう珍しくもないんだ

 実際、2000年以上

 生きてる方もいるって噂だし」


「はは・・・

 凄すぎて驚けないや・・・」


乾いた笑いがこみあげた。


「かもね」


「ノア族って凄いんだね

 良くわかんないけど・・・」


「ふっ・・・

 ボクらからしたら

 キミら人間様のほうが凄いと思うよ」


「人間が?」


「あぁ

 いろんな意味で・・・」


「そっかな~

 寿命なんて100年あるかないかだし、

 他にもいろいろ問題ありありだよ

 人間界は・・・」


「確かに、

 悲しい種族ではあるよね・・・

 でも、

 ここには無い物がたくさんある」


「あっちには無いものが

 こっちにはあることを考えると

 お互い様じゃない?

 でもね、

 ボク自身、人間界での

 楽しい未来が想像できないんだよね

 むしろ怖いかな、

 色んな意味で

 文明の発展で、

 物が豊富になったし

 便利になってることも

 確実にあるけど・・・

 それに比例して

 心も豊かになってるかと言えば

 残念だけど・・・

 ボクはそれは感じない

 ボクの知りうる人類の歴史を見る限りね

 それにね、昔っから

 人間界には『欲』が蔓延していてるせいで

 色んな問題が山積みだし

 勿論、素晴らしい人間だっているよ

 でも、絶対数が少ないと思う

 この比率が変わるか

 余程の事が起きない限り

 人間界・・・と言うより

 人間は良くは進化できない

 そんな気がするよ・・・」


アルフの『悲しい種族』という言葉が

頭から離れなかった。

ボクも、

別に人間を悪く言うつもりはなかったが、

アルフの口から聞くより、

自分で言ってしまったほうが

気が楽だと思ったからだろうか、

自然とそうなった。

人間に対する不服・不満が

意外にすらすらと口を突いて出たことと、

全然言い足りてないと感じたことに、

かなりがっかりした。


「そうなんだ・・・」


アルフの表情が少しだけ曇った。


「ボクもここには来たばっかりだから、

 一概にどうこうは言えないけど・・・

 でも、

 本能が揺さぶられる感覚というか

 すっごくワクワクするよ

 ま~状況が状況だから

 諸手で喜べないけどね・・・」


「そうだね・・・」


「にしても、

 パンさんって

 そんなに重要なポストにいるんだ・・・」


「あぁ

 誰でも気軽に逢えはしないよ・・・

 まずは

 この森が通してくれないと

 会えないしね」


「この森?」


「そう

 マモ~ルンは訪れる者の望みを

 全て叶えてくれるわけじゃないんだ

 拒まずの森/ジュカイ~ンの名の通り、

 来る者は拒まずなんだけどね

 この森を訪れる理由は大きく2つ

 ひとつはパンダミオさんに逢う為

 もうひとつは、

 大神樹/オイシゲ~ルの

木霊神/マモ~ルンに逢う為

 でも、

 皆が皆、簡単に逢える訳じゃないんだ・・・

 大抵逢えずに、

 別の場所に飛ばされてしまう

 ボクも3回に1回は飛ばされてたよ

 ふっ」


「必要が有るか無いかを

 この森が判断してるってこと?」


「あぁ

 でも今回、

 ボクらはパンダミオさんの屋敷から

 出るためにこの森を抜けるだけ

 マモ~ルンに逢う必要もないから

 普通の森として

 通り抜けることができるよ

 サプライズも終わったし

 ふっ

 さぁ・・・行こうか」


「サプライズね・・・

 ボクにはどっちかと言うと

 ドッキリだったなっ」


「ふっ」


ドッキリは分かるんだ・・・

そう考えながら

ボクはアルフの後について

拒まずの森を進んだ。

人間界の森と

スケールは勿論、

存在感と様相が完全に別物だった。

とは言っても、

ボク自身、

人間界の森全てを知ってるわけではないし、

ほんの狭い知識と

知り得る常識内で比べての話だ。

あと、

違うとこと言えば、

ノア族同様、

透明感に溢れているところか。

森自体がガラス細工のような

儚さと繊細さを兼ね備えながらも

力強い生命力に溢れている。

降り注ぐ木漏れ日は、

色を変え、形を変え、

ひと時も同じ景色を模らない。

囁くようなそよ風に

しなやかに応える葉や枝。

目にするもの、肌で感じるもの全てに、

言葉をあれこれ考える間もなく

心ごと奪われる。

そんな心地よい景色が

遠くに近くに見える。

そんな森の小径を歩くことおよそ10分、

入り口同様、

出口らしからぬ緩い光景が現れた。


「あり?

 ・・・あれ出口?」


「あぁ

 短く感じたかい?」


「うん・・・

 入った瞬間は

 覚悟を決めたくらいだったからね」


「ふっ

 帰りはね・・・

 こんなものさ・・・

 生きてるからね、この森も

 ちゃんと役割を弁えてるんだよ」


「役割・・・

 そうなんだ・・・」


この森が生きているという概念と

森自体の持つ役割そのものが

ここ魂魄界では明確だ。

人間界の森も生きてはいるし

役割もある。

ただ、ここでの役割とは

人間が見出した都合のいい表現で

そこには、森そのものの意思は無い。

と、思う・・・

人間が、いやボクが

知らないだけなのだろうか・・・


「因みに、

 拒まずの森/ジュカイ~ン

 大神樹/オイシゲ~ル

 木霊神/マモ~ルン

 これらは一つなんだよ」


筒抜け情報から

もう少し詳しく

簡単に説明をと思ってくれているようだが、

今の時点で話の行き先が全く見えない・・・既に迷子だ。


「一つ?」


「あぁ」


「・・・

 ごめん

 意味わかんない」


「ふっ

 簡単に言うとね

 木霊神/マモ~ルンは

森そのものなんだ

大神樹/オイシゲ~ルは

マモ~ルンが宿る

目に見える精霊体本体の一部

拒まずの森/ジュカイ~ンは

オイシゲ~ルの全貌なんだ

つまり一本の神樹なんだよ

この森自体が」


「じゃあ、

 あれは森じゃなくて樹木なの?

一本の?」


「そ・・・

 そう言ったつもりだけど・・・」


「ははっ

 今自分でもアホな質問したとわかったよ

でも、樹は各々生えてたよ?」


「地中で繋がっているんだ」


「へぇ~」


なんとなく想定内な答えに

逆にリアクションが難しかった。

結局、

あれが一本の樹なんだということしか

頭には入ってこなかった。

まぁ、それで充分だろうが。

お陰で、

そっけない返事しか出てこなかったが、

アルフはそれをわかってか、

それ以上、

この件について口を開かなかった。


森を抜けると今度は、

目の前に底の見えない峡谷が現れた。

底が見えない時点で

峡谷かどうかは定かではないが、

たぶん峡谷だ。

眼下およそ10メートル位の所に

霧か雲か、

そもそも違うものなのか、

雲海のように立ち込めている。

そこから生まれ飛び立つかのように

大小いくつもの虹が立ち昇っている。

美しいを通り越して

気おされる光景だ。

虹の始まる場所を初めて見た・・・

ん?

もしかして終わりの方か・・・

とにかく

思わず息を呑む程の絶景なのは確かだ。

昔、大好きだった漫画で知った

『ウイニング・ザ・レインボー』

が頭を過ぎった。

あれは確か海から天空へ向かって

無数の虹が屹立してたが、

それを彷彿とさせる光景が

目の前に広がっている。

その峡谷には

7本の吊橋が架かっている。

見た目、どれも違う形をしている。

ただ、

どの橋もちょうど一人分の幅で

離合は無理だ。

しかも浅く霧に包まれてるため、

対岸の様子がはっきりとは伺えない。

軽い恐怖と不安に弄ばれながらも

進むには、覚悟を決めざるを得なかった。

次の瞬間、聞きなれた金属音が聞こえ、

パラスが49に減った。


「あっ減った・・・」


「また、きたかい?」


「うん・・・

 今度はパラスが減ったよ」


「どういう状況で増減して

 結果どうだったかを

 注意深く観察しておけば

 その刻印の意味がわかってくるよ」


「えっ?

 意味?

 幸運と不運が

 前もってわかるってことでしょ?」


「そう・・・

 そしてそれには意味があるのさ

 大切な意味がね・・・」


「大切な意味・・・

 パラスは

 不運のバロメーターだったよな・・・

 それが減った・・・

 不運が消滅する、

 もしくは不運を消費する・・・

 今は予告なわけだから

 不運な出来事を回避できるのか

 不運な出来事が起こるのか

 のどちらかだ・・・」


「すぐにわかるよ」


「こ・・・怖いな~」


「大丈夫だよ・・・

 気にしてたらきりが無いよ」


「わかってるけど・・・

 そうだね

 って心底思えたら苦労しないよ・・・

 ははっ」


「そのうち慣れるさ・・・

 気楽に行こう」


「わかった

 ・・・と思い込むよ

 で、アルフ、どの橋だい?」


「左から二番目だよ

 お先にどうぞ・・・

 あっ

 両方のツタをしっかり握ってね」


「わかった」


辺り一面絶景なだけに

見る分には申し分ないが

渡るとなると話は別だ。

普通に足がすくむ。

動悸と吐き気もしてきた。

ボクらが渡るべき橋は、

側面は弦を編みこんだようになっており、

ちょっとレトロっぽくて洒落ている。

探せば人間界もにありそうな吊橋だ。

ただ、違うとこと言えば

木板の足場が続いているのだが、

お約束通り、透明ということだ。

気持ち、木目を意識しているせいか

茶色をしているが果てしない底が

踏み入る前にも拘らず微かに見える。

渡るのを拒否するには充分な理由だ。


「アルフ

 一応、ダメもとで聞くけど

 吊り橋以外の道はないんだよね、

 やっぱり」


「無いよ

 もしかして、苦手なのかい?」


「基本、絶叫系はパス」


「そうなんだね・・・」


「でも・・・

 無いならしょうがないよね・・・」


そうは言ったものの

なかなか決心出来ずにいた。

10分程、現実逃避していたが

名案が浮かぶはずもなく

渡らないことには

どうしようもないという

諦めにも似た軽い決心に至った。

アルフも何も言わず

見守ってくれている風だった。


「ごめんよっ

 長らくお待たせいたしました

 じゃ~行こうかっ」


「あぁ

 行こうっ」


いざ、橋を目の前にすると

ただ、なんとなくだが、

前を歩いたほうがいいような気がして

お言葉に甘えて最初の一歩を踏みだした。


次の瞬間・・・


落ちた。


「じゃ~

 おさきにゃあぁぁぁ~~~~~~~~~っ」


一瞬、見た目通り猫になった。

と、同時に恐ろしく後悔した。


「手を離さないでっ

 最初だけだからっ」


一瞬でアルフの声がフェードアウトした。


最初だけって・・・


こういう大切なことは、

最初を迎える前に教えててくれないかな

アルフ君・・・

と、スローモーションで落ちる景色の中、

アルフに心の中でつっこんだ。

たぶん白目を剥いた状態で・・・


「うぅ~わっ」


急に下降から上昇に切り替わったことに

心身供に付いていけないまま

アルフと同じ目線に戻ってきた。

勿論、想像通り、

人間界と同じ動きをする。

そのまま浮いたり沈んだりを繰り返し、

ようやく軽い揺れまで治まってきたが

恐ろしくて

次の一歩を踏み出せないでいた。


「カムイっ

 もう大丈夫だよ」


「もう・・・

 だいじょばない・・・」


もうじゃなくて

既に大丈夫ではないんですけど・・・

今回ばかりは、

にわかに信じがたいアルフの言葉に

まだ、勇気が湧かないでいると


「ほら、あそこ・・・」


「うわっ少々びびった・・・」


真後ろでアルフの声がした。

アルフもいつのまにか踏み出して

ボクのすぐ後ろまで来ていた。

とは言っても、

まだ2~3歩しか進んでいないが・・・

アルフの指し示した視線の先を見ると

右側二つ向こうの橋を渡っている

二人組と目が合った。

恐らくボクの声にビックリしたんだろう。

ボクらより進んでいるところをみると

先に踏み込んでいたようだ。

良く見ると、吊り橋じゃない。

白と黒の法則性のある道、

ピアノの鍵盤のような橋だ。

側面が無い。

言わば、足場しかない。

見てるだけでぞっとする。

思わず弦を握る手に力が入ったが、

当の二人は、綱渡りのように

両手でバランスを取りながら

揚々と歩いている。


「やあ

 大丈夫かい?」


前を歩いてる小さい方の

黄色いノア族が声をかけてきてくれた。

『やぁ、無理っぽいです。

 って言うか、その台詞、

 そっくりそのままお返しします』

と返事しようと思ったが


「やあ、ありがとう

 大丈夫だよっ」


と、速攻アルフが返事をした。

ボクは全然、

大丈夫ではございませんが・・・


「今日は清々しいね~

 お互いよい旅をっ」


今度は後ろを歩いている

ボクよりノッポな

橙色のノア族が声をかけてくれた。


「よい旅をっ」


ボク自身、

決して清々しくはなかったが

今度は自然と声が出た。

何となくだが、

ボクの番のような気がしたからだ。

この時、

不思議と声と一緒に勇気も出てきた。


「ありがとう」


アルフが彼らにお礼を言った。


「最初はみんなそうさっ」


笑顔で返事した

後ろを歩いていたノッポなノア族が

ボクに親指を立ててそう言った。


「ありがとうっ」


彼らが歩いていくのを暫く見ていた。

彼らの影は前の方に薄れるのではなく

明らかに右の方に逸れながら

後姿が霞んで消えた。

この橋、

平行に架かってるんじゃないんだと

少し冷静になれている自分に気付いた。


「あっ・・・ごめんっ」


「全然」


「ありがとうっ」


「ボクは何もしてないよ」


いつもの柔らかい笑顔で応えてくれた。


「行くよっアルフっ」


「いつでもいいよっ」


元気良く踏み出したものの、

この吊橋・・・

ゆ・・・揺れ方が半端ない・・・


「確実に酔うな~これっ」


ついさっきまでのやる気が

嘘のように萎んだ。

世の中には

こういうのを楽しめる人たちがいる。

絶叫系が恐怖と不快でしかないボクには

羨ましい限りだ。

酔う前に気を紛らわそうと

話しかけることにした。


「アルフにはこの橋が

 それぞれどこに繋がってるか

わかるのかい?」


「もちろんわかるよ・・・」


「先が見えないから、

 てっきり

 ロシアンルーレットかと思ったよ」


「ロシアンルーレット?

 何だいそれ?」


「あ~簡単に言えば一か八かみたいな・・・ 運試しと言うか・・・」


「へぇ~ロシアンルーレットか・・・

 だったら面白いかもね~

 でも急いでる時は困るなぁ・・・」


「確かにっ」


「さっきの彼らはどこに

 向かった~~~~~~~っのかな?

 あ~もうっ油断できないなこの橋っ

 股関節がアホになるっ」


「ふっ

 大丈夫かい?

 あの橋はヒャッコイの方だよ」


「ひゃっほい?」


「あぁ

 氷壁と雪原の街/ヒャッコイ」


ボクが無意識にいい間違えたと思い、

スルーしてくれたのか、

それとも、ただ単にスルーしたのか。

ボケたつもりが結果、

顔から火が出る結果となった。


「そう言えば、

 さっきキミが言ってたね」


「あぁ

 昨日までそこに居たんだよ」


「へぇ~

 何し~~~~~~~~~~~~っ」


「ふっ

 大丈夫かい?」


「あ~~っ

 油断も隙もない・・・

 自分の舌を味わうはめになる・・・

 この踏み板、当たり外れとかある?」


「ふっ

 無いよ

 慣れるとコツがつかめるんだけどね」


「慣れるほど

 何回も渡る機会いらないな・・・」


「ふっ・・・」


「でも、ヒャッコイって

 かわいい雪国を想像しちゃうね

 行きたいとは思わないけど」


「どうしてだい?」


「寒いの苦手なんだよね・・・」


「ふっ

 そうなんだ・・・

 確かにあそこは

 尋常じゃない気温だからね

 寒いというよりは、痛いかな・・・

 でも、着く頃には

 強制的に慣れてるけどね」


「そうなんだ・・・

 でもいいやっ

 行かなくても」


「ふっ」


写真か何かで

お目にかかるのは良いとして、

訪れるのは心から遠慮したい場所だ。


「そういえば、

 ア~~~~~~~ルフは何歳なんだい?

 あぁ~~~~~~~~~~~~もうっ

 この揺れどうにかなんないかなっ」


「ふっ

 もう少しの辛抱だよ

 ボクはここに降り立って10年」 


「10年?

 10歳ってこと?」


「違うよ

 ここに降り立つまで

 早くて5年から下手したら

 15年以上かかる者もいてね、

 ボクは7年いたから、

人間界で言う17歳位かな」

 

「ボクも17歳だから、同い年位だね

 何だかうれしいよ

 友達が出来たみたいでさ」


「ボクもだよ

 しかも、

 人間様の友達なんて初めてだよ」


「思いっきりお互い様だねっ」


そんな会話の途中、まさに予想的中。

悪い予感程よく当たる。


もうやばい・・・


気が紛れると思ったが、逆効果だった。

こんな見たこともない絶景の中、

不思議体験してても

普通に擬似船酔い出来る

自分の一部の平常心にイラッとする。

イラッとするが、体はふらっとする。

最低・・・


「・・・」


「・・・大丈夫かいカムイ」


「いや・・・だいじょばない・・・

 吐きそう・・・」


それはそれは美しいこの景観に

ボクの人生最大の汚点を残すことにつなが・・・うえっぷっやばし・・・

いとやばしっ


「ハキソウ?

 良くわからないけど頑張って・・・

対岸はもうそこだよ」


「うん・・・」


半分・・・

もう半分白目っす・・・

走りたくても走れないこの揺れ。

これ、なんの罰ゲームっすか神様・・・


「ふっ・・・

 あと少しだよ

 頑張って」


筒抜け情報からのエールも

右から左だった。

切り立つ虹に見守られながら、

あっという間だったであろう

長い長い陸間の空中船旅が終わった。


「ちょっと・・・タイム・・・」


「タイム?」


「あっ・・・

 休憩させてけろ・・・

 いとやばし・・・」


「ケロ?

 イトヤバシ?」


「ごめんなさい

 後で詳しく説明させていただきます・・・」


「ふっ

 わかった

 好きなだけ休憩してケロ・・・

 イトヤバシッ・・・

 ふっ」


「ははっ・・・」


使い方を教えたいという気持ちも含め

いろんなものがこみ上げてきて

乾いた笑いが精一杯の返事だった。

道の横の草原に大の字に寝転んで

空を眺めた。

正確には、草原ではなく

綺麗に大の字の地面に寝ている状態だが・・・

ただ、人間界の地面と違って痛くはない。

見た目はさほど変わらないのに、

低反発でいちいち優しい。

そのうち、

気分の悪さが

地面に吸い込まれたかのように消えた。


「たっかぁ~~~~~~

 吸い込まれそうだ・・・」


「そんなにかい?」


気付くと、

アルフもボクと同じ大の字で

隣に寝ていた。


「あぁ・・・

 アルフ達が人間界に来たら

 さぞかし窮屈な思いをすると思うよ・・・」


「・・・そうなんだ・・・」


「うん

 さてと・・・

 ありがとっアルフ、

 もう大丈夫だよ」


「まだ休んでてもいいよ」


「いやっ

 ほんと大丈夫

 ありがとっ」


「そう

 じゃ~行こうか」


「うん

 でっ、

 こっからどれくらいかかるの?」


「このまま歩いて3日かな・・・」


「そっか

 ・・・

 はい?

 ・・・3日?」


「あぁ」


「き・・・

 聞かなきゃ良かった・・・」


「何かまずかったかい?」


「てっきり吊橋を渡ったら

 『さぁ~ここだよっ』とか

 『あそこに見えてるのが・・・』

って

 オチだと思った・・・」


「オチ?」


「あぁ~

 結果というか・・・」


「ふっ・・・

 街によって違うんだ・・・

 ジャッジメンタリアもだけど

 順応に時間が掛かる街は

 こうやって時間をかけて

 体を慣らしていくんだよ」


「登山みたいなもんか・・・

 さっきのヒャッコイの強制的って

そういうことか・・・

 でもまさか・・・

あるきっぱとかじゃないよね・・・

 休憩するよね・・・

 ってかしようなっ」


「アルキッパ?」


「あっ・・・

 歩きっぱなしってこと」


「あぁ

 さすがにそれはないよ」


「良かった・・・心底安心した」


「ふっ

 ボクもあるきっぱは無理だよ」


ノア族がそうなのか、

アルフがそうなのか・・・

速攻でボクが使う単語を真似てくる。

好奇心というか探究心というか・・・

面白いを通り越して感心する。


「あっ・・・そういえば・・・」


「なんだい?」


「けろといとやばしを

 説明してなかったね・・・」


「あ~~~っ

 律儀だね

 ふっ」


「約束したからね~

 ってか律儀とか知ってるんだ」


「あぁ

 人間界についての軽い情報は

色んなとこで得られるからね」


「へぇ~」


「で?

 教えてくれるかい」


「あぁ・・・

 けろはね、

 ボクが住んでる日本ってとこの

 方言のひとつなんだ

 方言ってのは

 ある限られた地域で使われてる言葉でね

 『訛り』とも言われたりもするんだ

 ボクはそこの出身じゃないけど、

 前にテレビとかで耳にしたのが

 頭に残ってるんだろうね

 時折出るんだ

 かわいいだろ、

 なんとなく・・・

 けろの場合、

 語尾、

つまり言葉の最後に付くんだよ」


「けろ・・・

 ホウゲンか・・・

 確かにかわいい響きだね

 言葉の最後に付けるのか・・・

 ありがとうけろ」


「ごめんっ

 ボクが悪かった・・・

 それじゃ蛙だ・・・

 ははっ」


「?

 使い方が違ったのかい?」


「うん

 ごめんっ、偉そうなこと言ったけど

 具体的に文法上のこととなると

上手く説明できる気がしないや・・・」


「ブンポウ?」


「うん

 簡単に言えば、

こういうときに付けるけど

 こういう場合には付けない・・・的な」


「へぇ~

 難しいんだね・・・」


「ボクも、その辺は

 良く分からないで使ってるからなぁ~

 ニュアンスというか・・・」


「ニュアンスか・・・なるほど」


「ニュアンスはわかるんだ?」


「なんとなくね・・・」


「まんまだね・・・

 ははっ」


「ホウゲンか・・・

 もっと知りたいな・・・」


「深く知れば知るほど

 面白いのは確かだけど

 ボクは上辺だけしかわかんないから

大雑把で良ければ・・・」


「是非っ」


「方言には厳密に言えば

 歴史やら意味がちゃんとあるんだけど

 想像もしない面白さや

 魅力があるのも事実で、

 興味深いよ

 ただ、悲しいけど、

 人間界ではあまりいい意味で

 とられないこともあってさ、

 もっと言えば、

 笑われたりもするんだ・・・」


「笑われる?

 どうしてだい?」


「自分らと違う部分がある相手は

 敬遠するか下に見る方が楽だからだよ

 勿論、

 ただ面白いからってのもあるけど、

 笑われる方はいい気がしないからね、

 ほとんどの場合」


「人間界ってなんだか凄いとこだね・・・」


「うん

 だからここは居心地が凄くいい」


「それでか・・・」


「ん?

 どうしたの?」


「いや、転生しないノアも多いからさ

 もしかしたら、

 人間界を知りすぎたせいなのかな・・・」


「それすっごくわかる」


「ふっ・・・」


アルフの乾いた笑いと遠くを見る目から

ちょっとした失望感のようなものを感じた。


「あっ、あと、

 いとやばしってのは

 いとってのが凄くとかの

 古典的な言い方でね

 やばしはやばい、

 つまり大変とかの

 今的な古典的表現

 とでも言えばいいのかな・・・

 まぁ~凄くまずい状況ですっ

 という意味で使ったんだよ」


この空気を変えようと、

わざとらしさ全開で話を振ったが、

いとも簡単に受け入れてくれた。


「へぇ~いとやばし・・・か~

 人間様の言葉は面白いね

 真似たくなるよ」


「えっ?」


「んっ?」


お互いに軽くびっくりした。


「もしかして無意識?


「何がだい?」


「いやっ

 所々、使ってたから

 てっきり気に入ってるのかと・・・」


「えっ?

 ボク真似てたかい?」


「うんっ」


「・・・気付かなかった・・・」


「無意識の探究心と好奇心だね

 ある意味凄いよ・・・」


「ふっ・・・」


「ははっ・・・」


互いに普通に失笑した。


「でもね、

 最近じゃいろんな言葉が氾濫してて

 何が正しいのか

 わかんなくなることもよくあるよ

 ま~時代で変わっていくのは

 しょうがないのかもね

 ボクが言うのも何だけど、

 大抵は若い世代が言葉を生み出んだす

 進化なのか、退化なのか

 偶然なのか、必然なのか

 良くも悪くも変わっていくよ

 それにね、

 無理やり作ってる言葉もあったりして

 同じ意味の言葉が

 いくつもある場合もあって

 覚えきれないし、

 意味がわからないことも多いし

 って、おっさんかオレっ」


「ふっ

 そっか・・・

 でも退屈しなさそうだね」


「面白い視点だね、それ」


「そう?」


「うん

 退屈しないか・・・

 今までにない発想だな・・・」


「ひとつのことを

 色んな言葉で表現できるのが

 凄いと思うよ」


「そっかな・・・」


「あぁ

 そう思うけど・・・」


「ただ、ボクが使ってる言葉も

 正確じゃなかったりするから

 参考にはしない方がいいかもよ」


「ボクはキミと同じでいいから、

 気にはしないよ

 ボクもキミも、

 実際はお互い違う言葉で話してる

 通じてるから問題ないんだけど、

 時折わからない言葉が出て来るんだ

 互いの世界の独自の表現を

 脳内変換できない場合があるみたいだね

 キミはボクの言葉で

 気になることはないかい?」


「そういえばアルフの言葉で

 ひっかかるとこはないな・・・」


「そうなんだ・・・

 なんでだろうね・・・」


「なんでだろ・・・

 これからはボクも注意して聞いとくよ

 今まで、意識してなかったから・・・」


「その時は遠慮なく聞いておくれ」


「わかった

 アルフもねっ」


「あぁ

 わかった」


「・・・にしても・・・

 3日か・・・遠いね・・・」


「あぁ」


「まぁ~でもしょうがないか・・・

 どのみち

 見つけないと帰れないわけだし」


「そうだね・・・

 必ず見つけないとね」


「うん」


こういうほんの些細な会話で、

今自分は大変なことになってるというか、

巻き込まれてるというか・・・

表現し難い孤独感に襲われる。

しかし、

アルフの存在のお陰で、

なんとか自分を維持できている。

これは何かの運命の悪戯だろうか・・・

ほんの数日前に

ポムポムが見えるようになって

今はこうして一緒に旅をしてる・・・

ボクじゃないといけない

何かがあるんだろうか・・・

だとすれば、

パンさんやアルフと逢えたのも

必然なのか?

いくら考えても

今は答えなど出るはずもなく、

今日の自分会議はこれにて終了。


「・・・ムイ・・・カムイ・・・カムイ

 大丈夫かい?

 意識飛んでたよ

 どうかしたのかい?」


「あっごめん・・・

 自分会議してた・・・」


「ジブンカイギ?」


「そう、

 想像と妄想に浸って勝手に議論しあうの、

 自分同士で・・・」


「ふっ

 人間様は皆そんなことをするのかい?

 意識が飛ぶほど・・・」


「いや・・・

 居なくは無いだろうけど・・・

 ボクは重症な方かな・・・」


「病気なのかい?」


「ん~~~

 どうなんだろう・・・

 わかんないやっ」


「この魂魄界にも良いヨカド様がいるよ

 連れて行こうか?」


「ありがとっ

 気持ちだけ受け取っとくよっ

 ってかヨカドサマって何?」


「あぁ

 人間界で言うお医者様のことだよ」


「そっか・・・

 大丈夫・・・

 ありがとっ

 ヨカド様ねぇ・・・

 ははっ」


「どうかしたかい?」


「ん~んっ

 何でもないよっ」


ボケに対してのツッコミとかじゃなく

本気で心配してくれてるのがわかる。

この以心伝心にも似た感覚は

ノア族だからなのか、

それともアルフだからなのか・・・

心地のいい疑問に向き合いながら

きっと顔は綻んでいた。



 どれだけ歩いたろうか、

次第に風を感じるようになった。

体感もだが、何となくではあるが、

強弱に拘わらず存在感を感じる風を。

不思議なのは全て向かい風。

別に歩きにくいとか、

息苦しいとか、

不都合があるわけではないが、

どこか気になる風だ。

さらに5分程歩くと

道の先に街が見えてきた。

何とも、

朗らかな雰囲気を醸し出している。

近づくに連れ、

その温かい雰囲気に心が和む。

アニメに出てきそうな

穏やかで少し変わった街並み。

胸が高鳴るのを感じた。


「さぁ着いたよ

 ここが風の街/ヒュ~ラリアン

 今日はここに泊まるよ」


「風の街・・・どうりで・・・

 さっきから風が賑やかだもんな・・・」


「キミにも分かるのかい?」


「うんっ

 なんとなくだけどねっ」


「この街もなかなか面白いよっ

 宿に着いたら散策してみるかい?」


「うんっ

 するするっ」


街に入るなり、

懐かしい雰囲気の

商店街らしきものが現れた。

明らかに商売といった感じだが

『売る気満々』感は微塵も無い。

『必要な方はどうぞ』といった感じで

押し売り感が全く無い。

活気とまではいかないが、

そこそこの賑やかさがある。

道すがら

いろんなポムポムとすれ違った。

皆が皆、

知り合いのように

当たり前に挨拶を交わしていた。

ボクらにも声を掛けてくれたし、

返事はもちろん、

ボクらからも自然と声を掛けられた。

ボクがまだ幼い頃の人間界は、

こんな感じだったような気がする。

ま~ここまで皆が皆

と言うほどでは無かったと思うが・・・

他にも、

人間界と同じで

井戸端会議のような風景も

あそこそこで見られた。

立ち話や、

ベンチらしきものに腰掛けて話し込む姿に、

皆、この街の住人か

と思えるくらい溶け込んで見えた。

アルフに聞くと、

出歩いている者は

実際はほぼここの住人ではないらしい。

それだけに、

ノア族の温厚で友好的な民族性が

伝わってくる。

この世界には

戦争や紛争なんて無いんだろうな・・・

ふと、そんなことが頭をよぎった。

程なく歩くと、

立ち並ぶ民家群に入った。

ところどころに

宿らしきものが点在している。

レトロなものをはじめ、

洒落た建物が多いなか、

個性的なものもいくつかある。

アルフは迷うふうもなく

明らかに目的地を持った足取りで

ボクの左少し前を歩いている。

暫く歩くと、

アルフの足が止まった。


「ここだよ、カムイ」


そこには

レトロな洋風といった感じの

二階建の宿らしきものが佇んでいた。


「へぇ~

 洒落てるね・・・」


「そうだろ・・・」


「ここ、知ってるとこ?」


「あぁ

 この街に来たら

 必ずここに泊めてもらってるよ

 落ち着くんだ・・・ここ」


そう言うとボクに目配せをして

一緒にその宿へと入った。


「おじゃったもんせ」


どうみても人の良さそうな

優しい老紳士が奥から現れ、

想像通りの

柔らかく丁寧な物腰で

ボクらを出迎えてくれた。

透明感のある

いぶし銀の体に

洒落た茶系のチェック柄の衣類を身に纏い、

ちょこんと

小さいメガネを鼻の上に乗っけている。

しかも、驚いたことに、

腰が曲がってるとは言え、

身長がボクの腰くらいまでしかなかった。

そして、あからさまに聞き覚えのある、

と言うより、

聞き慣れたイントネーションの言葉遣い。

異界で故郷に出逢ったような

不思議な感覚に、

懐かしさと言うより、

少々郷愁を感じた。


「お久しぶりです

 マーニャ爺」


アルフは、

片ひざをついて声を掛けた。


「おぉ~~~

 アルフじゃったかっ

 元気そうじゃな」


「マーニャ爺もお元気そうで」


「そちらのお連れさんは初めてじゃな」


「えぇ、そうです」


「あっ・・・はじめまして

 カムイと言います

 お世話になります」


「カムイ殿・・・良い名じゃ

 私は

 フルボッコ・ラスカマーニャ・

 フィリック・ネックロック・

 ネオボルト十三世と申します

 ゆっくりしていってくだされ」


ながっ・・・

思わず口をついて出そうだった。

て言うか・・・

フルボッコ?

ネックロック?

しかも血縁とか無いはずなのに

十三世って・・・

つっこみどころ満載だ。


「はっはい

 ありがとうございます」


「ふっ」


一応、

失礼な反応かもしれないことを考えると

平静を装うのがいいと思い、

そう振舞った。

アルにはいつものように筒抜けたようだ。


「ここは居心地がボクに合ってるんだよ

 相性って言うのかな・・・」


「そうなんだ・・・

 でも、何となく分かるよ

 ボクも気に入ったよ」


「ふっ

 そうかい

 なら良かった」


「アルフ、

 いつもの部屋が空いとるが

 どうするかね?」


「是非、そこでっ」


「なら、おいき

 準備は済んでいるから」


「はいっ

 行こうカムイ」


そういうと

足取り軽く部屋へとボクを案内してくれた。

2階に上がると

廊下の左側が腰の高さくらいから、

廊下の天井の半分までが

サンルーフ状態だった。

しかも、

手作り感があり

機械的な冷たさは微塵もない。

あまりの透明感に触れてみたが

やはりちゃんと『何か』はあった。

ガラスじゃない材質・・・

でも透明感はその比じゃない。

そのため、

清々しい開放感と明るさが心地よかった。

材質が気になったが

聞いても分からないような気がした為、

今聞くのはやめた。

そう言えば、パンさんの屋敷の窓も

今思えば、同じだった気がする。

きっとここではこれが普通なんだろう。

いつか気が向いたら聞いてみよう。

部屋は、右側に5つと突き当たりにひとつ。

ボクらの部屋は

その一番奥の突き当たりの部屋だった。

アルフがドアを開けると、

ボクに先に入るように道を開けてくれた。

部屋の入り口に立つと

透き通るような森の香りが漂ってきた。


「パンさんとこの

 あの森と同じような匂いだ・・・

 何だか無性に落ち着くね・・・」


「あぁ

 他の部屋も良いけど、

 ここは特別お気に入りなんだ」


部屋は、

パンダミオさんの来客用の部屋より

一回り小さいくらい。

建物の外見や廊下からは

想像もつかないロッジといった感じの

洒落て落ち着いた部屋だ。

左右に大きな窓、

天井には約50cm四方の天窓もある。

が・・・

それ以外に家具らしきものが一切無い。

ベッドやテーブル、椅子・・・

何も無い・・・


「広いし、

 感じが良いけど何も無いんだね」


「あぁ

 この部屋だけはちょっと特別でね 

 今は好きなとこで寛ぐといいよ」


「特別?」


「あぁ

 後々わかるよ」


「わかった

 あっそうだ・・・アルっ

 マーニャ爺の名前なんだけど、

 えらい長かったね」


「そうかい?」


「うん

 人間界でも日本人意外ではいるんだけどね。

 それでも、

 あそこまではなかなか無いかな・・・

 ボクが知ってる限り・・・

 呼び名から想像できなかったから

 尚更、意表を突かれたというか・・・

 もしかして、

 アルの名前も長かったりして・・・」


「そうか、

 ちゃんと名前言ってなかったね」


そう言うと、改まって

ボクを正面に見据えて

右手を腰に、左手を胸にあてがい

軽く会釈した。

そして、もう一度目を合わせて口を開いた。


「ボクは

 フリーランス・ルルアーノ・

 アルフレット・ジーク・エルミオス・

 ソーマノート・LLL・マカダミアン」


思わずチョコとオーメンのコラボかっ

とツッコムところだった。


「やっ・・・

 やっぱ長いんだ・・・

 ははっ」


「変かい?」


「全然っ

 想像通り長かったからさ・・・

 まさかの想定内というか・・・

 ってか、

 名前って誰が付けてくれるの?」


「名前は、

 『魂の息吹』として生まれた時、

 それを包み込む

 風の帯に記されているんだ」


「そうなんだ・・・

 なんだか不思議・・・

 誰が付けてるんだろう・・・」


「ボクもそこまでは・・・

 人間様は、

 親とか近しい人が

 名前付けてくれるんだよね」


「うん

 大抵はね・・・」


「しかも名前には

 何かしらの意味もあるんだろ?」


「ほぼね・・・」


「何だか凄いね

 命に名前を授けるなんて・・・」


「そんな深く考えたことなかったなぁ

 授けるかぁ・・・

 そう考えると何だか凄いね」


「あぁ」


「でも、アル達の名前こそ

 凄く意味ありげな気がするけどな」


「そうかな・・・

 今まで何の疑問も持たなかったよ」


「そうなんだ・・・」


「あぁ」


ここでは、それが普通なのであれば

それ以上聞きようが無かった。

そういえば、

チェックインの手続きとかないのも

別に違和感を感じなかった。

なんとなくだが、

この世界の仕組みというか

風習というかが

飲み込めてきたからなのか、

それとも未だに

他人事のように感じてるからなのか・・・

今のとこ、痛感してるのは、

善意というか好意というか

親切の塊のような世界だということだ。

あと、この世界では

通貨というものがない。

通貨の代わりに労働か物々交換をする。

人間界で言えば

原始時代を想像してしまう。

決して古臭いと言いたいわけじゃない。

ボクにそれだけの知識しかないだけだ。

今回、

宿に泊めてもらう代わりにすることは、

掃除だった。

何をするにしても

労働の内容に統一感はない。

一応目安はあるが、

交渉の余地ありのようだ。

ボクらのこの掃除、

滞在中なら

いつしてもいいとのことらしいが、

性格的に先に終わらせない

と落ち着かないので、

先にすることにした。

アルフと共にしたが、

ボクは、学校は勿論、

自分家でもここまで一生懸命

掃除したことないというくらいに頑張った。

と自分では思う。

といっても時間にしたら

1時間ちょいといったとこだ。

それで宿泊できるんだから

何とも良心的な世界だ。

案の定と言うか、

想定内と言うか、

掃除のチェックなどは一切無く

『信用』と言う言葉すら

不必要なくらいの潔さがある。

掃除を済ませると、

マーニャ爺に見送られ

早速二人で街中へと繰り出した。

よくよく見ると、

風の街というだけあって

風車みたいなものが

全ての家についている。

しかも、その形は全て個性的だ。

ただ、

柔らかく優しく風を受け流している感じは

全て同じだ。


「ここの風は、

 この街以外の風と何か違うね・・・

 意思を感じるというか・・・」


「ここ魂魄界の風は、

 全てここで生まれるからね

 生まれたての風だから

 感じやすいのかもしれないね」


「えっ?

 魂魄界の風は全部ここで生まれるの?」


「あぁ

 それに、この街の住人は、

 風を作り出すことができるんだ」


「風を作る?」


「あぁ」


「どうやって?」


「街中を歩いてれば、

 そのうち見れるよ」


「へぇ~楽しみ」


「言ってる傍から・・・

 ほらっあれ見てごらん」


そう言ってアルが指を指した。


「太極拳・・・

 そういえば、

 途中何人か見かけたな・・・」


「タイキョクケン?」


「あ~人間界でいう武術のひとつだけど、

 基本は精神や体を精錬するための・・・

 ってか良くわかんないや・・・」


「ふっ」


「ごめん・・・」


「謝ることないよ」


「ははっ・・・」


自分の知識の幅に泣けてくる・・・


「ほらっ見てごらん

 もうすぐ風の種が生まれるよ」


「えっ?」


先ほどから

太極拳らしき動きをしていた

初老と言った感じのおじいさんの体に

薄っすらと気流が纏わり始めている。

大気から気流を作り出して

それを凝縮してる・・・

そんな感じだ。

暫く、二人で見入っていると、

いつのまにか

体に纏っていた気流が消えており、

おじいさんも動きを止めていた。

良く見ると、

手のひら上に小さな竜巻が

くるくると自転しながら浮いている。

お互いに喜んでいるように見えた。

おじいさんは、

そっと何かを話しかけながら、

その子竜巻を大事そうに両の手で包んで、

家の中へと連れて行った。


「あれが風の種だよ」


「あれが・・・

 何だか可愛いね・・・」


「あぁ

 あの後、

 家の中で大切に10日ほど育てて

 その後、

 外で飛び方を自分で覚えさせるんだよ

 そして旅立たせるんだ・・・」


「へぇ・・・

 育ててるってことは仕事?」


「仕事ではないよ

 ここの住人のほとんどは、

 風の種を作るのが好きで

 集まった人たちでね、

 この土地でしか

 風の種は作れないから、

 作りたい人たちが

 この街に集まっているだけなんだ

 勿論、作れなくても

 ここには自由に住めるんだけどね」


「風を作り出すことによって

 何か報酬とかあるの?」


「無いよ

 無償でしてるんだ」


無償でしてる云々より

報酬って知ってたんだ

とそっちに気をとられた。


「無償でか・・・

 普通に生活が出来れば

 それだけでいいってことなのかな?

 もっといい場所に住みたいとか

 もっと美味しいものを食べたいとか

 他の人より、

 よりよい生活をしたいっていう

 欲求というか欲望はないんだね・・・」


「無いこともないんだろうけど、

 そこを重視しないのが断然多いかな、

 ここ魂魄界は・・・」


「何だか、

 耳が痛いな・・・」


「耳?

 大丈夫かい?」


「あっいや、

 そういう意味じゃなくて・・・

 恥ずかしいというか

 何と言うか・・・」


「ふっ

 考え過ぎないほうがいいよカムイ

 人間界と魂魄界は違う・・・

 それだけのことだよ」


「わかるんだけどね・・・」


ほんの小さな沈黙が

生まれてしまったことで、

どうしようもないことを

あまり深く考えても・・・

と自分会議をするのはやめた。


「ごめんごめんっ

 そう言えば、

 風の作り方とか教わるとことかあるの?」


「いや、ここに移り住んで教えを請うんだ

 作れる人にね」


「へぇ~

 弟子入りするわけか・・・」


「あぁ

 そんな感じ

 良く見れば気付くだろうけど

 作れる人は皆、体型がふっくらしてるんだ。

 まずはあの体型になるまで2~3年、

 その間、知識を身に付けたり、

 実技を見ながら目と頭で学ぶんだ。

 そして、いよいよ

 風の種を作れるようになるんだけど

 実際作れるようになるには、

 そこから5年くらいかかるかな」


「結構かかるんだね・・・

 ってか体型とか関係あんの?」


「ボクも詳しくはないんだけど

 自分の生体エネルギー、

 簡単に言えば体の一部を消費して

 一つの風を生み出すんだ

 それに大体、体の五分の一を

 消費すると言われているんだ

 だから、風を送り出した後は

 1年かけて体型を元に戻してから

 また風を生み出すんだよ」


いやっ、

既に結構詳しいですよアルフくん。

そうつっこむのはやめた。


「なんだか壮絶だね・・・」


「あぁ

 だから

 成りたい人はそうは多くないかな

 今現在、ここヒューラリアンの

 住人の十分の一くらいだから

 150人くらいいるのかな・・・」


「150人くらいで

 魂魄界全ての風を作ってるの?

 風・・・足りなく成らない?」


ってか、

この街1500人もいるんだ。

そんなに広い街なのか・・・


「それは大丈夫

 風の寿命は長いから

 平均で300年位かな」


「さっさんびゃくっ?

 どんななんだ・・・」


「ふっ」


「寿命か・・・

 そういう表現すれば

 人間界の風にも

 寿命があることになるな・・・

 でも、

 さすがに300年はもたないかな」


「そうかもしれないね・・・

 ここの彼らは、

 ほぼ一箇所に留まらないからね

 時折、また出逢ったりするよ・・・

 一瞬しか逢えないけどね

 ふっ」


「逢えるって・・・

 逢ってわかんの?」


「わかるよ

 キミも分かると思うよ」


「そうなの?」


「勿論、見た目では分からないよ

 感覚でわかるんだ・・・」


「感覚・・・ね・・・」


「あぁ」


そう話しながら歩いていると

先ほどアルから聞いた

『飛び方を学んでいるふうな風の種』

に遭遇した。


「もしかして・・・

 あれ・・・」


「あぁそうだよ

 あれが練習だよ」


「あんなふうに練習して

 風になるんだ・・・」


「あぁ」


「何だか、一生懸命だね」


「そうだね

 ああやって自分自身が

 一人前に成ったと感じたら

 主人に挨拶して旅立つんだよ」


「他の場所では

 絶対に風は自然発生しないの?」


「あぁ

 しないよ」


立ち止まって、

その光景を見守りながら会話をしてる中、

ふと気付いた。


「この、今吹いてる風は、

 彼らの誰かなのかな?」


「あ~この街の風は違うよ

 ここの風は

 地形や条件が生み出す風なんだ」


「作られる風と何か違うの?」


「自然発生してるから全然違うよ

 寿命も短いし、それに

 ここで自然に生まれた風は

 この街を出られなんだ

 この街を一通り駆けると

 解けてしまうんだよ

 生命エネルギーを得てない分

 弱いんだ」


「そうなんだ・・・」


それを聞いて受ける風は

愛おしくも温かかった。

風をこんなに心地よく感じたことは

今までなかった・・・

ボクがここに存在してないかのように

風がボクをすり抜ける。

そのほんの一瞬に

体中に風が浸透して

揮発するかのような感覚。

今までにない感覚だった。


「この世界の風は

 何だか体に良さそう・・・

 凄く心地良いね・・・」


「ここの風は特別なんだよ

 この独特の地形と恵まれた環境が

 風にいろんな作用を起こすんだ」


「へぇ~~~確かに、

 この地形は凄いもんな

 ここ完全にV字の谷底だし、

 右岸は滝の水壁、

 左岸は透明度の高い氷壁が

 見る限り延々と続いてる

 その割には寒くないけど・・・

 景観で言っても、そうとうな絶景だしね・・・

 ってか、この滝の水

 何処から来て、どこ行くんだ?」


「ふっ

 ボクも好きな場所のひとつなんだ

 でも、寒くないことは無いんだよ

 この街に来るまでに慣れてるだけなんだ」


「慣れるか・・・

 言ってたね」


「あぁ

 だから魂魄界自体、

 ほぼ順応できるような環境になってるから

 通して快適だと感じるんだよ」


「便利だね・・・」


「水はね、

 パンダミオで生まれて、

 ファライエへと落ちる

 そこで揮発して

 アルベリオへと昇るんだ」


「3階層を・・・壮大だね・・・

 で、アルベリオからパンダミオへと

 降ってくるってわけか~」


「そうじゃないよ

 アルベリオへと昇った水は

 アルベリオで昇華するんだ

 完全にね・・・」


「良くわかんないけど

 循環してる訳じゃないんだね」


「あぁ

 それはそうと、

 この傍に、

 階層を移動できる場所があるんだ

 見に行くかい?」


「いくいくっ!

 是非見たいよっ」


明確な最終目的地に見当がつかない今は

とにかく、

色んなものを目にしたいと思った。

浅い森を10分程歩いただろうか

途中、何組かのポムポム達とすれ違ったが、

必ず声を掛けてくれる。

なんとも温かい種族だ。

ノア族というのは・・・


「あっカムイ

 みてごらんオレオレだよ」


アルフの指差す先に

3頭の動物らしきものがいた。


「オレオレ?

 なんか構えちゃう響きだね」


「気持ちが通じれば乗せてくれるよ」


「人間界で言うラクダみたいなもんかな・・・

 こぶが無いけど・・・?」


「人間界にも

 オレオレみたいのがいるのかい?」


「うん

 その名前をした鳥みたいな人間が」


「人間様?」


「見た目はね

 でも、中身はどうだか」


「何だか複雑そうだね」


「ははっ

 そうでもないよ

 逆に、分かり易いくらいだよ

 ってか、本命はちゃんといるよ

 見た目も似てるし、背中に乗れるんだ

 国によっては交通手段にもなるんだよ」


「そうなんだ

 オレオレは本来、

 二つの頭部を持っているんだよ

 ただ、

 ほとんど見ることはできないけどね」


「頭が二つ?

 どんなになってんの?

しかも、何で見れないの?」


「極度に緊張して

 集中力を上げる時にしか

 出さないらしいからだよ」


「どんな顔してるの?」


「実は、ボクも見たことないんだ

 資料もないし、

 見たことがある人に会った事も無いしね

 いつか見てみたいんだけど」


「パンさんは見たことないのかな?」


「パンダミオさんか・・・

 そう言えば、

 聞いてみたことないなぁ

 今度、聞いてみるよ

 流石に、あれだけ生きてれば

 見たことあるだろうからね」


「だねっ」


ここ魂魄界と人間界・・・

と自分会議のドアに手を掛けた瞬間


「ここだよ、カムイ」


前を歩いていたアルフが

ボクに道を開けた。


「なん・・・だ・・・これ・・・」


断崖絶壁・・・

その向こうに

荘厳な氷と水の壁が立ちはだかっていた。

しかも、驚いたことに、

滝の始まりと終わりが

見えないだけじゃなく

幅の終わりも見えない。

まさに・・・滝の壁だ。

遠め目に見ていて想像はしていたが

想像を遥かに超えてまさに圧巻だった。


「すっげぇ~~~~~~~」


いくつもの虹のカーテンが

オーロラのように幾重にも靡いている。


「凄いだろ・・・

 この大瀑布の水が

 ここの空気に混ざることで

 風の種が生まれやすいんだろうね、

 きっと」


「うん・・・

 それ凄くわかる・・・」


「あっ・・・あそこ見てて」


アルフに言われるがまま

10m程右奥の断崖を見ていた。

すると、巨大な何かが

地響きと共に滝をせり登ってきた。


「えっ?

 鯉・・・」


これまた想像を絶する大きさだ。

しかし、明らかに錦鯉だ。

鯨並みな大きさのそれは

ボクの視野からはみ出る位の

ジャンプをした。

って言うか、

ここの魚類は総じてでかい。

金魚も鯉も・・・

たまたまなんだろうか。

そもそも、

見たことのある知ってる容姿の時点で

何か意図を感じるが・・・


「うわっ・・・

 あれ・・・まずくない?

 あんなの降りて来たら

 地震じゃ済まないでしょ・・・」


「大丈夫、

 彼らはここには降りてはこないよ」


「・・・?」


「上の階層への水先案内人だから」


確かに、それきり降りてはこなかった。


「なっ・・・なんでもありだね・・・」


「ふっ・・・そうかい・・・」


「で・・・誰を案内するの?」


「上の階を目指すものだよ」


「上の・・・階・・・」


「あぁ

 他にも何箇所かあるんだよ

 ここは

 アルベリオに昇るとこのひとつなんだ」


「アルベリオ・・・

 さっき言ってたね・・・」


一体、

鯉がどうやって運んでいったんだろうか・・・


「球体の部屋を咥えたまま

 昇っていくんだよ」


「あっ・・・えっ?

 そう・・・なんだ・・・」


また、言ってたのか・・・


「それはそうと、

 カムイ、あと2歩前に出てごらん」


「えっ

 あと2歩?」


「あぁ・・・」


言われるがまま、2歩踏み出して

滝つぼなるものを確認してみようと

身を乗り出した瞬間


「うわっ」


いきなり、

無数の水分を帯びた小さい風しぶきが

ボクのつま先から

頭のてっぺんまで駆け上がった。

体の水分が

全て入れ替わったような感覚に襲われた

と同時に今まで味わったことの無い

快感が柔らかく心地よい速さで

体の中心をなぞった。

鳥肌で身震いするボクを見て

アルフが少し得意げに微笑んだ。


「ふっ・・・

 どうだい?・・・」


「なんだろ~

 体の透明感が増した感じがするよ・・・」


「ふっ・・・

 やみつきになりそうじゃないかい?」


「うん・・・

 なるね~

 癖になりそうだ」


「初体験した人は

 総じて同じ感覚を得るよ

 実際、ボクもそうだったしね」


そう言うと、

アルフも踏み出してボクに並んだ。

風の第二波が

ボクらを飲み込んで駆け抜けた。


「凄い・・・

 さっきまでの自分じゃないみたいだ

 遺伝子レベルで

 リセットされた感じ・・・」


「他に・・・

 何か特別な感覚はないかい?」


「特別?

 いや・・・

 !

アルフ・・・」


本当に優しい。

ちゃんとボクのノルマを

忘れないでいてくれている。

第三の波がボクらを捕らえる前に

数歩下がって目の前の絶景を眺めた。

その後、ボクらの後にも、

何組かのノア族が

儀式のように滝の洗礼を受けていた。

実際、

アルベリオってとこへの昇華口ではあるが、

それより、

この絶景そのものを見に来たり、

先ほどのように

洗礼を受けに来たりする人の方が多いと、

アルフが教えてくれた。


「アルフ・・・」


「なんだい?」


「アルって呼んじゃだめかな?」


「ふっ

 勿論好きなように呼んでいいよ」


「ありがとう。

 何だか

 親近感が増す感じがするからさ・・・」


「そう

 それは嬉しいな

 じゃあ、

 カムイは何て呼ばれたいんだい?」


「ボクは

 自分の本当の名前で呼ばれたいけど

 今は思い出せないから、

 カムイのまんまでも良いよ

 でも、呼びやすい呼び方があったら

 自由に変えてくれていい

 ただし、呼ばれたときに

 ボクだってわかる呼び名でねっ」


「ふっ

 ボクも本当の名前で呼んであげたいけど

 今まで通りカムイでいいかな」


「全然いいよ」


この会話が、ほんの少しだけ、

二人の距離を縮めた気がした。

呼び名の確認なんて

凄く新鮮でこんなに嬉しく感じるなんて

今まで思ってもみなかった。

帰り道、

滝に向かうノア族の人々と来たとき同様、

挨拶を交わしつつ宿へと辿り着いた。

それにしても、

暗くならない分、

ず~っと時差ぼけだ。

疲れないとはいえ、

若干の心地よい疲労感と空腹感は

しっかりとあった。

せっかく風のお陰で

リフレッシュできたのに

汗をかくなんて、

必要なこととはわかりつつも

鬱陶しく感じる・・・

・・・ん?

・・・んんっ?

ありっ?

かいてない・・・

見た目は・・・

しかし、

根っからのノア族ではない

ボクの本当の体が汗ばんでいるのがわかる。

汗をかいているのかいないのか・・・

紛らわしい。

どちらにせよ、

シャワーは浴びたくなった。


「シャワーってあるかな・・・?」


「シャワー?」


「あっ・・・

 シャワー・・・

 あっそうか・・・

 えっ・・・と・・・

 汗かいたから

 体をきれいにしたいんだけど・・・」


「あぁ

 そういうことか・・・」


「あ~だった・・・

 汗とかわかるんだ?」


「わかるよ

 体のメンテナンスをしたいんだね」


「メンテナンス・・・

 そんな大袈裟じゃないけどね・・・

 ははっ」


「ちょっと待って」


といきなりアルは

自分の胸に右手を沈ませた。


「うわっ

 何なにっ」


慌てるボクに優しく微笑んだアルは

光を発してる胸から何かを取り出した。


「手を・・・出して・・・」


「心臓とか乗っけないでよっ」


「ふっ」


アルに言われるまま、

手を差し出すと、

すっと

カプセルをボクの手のひらに乗せた。


「カプセル・・・」


「そのまま動かないで、カムイ」


「う・・・うん」


「出てきておくれ

 アクアリン」


アルがそう言うと

カプセルだと思っていたそれが

ボクの手の平からするりんっと滑り降りた。足元に視線を落とすと

淡い桜色した小さなナニカが

もにゅもにゅと動いていると思った次の瞬間、

淡い光と柔らかい風を纏って

ボクの体を撫でるように一回りした後、

透明感抜群の人型へと変貌した。


「うわっ

 ・・・

 うわぁ・・・」


不意の出来事にびっくりしたが、

ぎりぎり想定内の人型うさぎが

そこに佇んでいた。

耳まで入れると身長が2m程あろうか・・・

透き通った薄紅色を帯びた体。

その体の中を

何やら

桜の花びらのようなものが舞い散っている。

儚い美麗さを纏っているように見えた。

アル達と同じで

透明感は勿論、

体毛のふさふさ感もある。

切れ長の目に長い睫。

スマートな鼻、

そしてぷっくらと艶っぽい唇。

人間ともうさぎとも言えない、

両方のいいとこ取りな顔立ちだ。

ボクが想像出来るぎりぎりの

その人間とうさぎの

ハーフなバニーガールは

透明な羽衣のようなものを

柔らかく全身に纏っている。

体自体、誇張されてるうえに

それを意識してるかのような着衣が

全力で挑発的だ。

ドストライクな容姿だ。


「ふふっ

 ありがとう

 さぁ、カムイ・・・

 目を」


想像通りの声色と口調。

容姿だけじゃなく

雰囲気にも呑まれそうだ。

自分に都合のいい理想が

まんまそこにある感じだ。

で・・・『ありがとう?』

こちらも筒抜けなのか・・・

と冷静に考えた途端、

顔から火柱が立った。


「ふっ」


やはり、こちらにも筒抜けだ。

その瞬間、罪悪感にも似た感覚が

恥ずかしさを消し去った。

結果、自己嫌悪が残った。

そんな様子を見兼ねてか

優しくアルが続けた。


「さぁ~カムイ、目を・・・」


ボクは言われるがまま

目を見開いた。


「なるほど

 そう来たか

 ふっ」


「ふふっ

 面白いのね、アナタ」


「へへっ

 なんちってっ」


いろんな意味での

精一杯の照れ隠しのつもりだったが

残念なことに

何も隠せてないのも分かった。

単なる、自己満足の現実逃避に終わった。


「ふっ」


「ふふっ」


ボクが改めて目を瞑ると

まぶた越しに明るくなるのを感じた。

すると次の瞬間真っ暗になり

光り輝いた彼女が

ボクの中へと滑り込んできた。


「うわっ」


思わず声が出た。

まさか流れ込んでくるなんて・・・

という驚きと

あの大きいバニーガールが、

まんまボクの中に流れ込んできたからだ。

ボクは一瞬、

体が弾け飛ぶんじゃないかという

恐怖を感じたが

すぐに、

不思議とそれはないという安心感

に包まれた。

それと同時に、

彼女がボクの体の隅々まで

滑るように一巡りしたのを感じた。

体の汚れが落ちたというより

着ているものも含めて

それぞれ生まれたてに

リセットされたような感覚に、

今までに感じたことの無い心地よさと、

それに比例する恥ずかしさに襲われた。

その感情に戸惑っているボクに

優しい微笑みを残しすり抜けた瞬間


「もういいよ

 目を開けて、カムイ」


とアルに声を掛けられた。

そこには、

先ほどのウサギの妖精の姿はなかった。

当たり前のように

そこに居ると期待をしてた分、

倍がっかりした。


「あれ・・・」


「彼女はアクアリン

 ボクに同行してくれてる精霊アクア

 大切なパートナーだよ

 どうだい、すっきりしたかい?」


「あぁ・・・

 すっきりもびっくりもした・・・」


「ふっ

 それは良かった」


「でも・・・

 精霊って・・・」


「あぁ~

 精霊の森/ヒラリアってとこに

 アクアと呼ばれる精霊が住んでるんだ

 そこで、契りを交わせたら

 こうやって連れ添ってくれるんだよ」


「へぇ~凄い・・・」


「そうかい?」


「うんっ」


少しだけ得意げにアルが答えた。


「彼女らにも性格や感情があるから

 契りを交わした後でも

 そこにちゃんとした想いがないと

 出てきてもくれなくなるよ。

 ふっ」


「へぇ~そうなんだぁ~~~

 因みに、

 アルフは彼女を怒らせたことはあるの?」


「ふっ

 ないよ

 彼女が大人だからね

 近いうちに彼女を

 一度連れて帰るつもりだったんだけど、

 カムイがよければ行ってみるかい?」


「連れて・・・帰る?」


「あぁ・・・

 最低でも一年に一回、

 必ず連れて帰るんだ

 彼女自身のケアも必要だしね」


「そうなんだ・・・

 行きたいっ

 いつ行くの?」


「もうそろそろ1年経つから、

 もういつでもいいよ」


「なら、明日行こうよっ」


「明日?

 ふっ・・・

 わかった

 じゃ~そうしよう」


「うん

 行こう、行こうっ」


急にテンションが上がった。


「そういえば、

 お腹空かないかい?」


「あぁ~空いた空いた・・・

 何か食べようか」


「何か・・・か・・・

 確かにいくつか食べ物があるけど、

 基本ノア族は

 星のかけら/キラリアンを

体内に取り入れればそれで十分なんだ

 人間様にも

 同じ作用を起こすはずだよ・・・

 今、ボクはそれしか持って無くて・・・

 試してみるかい?

 もし、不安なら他の食べ物がないか

 マーニャ爺に聞いてくるけど」


「あっアル・・・

 アルが良ければ

 試してみたいな」


「もちろん良いよ

 試してみるかい」


「うんっ」


すると、

ウエストポーチのような小さなバッグから

小さな小瓶を取り出した。


「それがそうかい?」


「あぁ」


「うわぁ~~~~

 小瓶の中に・・・

 宇宙がある・・・」


「ふっ何せ星のかけらと

 言われてるくらいだからね・・・」


「それにしても・・・

 綺麗だね~~~」


「あぁ・・・」


そう言うとアルはその小瓶の蓋に指をかけ、心地よい音を響かせ小瓶の蓋を開けた。


「カムイ、手のひらを・・・」


言われるがままに

ボクが両手で小鉢を模ると、

そこにアルが小瓶を傾けた。

すると流れ星が

無数にボクの手のひらに流れ込んできて

螺旋を描きながら小さい銀河系が生まれた。


「うわぁ~~~

 銀河系だ・・・」


「カムイ、

 それを飲むんだよ」


「飲む?

 誰が?」


「キ・・・キミがだよ・・・」


「ど・・・どうやって?」


「そのままくぅ~っと」


「ビッグバンとか起こさないよね?」


「ビッグバン・・・

 初めての時は、

 ある意味そういう感覚があるかもね」


「び・・・びびらせないでよ」


「ふっ

 大丈夫だよ

 くぅ~っといってごらんっ」


「くぅ~~~っと・・・

 ね・・・」


これまた言われるがままに

恐る恐る口をつけ軽く吸い込んだ。

すると、

その銀河系の星屑が

ボクの口と言うより体に流れ込んできた。

飲んだというより

流れ込んできた感覚だった。

全てが流れ込んだ途端、

体の隅々にそれらが駆け巡った。

体のどことは言わず、

全身がゆっくりと目覚める感覚が迸った。

アルが言う様に、

静かに、緩やかに

ビッグバン的な感覚に見舞われた。


「お腹・・・と言うより、

 体の細胞ひとつひとつが満たされる感じ・・・

 人間界では味わえない感覚ばかりだよ・・・ ここは・・・」


「そうかい?

 なら良かった・・・

 ここは人間界と形態は同じなんだよ

 人間界を覗いてきた歴史の中で

 良いとこは真似てるし、

 過ちは反面教師にしてる

 人間界で言う、

 性別もあるし、年も取る

 食事もとるし、排泄もする

 病気もするし怪我もする

 人間様と違うのは、

 それが原因で死ぬことはほぼ無いんだ

 自己治癒能力とでも言えば

 理解してもらいやすいかな

 勿論、人間様達で言う

 そういうお医者様という存在はないんだ

 ただ、

 心のケアをしてくれる人たちは居る

 そういう意味では

 お医者様になるのかな・・・

 そして、死という概念も違う

 ボクらは人間界に転生しないのであれば

 ちょうど1万年目で選択を強いられる

 ここ魂魄界の一端を担うのか

 再び魂の息吹に戻るのかをね

 ただ、今までその選択で

 魂の息吹に戻ることを選択した者は

 いないらしいけど・・・

 真実はどうだか・・・

 まあ、そこまで転生せずにいる者は

 指折り数える程しかいないけどね

 大抵は100年以内に

 人間界に転生出来るとこまではくる

 そして、その内7割以上は

 転生することを選択するんだ

 あと、食事もするし排泄だってする

 カムイも知っての通り、

 これもほぼ概念が違うよね

 ただ、繁殖という概念だけはないんだ

 繁殖を繁殖として割り切れない

 人間様の歴史を見て来たからだとも

 言われている

 だから知ってはいるけど

 身体機能もないから

 そういう感情もないし、

 その感覚が理解できないんだよ

 もしかしたら、

 人間様とボクらノア族との一番の違いは

 ここなのかもしれないね

 あと、ボクらノア族には、

 身体的に成長はあっても

 進化という概念もない

 人間界のように

 単細胞生物から進化して・・・

 みたいなのは無いんだ

 ここ魂魄界は

誕生した起源が分からなくて

 始祖というものが

未だに分からないんだよ」


「人間界と魂魄界か・・・

 似てても、

 やっぱり同じではないんだね」


「あぁ

 因みに、ここ魂魄界には

 ちょうど108つの種族が

 共存してるんだ」


どの辺りがちょうどなんだ。 


「108つ・・・

 煩悩の数だね・・・」


「ふっ

 そう

 人間界と似てるけど

 違うとこと言えば

 きっちり108の種族だと

 断言できること

 人間界みたいに、

 未知の生物とかは居ないんだ

 そして、ここ魂魄界には、

 進化というものがない分

 途中で枝分かれもしてこなかった

 進化も退化も無い

 つまり最初から今現在まで

 完全に108の別固体なんだよ」


「なんか意味ありげだね・・・

 人間界は相当分かれてるよ

 枝分かれしまくり。

 進化と言えば聞こえは良いけど

 出来たか出来なかったかの

 なんとも微妙な物悲しさすら感じるよ」


「あぁ

 そうだね」


「それも、

 人間という一種族すらまとまれない

 原因の一つなんだろうけどね

 ただ、それが逆に

 評価されてたりもするけど・・・」


「それぞれが、

 環境に順応するために

 進化しながら

 文明が生まれ

 文化が発展して来てのことだからね

 悪いことではないけど・・・」


『けど』という言葉にひっかかったが、

言いたい事がなんとなく分かる気がした為

聞くのをやめた。


「まぁね・・・

 でも、色々と複雑な心境にもなるよ

 で・・・

 108つの種族にも

 絶対数が多い種族もいるんでしょ?」


「あぁ

 中でも、多数を占めるのが3つ

 ひとつはボクらノア族

 キミが見て来た通りの種族

 今のキミ・・・

 ふっ

 フィールドはここ、パンダミオと

 アルベリオ、そしてファライエの3階層

 前にも言ったけど界期が上がると

 行けるフィールドが広がるんだ

 ちなみに、ボクはまだパンダミオまで

 次の更新でアルベリオに行くことが

 出来るようになるんだ」


「うん

 言ってたね」


「そして次に、カムイも大好きな

 女性だけの種族、アクア」


「おいおい・・・

 まぁ否定はしないけど・・・」


「ふっ

 冗談だよ

 彼女らのことは

 族を付けないで呼んでるんだ

 何でかはわからないけど、

 ボクらにはない

 特殊な能力を持っているから

 同属という括りにしない為とも

 言われているよ

 見た目は、カムイも見た通り

人間様好み・・・らしい」


「徹底的だね・・・」


「ふっ

 それぞれ個性はあるけど

 ベースはアクアリンのような感じだよ

 精霊の森/ヒラリアが生まれ故郷

 明日、ボクらが行くとこ

 フィールドはパートナー次第

 ボクらと違って自身に制限はないんだ」


「明日がすっごく楽しみだよっ」


「ふっ

 そして3つ目が飛翼族

 彼らはアクアとは逆で

 男性しかいないんだよ

 見た目は限りなく人間様に近い

 透明感のある色白の肌をしているんだ

 あと、人間様と比べると

 手足がちょっと長いかな

 皆が黄金色の美しい髪と瞳をしていて

 神々しさがあるよ

 利き腕と逆の腕が翼になってて

 マントのように体を覆っているんだ

 大空が彼らのフィールドで

 おおまかな棲息域はあるけど

 実際、決められてはいないから、

 割と自由なんだ

 身長はボクらの倍近くあるけど、

 威圧感は全く無いよ

 性格もボクらより温厚だしね」


「キミらより温厚?

 全く想像できないな・・・」


「そうかい?」


「うん

 まだ見た事ないよねボク?」


「あぁ

 ボクの知る限り

 まだ見てないはずだよ」


「見たいなぁ~

 かっこよさそう」


「あぁ

 確かにかっこいいよ彼らは」


「その3つ以外に

 ボクがここで今まで見てきた

 生命体が含まれているんだね」


「あぁ

 因みに、今の3つ以外の種族は

 階層を行き来できないんだよ

 生まれ出た階層が生涯の場所になる

 一部の例外はあるけどね」


「そうなんだ・・・

 その階層ってさ

 3つに分かれてるのには

 何か意味があんの?」


「これは創造主の深層心理なんだよ」


「創造主の深層心理・・・」


「そう・・・」


「深いのか単純なのかわかんないね・・・」


「ふっ

 確かにね

 でも、ボクは好きだな・・・

 ここ」


「ボクもだ」


とアルの方を向くと

アルもボクを見ていた。


「ここ魂魄界の環境と生態系としては、

 環境で言えば、人間界とほぼ同じ

 人間界で言う、陸海空がある

 ごく必然としてね

 ただ、様相とスケールが違うだけで

 根本は同じ

 広さは人間界の比じゃないらしい

 ボクも詳しくはないから

 実際どのくらいかは説明できないけど

 ただ、中でも、

 ここパンダミオが一番広くて

 魂魄界全体の50%程を

 占めてると言われているんだ

 温暖な気候と環境で

 順応が楽で住みやすい

 ノア族の根本はここにある

 次がアルベリオ

 ここは、

ノア族つまり魂魄界の中核を担う階層

 簡単に言えば学ぶところだね

 ここで、

 人間界の全てを知ることができる

 だから、

アルベリオを行き来できるノア族なら

 カムイとの会話にも

 違和感が無いと思うよ

 最後にファライエ    

 ここの環境は過酷

 ストイックに自身を高めたい者が

好んで生活しているよ

 人間界で言う

 『自分を磨く』人たちがね」


「階級社会みたいだね

 そういう流れでようやく

 人間界に転生できるんだね」


「魂魄界から

 人間界に行くのは簡単なんだ

 行く場所と行き方が

 わかってるからね

 でも、人間界からその上の界、

 つまりエリシオンに行くのは

 相当難しいんだよ

 なぜなら、

 どこにあるのかも、

 どうやって行くのかさえも

 わからないうえに、

 目的として設定されてないからね

 人間界では

 記憶からも消されちゃうしね

 エリシオンって名前さえも・・・

 そこが

 本当に難しい所以なんだけどね

 ここでは、わかってるのに・・・

 それに、そこが本当に

 素晴らしい場所なのか、

 果たして本当にあるのかさえも

 謎なんだよ

 だから、大抵・・・

 というよりほとんどが

 魂魄界と人間界の

 無限ループに陥るのさ

 ボクらを含め

 当の本人も気付いてないままにね

 例外無くボクらもそうなる、たぶん

 でも、可能性が無い訳じゃない

 きっかけがあればいいのさ

 ボクらの中にある

 『それ』を呼び覚ますきっかけがね

 まぁ~そのきっかけというものすら

 もしかしたら仕組まれたものなのかも

 しれないけどね」


「ボクはまだ1mmも知らないんだね・・・ ここのこと」


「イチミリ?」


「あぁ~ゼロに近いって感じ」


「あぁ

 そうだね

 でも、今のキミには

 それが当たり前だし

 その方が楽しくないかい?」


「確かにそうなんだけど、

 わかるんだけど・・・

 そう思い込めない自分がいるんだよね~

 良く言えば慎重・・・

 でも、本当はただの臆病なだけ」


「そっか・・・

 確かに、

 すぐに変われたら苦労しないね・・・」


「何か自分を変える程の

 きっかけでもあれば

 変われるんだろうけど

 そんな都合のいいモノは

 転がってないしね

 ってかこう考えてる時点で

 完全に他力本願だね

 こんなんじゃ

 変われるなんて

 夢のまた夢だ・・・」


「そう悲観することないよ

 成るようになるさ」


「そう・・・だねっ」


「あと、違うのは生態系かな

 ここは人間界のように

ピラミッド状にはなってなくて

 横一列なんだよ

 弱肉強食といったものはなく

共存共栄が根幹にあるんだ

 繁殖という概念がないからか、

 欲なんてものがほとんどないし

 競争心もかなり低い

暮らして行ける必要最低限の

思考と感覚が安定に繋がると

考えてるかもしれないね」


「安心・安全って

 人間界で良く唱われる

 フレーズがあるんだけど

 そう声にしないといけないこと自体、

 まだ、そうじゃないんだと

 いつも思い知らされるよ

 ここにはそれが普通に存在してて、

 しかも

 疑う余地すらない位、

 平和だもんね」


「あぁ・・・

 危険とか言葉もあるけど

 使う頻度は少ないね」


「一生懸命説明してくれたのにごめん・・・

 難しくて理解というか

覚えられそうに無いや・・・」


「ふっ

 いいさ

 気になったら

 また何度でも聞いておくれ」


「そうさせてもらうよ」


「ボクもいろいろ

 聞かせてもらいたいしね」


「うん

 遠慮はなしなっ」


「あぁ」


アルフの話で、改めて

ここは人間界じゃないんだと痛感した。

共通点やら相違点やら・・・

間違い探しに似た感覚で楽しくもあるが

不安もある。

この栄養分の摂取の仕方にしても・・・

食欲なんてものがしっかり備わってる

人間のボクには、

若干の物足りなさも残るが

体は十分に満足していた。

人間で言う生理的現象の排泄も、

ノア族にとってはメンテナンスの一種だ。

汚いと判断するのは

嗅覚と視覚が

主な判断手段になっているわけで

結果的に、汚い=不要とは

必ずしもならない。

しかし、大抵はこれが成り立つ人間界。

ここには、

そういう一種の偏見が無いから

こんなにも世界も住人も

美しく見えるんだろうか・・・

それとも、

今のとこ、汚い事や、モノを

目にしてないだけなんだろうか。

いずれにしても

美化され過ぎてる気もするが

それが日常であり、

常識なら受入れるしかない。

それにしても不思議だ。

あれだけ人間界の歴史を見て来て、

あらゆるものに

感化されてないところが・・・

ま~

見て伝える者に

判断力というか

見極めるチカラが

あればこそなのだろう。

統べる者に恵まれたということだろうか。

出来すぎた理想郷的過ぎる

世界な気もするが

目の前にある以上

事実として受け止めるしかない。

こういうことをはじめ、

いろんな感覚にも

慣れていくんだろう・・・

楽しみと哀愁にも似た感情が

浅く広がった。

それにしても、

なんか、

何かある度に

似たような会話が繰り返される。

まぁ~しょうがないか・・・

これも『へぇ~』の一環なんだろうと

自分に言い聞かせた。

あっ・・・

これも口癖になりつつあるな・・・

と苦笑いがこみ上げた。


「何一人でにんまりしてるんだい?

 カムイ・・・」


「あっ・・・

 なんかさ・・・

 ここに馴染みつつある

 自分と・・・ね・・・」


「自分会議かい?」


「うんっそう・・・」


「ふっ・・・

 そうか・・・

 早いけど、もう寝て、

 明日早めに出発しようか、カムイ」


陽が落ちないせいで、

いろんな『早い』が紛らわしい・・・


「うん

 そうしよう」


「明日は、

 ヒラリアに泊まって

 翌日にはジャッジメンタリアへ向けて

 出発だよ

 幸いにもそんなに離れてないしね」


「裁決の街/ジャッジメンタリアに、

 精霊の森/ヒラリア・・・

 何だかワクワクするよ

 ってかヒラリアは

 アクアリンの故郷だろ

 せっかくだからゆっくりするといいよ

 ボクの方も、そんなに急いだところで

 どうこうって感じじゃなさそうだしね」


「ありがとう

 ヒラリアはカムイの言う

 綺麗な種族の集落だから

 きっとカムイも気に入るよ

 ジャッジメンタリアも、

 この魂魄界でも

 一二を争う凄く重要な街だから

 色々楽しめると思うよ」


「うん

 色々楽しみ・・・」


「じゃ~カムイ、寝ようか」


「うんっ

 ここで雑魚寝でいいんだよね」


「ザコネ?」


「あぁ~

 このまま床に寝ていいんだよねってこと」


「あぁ

 そうだよ」


「寒くもないし、床も痛くないし、

 何気に快適かも・・・」


「そうかい?」


「うん」


「おやすみ、

 カムイ・・・」


「おやすみアル・・・

 また明日ね・・・」


「あぁ

 また明日・・・」


さっきのアルの話や

明日のことをいろいろ考えると

自分会議が始まるのは必至。

今日は・・・と言うか、今はもう

明日からの楽しみを胸に寝ることにしよう。

それぞれの窓にカーテンを引いて

日中の耳障りの無い生活音の中、

アルの寝息に誘われるように

ボクも眠り堕ちていった。

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