必殺のフォークボール
榊がマウンドに上がった。
沸き上がるバーチーヤンキースタジアム。
この非常事態を予測していたかのように、ブルペンで肩を作っていた。
そしてキャッチャーも一条から室田に変わる。両チームとも総力戦だ。
榊の登場で、エンペラーズにやや有利な展開になるのか。
投球練習を終え、3番陳が打席に入る。
榊の第一球はドロンとしたスローカーブ。
「ストライク!」
まずはワンストライク。
続く第二球は内角を食い込むスライダー。
「ボール!」
僅かに外れたが、今日の榊の球はキレが抜群だ。
そして三球目、インハイのストレート。
「ストライク!」
スピードガンは152㎞をマークした。
しかも手元でホップするように榊のストレートは唸りを上げていた。打席に立っている陳にはそれ以上に速く感じていた。
体感速度は160㎞を越えている。
四球目、低めに沈むサークルチェンジ。
陳は途中でバットを止めた。
一塁塁審がセーフとジャッジ。
「ボール!」
ツーボール、ツーストライクと平行カウントとなる。
次は一球外すか、それとも勝負に行くか。
五球目を投げた。
「 好了,它來了(よし、来たっ)」
陳は榊の決め球、インコース膝元のストレート、クロスファイアボールを読んでいた。
陳の自慢のリストでバットに捕らえたが、球の威力が勝り、バットが折れた。
打球はフラフラとショート大和、レフト松浦のあいだに落ちるポテンヒット。
陳がラッキーなヒットで出塁した。
ストレートに威力があるあまり、ショートとレフトの間に打球がポトリと落ちた。
普通ならば、レフトフライで打ち取っていた。
しかし陳も今の打球の衝撃で自慢のリストを痛めてしまう。
「 手腕子疼痛了…(手首をやっちまった…)」
手首を抑えながら陳は呟く。
続くバッターは4番、八幡。
榊にヒットを打たれた同様はない。
むしろピンチを楽しむのが榊のハートの強さだ。
(ここで流れを変えなアカン)
4番打者として意地を見せなければ、そう八幡は思い打席に入った。
「テメーと、ボス猿だけは絶対に三振にしてやんねーと気が済まねえ!」
榊がマウンド上でふてぶてしく立ちはだかる。
初球アウトコースギリギリにストレートが決まる。
「ストライク!」
八幡は動かない、いや動けなかった。
榊のストレートはそれほどキレを増していた。
二球目はインハイを突くストレート。
八幡がのけ反る。
「ボール!」
そして三球目はスローカーブを投げた。
虚を突かれ八幡はバットが出なかった。
「ストライク!」
ストレートの後のスローカーブはミットに収まるまでかなり遅く感じる。
カウントはワンボール、ツーストライク。
(次で決めてくるはずやっ)
八幡は次の球を狙に定めた。
榊が四球目を投げた。
真ん中やや低め
「よし、もらったーっ!」
八幡がスイングした。
「…っ?!」
しかしボールは手元でストンと落ちた。
「ストライクアウトっ!」
榊はフォークボールを投げたのだ。
(榊がフォークボールやと?くそっ!やられた!)
悔しがりバットを叩きつけた八幡、それもそのはず榊はフォークボールを投げた事など1度もなかったからだ。
今シーズン榊はフォークボールを習得するためにブルペンではフォークボールの練習をしていた。
ようやくマスター出来るようになり、八幡相手に初めて投げたのだ。
ぶっつけ本番とはいえ、ここぞという時にフォークボールを投げる榊のマウンド度胸もかなりのものだ。
悪童と言われながらも、練習は決して怠らない。
野球に対する姿勢はエンペラーズナインも一目おいている。
裏をかかれた八幡はまんまと騙され空振りをした。
落胆の色を隠せない八幡はベンチに戻り際、守山の顔を見る。
「あんな場面でフォークを投げてくるなんて…」
守山は八幡の肩をポンと叩いた。
「まだ終わりじゃねぇ!上を向け、弟!」
守山が八幡を弟と認めた。
そして打席に守山が入る。
「来たなボス猿!テメーも三振にしてやる」
不敵に笑みを浮かべた榊が更にギアを上げた。
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