真骨頂

小倉は初回を三者三振というパーフェクトな立ち上がりを見せた。


その裏の攻撃は、小倉の三連続奪三振に刺激されたのか、大和がセーフティバンドで出塁。


2番櫻井の時の二球目に盗塁を成功させ、四球目を櫻井がライト前に弾き返し、早くも先制点を奪う。

ヤマオカは大和にノーサインで走らせている。

日本一のトップバッターだから、自分のタイミングで走れ、という事らしい。


3番トーマスJr.の初球に櫻井は盗塁を試み成功。


トーマスJr.は三球目をセンター前に目の覚めるような痛烈なヒットを打ち、櫻井が生還して2点目。


4番高梨の打席の二球目に、今度はトーマスJr.が盗塁。


池田はかなり動揺し、内野陣が集まる。もしこれはエンペラーズだったら、真っ先にキャプテンの高梨が駆け寄り、激を飛ばしている。

ここが、高梨と浅野の違いだ。

浅野は球界を代表するスラッガーだが、個人プレイに走りすぎている。

チームの勝利というよりは、個人の成績を重視する。

キャプテンシーならば、高梨の方が遥かに上だ。


その高梨はファールで粘り、五球目高めに浮いたストレートを捕らえ、打球は右中間を真っ二つに破るツーベースヒット。


トーマスJr.がホームを踏んで3点目。


三連続盗塁&タイムリーは史上初の記録だ。


5番垣原は初球のスライダーを捕らえライトスタンドに運ぶ16号ツーラン。


池田は一死も取れずにマウンドを降りた。


二番手ピッチャーの高岡が後続を打ち取り、一回の裏が終了。


小倉は4番浅野と対峙する。


初球、縦に割れるドロップと言われるカーブを投げる。


「ストライク!」


まずはワンストライク。


キャッチャーの木下がマスク越しに囁く。


「いや~、ウチのハゲ今日はいつになく球のキレがいいなぁ。決め球を何にするか迷うなぁ」


「ぅるせーっ!!気が散る、黙ってろ!」


浅野にプレッシャーをかけるように木下の囁き戦法が始まる。



二球目はドロップより球速の遅いスローカーブを投げた。


低めに外れワンボール。


「見た、今のスローカーブ?ハエが止まるスローボールだったぜ。あんな絶好球見逃して勿体ねぇな~」


「んじゃ次も同じ球投げさせろ!」


「ん~、どうすっかなぁ。【頼む投げてくれ】って頭下げたら投げさせてやるよww」


「テメー、ケンカ売ってんのか、おいっ!」


バッターボックスでは、浅野に揺さぶりをかけてくる木下の巧みな囁きが続いた。


「んじゃ、次これ投げるから打てよ」


木下がサインを出す。


「打ってやるよ、あんなヘロヘロ球!」


三球目を投げた。


「っ!!」


「ボール!」


ストライクゾーンから低めに落ちるフォークボールを辛うじて見逃した。


打っても空振り、もしくは内野ゴロになっていた。


「やっぱり日本一のバッターは振らないなぁ、スゴイスゴイ」


「…」


浅野は相手にすれば向こうの思うつぼだと思い、シカトした。


そして四球目を投げた。


インハイに決まるストレート。


「ストライク!」


小倉の球速は140に満たない。


しかしカーブとのコンビネーションで緩急を使う為、体感速度はそれ以上に速い。


150㎞のストレートは投げられないが、150㎞に見えるような球は投げられるという訳だ。


カウントはツーナッシング。


そして五球目を投げた。


アウトローからボールになるフォークボールだ。


思わず浅野はバットを振った。


(しまった!)


「ストライクアウト!」


空振りの三振に斬って取った。


これで四連続三振となった。


浅野を三振に獲り、小倉は尻上がりに良くなってくる。


5番6番を凡退に打ち取り二回の表が終了した。







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