球団をダメにする老害
この男はコミッショナーさえ、意のままに動かしてしまう。
ただのオーナーだと思っていると大変な目にあう。
「そう言えばキミは確か日系人だったな。国籍は米国だったっけ?」
穴堀はヤマオカも日本の球界から追い出すつもりなのか…
「…」
ヤマオカは何も言わず穴堀の顔を見た。
(ったく、醜いツラだ。欲の皮で覆われた薄汚ぇ顔だ)
ヤマオカはこの男がいる限り日本の球界がダメになってしまうとさえ思っている。
結局この男にとって球団とは宣伝媒体の一つに過ぎないのだ。
都合のいいように周りを動かし、常にイニシアティブを握らないと済まないタイプだ。
何故今さら2リーグ制にする必要があるのだろうか。
何故メジャーと真の世界一を争う意味がないのか。
挙げ句には球界から外国人選手を追い出すと、どこまで自分勝手な事をすれば気が済むのだろうか。
以前はFA宣言したある選手を獲得出来ず、メジャーリーグに挑戦した際
「たかが1選手のクセにウチの誘いを断るとは身の程知らずめ」と暴言を吐き、バッシングを浴びた事もある。
選手は皆、ゴールデンズに来たがっている、ウチこそが1番強く1番人気のある球団だと言ってはばからない。
確かに球界の盟主としてゴールデンズは君臨している。
有能な選手を高額な年棒で引き抜く事は日常茶飯事だ。
そして少しでも成績が悪くなると容赦なく放出する。
監督や球団関係者までもが彼の操り人形だ。
「私が米国籍だと近いうちに日本の球界から追い出されてしまうわけですか?」
ヤマオカは穴堀に問う。
「何を言うかね。キミはいなくなる必要はないじゃないか。日本の野球で育ち、日本の球団でも監督をしていたじゃないか、渡米するまでは」
(っ!気づいていたのか…)
「何故日本の球界を捨ててメジャーのヘッドコーチになったのかね、宇棚君」
やっぱり穴堀は気づいていた。
ナダウ・ヤマオカの正体は宇棚 珍太朗だという事を。
「何故、査問委員会の時に私の正体を暴かなかったのですか?」
「正体を暴く事なんかいつでも出来る」
「私を泳がすつもりだったのですか?」
「人聞きの悪い事を言うんじゃないよ。私は優秀な監督は日本の球界に無くてはならない人物だと思っているからね」
(まぁ、よく考えたらオレの正体なんてそのうちバレるだろうと思ってたからな)
ヤマオカはいずれ正体を暴かれるだろうとは思っていた。
仮に正体を暴かれても、否定するつもりはなかった。
そう言いながら、息子の元春に暴かれた時はパスポートを偽造してまで否定していたクセに…
「ヤマオカ君、いや、宇棚君。このトレードはもう成立したんだ。覆す事は出来ないんだよ」
(随分勝手な都合だな、このクソジジイが。まぁ仕方ない)
「わかりました。トレードの話、お引き受けします」
ヤマオカはどうせ反対しても強引にトレードを行うに違いないと思った。
「ですが穴堀オーナー。一つだけ条件を出してよろしいでしょうか?」
ヤマオカが条件付きでトレードを了承するみたいだ。
「条件とは何かね?」
穴堀がヤマオカを見据えながら言った。
「浅野君ともう1人、ファームにいる若手を入れてもらえないでしょうか?野手か投手かは、明日にでも返答致します」
善治は浅野プラス若手選手とのトレードに持ち込むらしい。
「ファームの選手?こりゃ何を言い出すかと思いきや、下の選手が欲しいのか?それなら1人と言わず何人でも連れて行くがいい、ハッハッハッハッハ!」
穴堀はファームにいる選手は無能な役立たずだと思っているらしい。
ゴールデンズのファームの中には才能があっても、FA等で補強してくる選手のせいで、二軍に甘んじている選手が数多くいる。
せっかくの才能を活かせないで野球人生を終える選手も少なくない。
ヤマオカはゴールデンズのファームには磨けば光るダイヤの原石がいると見ている。
「じゃあトレード成立ですね。今から必要な選手をピックアップしたいので、私はこの辺で失礼致します。今日はお誘い頂き誠にありがとうございました」
深々と頭を下げヤマオカは料亭を出た。
(あいつらがいなくなるのはかなり痛いな…)
ヤマオカはトレードする三人にどう切り出して話をすればよいか考えていた。
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