穴堀オーナーの野望

ここは都内某所にある高級料亭。


政界の著名人達がお忍びで利用する事もある超一流の料亭だ。


試合後、ヤマオカは阿佐オーナーと共にこの料亭に呼ばれた。


「お連れ様がお見えになりました」


女将が襖を開けた。


そこには東京ゴールデンズの穴堀オーナーが先客として阿佐達を待っていた。


「忙しいのに呼び立ててすまんね」


穴堀はこの料亭に阿佐とヤマオカをよんだ。


「オーナー、ヤマオカをつれて参りましたぬ」


「ご無沙汰しております、ヤマオカです」


阿佐とヤマオカは深々と頭を下げた。


「ま、挨拶はこのぐらいにしてとりあえずどうだ一杯」


と穴堀は徳利を持ち二人に酒を注いだ。


二人はお猪口を入った酒を飲み干す。


「ヤマオカくん、今日呼んだのはほかでもない。ウチの浅野とキミのところの高峰君と松浦君、そして土方君の三人をトレードするという話だ。

阿佐オーナーには了解を得ている」


「トレード?この時期にトレードですか?しかも明日の先発は高峰ですよ。オーナー何故前もって言ってくれなかったのですか?」

阿佐はヤマオカにここに来るまで話の内容を言わなかった。


言えば来ないと思ったからだ。

「ヤマオカくん、すまない!しかしこの話受けるしかないんだぬ!申し訳ないぬ!」


阿佐はヤマオカに頭を下げた。


「浅野を獲ってもウチには高梨というサードがいる。ポジションが同じ選手を獲っても何の意味もない」


高梨と浅野、どちらかが違うポジションにコンバートする事になる。


エンペラーズには、大和、櫻井から始まり、トーマス 高梨 垣原という重量打線が名を連ねる。


ここに浅野が入れば更に最強の打線になるが、大砲だけの大味な打線になる。


誰が4番を打つ事になるのか。


「オーナー、この話は無かったことにします。浅野は欲しいが、同時に主力三人を失うのはウチにとって不利なトレードです」


ヤマオカが立ち上がろうとした。


「ヤマオカくん、もう決まった事なんだよ。いくらキミが反対と言っても、残念ながら決定しているんだ」


穴堀がこのトレードを止めるつもりはないと言う。


「穴堀オーナー。球界一のバッターを離してまで行うトレードではないでしょう。何を考えておられるんですか?」


ヤマオカはこのトレードには裏があると思った。


「いや、何もない。阿佐オーナーにも言ったんだが、浅野はウチのチームにはそぐわないんだ。ただそれだけだよ」


おかしい。王者ゴールデンズの主砲と呼ばれた選手がチームにそぐわないというだけで放出なんてあり得ない。


穴堀はヤマオカに今後の日本球界の展望や構想等を語った。


「つまりメジャーとは一切関係を切るというわけですか」


「そういう事だ。そして日本人だけの純粋な野球を作り上げるのだよ。この数年で一切の外国人選手を排除する」


「それで2リーグ制なんて出来るとお思いでしょうか?弱いチームは助っ人に頼るのはいけない事なのでしょうか?」


「その通りだ。チームが弱いからといって外人などに頼るなんて言語道断!選手を育て上げる事の出来ないチームなど必要ない!」


「穴堀オーナー。12球団になれば必ずといっていい程、各球団に格差がでてくる。育成、育成だと仰いますが、ゴールデンズは育成しているのでしょうか?金で他球団の選手を獲得してファームの選手を育てているのでしょうか?資金源のある球団が優位になる今の球界にこれ以上更に球団を増やしてどうするおつもりですか?」


「ウチのチームは育成をしてないというのか?たかが監督の分際で私に意見などするな!」


穴堀は声を荒げた。


この男、日本の野球を潰すつもりなのか。ヤマオカはそう感じた。


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