抜群の投球術

ナックルボールは投球フォームが他の変化球と違いキャッチボールのように投げるので、ナックルだとすぐにわかってしまう。


しかし、予測不可能な変化をするので、それをキャッチ出来る捕手がいなければ投げる事は出来ない。


ガンズの捕手は希崎のナックルを何度も受けようやく捕球出来るようになった。


ナックルの球速は100㎞前後のスローボールで観客からすれば、何であんなスローボールを打てないのか?と思う。


しかし実際に打席に立つとユラユラと揺れながら軌道が予測できずに打ち取られてしまう。


その時の風やボールの湿気により変化は変わる。


希崎がセットポジションに入る。


第一球を投げた。


ナックルだ。


高梨は見送る。

「ボール!」


低めにユラユラと沈むボール球だった。


(厄介な球だ…)


高梨は今シーズン希崎と初の対決だ。


昨年はわずか三打席だったがいずれも凡退に終わっている。


待球作戦で四球を選ぶという手もあるが、ストレートやカーブも投げてくる。


投げ方でナックルかストレートか見分けがつくのだが、追い込まれたらナックルが来るという心理状態を上手く利用し、打たれる事は少ない。


しかも球が遅いと言っても希崎はクイックが上手く、牽制球も一流だ。


中々盗塁を許さない。


希崎がプロに入り、クイックモーションと牽制球を徹底的に練習したからだ。


来る日も来る日もクイックモーションと牽制球の練習。


その練習が実を結び、球界を代表するクイックと牽制球の名手とまで呼ばれた。


第二球を投げた。


またもやナックル。


タイミングを計りスイングするがボールは嘲笑うかのようにバットをすり抜ける。


「ストライク!」


真中にも手こずったが、希崎はそれ以上に手こずるかもしれない。


三球目もナックルが外角ギリギリに決まりツーストライク。


(全く解らない…)


高梨は戸惑う。


ボールをギリギリまで引き付けてバットを振り抜く為には球の軌道が読めないと難しい。


四球目を投げた。


(…っ!)


ストレートだ。高梨は手が出なかった。


「ストラックアウト!」


見逃しの三振に終わった。


ナックルと同じ投げ方からストレートを投げてきた。


球速はわずか117㎞というストレートだったが、ナックルと同じ投げ方で見分けがつかない。


希崎の新しい投球スタイルだ。


昨年オフから取り組み試合で使えるまでに上達した。


(あのガールがナックルとは。こりゃ驚いたぜ)


二塁ベース上でトーマスJr.は感心しながら投球を観察した。


ハードパンチャーズの渡邉が使ったインチキナックルではなく、正真正銘のナックルボールだ。


ボールの縫い目まではっきり見える無回転ボールだ。


更に一点が遠退いていくようだ。



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