点が取れない

球界で1、2を争う強力打線を誇るエンペラーズでも、毎回打線が爆発するわけではない。


打線は水物。3割を越えれば一流打者と言われる。


しかし逆に考えれば残りの7割は凡退するのだ。


打つより凡退する率が圧倒的に高いのだ。


故にどのチームもまずは投手ありきなのだ。



ドラフトでも上位に指名されるのはほとんどが投手だ。


投手陣を充実させ、守備に力を入れる。


守りの野球を掲げるチームは少なくない。


ならばどうやって点を取るか。


1回から9回までの間に得点できるチャンスというのは数少ない。


数少ないチャンスを打者が繋いで得点に結びつける。


その為には、送りバント、進塁打、犠牲フライやヒットエンドラン等という作戦で数少ないチャンスをモノに出来るチームが勝利する。


ましてはホームランやヒット等は毎回打てるものではない。


いかに点を取るか。野球に限らず集団競技というのは最終的にはチームワークが重要であろう。



試合は中盤に入り、ボンバーズが犠牲フライで先取点を取り、スコアは0対1となった。


榊はこれまで被安打3 奪三振4 無四球という素晴らしい内容だが、打線が沈黙。


いいピッチングをしても味方が点を取らないと勝てない。

投手というのは、報われない事も多々ある。


しかし、それが野球なのだから。


榊はベンチで声を上げた。

「テメーら、いつまであんなヒョロヒョロ球に手こずってんだ!早く点取れってんだバカヤロー!」


不甲斐ない味方打線に痺れを切らせた。


「おい、マコト!テメーただ座ってオレの球受けてるだけなのか、おいっ!」

榊が隣にいた室田を怒鳴りつける。


「何でオレがサイン出して投げてんのかわかんねーのかって聞いてんだよっ!」


「すいません…」


「テメーもキャッチャーなら配球読んで打席に入ってみろ!あんなヘロヘロな球打てねぇでどうするっ!」


榊は榊なりに、室田にピッチングとはこういうものだ、というのを投げながら教えてるつもりだ。


オレの球を受けて、配球の組み立てを勉強しろと言わんばかりに。


(シンカーは捨ててストレート一本に絞ろう)


灘は決め球のシンカーを投げる。

ならばその前にストレートを叩いてやろうと。


「わかりました、榊さん打ってきます!」


室田はそう告げて打席にはいった。

(初球ストレート。これを叩く!)


灘が第一球を投げた。

浮き上がる軌道、その浮き上がる前、つまりバッターボックスの最前列に立ち、前でボールを捌く。


カァーンという音はレフト頭上越えたツーベースヒットで出塁した。


「やりゃ出来んじゃねぇかあいつ」


そして打席に榊が立つ。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る