焼肉屋

高梨が選手達を引き連れてきたのは、パンチャードームから少し離れた宿舎のホテルの近くにある焼肉屋だった。


高梨は決起集会というよりは、みんなで飯を食って飲んで仲良くやろう的な考えだった。


瞬く間に店員の運んできた肉が選手の胃袋の中へと消えていく。


炭火で焼かれ店内は油の匂いと肉が焼かれた匂いが漂う。


トーマスは焼肉を初めて味わった。


「 Hey are Yoshida, this roasted meat? Very delicious.(吉田、これが焼肉ってやつか?美味いじゃないか)」


トーマスも焼肉が気に入ったようだ。


いつしかトーマスの席には、若手の選手達が集まり、トーマスにメジャーリーグの事を聞きにきた。


吉田は食べる間もなく通訳に必死だ。


メジャーに関する事、生活や環境等あれこれ聞いてくる若者にイヤな顔せず丁寧に答える。


「トーマスさん、メジャーで通用しそうな選手はいますかね?」


若手の1人が質問した。


「 Sakurai certainly passes in the major leagues(櫻井なら間違いなく通用するさ)」


トーマスも櫻井のバッティング技術には素直に認めた。


「 Several pitchers pass in the major leagues as far as I know it.(何人かのピッチャーは通用しそうだな)」


その中には榊も含まれていた。


トーマスは確かにトラブルメーカーだが、一流だ。


その一流が一流を認めたのだから本物なのだろう。


確かに榊のピッチングはメジャーで通用すると前々から言われていた。


本人はわざわざアメリカに渡り慣れない環境で野球をする気は全くないらしい。


「おい、お前らこんな三振王に何聞いてんだよ。どうせ途中でクビになるだけだこのゴリラは」


榊がまた絡んできた。


気の強さは球界ナンバーワンだろう。


トーマスには何を言ってるのか解らなかったが、明らかにオレの事をバカにしたような言葉だと感じた。


「 Don't be cocky!!! (調子に乗ってんじゃねぇ!)ー)」


トーマスは榊に対し、親指を下に向けた。


「テメー、ケンカ売ってんだろ?あぁ?」


トーマスが立ち上がった。

また険悪なムードが漂う。


「榊さん!いい加減にしてください!」


高梨が仲裁に入る。


「 Please calm down; Mr. Thomas(トーマスさん落ち着いて下さい)」


櫻井がトーマスをやんわりとなだめる。


「高梨!オレぁ確かにこのチームの一員になったが、オレはオレのやり方でやるからよ。こんな事で一々人集めて飯なんか食ってられっか!」


榊が帰ろうとした時に、一人の男が店に入ってきた。


「すいません。朝食にカルビ定食とサラダ、あさりの味噌汁はありですか?」


なんだぁ?


土佐ハードパンチャーズのGM宇棚ひろしが現れた。




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