未開地4
音もなく目の前に着地したそれは、紛れもないモンスターだった。
初めて見る、生きている、本物の、モンスター、あたしの第一印象は、大きい、だった。
次に思ったことは、綺麗、だった。
それから、教えられてたモンスターの知識を漠然と思い出す。
『エンプーサ』元は夢に入り込んで魔力を喰らう、夢魔の名前からとったらしい。曰く、一度出会うと恐怖から、夢に出てくるのだそうだ。
だけどあたしは、この建物の二階にも届きそうな大きなモンスターを、もっとストレートに『巨大カマキリ』と呼びたかった。
見上げるほど大きな体、砂地を踏むのは骨組みのように細い四本足、ベットのように大きなお尻の上に細い腰、柱のような胸の前にはトレードマークの鎌足が折りたたまれている。その上の三角形の頭は更に高くて、あたしは初めてカマキリの顎の裏を見た。
その全身が緑色の甲殻、折りたたまれると透明な羽根、全身が太陽の光を受けて、まるで宝石みたいに煌いていた。
……そんなのが、音もなく目の前に着地した。
「へミリア!」
叫ばれてやっと恐怖が来た。
同時にかくりと、地面が消えた。
どさりとお尻が当たって、あたしは初めて、初めて腰を抜かしたんだとわかった。
その頭上に鎌足、バツリと、閉じられた後、あたしの頭があった位置だった。
食べようとした?
当たり前のことを今更頭に浮かべて、それでやるべきこと、ねげなきゃと思っても、抜けた腰はなかなか立てない。
力が入らない、というよりも、力の入れ方を忘れちゃった感じだった。
そんなあたしをカマキリが見下ろす。
三角形の頭、瞳のような黒い点、だけどやっぱり昆虫な顔が、左右に顎を開いた。
バツリ、またも鎌足、閉じた音、音で初めて動いたのだとわかる、それだけの速さ、掴んだのは、銀色のサーベルだった。
「へミリア立って!」
エレナ、サーベル、横へと突き出しあたしを庇ってくれていた。
あの速度に反応できてた。ひょっとするとエレナってば凄いのかも知れない。それを選んだあたしはやっぱりすごかったのね。
でも凄いのはスピードまで、パワーでは負けてるようね。
カマキリ、鎌足で掴んだサーベルを引き寄せると、エレナも退きずらっれて引き寄せられた。
ガギリ、カマキリが噛みつく。
流石に鉄のサーベルは噛み切れないみたいだけどもその動作を、エレナの力では抑えることができてなかった。右へ左へ、動かされるままに動かされている。
そしてエレナを正面に持ってくると、食べられないサーベルから口を話して、カマキリは巨乳の揺れを見ていた。
やばい。
勝てそうにない。
食べられたら次はあたしだ。
そうならないようするべきこと、腰が抜けたまま考えて、助けを呼ぼうとすぐに出た。
両手で体を支えながら首だけ回して辺りを見る。
……巨大カマキリは一匹だけじゃなかった。
あるところでは馬車の馬を押し倒し、あるところでは男の右腕を鎌足で押さえながら噛みつき、あるところではマミーの手斧に苦戦していた。
いや、カマキリは群れを成さないでしょ。
動いてるものは全部餌に見えるらしいし、実際はなれたとこの二匹は共食いの最中だし、それがこんな一度に現れるなんて不自然よ。
余計な考え、今は不要の思考、それより助けは無理、あたしが自力で何とかするしかない。
バヅリ、また鎌足が閉じる音、ただし左足はサーベルを掴んだまま、動いたのは右足だけで、エレナの左手が引き抜き放った鞘での突きを、顎に届く前に捕らえていた。
バリリ、鎌足に捕まれた部分から砕けて粉に、ヒビも走ってる。そのまま折れるまで、残された時間はない、残された手は、魔法だけだった。
だけど使える魔法がない。
『サモン・ウォーター』今更水出して濡らしてどうすんのよ。
『ミスト・フィールド』霧で視界を塞いでも組み付かれたエレナは逃げられない。まだ早いわ。
『サモン・ポイズン』毒の水、一回失敗してる。それにこの距離、あたしもエレナも巻き添えを喰らう。
思考の間に三口目、同時に手からはぎ取られた。
武器がない。武器がいる。
魔法が決まった。
「আমাদের একটা অস্ত্র দরকার」
杖を引き抜き先端をエレナの足元、左側へ。
「দৈর্ঘ্যটি আমার বাহুর দৈর্ঘ্য সম্পর্কে, গ্রিপটি প্রায় দুটো মুঠি এবং এক প্রান্তটি ঠিক আছে, তাই আমি শক্ত ব্লেড চাই।」
高速詠唱、即ち早口、呪文を捲し立てる。
同時に杖の先が輝き、エレナの足元かずいと青く立体な魔方陣がせり上がる。
「দ্রুততম সময়ে আমাকে বরফ দিন」
最短、最速、自己ベスト、魔方陣が弾け飛び呪文が完成した。
「うわぁこれって、いいの?」
カマキリに追い詰められながらもエレナの嬉しそうな声、そして返事を聞く前に引き抜いた。
キラキラと輝くのは、短くて、不格好な、氷の刀だった。
短く、凸凹で、歪な刀、刃なんかついてないみたいに厚い刀身、鍔なんかなくて、握る部分もエレナには小さすぎる。
だけどこれがあたしの今の精いっぱいだった。
『クリエイト・アイス』
中級魔法の中の上位の方、あたしのレベルではまだ早すぎる呪文、その名の通り氷を呼び出し、形を作る魔法だ。
未開地が暑い所だから氷の魔法が使えたら便利、と安易に無理して覚えてきた魔法、その無理があたしに襲い掛かってくる。
ああああああああっっっもう!
頭痛とも呼べない頭への不快感、目の裏側、脳のどこか、まるでそこのある一点に頭の中身が吸い寄せられてるような感じ。筋肉だと無理に力がかかりすぎて凝り固まって、ほぐしたい欲求に似てる。
それがずっと続いてる。
これがクリエイト系の長所にして短所、波頭どうした後も魔力を消費し続けることで、形を維持できる。逆に言えば、維持するには魔力がずっと必要になるのよね。
そんなこと知る由もないエレナ、迷わず鞘を明け渡し左手て
「ちべった!」
氷なんだから当たり前なことに驚くエレナ、その頭へ、鞘を捨てたカマキリの右鎌足、迫る。
カッ!
衝撃が二つ、鎌足と刀の激突と、その衝撃からくる魔力の一気消費、視野がくらくらしてきた。
魔力の大量消費、無理に無理を重ねた無理強い、尽きれば刀がなくなり頭もなくなって命もなくなる。
そんなことすら考えられないあたしの目の前で鎌と刀が弾き合う。
エレナ、冷たくなれない氷の刀、それでも大きすぎる鎌足からの攻撃を弾いていなしてる。
対するカマキリ、やっぱり昆虫、夏の生き物、冷たい氷は苦手らしく、軽く触れただけで自分から逃げていく。
その隙への斬撃、支える前足、無防備な体、当たって入るけどダメージには遠く及んでない。
叩き切れるほどの鋭さも、叩き割れるだけの重さもない、ただあたしの魔力が消費されて苦だけだった。
それも、決着した。
バヅリ、勝ったのはカマキリ、氷の冷たさに打ち勝ち、あたしの刀を左の鎌足がしっかりと捉えていた。
締め上げられる度に持ってかれる魔力、考えられないあたしの頭にも最悪な状況だとはわかってた。
カマキリ、鎌足でサーベルと氷の刀掴んだまま、左右に広げてエレナの防御を崩す。
そしてがら空きになった、胸へ、顎を左右に開いて、三角形の頭を突き出した。
噛みつき、租借、いただきます。
具体的な最悪に、それでも魔法を放さないあたしの目の前で、血が噴き出る。
ただしその色は、緑色だった。
遅れてどさりと落ちたのは、三角形の、カマキリの頭部だった。
残像なら、見えた。
あの一瞬、迫り、巨乳に被り着こうとしてたあの顎へ、エレナは長い足で蹴り飛ばしてた。
いきなりのこと、近すぎる距離、無理な体制から、まっすぐ突き上げるみたいに、つま先で、迫る顎を蹴っ飛ばしてた。
その威力、でかいカマキリの、細いと言えば細い首を、弾き飛ばしてた。
一撃で、必殺だった。
「…………あぁーー、ごめんね」
首を失くして軽く痙攣してからずるりと鎌足が外れたカマキリの残りに、エレナが謝ってるのを見ながら、意識が飛んでった。
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