裏街道が見える廃教会2
腐れ縁、とも呼べるもんじゃないわ。
会話など、少し交わしただけ、こうしてる間でも思い出すのは声よりも顔よりもあの胸、それでも彼女だと、あの巨乳だと、あたしにはわかった。
「ねぇーってばーー! マミーさーーん!! わたし雇ってよー! 剣の腕だってすごいんだよー! 見たでしょあの旋風! あれって、ねぇーってばーー!」
頭の軽そうな声が響いてる。
あの巨乳は確かサーベル二本で武装していた。だったら戦いを生業にしてるってことで、それでマミーに取り入ろう、雇われようとしているんだろう。戦いを挑むよりはよっぽと建設的で効率的なんだろう。
……そこまで思い及んで、嫌な手が思い浮かんでしまった。
酷い手、成功する確率も低くそうで、だけど他に手がなかった。
もう、恥とか先とか後回し、今際は脱出が全てでしょ。
あたしは覚悟を決めて息を吸う。
「いい加減放しなさい!!!」
ありったけの声、叫ぶ。
「あたしをこんなところに縛り付けて! どうしよってのよ!」
いきなりの奇行に見張りだった男らは呆然としてる。
そんな中で一番最初に動いたのはジョナサン、他がとろいだけかもしれないけど、空いてた左手であたしの口を塞ぎに来る。
それを高く跳ね上げたあたしの美脚でブロックして叫び続けてやる。
「いっとくけど! あたしの親は身代金なんかださないんだからね!」
この一言でやっと狙いに気付いた他の男ら、でも遅い。
「こんな悪さして! 絶対見つかって法の捌き落ちるんだからね!」
バカ騒ぎ、聞かせてるのは下のマミーと、付いて行ってるらしい巨乳にだ。
どちらも助けに来てくれるとは期待してない。
もしかしたら、マミーは別にしても、あの巨乳の方は、町に戻って通報の一つもしてくれるかもしれない。
だけど一番の狙いは、この裏切り者どもが慌てさせることだ。
慌てて移動ないし行動し始めたらならミスをする。その隙に暴れて逃げ出してやるんだから。
今、この場で自由になれば、まだやりようは、あるわ。
「どっしたのー?」
あぁ予想外にいい人、いや頭が軽すぎてるんだろう、この巨乳は、間抜けな声で上がってきた。
ひょいひょいと足軽に、ひょっこり現れてこの現状を間抜けな顔で見回してる。
手荷物もなく、あるのは短すぎるホットパンツの両腰にそれぞれあの長いサーベルを一本ずつ差してるだけ、少なくとも旅に出る格好じゃなかった。
立ってるだけで胸の下に影ができるほどの巨乳、それを前に鼻の下を伸ばす男たち、それに、気のせいか一瞬嫌な表情を見せた。
だけどそれもすぐに消え、巨乳は周囲を見回す。
馬車に沢山の荷物、お揃いの鎧の武装した男たち、その男らが半ば取り囲んでる先に巨木に縛られたあたし、これならばいくら頭軽くても理解できるでしょ。
「……何やってんの?」
頭軽すぎた。
「いやいや、これはお恥ずかしい所を」
真っ先に動いたのはやはりこの男、ジョナサンだった。
今まで見せたことの無いような低姿勢で、ひょこひょこと歩み出て、そのどさくさに腰から引き抜いた鞘ごとの剣とあたしの杖を部下に手渡して非武装をアピールする。
「じつは私ども、こういうものでして」
そう言いながらジョナサン、低姿勢でどこからか出したメダルを、身分証を取り出し、巨乳へと差し出して見せる。
何が書かれてるか知ってる。あたしも見た。本物の身分証だ。そっち方面に通じてるならば、一目でわかるでしょう。
「ジョナサン・マリーシア、セブン・エッジ・ガーディアンズ?」
「えぇそうです。そしてこちらが、こいつの捕縛礼状です」
そう言いながら新たに出された書類、ちらりと見えたその下部分には、れっきとした男爵家公認を示す印が押されていた。
みみっちい男、合法非合法でごねるだけあって細かな手続きは滞りない。
「ご覧の通りこいつの捕縛、及び連行が今回の仕事なんすよ。誤解させちゃってすみませんねぇ」
胡散臭い物言い、だけど書類上、あるいは法律上は、悔しいけれど客観的に見て、あちらが正しく見えるし、実際正しい。
「……何やっちゃったの?」
「あー強盗ですよ。正確には強盗未遂、ご存じないかも知れませんが、ここらじゃ有名なマミー・ザ・ダイヤモンド、そのお宝を狙ってて悪さしてたんですよ」
上手な言い方、決して嘘ではないけれど、印象を捻じ曲げる伝え方、まるで弁護士ね。
「そうなんだ。でも、まだ小さな子供だよ?」
「いやー、騙されちゃいけませんよ。あいつは、こう見えて結構な歳、てなわけでもないですが、成人しててお酒も飲める年齢なんですよ」
「そうなの?」
そう言って巨乳、あたしを見る。
それでようやく、あたしがあたしだと気が付いたみたいだ。
だけど、それだけ、見るだけだった。
……あたしも同じだ。どうしたらいいかわからない。
ジョナサンの話は筋が通ってるし、嘘もない。
対してあたしには、それを覆せる何かがないし、見つからない。
手がない。
それでもこの巨乳が最後の望みだとはわかる。わかってるの。
奥歯を噛みしめて、ぐっとこらえて、それでも何か、絞り出す。
「…………タスケテ」
最低な、最低で愚かな一言が、あたしの口から絞り出されてた。
失くしたい。なかったことにしたい一言、皮肉にもそれに一番最初に動いたのは、巨乳だった。
「をっ!」
短い悲鳴はジョナサンから、手から書類と身分証をこぼれ落し、静かに落とした視線は又の間、蹴り上げた巨乳を蹴り足だった。
唐突な暴力に周囲がざわつく前に更に巨乳、右腰のサーベルを抜刀、胸と胸の間に吊るした時計を揺らしながら振り抜き投擲した。
ザ! 刺さったのはあたしのすぐ横、木に縛り付けている縄の上だった。
「うん助ける!」
巨乳が元気いっぱいに叫んだ。
縄がはらりと切れて落ちて自由になった。だけどあたしは動けない。
何で?
そりゃ、タスケテと言っちゃったのはあたしだけど、それだけで、ここまでやる?
そんな頭軽いの?
「早く! 逃げよ!」
巨乳の声でやっと動くあたし、余計な思考は一端置いといて、今は逃げること、そのためにできること、木に刺さったサーベルへ手を伸ばす。けど抜けない。
「そんなのいいから早く!」
促されて二度目、サーベル手放し飛び出す。
同時に動き出す男たち、半分があたしに、半分が巨乳に迫る。
捕まるもんですか。
身を屈め、転がるように走り、慌てて立ちふさがった男へは体当たり、足も引っ掛け転ばしてやった。
その手からポロリと落ちたあたしの杖、こちらは回収してなお走る。
一方の巨乳、残るサーベルを引き抜いて両手に構えてる。
腕と腕の間に挟まれた胸が上と下とにはみ出して爆発しそうになってる。嫌味だわ。
それでも様になってる構えから、武装がただの飾りじゃないとは、わかる。それでも刃を返して
そこへ襲い掛かる男らも、構える剣は鞘をかぶせたままだ。
「でぃや!」
正面から一人、上段に振り上げながら巨乳へと襲い掛かった。
「ふんぬぁ!」
これに巨乳、無駄に色っぽい掛け声でサーベルを右から左へと振るう。
がしり、と打ち合った剣とサーベル、勝ったのはサーベルだった。
まるで岸辺に止まった小舟を足で押し出すように、ゆっくりとだけどなめらかな動きで、打ち合った剣と、それを持つ男をまとめて押し飛ばした。
速度はあった。だけどそこに小手先の技は見えなかった。
この巨乳、腕力だけで男を押し飛ばしたのだ。
思わぬ実力に、だけど男らも早かった。
「囲め囲め! 真面目にやり合うな!」
声かけと共に男らが巨乳を囲う。
このままじゃ不味い。
あたしは素早く杖を前に、呪文を紡ぐ。
「প্রতিশ্রুতি মত আপনাকে ধন্যবাদ। আমি এখন একটি কুয়াশা চাই দয়া করে আমাকে পনেরটি ধাপ দিন।সাদা কুয়াশা」
はめ込んだ青い宝石がより一層青く輝き、魔法が出来上がる。
『ミスト・フィールド』
周囲一帯が白い霧に包まれた。
我ながら見事な魔法、男らも巨乳も急な視界も急な視界不良で動きが止まる。
そうなる前に全員の位置を覚えていたあたしは迷わず飛び込み、最低限の義理を果たすため、巨乳の腕を掴んだ。
「こっち!」
そう言って外へ、道へと通じるくだり道へと引っ張り走る。
以外にも、巨乳は迷わずついてきた。
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