第110話「進撃騎馬軍団☆男クラ」

 そんな学生たちを見守る大人たちの中で咽る男がいた。

「大丈夫ですか? 中隊長」

 もちろん背中をトントンなんてせずに声だけかける副官で注意の日之出あきら

 次郎達の中隊長である佐古少佐は頭を軽く振った。

「なんか、中隊長と同じようなことを言ってるんですが、三中の子たち」

「うらやましい」

「ふんどしがですか?」

「ああやって意識の高い学生がな、男女交際禁止、的確テキカク!」

 普段から男女交際禁止と声高に叫んでいる中隊長である。

「……」

 ジト目の晶。

「三中隊長になりたかったなあ」

「どうぞ」

 冷たく言い放つ彼女は態度も冷たい。

「……冗談でも傷ついた」

「……冗談ではありません」

「今日、カウンセリング、開いてたっけ」

「そんな冗談いっていると、奥さんに言いますから」

 彼の妻は学校の雇いカウンセラーであり、晶やその同僚で親友の真田鈴などもお世話になっていた。

 カウンセリングの意味を冗談で使うような、そんなデリカシーのないことを平気で言うおっさんに対して、容赦する必要はない。

 晶はそう考えているので、おっさんの弱点である奥さんの話を持っていく。

 どんなに佐古が謝っても、ちゃんと、この後に晶がチクることになることは決定していた。

「がんばれー三中ー」

 拗ねたように口を尖らせ、小声でそんな応援をする三〇半ばの佐古。

「桃子さんにも言いますね」

 いきつけの喫茶店の女主人、佐古の学生時代の彼女である。

 ちなみに、手を握ったことがあるかないかぐらいのお付き合い。

「……」

「いいますね」

「……副官、ごめんなさい」

 そんな風に折れた中隊長。

「よし、素直でよろしい」

 晶はそう言うと、ふんどし軍団に訝し気な目で視線を送った。

 言わない、とは口にしていない。




 戦場グランドの空気が変わっていた。

 踵を返して陣に戻ったボブ。

「お疲れさん、参謀」

「朝飯前ダ、大将」

 騎馬上でハイタッチする三中首脳部。

「作戦はそのままで行こうと思うが」

「オオセノ通リニ」

 重騎兵作戦。

 堂々と前進し、敵を蹴散らす。

 それだけの作戦。

 彼らに言わせると『漢の中の漢』的な作戦だ。

漢号カンゴウ作戦発動!」

 大将の学生が腕を振り上げる。

 騎馬一〇騎。

 共に馬上槍を振り上げ天高く雄たけびを上げた。




「偵察お疲れ」

 ポンッと肩に腕を置く次郎。

 大吉は笑った。

「鈍足だが、正面は無敵状態」

「あんなのが列を組んでいたら入り込む隙がないな」

 頭をポリポリ次郎は掻いた。

 二中隊は固定的だったが全面に攻撃ができた。だが、動きがとれないため、味方はそのまわりを自由に動くことができた。

 三中隊も固定的だが、一騎一騎が分散していて相手の幅が広すぎ、味方は自由に動くことができない。

 鈍足なりに動くことができる敵は戦力を集中できる。そして、あの馬上槍は手ごわすぎるから普通に戦えば歯がたたない。

 そんな状況は予想できなかったから、どんなことでも対応できるように、はじめは正面は幸子の鉄砲隊で引き寄せ。そして、陣形が崩れたところを主力で包囲するつもりだった。

 だが、正面で陣形を崩そうにも重騎兵あれが相手だとすると、幸子たちだけでは荷が重すぎる。

「京の部隊を回すか」

 そうすると、とどめを刺すための主力の戦力が分散することになる。

「射撃支援のない重騎兵なんか、軽騎兵でひっかきまわせばいい」

 そう口を出してきたのはサーシャだ。

「作戦は大きく変わらない、幸子の射撃で出鼻をくじく、主力で隙のできたところを突破して後ろにまわりこむ」

 グランドの砂にサーシャが矢印を描き込む。

「出鼻をくじくために、私と次郎が暴れればいい」

「……あ、俺」

 自分に指をさす次郎。

「一回戦は負けたんだから切腹、でもしていないんだから大将はダメ、一兵卒で戦え」

 厳しいサーシャさんである。

「……あ、うん」

 その一言で作戦に微修正が加わった。

キョウあとは頼んだ」

 次郎はそう言って、もともと学生長でもある京に大将役を渡す。

「次郎もひっかきまわしてこい」

「おう」

「あと、さっきの大吉の偵察で敵の弱点がわかったから、その作戦も考えた」

「弱点?」

「精神的な弱点さ」

 いつにもなく笑顔の京に対し、次郎は仲間であったが少し怖いと思ってしまった。



 ――でーでーでーん! でけでっでけでっでけでー!

 ――でーでーでーん! でけでっでけでっでけでー! でーでぇーででえーん! でけでーででっでん! でんでででんっ!

 合唱に歩調を合わせて、ゆっくりとグランドに姿を現す一〇騎。

 ――我はー三中ダンクラワガ敵はー男女ダンージョいっしょの二中ニーチュウ

 恨みがこもっている。

 ――敵のー大将たる者はー古今ココーン無双ムソウ英雄ムッツリ

 残念ながら大将はイケメンクールの宮城京に変わったが、むっつりスケベは間違ってはいない。

 ――コレ従ふシタガウ男子ツワモノはー女子ジョーシといちゃつく青春セーシュン

 西南の役に参加した警視庁抜刀隊もこんな替え歌にされたら、さぞお怒りのことだろう。

 ――学業ガクギョウ励む学校でーテーンの許さぬ男女交際フシダラをー

 ちなみにこの歌詞は『アイ! ダン☆クラ』という題名がついている。

 ――起ししオコシシ者はー昔よりーさかえしためしあらざるぞー!

 騎馬の速度が速足はやあしに変わる。

 ――テーキの亡ぶる夫迄ソレマデはー! 進めやスース諸共オートコドモー!

 ――タマちるツルギ抜きヌキれてー! 死ーぬる覚悟カクゴで! スースむべーし!

 玉と抜きを強調するのはお約束。

「突撃ィ!」

 槍を水平にした一〇騎が砂埃を上げながら駆ける。

 それを待ち受ける様に立っている仁王立ちの二人。

 動きやすいようにジャージをはぎ取り、Tシャツ、ハーフパンツ姿の次郎が右、そしてサーシャが左。

 そのすぐ後ろに三人三構えの幸子や風子の方陣。

 後方に京の率いる主力だ。

 ただ敵を見つけ、ただひたすら潰していく作戦の三中。

 ちょこまか動ける次郎とサーシャ。

 この二人と幸子の方陣がそんな敵の鼻面ハナヅラを引きずりまわす役目だった。


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