夢の責任

アルガマ

第1話

 夏休みに入る直前、俺は同じ学部の娘にこんな質問をされた。


「ねえ、君は何か夢ある? ……あっ、ちなみに私はジャーナリストだよ!」

「俺は……小説家に成りたい」




 夏休みに入ってから、五日経った。


「あー、暑い、書くの怠いなー」


 ……そもそも、まだ設定考えただけで一話も書いていないけども。



「ああー、なんかこのゲームしてたらムラムラしてきたな!」


 俺は速やかにティッシュとオカズを用意して戦闘態勢に入る。


 ……今日は何でヌこう? AVか? エロマンガか? エロゲーか? 素人モノか?


 そうして思案に耽った後、すぐに名案を思い付く。全部だ、性欲とムスコが持つ限り全部でヌきつくそう!


 ……だって、夏休みだからな!



 ──その日は結局一日中ハアハアして終わった。




 夏休みに入って、二週間後。


 やっとプロローグを少し書いた、小説って本当に面倒くさいな。



「ねぇ~、◯◯君何してるの? ……速くコッチに来て~!」

「ああ、すまん、すぐ行く」


 あれから十日間弱の間に俺は変わった………彼女が出来たのだ!!


「どう、この水着似合ってる?」

「うん似合ってるが、……俺的にはコッチの方が可愛い♡♡ちゃんには似合うと思うぞ!」


 お相手は、夏休み前に俺に夢を訊いてきたあの娘だ。どうやらずっと前から俺の事が好きだったらしく、一週間前に告白されたんだ。


 ……巨乳だし、顔も可愛かったから即OKしたぜっ!



「もう、◯◯君ったらぁ、そんなえっちな水着きれないよ~♡ ……でも『可愛い』って言ってくれたのは、ちょっと嬉しかったから、今夜はいっぱいサービスしてあげる♡」


 ああ、超幸せ~。ぶっちゃけ小説とか、もうどうでも良いわ~。




 夏休みに入ってから、四週間後。


『ひゃっ、あっ、あんっ♡ らめっ、イクぅぅぅぅ♡』

『すっかりオレ様のに嵌まっちまったな~(笑)。もう彼氏のには戻れねえぞ~?』


 画面の向こう側で、俺以外の男によがり狂う彼女。……彼女はあの時恥ずかしいと言って断ったマイクロビキニを着ていた。


『いいのっ、◯◯君よりあなたの方がキモチ良くしてくれるんだもんっ♡』


 そ、そんな、お前は俺の彼女だろ? ……なのに、なんでそんな奴とシてるんだよっ!


『はっ、お前もとんだビッチになったもんだぜ。……おらっ、彼氏が見てると思って、ビデオレターだっ!!』


 男に言われ、カメラ目線にした彼女は、だらしない顔で両手をピースにした。


『あっ、あん、◯◯君見てるぅ~? えへへ、見ての通りに◯◯君を裏切っちゃってま~すww。……でも、仕方ないよね。だって、◯◯君ヘタなんだもん♡』


 くっ、くっそ、クソビッチがっ! お前から告白してきた癖に、なに俺を裏切ってんだよっ!


 ……はあはあ、クソ、クソ、クソ──興奮が止まらねえ!




 そして、冬休みに突入……


 夏休みが明けた後、再開した彼女はド派手な金髪に、黒く染まった肌、そして、ピアスと見事なまでにギャルビッチ化していた。


 ……そんな彼女に俺が話しかけることは無かった。


 だってあの日から、ずっと送られてくるビデオでしか、ヌけなくなってしまったのだから……。


 そして、そうこうしている内に彼女は妊娠し、学校を止めてしまった。


 ……元カノとなった彼女との接点は、もうこのビデオレターにしか無いのだ。


 


『キャハッ、ご主人様から聞いたぞっ♡ ◯◯君ってば、ずっと前からアタシらの行為見て興奮してたんだってねっ♡  ……あっ、 ご主人様、 もっとガンハメ してっ♡ ……◯◯君、チョ~キモいんだけどぉ(笑)』



「……はあはあ、イキそうだっ!」



『だから、今日は◯◯君とご主人様を徹底的に比べて、如何に◯◯君がゴミクズか教えてあげるねっ♡ このNT……ラ黎纒チn♪f∂君i¶鷺tm鎭』

「なっ、何だこれは……!」


 それは突然の出来事だった。画面の中の元カノが突然歪み始め、狂気的な様相へと変貌し始めたのだ。



『グギャアア、ギャゲェー!ギャゲェー!』


「オヴェッ、気持ち悪い……」

 

 それはとても常人に耐えられるようなモノでは無く、その不気味さが産み出す根源的恐怖が俺を襲う


 ……は、早く、ニゲナイト!



 その思考に行き着いた時には、もう意識は朦朧としていて、ただ無我夢中だった。



「はあはあ、この扉を開ければ……」


 最後の力を引き絞り、このドアを押す!

 その先にはいつも通りの日常が……





「……嘘だろ」


 翠とも黄色とも取れる空、生き物のようにうねる電柱と思しき棒状の物体、そして何より道行くヒトが………同じく歪に歪んでいた。



「そ、そうだ、スマホ!」



 ……インターネットで何か調べたり、電話で誰かに助けを求めようっ!


 

「くそっ、電話もインターネットも使えない、圏外なのか!?」



 ピコンッ♪



 ──メール? ……圏外じゃないのか。

 

 恐る恐る、開いてみると……



【¬∥∅w∉∪iε<ζδγ

件名:ニガサナイ

 ワレワレハ、オマエガ、ホウキシタ、クウソウノサンブツ、ダ! イクラマッテモ、カカナイカラ、コウサセテモラッタ。ワレワレハ、ケッシテ、オマエヲ、ユルサナイ、ソシテニガサナイ。ショウセツ、イガイノスベテヲ、バツトシテ、オマエカラウバウ!】








 あれから、十年が経った。


 未だに俺は狂気の世界にいた。……だが、変化も有った。恐怖を誤魔化すようにひたすら書いていたら、いつの間にかホラー作家として有名に成っていたのだ。



 お陰で世界も広がった。編集者や登場人物のモデルにした人など、小説が絡む事柄・・・・・・・に関してなら俺はまともに認識・・できるらしく、辛うじて俺は理性を保てていた。



 カタカタカタッ、カタカタカタッ


「………」



 ピーンポーン



 誰か、来たのか。……インターホンが歪まない・・・・時点で恐らく編集者だろう。



 そう思い、ドアを開けた。



「……こんにちは、少し取材させて貰っても良いですか?」


 そこに立っていたのは………以前とは別の意味で変わり果てた元カノだった。


 


 その姿は、最初のオシャレで可愛い女でも、快楽に忠実な雌犬でもなく、まさに無味無臭といった感じで何の存在感も感じられなかった。


 ……とても、あの元カノとは思えない。




 不思議に思い、視線を彼女の顔に向ける納得がいった。



 眠れていないのか酷く窪んだ目元に、その癖爛々と鋭く輝きながら此方を観察してくる覚醒しきった眼球。



 ……それは、俺と全く同じだった。


 

「はい、分かりました。少しだけなら構いませんよ?」



 ……なるほど、何の覚悟も無く夢を語ったから罰が下ったのか。



「……あははは」

「………………」



 彼女は何も言わない、もしかしたら俺よりも壊れているのかも知れない。



 ───俺ももう、精神こころが限界だ……



「ああ、夢なんて持つんじゃ無かった」



 後に残ったのはユメのために忠実に動く人形だけだった………


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