√ 幾多の世界を救えし勇者の異世界統一
@SUNORI
第1話
『世界には起源がある。その起源は時代と共にあらゆるものに形を変えた。
それはある世界では生物であり、ある世界では無機物であった。
失われれば世界は形を保てず滅び去る。世界は起源を守るため、過酷な環境、守り手となる生き物を生み出した。
何も知らぬ人々は、傲慢にもその活動領域を広げ、起源に迫った。未知を開拓し、魔物を打ち倒す者を勇者と呼んで持て囃した。
彼らは知らない、それが自らの首を絞める行為だとは、知らないのだ………探求の王 ガーディ=ファントム』
春、それは出会いと別れの季節、新たな門出と回帰の時、期待と不安の時間。
新入生が希望を胸に坂を歩いていくのが見える。今日は俺の通う高校の入学式だ。これから来たる楽しい時間を夢見てるのだろう。
ただ、俺は違う、気分は落ち込んでいる。
何故かって? 別に斜に構えている訳じゃない、流行に流されない俺カッケェという訳じゃないとも、そういう奴は決まって友達ができずに悲しい三年間を送ることになるだろうよ。
理由は簡単だ、俺は新入生じゃない、今年でこの学校に通うのは二年目、つまり第二学年ということだ。休日を返上して入学式の手伝いなんて気分が乗らないのは当然のこと。今日の朝、布団から出るのに凄まじい葛藤があったものだ。
「おはようございます!」
「あ、おはようございます」
ルーキー達の笑顔が眩しい。テンションが低いからって挨拶はきちんとするさ。
俺の仕事は校門から入った少し先で、新入生達を体育館に誘導する係だ。
これが必要などうかは微妙なところだ。なんて言ったってそこら中に矢印のついた看板があるし、人の波に沿って行けば自ずと目的地にたどり着けるのだから。
「サボりかね?」
「ゲッ、竹島センセー」
「なんだその返事は…」
「いやいや、真面目にやってますよ。先生こそ何やってるんですか?」
「私は散歩だ」
竹島瑛里華(たけしまえりか)、この学校の校医だ。いわゆる保健室の先生という奴だな。
教師とは思えないほど自由奔放で、生徒達からも人気が高い。俺もサボりのためによく保健室を使わせてもらってるので顔見知りだ。
「散歩ですか…つまりサボってる訳ですね」
「見回りもちゃんとした教師の業務さ…。それより君は新入生歓迎委員だろう?しっかり働きたまえ」
一年に一度しか仕事がないというから引き受けたものだが、最後にツケが回ってきた。こんなことならやらなきゃよかったよ。
「はいはい…ちゃんとやってますよ」
「それより聞いたかね? 今年の新入生にはすごい生徒がいるらしい」
「すごいって…なんですか?四十歳くらいのおっさんが入ってきたとかですか?」
「…もちろんちがうさ、それに勉学には歳は関係ないぞ。
なんでも帰国子女で容姿端麗、スポーツ万能、模試では全国クラス、親は政治家という女生徒だそうだ。」
竹島先生は好奇心に満ちた笑みを浮かべている。この人は何かと生徒や生徒同士の関係に興味を持ちたがる。ゴシップ好きとでもいうのかもしれない。
「それはすごいですね。なんでこんな平凡な高校に入ったんでしょう」
「全くだ、駅が近いことくらいしか良いところがないこの学校に何故…。非常に気になるところだね」
「それ生徒の前で言いますか?」
「それに優秀でイケメンな幼馴染がいるとか、四ヶ国語がペラペラだとか、メガネでドジっ子でツンデレとかの噂もある」
それはやりすぎだ。どれだけ設定と属性を盛り込んでるんだと言いたい。昔のギャルゲーでもそんなキャラはいないぞ。
おっと、俺はそんなに美少女ゲームが好きな訳じゃない、少し嗜んでいる程度だ。
「尾ひれが付きすぎですね」
「全くだ。噂というものは怖いものだよ」
竹島先生は手をヒラヒラさせながら体育館の方に歩いて行った。
さて、人通りももう無くなってるし、そろそろ時間だ。これから一時間ほど、退屈な入学式に出席しなければならない。無駄に多い来賓やら祝辞やら、そんなんに興味がある生徒なんていないのにな。
「では次は、新入生代表の挨拶です。白石麗奈(しらいしれいな)」
「はい」
クソ長い校長の挨拶の後に、司会の教師からアナウンスがかかった。壇上に上がったのは、背の高いスラットした女生徒。横顔だけでも明らかに美人であることがわかる。もしかすると、この子が噂の生徒だろうか。
「風に舞う花吹雪が目に眩しい今日、私達----」
眼鏡はかけていない、目元はキリッとしており、ドジっ子という感じもないな。第一印象だとお嬢様ツンデレタイプだ。スカートから伸びたすらっとした脚を見ると、運動も得意そうに見える。お嬢様タイプは運動も勉強も完璧か、どっちも意外にダメかの二択だしな。これは経験則だよ、もちろん二次元の話ね。
「----新入生代表、白石麗奈」
考えているうちに挨拶が終わった。白石はキビキビとした動きで席に戻る。やはりお嬢様タイプで間違いない。プライドが高いやつだ。自尊心をくすぐれば簡単に落ちる、いわゆるチョロイン(注:チョロいヒロインのこと)だろう。
その後はチョロインをどうすれば攻略できるかの妄想で時間を潰した。入学式はつつがなく終わり、そうこうしているうちに帰宅の時間だ。
委員会担当の教師から大変ありがたい話、下級生が入ることで責任やら模範がなんちゃらかんちゃらという話を聞き流し、帰路につく。
「きゃっ!」
「おっと」
校門を出たところで人とぶつかってしまった。家に残してきた攻略途中のヒロインのことを考えていたので、注意散漫になっていたようだ。
倒れたのは女生徒、よく見るとあの新入生代表である白石麗奈だ。現実でもこんなフラグの立ち方があるのか、逆にビビる。
「すまない、大丈夫かい?」
できるだけ爽やかな笑みで手を差し伸べる。こういうのは、最初の出会いが大事だからな。
しかし、白石はキッと睨みを放ち、一人で素早く立ち上がった。
「どこをみてるんですか?悪いのは目ですか?それとも頭ですか?」
「いや、悪かったよ」
白石の冷たい視線はしばらく続き、それから校門に止まった黒塗りの高級車に乗り込んで去った。
なるほど、ツンデレお嬢様+毒舌か、よくある設定だ。別に初対面の年下に怒られたからって落ち込んでないとも。
…ん?地面に何か落ちている。ストラップのようだ。何か変わった石が付いている。白石が落としたのだろうか?
「なーにやってんの!?」
「うおっ、…なんだ里奈か」
「なんだとはなんだー!入学式終わったみたいだね、一緒に帰ろ!」
こいつは黒崎里奈(くろさきりな)、家が隣同士の幼馴染、未来の嫁候補。やはり進むべきは王道の幼馴染ルートだろうな。お嬢様ルートもなかなか捨てがたいが…とりあえずこのストラップはポケットに入れおこう。明日にでも話しかける口実になる。
「いいぜ、お前は遊びの帰り道か?」
「うん、彼氏と買い物行ってきたんだ!」
「そ、そうか」
現時点では里奈には恋人がいるが、たかが学生時代の彼氏と結婚なぞするわけがない。その内俺の所に来るに決まっているさ。
中学の時から付き合っているようだが、俺なんて幼稚園から一緒だもんね、悔しくなんてないさ。現時点の恋人なんぞどうでもいいとも。
「それでねー、リサったらアキラくんのことを----」
「それはヤバイな」
帰り道は里奈の独壇場だ。女子というのは話したがり屋だからな。アキラくんのことなんぞ全く知らないが、適当に相槌を打つ。ヤバイって言っておけば大体大丈夫だ。どうせオチも何もない。
「ふぅ…あっ、もう家だね!じゃあまた明日、学校でね!」
「ああ、またな」
里奈は彼氏一緒に通学している。本来なら幼馴染を起こしに来るのが常識だが、全く分かっていないやつだ。
さて、今日は家に残した女の子を攻略するか。姉ルートか、無口な転校生ルートだな、当然二次元の話だよ。
「ふぅーーーー」
転校生が何度も世界をループしているというのはありきたりの設定だったが、まずまず楽しめたな。姉が二重人格に見せかけて実は別人だったトリックには驚いたよ。総合評価はBってとこだな。
さて、ちょうどキリもいいし寝るか。明日は現実でお嬢様ルートか、後輩ルートあたりを開拓したいな…。
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