上海虹橋駅
月曜日の朝六時二十分。俺は上海虹橋駅に到着した。
普段なら爆睡している時間だ。駅に着くまでのタクシーの中で、俺は何度も寝落ちしそうになった。
上海には鉄道の駅がいくつもある。虹橋駅は一番新しく整備された施設らしい。
確かにデザインが近代的で、清潔感もある。規模はものすごくデカい。日本の鉄道の駅とはスケールが違う。雰囲気は飛行場に近い。
予めマクドナルドの位置を調べておいたのは正解だった。知らなければ巨大な構内で間違いなく迷っていただろう。
俺は約束の時間ぎりぎりにマクドナルドの前にたどり着いた。
マクドナルドの座席を見回したとき、俺は自分の目を疑った。
与沢がいたからだ。それだけではない。藤堂も一緒だった。
「どういうことだ?」
「与沢さんも私の故郷を見たいそうです」
微笑みかけてくるエイミー。俺の表情は能面のように固まっていた。
「藤堂です。会ったことありますよね?」
俺は無言のままうなずいた。
これから田舎に向かうと言うのにヒョウ柄のタンクトップにミニスカート。度を越した厚化粧。パーマがかかった茶髪。
通行人がちらちら見ている。俺は思わず眉をしかめた。
「渋沢さん、なんか怖い」
「早くしないと間に合わないですよ」
エイミーはチケットを配り始めた。マクドナルドで朝食を買おうと思っていたが、もうその時間はなかった。
広い駅構内を移動して改札を抜け、プラットフォームに移動した。新幹線の車体に似た列車が停まっている。
日本の駅のプラットフォームよりも幅が広く天井も高い。だが雰囲気は似ている。日本のテレビ番組で、昔ながらの中国の鉄道駅を見たことがあるが、それとは全く印象が違う。
俺たちはエイミーの後について列車の中に移動した。座席には真っ白いカバーがかけてあり、座席と座席のスペースには余裕がある。たぶん日本でいうグリーン車のような車両なのだろう。
与沢と藤堂が隣り合わせに座り、俺はエイミーと隣り合わせに座ることになった。終始無言の俺に気を使ったのか、エイミーは俺に窓側の席を譲った。
座席の座り心地は想像していたよりもはるかにいい。日本の新幹線に座っているのと変わらない。むしろこちらのほうがスペースが広い分だけ快適だ。
すぐに列車は動き出した。車窓からの眺めがスライドするかのような静かな走り出しだった。
マクドナルドの前から俺は無言だった。与沢たちを同行させたエイミーが腹立たしかったこともあるが、それ以上に与沢が来た理由が気になる。
与沢は俺の目的を知っているのか?
そこが最大の疑問だ。もしも与沢がクスリのことを知っているなら、与沢の目的も俺と同じだと考えるべきだろう。しかしなぜ藤堂が同行している?
「エイミーさん、達男に手を出しちゃダメですよ」
藤堂は座席の上から顔を出してエイミーの表情をうかがった。
「そんなことしませんよ」
エイミーは笑っている。
「達男が田舎に行きたいなんて絶対怪しい」
「お前マジ疑い深いな。地方の様子をウォッチするためだって言ってるだろ。車のマーケットとしてどうなのか、将来俺が経営の指揮をとるときに必要な知識だろ」
「達男、中国にも車売るの?」
「そのつもり。中国のマーケットはまだ開拓の余地バリあるし。これからは地方の時代っしょ」
浮ついた感じ。少なくとも藤堂は俺の目的を知らないようだ。
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