Aprikosen Hamlet ―武蔵野人狼事変―
スライダーの会
Planet Blue geographia
第壹話
「バベルの塔」THE TOWER
Planet Blue geographia
Aprikosen Hamlet
―もう一度、キミとつながる?ラノベADV!―
あの小惑星が地球に衝突してから、三十年近くの歳月が過ぎようとしている。
「…余談ですが、貝塚は単なる廃棄場ではなく、食糧や道具を感謝して神の世に送るという、宗教的な空間でもあったと考えられています。また、大森貝塚を発掘したEモース教授は、埋葬された遺体が人骨として発見された事から、縄文時代に食人風習があったのではないかとの説を提唱しました…って生田君、何か質問ですか?」
「明日の夜間演習、延期する事はできますか?」
「別に構わないが、何か急用でも?」
「実は親戚から、アイドルアニメの解散ライブに来い!と脅迫されていまして…」
「は? 『アニメ』で『アイドル』? 一体どっちだよ?」
「いや、それが…話すと長くなるから言わないけど、『アニメ』でもあり『アイドル』でもあるんだよ。確か、神戸のタイムラインにも写ってた」
「何だそれ? 意味が分かんねぇよ」
「まさかとは思うけど…それって、もしかして…」
小惑星の悪夢から立ち上がらんとした先人達は、死に掛けていた文明を再建し、次世代の者達を懸命に守り抜いた。そうして生まれ育った私達の多くは、平日には学校・塾から帰ったお茶の間でアニメに瞳を輝かせ、休日をひたすらゲームで潰し、漫画なのか小説なのか分からないような
そう…滅亡の危機を経験し、それを繰り返してはならぬと決意した私達人類は、諸刃の科学技術を、破壊と戦争のためではなく、創造と平和のために応用して行く道を選んだのである。いや…正確には、そうであって欲しいと願っていただけかも知れない。
「そう言えば星見君、バレンタインの予定は?」
「黙れ
第壹話「
見渡す限りの埋立て地に、砲台と戦車が整列している。かつて「
「みっほみっほみ~www」
「あ゛ぁ゛っ!?」
「…俺が悪かった、何でもするので赦して文殊」
第三中隊のエリートとして知られる美保関天満は、先の戦争で活躍した英雄の一人である。御台場の決戦においては、自らが初号機を操縦する「ポタージュ スープ中隊」を率いて出撃し、智謀を以て敵軍を全滅させ、「戦場の文殊菩薩」と呼ばれた。また、その戦績を
そして、当時この軍神と死闘を繰り広げ、今は戦友として無二の親友に成ったのが、彼女の隣に居る
「…で、何があったの?」
「長距離ミサイル、飛んで
「どうしてもっと早く報告しないのよ! 大勢の人命に関わる事でしょ!」
「あ、ミサイルって死ぬんだ。ちょっと怪我するくらいだと思ってたw」
「あんた馬鹿ぁ? 至急、迎撃システムを展開して! 民間人の退避も!」
「はいはい、軌道計算…あ、解析が間に合わないって。これじゃ、迎撃も無理だな。詰んだw」
「はぁ…仕方ないわね。あたしが自分で撃ち墜として来るから、ロックキー解除して!」
「ちょっと美保、正気? いくらお前でも、今から一人でミサイルを
「…確かに、答えは見付からないかも知れない」
「は?」
「でもね、諦めない限り、道は心に照らされるはずよ。それがこの世界だって事を、かつてあたしに教えてくれた文豪が居た。そして、それを命懸けで証明してくれた戦友も居る…そう、あたしの眼前にね!」
「天満…」
「大森軍管区第三中隊ポタージュ初号機、離陸準備完了。美保関大宰少弐天満、出撃します!」
昨日まで、いや…数刻前まで平和の象徴だった青空に、歴戦の英雄が再び飛び立って行く。迫り来る飛翔体、迎え撃つ飛行機雲。﨔木夜慧はただ、それを見届ける事しかできない。だが、次に為すべき事は、既に心の
「…もう二度と、奪わせない。決して、失わない。俺が俺自身である限り…未来も、運命も、何もかも…! さてと、俺も出撃だな」
メシア歴2018年2月13日、火曜日。日本列島の上空において、巨大な電磁波が観測されたのは、その直後の瞬間である。それは光であり、次いで爆発音であった。そして…。
「…まきちゃんの、太もも…」
第三中隊が東京湾に派遣されている間、長栄山本門寺に拠点を置く大森軍管区第四中隊は、池上町周辺での任務に従事していた。もっとも、その「作戦」の内実は、バレンタイン聖日に伴う商店街での暴動対策であって、飽くまで平和の延長線上に過ぎなかった。
「…ん? 何だよ…?」
この第四中隊を率いる
「…どうなってんだよ、これは? おい大允、起きろ!」
「何だよ? 騒がしいな…あ~、良く寝た」
「どうして…どうして俺達は、こんな所で寝ていたんだ? 暇とはいえ、あれでも任務中だろう? それに、ほかの奴らはどこに行った?」
斎宮星見が冷静に異変を分析する一方、夢の中で推しのアイドルと何かをしていた生田兵庫も、ようやく意識が現実にログインして来た。
「…あ、本当だ。僕達しか居ない…もしかして、置いて行かれたんじゃない? とりあえず、司令部に連絡を…」
「駄目だ、無線がつながらない…え、圏外? ふざけんなよ、そんな馬鹿な…!」
「あっ、僕のもだ。電話もインターネットも使えない…って言うか、電源が入らない」
「これじゃ、期間限定ガチャも引けないな。あれ確か、今日までだった気が…」
「これじゃ、国鉄の時刻表アプリも開けないよ」
「…」
「…」
「「ちーがーうーだーろー!!」」
「一体、何があったんだ? 大允、思い出せ! 俺達は昨日まで、何をしていた?」
「…何だろう? 思い出そうとすると、頭が痛い…あ、そう言えば…」
「何だ? 早く言え!」
「…えっと、確か…赤くて、
「…ああ、俺も何となく思い出した。つまり、何かが上空で爆発して、その時の磁場か何かで、電子機器がぶっ壊れたわけか。で、ついでに俺達も気絶したと…でもさ、人間が意識を失うって、相当だろ?」
「爆発したのは、やっぱり弾道ミサイルかな? だとすると、日本にそんな物を撃って来る国と言えば…」
「だけど、それならアラートが反応するはずだ。前の戦争で、この国の防空システムがダメージを喰らったとはいえ、レーダーを全てかいくぐってミサイルを着弾させるなんて、アメリカでも無理だろ?」
理解できかねる情況を、状況としてどうにか理解しようと試みる二人。現時点で分かっているのは、「バレンタイン作戦」の途上、ミサイルと思しき弾頭が上空で炸裂し、それに伴う何らかの被害により、意識を失っていたという事。それも、恐らく数日間に及ぶ昏睡状態だったようだ。その間、通信などの電子機器が破壊され、最も不審なのは、第四中隊の仲間達が、
「だとすると、僕達が真っ先にやらなきゃいけない事は…」
「食糧の確保、だな。特に水分。手持ちの非常食には限りがあるし、まさか呑川の水を飲むわけにはいかないからな…急がないと、タイムアウトだ」
呑川は、大森・蒲田を南北に流れる河川で、平安時代に北部の支流を堰止めた洗足池は、日蓮・勝海舟・西郷隆盛ゆかりの名所でもある。
「あ…あれ、自販機じゃない?」
「本当だ。ああいうのは確か、災害用の非常電源が入ってるやつもあったはず。行って見ようぜ!」
「…待って、誰か人が居るよ!」
「良かった…俺達以外にも、生存者が居たようだな。それに、あの軍旗は第四中隊の物…つまり、味方だ」
何も見出せなかった中、ようやく「味方」との合流を果たせたと思い、とりあえず安堵する二人。恐らく相手も、東京同盟軍の本隊から孤立し、不明と不安の狭間で、ここまで来たのだろう。そんな事を考えながら、声を掛けようとしたのだが…。
「あ…あの、こんにちは!」
「おはこんばんにちは。俺は、第四中隊の斎宮星見です。こいつは、ダチの生田大允です。あなたも、俺達と同じ部隊ですよね?」
「僕達も、気付いたら仲間と離れ離れで、通信もできずに、困ってたんです」
「この自販機、停電でも使えるタイプですよね? 俺達も、ここで補給したいのですが…」
何かがおかしい。相手は確かに、自分達の存在に気付いているが、一向に返事らしい返事をしない。ただ、一歩ずつこちらに近寄って来るだけだ。まるで、何か獣類のように…そして、それはどこかの映画で観た事があるような光景。二人は本能的に、異常を察した。
「…これって、もしかして…」
「い…いや、そんなはずは…」
目前に居る「人ではない人」が、その本性を二人に向けようとした、その瞬間の事だった。
「離れろ! そいつは最早、ヒトではない!」
「え?」
「この声は…!」
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