9.……変態度S眼鏡に売られた。
「「は?」」
仲良く千草と声がハモる。
かつんと軽い音を立てて手の中から落ちた紙コップは、中身の水はほとんど入ってなくて助かった。
「歯科医が苦手な人間は多いですけど。
都築さんくらい、売られる子牛みたいな目で怯えてる人間なんて初めてで、なんかもう、可愛くて。
一目惚れっていうか」
「は?」
「一度しか会ってないのによくわかってるんですね!
文をよろしくお願いします!
……よかったね、文!」
「は?」
えっと。
これはなに?
なぜふたりは仲良く握手なんて交わしてる?
「千草はいったい、なに云ってんの?」
「和久井先生くらい、文のことわかってる人、いないよ?
だから、さっさとその痛い歯、抜いておいで?」
「そうですよ。
早く抜いた方がいいです。
明日、とかどうですか?」
いやいやいやいや。
やっぱり千草の云ってることは全く理解できないし、なんかさっきから、いつもと性格違う気がするし。
そしてずっと薄笑いの和久井先生はただ、歯が抜きたいだけの変態ドS眼鏡にしか見えない。
「明日、午前半休とっていっておいで」
「あ、でも、抜いて腫れることもあるので、午後の方が」
「じゃあ、午後半休で」
なに勝手に、私をおいて話を進めてる?
「絶対行かない。
ほかの歯医者にする」
「文!
せっかく和久井先生が抜いてくれるって云ってるんだよ?
わがまま云わないで行っておいで」
なぜ怒られる?
そしてこれはわがままなのか?
「嫌がるのを無理矢理っていうのもあれですし。
でも、その歯は絶対に抜いた方がいいです。
あれだったっら、知り合いを紹介しますけど?」
くつくつとやっぱり口に軽く握った手を当てて和久井先生は笑ってるけど。
絶対紹介する気、ないですよね?
「あーやー」
初めて聞く、おなかの底に響くような千草の声。
涙がたまり始めた目で、上目遣いで見上げたら、あきらかに額に怒りマークが浮いていた。
というか、いつも可愛い千草が鬼に見える。
こ、怖い。
「……わかった。
じゃあ、行く」
「素直でよろしい。
じゃあ和久井先生、よろしくお願いします。
嫌がったらちゃんと、引きずっていきますので」
「……千草酷い」
完全に、私の声は鼻声になってる。
まだ和久井先生は楽しそうに笑ってるし。
やっぱり変態ドS眼鏡だと思う。
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