第33話 こんなところで諦めてたまるかーーー!

 森へ踏み込んで200mくらい進んだところで、こちらに向かってくる影が見えてきた。リナに明かりを前に照らしてもらい念のため敵かどうか確認をする。


「助けに来たぞ!」


 人が走ってくるのを確認したのでこちらから声を掛けた。


「助かった!」

「わりぃ!後ろからウォーグが追いかけてきてる!」


 ウォーグとは魔狼や邪狼と呼ばれている魔獣の一種だ。獣の狼より素早く動くためこちらの攻撃が当たりづらく、避けづらい。平地ならウォーグは人より早く走るため、ここが森では無く平地だったら彼らは既に死んでいたのかも知れない。


 またウォーグは牙や爪に毒を持っていて、致死率は低いが何度も噛みつかれたりすると徐々に麻痺を起こしてしまい行動が出来なくなってウォーグの餌になってしまうだろう。


「このまま僕たちの横を走り抜けろ!」

「分かった!」

「すまねぇ!任せた!」


 男性の冒険者2人が僕たちの横を通り過ぎた後、ウォーグの群れがこちらへ走り寄ってきた。


「リナ、撃ち漏らした奴の処理をお願い!」

「畏まりました」


 僕は闇の針の機関銃バージョンを向かってくるウォーグに対し連射した。ウォーグは勢いを付けていたからか回避する間もなく、あっという間に群れごと蜂の巣のように穴だらけになって全滅した。


「す、すげぇ・・・」

「一瞬で全滅させるなんて・・・」


 救助した2人が呆然と僕を見ていたけど、僕自身もここまで上手く対処出来るとは思っていなかった。


「お見事です、ご主人様」

「ありがとう、リナ」


 褒めてくれたリナにお礼を言って、2人に近寄った。


「あと一人はどうしたの?」

「あ・・・、あぁ。ファンガスの群れに遭遇して討伐していたら、さっきのウォーグの群れが加わってさ」

「このままじゃ全滅するって思って、俺とアルフォンスでウォーグたちに攻撃して気をこちらに向けさせて、ソーニャっていう魔法使いの女の子はファンガスに魔法を撃ってそれぞれ引きつけつつ、お互い離れて離脱しようって」


 あぁ、なるほど。それで一人だけ離れてたのか。女の子一人を置き去りにしたのかと思ったけど、そういう理由があったのか。


「理由は分かった。それじゃ僕らはソーニャっていう女の子を助けに行くよ。あなたたちは村で傷の手当てをして待っていてほしい」

「多少は傷を負ったけど平気だ。俺たちも付いていくよ」


 仲間思いなのか罪悪感なのかは分からないけれど、アルフォンスはそう言ってきた。しかし、彼らを連れて移動したら移動速度が落ちるので間に合うものも間に合わなくなる。それに彼らもずっと走りっぱなしで体力も限界だろう。


「それは承諾出来ない。あなたたちの体力はもう限界だろうし、僕たちに追いついてこれないと思う」

「だけど!」

「じゃあハッキリ言うよ、一緒に来られたら足手まといだ。彼女を助けたいなら僕たちに任せて」

「・・・分かった。彼女を助けてくれ」


 僕は頷いた後、気をつけて村に戻るように伝えて彼らと別れた。


「リナ、残り一人の探知と先導をお願い。必ず助けよう」

「お任せ下さい」


 リナが探知と索敵魔法を使った後に走り出したので僕もその後を追う。走りながら、人の気配がまだあるので生きていること、その人のところまで約2kmということを伝えられた。


                  ◇


 朝、リリーフ村で冒険者ギルドのクエストボードを一人で眺めていたら、一緒にクエストを受けないかとアルフォンスとジェービズという二人の男性に誘われた。男性二人と共に行動して身の危険は無いかなと少し悩んだけど、いざとなったら相手の股間に魔法でも放ってやれば良いかと思って了承した。


 私たちが受けたクエストは、主に森に自生している薬草の採取と、採取の途中で獣を見かけたら狩猟するというものだった。リリーフ村周辺の森はそれほど危険もないので、普段通りに採取や狩猟をしていた。


 もうじき日が暮れそうだし、採取する物も十分集まったのでそろそろ戻ろうかという話になったときに状況は一変した。キノコの魔物、ファンガスが現れたのだ。


 だけどファンガスは遠距離攻撃さえ出来ればそれほど対処には困らないので、近寄ってくるファンガスに私は風属性魔法を、弓使いのジェービズは弓で攻撃しながら後退しつつ討伐していった。


 これならいけると確信した頃、周囲の警戒を担当していたアルフォンスがウォーグの群れが来たと警告してきた。このままでは近接戦と遠隔戦を同時に行わなければならなくなる。


 ファンガスとウォーグのどちらかだけであれば3人でも十分対処出来ただろうけど、二種族同時は流石に無理だと判断して3人で一度ファンガスから距離を空けてウォーグの討伐を優先することにした。


 だけどファンガスとウォーグから逃走した先には別のファンガスの群れが居た。このままでは挟み撃ちになってしまい全滅する可能性が出て来た。


 三人でどうするか相談する間も無く、逃げた先にいたファンガスの群れに気づかれて私は風属性魔法で攻撃し、2人は追いついて来たウォーグたちと戦闘を開始した。


 囲まれないように2人と距離を徐々に空けながら攻撃をしていたら、とうとう最初に見つけたファンガスたちまでやってきてしまった。しかもそのファンガスたちはアルフォンスたちの方へ近付いていった。


 彼らと距離が空いてしまったので助力に向かおうにも、その隙に今まで相手をしていたファンガスも合流してしまう危険があるので迂闊に近寄れなかった。


 そこで私はお互いこのまま敵を引きつけながら別々に逃げることを思いつき叫んで伝えた。彼らも提案に乗ってくれてウォーグたちに攻撃しながら私から離れていった。


 自分もファンガスたちが彼らの元に行かないように攻撃をして気を引きながら徐々に後退していった。


 その後彼らの姿が見えなくなったので、攻撃をした直後に反転し一気に走って逃亡した。だけど、森から出る前に日が暮れてしまい自分の位置が分からなくなって迷子になってしまった。


 風属性魔法は使えるけれど、自分を浮かす浮遊魔法はまだ使えない。なので今の自分に出来ることは歩くことだけだと、心に鞭を入れてひたすら走り続けた。


 走り続けたお陰でファンガスと距離は空けられたけど、流石に体力が尽きたのか足に力が入らなくなった。樹木にもたれ掛かり水を飲んだり携帯食料を食べたりして少し休憩することにした。


 その後一度足を止めたせいか休憩を終えてまた走り出そうとしても足が動かなかった。このままこの場に居ても何も良いこと何てないというのは分かっているのに。


 結局私が次の一歩を歩き出したのは、もたれ掛かっていた樹木の背後から枝が折れる音がしてからだった。恐る恐る樹木から頭だけを出して確認してみたら、予想通りファンガスが近寄って着ていた。


 今まで一歩も動けないと訴えていた足は、現金なようで上半身を置き去りにするつもりか思ってしまうほど元気に走り出した。


 だけどそれも少しの間だけだったようで、急に息が上がり少し速度を落とそうと思った矢先に樹木の根っこに足を引っかけて私は倒れてしまった。


 立ち上がろうとしたら足首に激痛を感じてまた倒れてしまった。どうやら足首を捻挫してしまったようだった。


 流石にここまでかと思いはしたけれど、魔力が尽きるまでは最後まで抵抗しようと思い直して上半身を起こしファンガスたちが来るであろう方角へ身体を向けた。


「こんなところで諦めてたまるかーーー!」


 叫んで気合いを入れ直してみたら、自分が向いていた方の側面からガサガサ!と光と共に何かがやって来た。叫んだせいで別の魔物が来てしまったのかと頭を抱えそうになっていたら、手に明かりを灯したメイドさんと男性が私の方へ凄い勢いで飛び込んできた。


「良かった無事だ!よく頑張ったね!」


 メイドさんを後ろに控えながら彼は近付いてきて笑顔で私を褒めてくれた。これが私、ソーニャとマサトさんが初めて出会った出来事だった。

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