第15話 いわゆる素っ裸です
「お断り致します」
開発室を出た後ハナに相談するために執務室へ行き、部屋の中で特典について協議をしていたハナに先程思いついた件と、地上への召還が可能なのかを聞いてみたところ、先程の返事が返ってきた。
「え、出来ないの?」
「可能か不可能かと問われれば、可能かと存じます。ですが、承服しかねます」
ぷいっと僕から視線を顔ごと外し、再度断られた。見た感じ拗ねているように見える。思い当たることは無いかと考えてみると、思い上がりでなければ慕ってくれている人と離ればなれになるのが嫌なのかなと思いついた。
「えーと、ハズレてたらごめん。僕が地上に行ってお別れするのが嫌なのかな?」
「っ、当然では御座いませんか」
逸らしていた顔をこちらに向け、そう抗議した。ここまで慕ってくれると、嬉しさしか感じないが、ハナの言うとおりに僕が神になったら碌な事にならないだろうから、ここは是が非でも承諾して貰わないといけない。ハナの好意を無下にしたくないが、その好意に甘えるということを許してもらおう。
「ハナ、僕は僕自身としてこの世界で暮らしたり旅をしたりしたことがないんだ。つまり、僕はこの世界のことを実際には何も知らないし、体験していない。当然禊ぎとして色々な人生や職業を体験することは出来たけど、それは僕であって僕じゃ無い。いずれハナの言うとおり神様になるんだとしても、僕は自分の目でこの世界を知っておくべきだとそう思ったんだ。だからお願い。僕を地上で暮らさせてくれないかな」
「・・・・・・」
ハナは僕の話を黙って聞いてくれた。僕もハナの目を逸らさずに本音を語った。やがて、ハナはため息をした後、少し拗ねた顔をしながら応えてくれた。
「お兄様はずるい方です。お兄様がそう仰ったら私に断ることなど出来ません。承知致しました、お兄様が地上に降りるという事を前提とした特典を選定したいと存じます」
「ありがとう、ハナ」
僕は我が儘を聞いてくれたハナに感謝を込めて微笑んだ。
あとは少し話をしたあと、選定の邪魔をしても悪いので執務室から退室した。さて部屋に戻ってのんびりしようかと思ったら、リナさんが部屋に移動しようと歩き出した途端に立ち止まった。
「申し訳ございません。ハナ様にお話しすることがありましたので、マサト様は先にお部屋へお戻り下さい」
「あ、そう?じゃあ先に行ってるね」
じゃあ先に戻ってお茶でも飲んで待っていよう。
◇
ハナと相談してから体感で数日が経過した。特典のリストアップ作業が終わるまで、僕は開発室へ遊びに行ったり、主にリナさんと、たまにロマーナさんやエメさんを交えながら談話したり、のんびりと過ごした。
「そういえば、事務室の天女さんたちの休暇の件は進んでいるの?」
「はい、先日ハナ様が10名ほど召還し、今は新人たちが実際に入力作業を教育されながら行っているところです」
今はリナさんが入れてきてくれたお茶を飲みながら、僕とリナさんは客室のソファーに座りながら雑談をしていた。
「ハナが天女を召還するところを見てみたかったなー」
「あまりオススメは出来ませんね」
「え、なんで?」
「ハナ様が許可するとは思えませんが、仮に許可をしたとしてもマサト様の性格を考慮しますと、その場に居づらくなるのではと」
「んん?」
「天女が召還される際は衣服などを着衣していないので。いわゆる素っ裸です」
ブフッ!お茶を嚥下しようとしたところで、素っ裸とか言われたから器官にお茶が入った。暫く咽せた後、ようやく落ち着いた。
「あぁ、びっくりした。でも確かにそれは呼ばれないね、納得した」
「マサト様はムッツリのようですので、呼ばれなくて残念でしょうが諦めて下さい」
ここ数日でリナさんに僕の性格が読まれているようだ。まぁ、脱衣ギャンブルしたり、知らなかったとはいえ女性の残り香のあるベッドでスーハーしたりしたからしょうがないか。というかロマーナさん絡みばかりじゃないか。
「それにしても、なんで素っ裸で召還されるの?」
「あぁ、それは以前にもハナ様からご説明があったように、召還と言われていますが実際は生み出されているからです。服を着て生まれる赤ん坊もいませんし、そうご納得下さい」
「まぁ、そう言われたら理屈は分かるけど、でもハナなら服を着せたままでも召還出来そうな気がする」
好き好んで素っ裸にはしないだろうけど、何か原因とかそうしなければならない理由がありそう。それこそ赤ん坊から生まれるのならまだしも、この世界の成人女性に近い年齢で生み出すのなら服位は力で作れるなら作ってそうなんだけどな。
「そうですね。やはりマサト様はご聡明な方です。もしくはハナ様のことをよくご理解頂けているようです」
「あ、やっぱり何か理由があるんだ?」
「はい、今のハナ様のお力では天女召還に割けるリソースが限られています。若手ではトップクラスといっても、ハナ様は先達の神々に比べれば力は及びません。そこで衣類などに力を割かず、知識分け与えるなどに回しているのです」
なるほど、やっぱり理由があったのか。神としての力が足らないから、衣服などは別途用意することで、できる限り即戦力になるよう召還をしていると。そう考えたとき、ふと気になって質問してみた。
「例えばだけど、見た目の年齢を低めにすることで召還に使う力を抑える事が出来ないのかな?」
「恐らくですが、多少は効果があるはずです。ですが、ハナ様そうなさらないかと思います」
「え、なんで?」
「天女の姿は生まれたときから変化をしませんから、幼女や少女の姿でバニー姿になってもらい接客させたり、激務の事務仕事をさせるわけにもいきません」
ああ、それは何だか凄く犯罪臭がする。事案発生だ。その姿を見たら通報されることはなくても、良心の呵責に苛まれるだろう。僕は深く頷き納得した。
「それほど頷かれるとは。幼女や少女のバニー姿がそんなに見たかったのですか?」
「え、そんなこと全然考えていなかったけど?一体リナさんは僕をどんな奴だと思っているのか聞いてみたい」
「お答えしましょうか?」
「いえ、結構です」
聞くのが怖い。そんなやりとりをしていたらドアがノックされた。
「入ってま~す」
「知ってま~す。お邪魔するね」
僕がそんな冗談を言ったら、ドアを開け部屋に入ってきたのはロマーナさんだった。ハナの前じゃ無ければ、ロマーナさんは結構気さくに対応してくれるので、僕としても気が楽で助かる。
「まだマサト様が入室の許可を出されていないのですが」
「リナの中に入ってますって意味だったら、流石の私も遠慮したけどね~」
リナさんがお小言を言ったら、ロマーナさんが下ネタで返してきた。反撃を貰ったリナさんは赤くなって俯いてしまったけど。
「それでロマーナさんもお茶しに来たの?だったら席を用意するけど」
「ん~、魅力的なお話なんだけどね~。残念ながら違うのよ、気を遣ってくれてありがと♪」
上向きながら人差し指を唇の端に当てて悩んだり、ありがとうの時にウィンクしたりロマーナさんのあざとさが益々磨かれている気がする。
「特典のリストアップが終わったから、マサト様を呼びに来たんだよ。執務室でハナ様がお待ちになってるから、今から行きましょう」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます