第8話 タターン!
「申し訳御座いません」
リナさんと目が合わさると、彼女は深く頭を下げた。さっきから皆に謝られてばかりだけど、ほんと何があったんだろう。
「リナ、今マサト様にご説明差し上げているところです。まだ話の途中ですので私の隣にお座りなさい。ロマーナ、エメも」
「は、はい」
リナさんを含めバニーさん達は僕の対面の神様の横に座った。エメさんはお茶を配ってからだったけど。美人なバニーさん達と着物美少女の神様が並び、こちらを見つめているのでどうにも落ち着かない。
「では、話の続きをしたいと存じます。日本で色々な知識を集めておりましたところ、日本での職業の知識も集めようということになりました。文明レベルも違いますが、取り込めるところは取込もうかと。そうしたところ、出会ったのです。パソコンに」
「あ、やっぱりあれパソコンなんだ」
「はい。動力や記憶方法などは今のところ真似出来ず、魔法や魔法陣で代用し、出来る内容も帳簿に特化した物となっております」
「それでも凄いと思いますけどね。一から作り上げたんだし」
「元居た世界の住人のマサト様がお褒めになったと、開発部に所属している皆さんがお聞きになったら、さぞ喜ぶことでしょう」
動力はまだしも記憶媒体を魔法とかで代用するとか、想像も付かなかった。どうしても攻撃魔法や召喚魔法みたいことしか思いつかない。
「こうして完成したパソコンを用いて、今後手書きの帳簿から入力作業へ移行することになりました。そして入力する罪人第一号にマサト様が選ばれました」
「それは、ありがとうございます」
「いいえ。そしてここからが本題となります」
僕が感謝を述べると、神様は首を振り顔を引き締めた。
「そのマサト様の罪数ポイントの入力作業を行ったのが、私です。そしてあろう事か入力ミスをしてしまいました」
「なるほど、・・・ええ?」
つまり、僕の罪数ポイントが間違っていたということなのか。それでスロットを回したら[禊ぎ終了]って出たんだ。
「ということは、マルギットさんと同じ事になっているのか」
「いいえ、それ以上でした。先程データを調べてみたところ、当時マサト様の罪数ポイントを私が入力したデータが実際の罪数ポイントに比べ・・・・・・二桁ほど多かったのです」
「ふ、二桁?」
文字通り桁違いだ。マルギットさんと同じ状態かと思ったら、少しってレベルじゃ無かった。
「な、何でそんなことに?」
「当時のことを思い出してみたところ、罪数ポイントの入力作業を行った段階ではミスは無かったかと存じます。その時はマサト様専属に抜擢されたリナにも確認して頂いたので間違いないはずです」
そう言ってから、神様は僕から少し視線を外し口ごもりながら続きの言葉を述べた。
「あの時は初めての作業に気分が舞い上がっており、入力作業を確定するためにテンキーのエンターキーをタターン!と押してしまい、どうやらその時に3のボタンも一緒に押していたようなのです。・・・先程、本来の罪数ポイントの後ろに続けて33が追加されていたのを確認致しました・・・」
「私も確定後の入力内容の最終確認を行わず、ハナ様におめでとうございますと言祝いでいました・・・」
神様と同じようにリナさんも少し僕から視線を外しながら、神様の話に補足するように呟いた。まさかの神様がドジっ子だった。リナさんはうっかりさん。
「でも、それって僕の罪数ポイントの最大値をミスしたってだけで。あっ、スロットの液晶表示の残罪数ポイントがマイナスになってたって事は、もしかして超過してるってことですか?」
「左様に存じます。マサト様の罪数ポイントは既に大元の8倍ほど超過しており、本来であれば・・・1400年ほど前に禊ぎが達成済みとなっておりました」
8倍・・・そして1400年前に既に禊ぎは終えていたのか・・・。僕は自分でも遠い目をしているんだろうなーと自覚しながらも呆然としてしまった。
「誠に申し訳御座いません」
「「「申し訳御座いません」」」
神様とバニーさん達は揃って土下座していた。普通なら怒りに血が上って感情のまま罵倒するのかもしれない。だけど、ここでは感情が抑制されていて怒ることは出来ない。でも、それ以前に神様やバニーさん達に先程から謝られ、心底反省しているところ見せられては、ここで怒ったりしたら格好悪いと思う。あと個人的には怒る要素がそれほどないって事もあった。
「えーと、謝罪を受け入れますから、どうか頭を上げて下さい」
「しかし・・・」
「神様に頭を下げられるどころか土下座までさせてしまっては、落ち着きませんので。どうかお願いします」
頭を上げて貰うよう見えていないだろうけど、土下座じゃ無いけど僕も頭を下げる。僕が頭を下げたのを感じたのか、ようやく神様、その後にバニーさん達が頭を上げてくれて僕と目を合わせてくれた。
「ありがとう存じます」
「いえ、確かにショックでしたが、怒っていませんよ。ドジだなーとかは思いましたが」
「うっ」
神様は顔を赤くしながらこちらを上目遣いで見ていた。正直萌えそう。見た目の年相応な雰囲気で凄く可愛いと思う。でも多分、怒ってないと信じて貰えていないだろうな。逆の立場なら僕でもそうなると思う。
「多分怒ってないと信じて貰えていないと思うので、こちらからもその理由を言っても良いですか?」
「はい、勿論です。お願い致します」
「僕自身が前の召喚でやらかして、間違えていた罪数ポイントで納得していたということ。それ位僕が迷惑を掛けたと思っていたので、正直200年で精算出来ていたということに驚きました」
これは本当にそう思う。地球の刑罰でも殺人とかしたら寿命があるのに何十年も刑罰がある。僕の場合は僕が与えた知識が原因で何千もしかしたら何万の人達が死んだことになる。それなのに、魂だけの存在だとはいえ、ここにさえ戻って来たら以前からの記憶もある状態でずっと消滅することもなく罪を精算出来るんだから、間違っていた罪数ポイントでも良いとさえ考えていた。そう思ったことも神様達に伝えた。
「それにさっきですが、前回の禊ぎで魔王に転生したときの配下に会いました。彼は僕に感謝の言葉を贈ってくれました。ありがとうって。ここで出会ったことは偶然だとしても、もし神様が入力ミスが無かったらその偶然さえ無かったんです。ありがとうございます。こんな僕でも感謝して貰える事が出来るんだと知ることが出来ました」
僕にお礼を言われるとは思わなかったのか、神様はポカーンとした顔をしていた。リナさんは少し涙ぐんでいた。
「そして最後に、皆さんが心底反省いるのはよく分かったのでこれ以上の謝罪は要りません。それにここで怒ったら男が廃るってもんです。少しは僕に格好付けさせて下さい」
僕は少しテレながら伝えたいことを言い切った。これで僕が怒ってないことが伝われば良いんだけど。だけど、みんなの表情を見るとさっきまでと違うからきっと伝わったんだろう。
「ありがとう存じます。この世界に来られたのがマサト様で本当に良かったと嬉しく存じます」
神様は僕ににこやかに笑いかけた後、今度は土下座では無く手のひらを膝の上に乗せてお辞儀をしてくれた。
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