第6話 お姉さんと良いことしましょう

 ロマーナさんに大まかな説明が終わった。ロマーナさんは聞き取りをしながらクリップボードに挟まれたメモ帳に記述し、今は難しい顔でそれを眺めていた。僕はすることがないので、そんなロマーナさんを見ていたら、ドアをノックする音が聞こえた。


「はい、どーぞー」

「失礼しま~す、お茶をお持ちしました~」


 ロマーナさんが返事をすると、バニーさんが盆の上に湯飲みを2つ載せてドアから入って来た。え、湯飲み?しかもトレイじゃなく、漆の盆だ。そして湯飲みが僕、そしてロマーナさんの前に配られる。湯飲みの中のお茶は緑茶にしか見えなかった。


「え、緑茶?・・・いただきます」


 ズズズっと飲んでみると、やっぱり緑茶だった。久しぶりに飲む緑茶はもの凄く美味しく、何だかホッとする味だった。


「これ美味しいよねー、ここの神様がね、君がこの世界に来てここに来る経緯とかを調べてたら、君が元々居た世界の国に興味を持ってね。色々取り寄せたんだよ」

「へぇ。でも、僕の国の飲み物を神様が気に入ってくれたのなら嬉しいです」


 そうか。神様が緑茶をねぇ。やっぱりお爺さんなのかな。前に召喚された世界の神様もお爺さんだったし。


「それで、リナ・フレイヘドへの確認とスロットの調査は進んでる?」

「ハッキリと結果は出ていませんけど、恐らく最悪の結果じゃないかと~」

「あ~やっぱりか~!」


 ロマーナさんが、たはーっという感じで額に手を当て天を仰ぐ。話の内容が気になったけど、リナさんよりも大きい胸が突き出されて、マジマジと見てしまいそうになったので僕は黙って目を逸らすことにした。逸らした先に居たお茶汲みバニーさんに丁度良いのでリナさんの調子を聞いてみることにする。


「リナさんはもう平気なんですか?」

「ええ、元気元気ぃー・・・とはさすがに言えませんが、病気などではなかったので、今はリナに話を聞いている最中ですよ~」


 リナさん、体調不良じゃなかったのか。良かった。僕はホッとして笑みを浮かべたんだけど、バニーさん2人は申し訳なさそうな顔をしてこちらを見ていた。


「え、何ですか?」

「ごめんね、マサトさんに事情を説明したいんだけど、確定じゃないから言えないんだよね。もう少しだけ待って!この通り!」


 ロマーナさんは手のひらを合わせてお願いしてきた。そして手のひらをナナメにして、ねっ?って感じに上目遣いでこちらを見てきた。中々あざといな、ロマーナさん。


「ええ、分かりました。それで、ここで待っていれば良いんですか?」

「うん、それでお願い。待ってる間、暇だろうからお姉さんと良いことしましょう」


 そうロマーナさんがいうと、胸の谷間に指を突っ込み・・・ゴクリと僕が喉を鳴らしていると・・・トランプを取り出した。ほんと、あざといなこの人。


「じゃあ、調査とか終わったらまた来ますね~」

「お願いね~」


 お茶汲みバニーさんがロマーナさんに挨拶した後、こっちに手を振って退室していった。さて、ロマーナさんと良いこと《トランプ》でもしようか。そういえば転生や召喚された時ならともかく、自分の記憶を持ったまま遊ぶのは本当に久しぶりなので、ちょっと楽しみになった。


「ゲームがより盛り上がるように何か賭けよっか」


 僕が少しわくわくしていると、ロマーナさんがカードをシャッフルしながら、そう提案してきた。


「賭けると言っても僕お金とか持ってませんよ?」

「じゃあ、負けた方が1ゲーム毎に1枚脱ぐ」

「さぁ、ゲームを始めましょう」


 即答した。僕にはメリットしか無い。



                     ◇



「ど~ぞ~」

「失礼しま~す」


 ドアをノックする音が聞こえ、ロマーナさんが返事をした。ドアを開けて入って来たのは先ほどのお茶汲みバニーさんだった。


「何してるんですか?」

「ブラックジャックです」


 僕は不思議そうに見ているお茶汲みバニーさんに目を合わせ簡潔に答えた。そしてまた手札に視線を戻す。


「え~と、その格好は~?」

「お構いなく」


 僕の格好の事を言っているのだろう。何も問題は無い。単にパンツ一丁ってだけだ。この結果は・・・うん、知ってた。カジノのバニーさんが相手なのだ。相手はプロ、こちらは素人だ。

 だけど、こんな美女の前で合法的に裸になれるとか、ご褒美だろう。そうさっきまで思っていた。だけどさっき負けてトランクス1枚になったあとにソファーに座ったら・・・


「ほほぅ、なるほど・・・」

「何か?」

「隙間から見えてる」


 そうロマーナさんに指摘されてから、感情が抑制されているはずなのに妙に恥ずかしくなって、今ではソファーに正座していた。


「まだ報告に来ないし、このままもう1ゲームしよっか」

「マジデスカ」

「それに良いの?わたしに1度も勝てないまま終わって。そうだね、次にマサトさんが勝ったらカフスや蝶ネクタイじゃなく・・・ボディスーツを脱ぐわ」

「さぁ、早く配ってください」


 というやり取りがあって現在に至る。そして僕の手札はハートの2とハートの3。そして先ほどヒットして配られたカードがハートの7。これで合計12。どうしてだろう、次ヒットしたらバーストする未来しか見えない・・・。そして何故かハートで揃ってるのが忌々しい。


「調査結果が出ましたので、暇つぶしはこれくらいにして下さいね~」

「そっか~、ざ~んねん」


 ロマーナさんは伏せていたカードをめくり両手を上に上げた。オープンされたカードはハートのクイーン。元々表向きになっていたカードはハートのジャック。完全に手のひらの上で遊ばれていた。ハート三昧だし。僕はお茶汲みバニーさんに深くお辞儀する。


「ありがとうございます。本当に助かりました」

「いいえ~、お構いなく~」


 頭を上げるとそんな僕たちを、ロマーナさんがちぇーって拗ねた感じで見ていた。なんだろう、飢えているんだろうか。


「それで~調査結果なんですが、さっき言ってた事の裏付けが取れました~」

「あー、やっぱりかー。・・・上には報告した?」

「勿論です~、既に執務室でお待ちしてますよ~」


 スロットを壊したことが上司にまで伝わったのかなー。これは怒られるんだろうなーと、僕は肩を落としながら2人の会話を聞いていた。


「それじゃあ、案内するから一緒に行きましょうか」

「ええ、構いませんが。その上司さんに会うんですか?」


 ロマーナさんに促されて立ち上がりドアに向かいながら質問をすると、ロマーナさんはにこりと笑いかけながらこう言った。


「そ。ここの神様にね」

「そうなりますか・・・」


 肩を更に落としながらドアから出ようとしたところで、お茶汲みバニーさんから一言こう言われた。


「服、着ないんですか~?」


 危うくトランクス1枚で神様と会うところだった。

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