みんなが主人公2

まや2

ある城の熊の本音

 良い主君に仕えられることは臣下にとって最高の幸せだ。

 我が主君は百獣の王に相応しい力と貫禄を持っていて、そのうえ慈愛まで持ち合わせている最高の主君だ。

 そんな主君のすぐ側に仕える重要な門番役に私を任命してくれた。

 仲間は私よりも屈強な戦士達だが、彼女らではなく私を選んでくれたのは、すごく、すっごく嬉しかったんだ。

 おっと言葉が崩れちゃった。まあいっか。あるじもたまに私達に隠れてダラダラごろ寝してるの知ってるし。時代劇ごっこって言うんだっけ? 楽しいよね。



 いざという時のために毎日お城の中のからくりを使っての鍛錬は欠かさないんだけど、合戦が始まっても誰も城内にまで遊びに来てくれないから、自分の強さがいまいちよくわからないんだよね。

 終わって帰ってくる仲間はいつもヘトヘトだから、仲間が強すぎるわけでもヘラジカさんたちが弱すぎるわけでもなくてほぼ互角なんだろうな。あるじと同じくらい強いって評判のあのヘラジカさんを相討ちで追い返しちゃう仲間は尊敬するし、稽古もつけてほしいけど、これ以上疲れさせてもいけないよね。ゆっくり休んでもらってる間にみんなの分の兵糧をボスからもらってきて、一緒に食べながらその日の武勇伝を聞かせてもらって、鍛錬の足しにしてるんだ。

 たまに体が鈍るからってあるじが遊ん……稽古をつけてくれるけど、やっぱりあるじは強いな。私ももっと鍛えなくちゃ。



 ある日、仲間が捕らえてきた子の提案で合戦がちょっと面白いルールになって、ついに敵将のヘラジカさんたちが城内まで来てくれたんだ。……大将なのに先陣切って名乗りを上げながら乗り込んでくるって、あの武勇伝はてっきり誇張だと思ってたよ……。

 やっと鍛錬の成果を試せると思って喜んでたら、ヘラジカさんの臣下のパンサーカメレオンちゃんに足止めされた上にあっさり負けちゃった。もちろん油断のせいもあったけど、今までの自分の鍛錬では想像もつかないすごい戦法で攻められたから、思わず感動しちゃって、悔しいなんて気持ちには全くならなかったな。忍者ごっこって言うんだって。こっちも楽しそう。

 彼女ともすぐ仲良くなったし、あるじとヘラジカさんも意気投合して次の合戦はみんなで外で遊ぶことになったし、いろんな子と仲良くなれたらいいな。



 後日、見えない相手との戦い方を鍛錬に取り入れてみたら、なんか世界が変わったくらいメキメキ強くなっていく感じがしたんだ。

 調子に乗ってあるじにたーのもーって稽古つけてもらったけど、あるじも前よりさらに強くなっててコテンパンにされちゃった。あるじもヘラジカさんとの戦いで世界が変わったのかな。そういう関係っていいなあ。

 でも、あるじに前よりもずっと爪に磨きが掛かったって褒められちゃった。もう合戦には関係ないけど、これからももっともっと鍛錬がんばろうっと。



 またある日の夜、いつものように兵糧をもらいに行ったら、ボスが突然光り出して、あの子が、楽しい合戦のルールを考えてみんなと仲良くさせてくれた素敵なあの子が、ピンチだって教えてくれたんだ。ボスもしゃべれたんだね。

 大急ぎでボスを抱えてあるじに知らせに行ったら、あるじが今まで見たこともない恐ろしい顔をして、聞いたこともない大きな雄叫びを上げて、仲間とヘラジカさんたちを招集したんだ。

 ものすごく怖かったけど、あの子も仲間の一員だって認めてくれてたこと、仲間のためにこれだけ怒ってくれたこと、ものすごく嬉しかったな。一生ついて行きます。


 あの子の仲間のおかげで現地に着いたものの、あんな大きくて強い敵は見たことも、当然戦ったこともない。でも、あるじも仲間もいるし、あの子の仲間も大勢いるから怖くはない。こんなに集まるなんて、やっぱりあの子は素敵だな。鍛錬はたくさん積んだけど実戦経験はほとんどないから、みんなの足手まといにならないように精一杯戦おう。

 辺りを見回したら、あの子の仲間に私と同じ熊のフレンズもいるんだな。あるじと同じかそれ以上の力強さが毛皮に伝わってくる。あのあるじと何度も爪を交えた私にはわかる。彼女は私みたいなごっこ遊びじゃない、歴戦の戦士だ。種は違うのに、なんだか私まで心強くなる。


 でも、その彼女ですら敵のあまりの堅さに爪が立たず、あと一歩の所でついに折られちゃった……。彼女の爪が通らないのなら、たぶんこの場の誰でももうどうにもならないかも……。

 そんな心配そうな私の視線に気づいたのか、彼女がこちらにやってきたんだ。どうやら私の爪を貸してもらいたいらしい。……ああ、これって貸せるんだね、初めて知ったよ。私の腕力と経験じゃどのみち敵には通らないし、喜んで貸したけど、私の爪なんかで大丈夫なのかな。

 だけど、彼女はたった数回振り回しただけで、さっき折れた自分の爪よりも三日月のように研ぎ澄まされてる、これなら確実に行ける、と太鼓判を押してくれたんだ。実戦経験もろくにない私が、歴戦の戦士に認められた。今までの鍛錬の全ては無駄じゃなかったと言われた気がして、すごく、すっごく嬉しかったんだ。

 これも全てあるじと仲間、そしてあの子のおかげだな。この戦いが終わったら、みんなに今まで以上に精一杯お仕えしよう。こういう言い回しは戦場では不吉だってあるじに注意されたこともあったけど、残念でした、もう負ける気は全くしないよ。


 では、主君の手前、最後に気を引き締めて……


「ものども、私について参れーー!!」

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