閉じ込められたかばん
けものフレンズ大好き
閉じ込められたかばん
ジャパリパークには今なお様々な遺跡が残されています。
人間がいた頃はそれが日常的に使われていたのですが、今は誰にも使われず、その用途さえ理解されていない物も珍しくありません。
それはかばんちゃんにとっても同じで……。
「あれ、ここはなんだろう?」
かばんちゃんはある小さな、小屋のような建物の前で足を止めます。
ここはジャパリパークのどこか、かばんちゃんはサーバルちゃん達と別れ、手分けして水場を探している途中でした。
「この中に水があるとは思えないけど……」
念のため、かばんちゃんは扉を開け中に入って確認をとります。
「やっぱり何もないか……それにちょっと汚いかな」
かばんちゃんは何もないその空間から、すぐに出ようとしました。
しかし――。
「あれ!?」
入るときは簡単に開いた扉が、出るときはうんともすんとも言いません。
力尽くでノブを回しても、押しても引いてもびくともしない扉。
加えて窓もはめ殺しで、よじ登って出ることもできません。
「誰かー! 誰かいませんかー!?」
力の限り叫びます。
「誰か私を呼びましたか?」
捨てる神あれば拾う神あり。
たまたま近くを通りかかっていたフレンズが、かばんちゃんの助けを聞いてくれました。
「どなたか知りませんが助けて下さい! 扉が開かないんです!」
「扉……いいでしょう」
空を飛んでいたそのフレンズは地面に降りると、扉のノブを思い切り引っ張ってみます。
しかし、あれだけ簡単に開いた扉が、今は外からでもびくともしません。
「どうですか?」
「駄目ですね。全然開きそうもありません」
「そうですか……。その、こっちも中で色々調べてみます」
「はい」
「あ、ところであなたは?」
「ハシブトガラスです」
「それじゃあハシブトガラスさん、ちょっとそこで待っててもらえませんか」
「分かりました」
かばんちゃんは急いで中を捜索します。
実はこの小屋、多目的トイレで、この場所は昔ジャパリバスのパーキングエリアでした。
それがもう随分使われなくなり、色々ガタがきてこのような状態になってしまったのです。
ただ、どんなに風化しても、もしもの場合の装置はちゃんと残っていました。
「これは……」
かばんちゃんは壁に書かれていた注意書きを発見します。
そこにはもし閉じ込められた際の、脱出方法も書かれていました。
「あの、ハシブトガラスさん」
「なんです?」
「外に黄色いボタンがあるらしいんですが、それを押してもらえませんが?」
「え、き、え……?」
ハシブトガラスちゃんは言葉に詰まります。
本来カラスは人間より色が余計に認識でき、フレンズ化して認識できる色が増えた動物たちと違い、減りはしませんでした。
ただ、見えすぎるのが原因で、未だに認識できない色がいくつかあったのです。
その1つが黄色でした。
それでもプライドの高いハシブトガラスちゃんは、そんな弱点があることを認めるわけにはいきませんでした。
持ち前の頭脳を振り絞って、なんとかそれがバレないようにボタンの情報を引き出そうとします。
「え、っと……その……う、上から何個目ですか?」
「何個かあるんですね。でも、そこまでは書いてないですね」
「か、形は?」
「それも書いてないです。とりあえず適当に押してみてくれませんか?」
「え、あ、分かりました……」
ハシブトガラスちゃん、とりあえず目に付いた赤いボタンを押してみます。
『当パークにご来場有り難うございました。このエリアでは主に……』
意味のない館内アナウンスが虚しく流れます。
「違ったみたいですね」
「は、ははは、紛らわしい事をしますね!」
それからハシブトガラスちゃんは、失敗を誤魔化すように矢継ぎ早にボタンを押します。
けれど、外の灯りが灯ったり、トイレの壁から長い棒が突き出たりと、どうでもいい機能が働くだけで、一向に扉は開きません。
「……駄目そうですか?」
「いえ、かなりいいところまできてますよ。あともう一息です」
ハシブトガラスちゃんはそう答えますが、一息どころかもうお手上げ状態です。
このままでは駄目カラスとして、パーク中に名前が知れ渡ってしまう――。
「ふふふ……これさえ、これさえ押せば………」
追い詰められたハシブトカラスちゃんは、ちょっと危険な状態です。
「あ、あの……」
なんとくな危険を察知したかばんちゃんは、ハシブトガラスちゃんに優しく言いかけます。
かばんちゃんにも、言葉と違ってハシブトガラスちゃんがかなり苦戦していることは容易に想像出来ました。
ただ、色が分からないとは全く思っていません。
それが2人にとって幸いでした。
「その、ひょっとしたらととても見えにくい位置にあるんじゃないでしょうか? 外から開けられるボタンが簡単に押せたら、すごく迷惑ですから」
「え、見えにくい位置……」
言われてハシブトガラスちゃんは頭の上や足元を調べると、ちょうどつま先の位置辺りに、よく分からない色のよく分からない何かがありました。
見えにくい位置にある、ほぼ見えにくいどころではないほぼ見えない何か。
ハシブトガラスちゃんは藁にもすがる思いでそれを蹴ります。
すると、今までびくともしなかった扉が簡単に開きました。
「ありがとうございます! 助かりました!」
「なに、フレンズとして当然のことをしたまでです」
ハシブトガラスちゃんは背中で答えます。
嬉しくて泣きそうだったため、顔は見せられませんでした。
「それでは私はこれで失礼しますよ」
「はい、さようなら」
ハシブトガラスちゃんは最後はかっこよく飛び去ろうとします。
しかし――。
「カァー!」
「ああ、ハシブトガラスさん!?」
適当にボタンを押したせいで飛び出た棒に頭から思い切りぶつかり、そのまま地面に落ちてしまいました。
最後の最後で締まらないハシブトガラスちゃんでした。
おしまい
閉じ込められたかばん けものフレンズ大好き @zvonimir1968
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
ネクスト掲載小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます