お仕事見学でも駄女神だよ

 やってきました異世界さん。

 女神だけが入ることを許される女神空間に、俺と駄女神三人が到着。

 高級ホテルのスイートのような場所で、現地に派遣された女神が出迎えてくれた。


「ようこそ、この世界担当女神のティーナです」


 薄く白に近い水色の髪で、巫女のような服を着た美女。

 見た目だけならこの中で一番年上っぽい。

 そんな女神だ。多分会ったことはないだろう。


「今日はよろしくお願いします」


「お願いしまーす!」


 元気に挨拶する駄女神一同。

 さて聞いておかなければならないことがある。


「今日はありがとう。クラリスからお願いされたって聞いたけど、あいつ無茶してないか? 無理矢理ねじ込んだのなら、後で俺が言っておく」


「いえいえ、クラリスとお友達なんですよ。普通に菓子折り持ってお願いに来ましたよ」


 どうやら余計なトラブルは起こしていないようだ。

 あいつ俺絡みでテンション上げすぎる所があるからなあ。

 ちょっと心配だったのさ。


「それにしても……うーん?」


 なんかじろじろ見られている。

 不思議そうに首を傾げているな。


「どうした?」


「クラリスからお話は聞いています。いくつもの世界を救った勇者様だと。ううーん……なんというか、強さや魔力が伺えませんね……動きも武術とかではないようですし、猛者特有の何かが感じられないというか」


「先生はそういう人ですよ」


「最初は誰でもそう思うものですわ」


「別に俺のことはどうでもいいさ。駄女神が成長すればよし。仕事を見せてくれ」


 強さを誇示する意味がない。強いと思われたくて勇者やってるわけでもない。

 さくさく仕事を見学しよう。


「わかりました。では魔水晶で勇者たちを映します」


 水晶玉が光り、空中に男女四人組が映し出された。


「男二人に女二人か」


「幼馴染らしいですよ」


「この水晶玉で監視するのですね」


「こういうものが女神空間には常備されています。使いこなせば便利ですよ」


 使い方も説明してくれる。

 熱心に聞き入る駄女神たち。やる気があるようで何よりだ。


「ちょっとぼんやりしてるわね。解像度上げられない?」


「使い込んじゃってますからね。新しいのは申請していますが……」


 確かにちょっとぼんやりしていて見づらい。

 なるべくくっきり見せたいし、俺がなんとかするか。


「んじゃテレビに映そう」


「はい?」


 無から薄型巨大液晶テレビを錬成。

 そこからケーブル引っ張って水晶に挿す。

 これで画面に綺麗に写った。


「…………えぇ?」


 ついでにリモコンも錬成しておこう。


「これでチャンネル変えれば角度も変わるぞ」


「いい仕事ですよ先生」


「うえええええええぇぇぇぇ!?」


 ティーナがうるさい。声がでかいよもう。


「何よ急に大きい声出して」


「いや、ええ? テレビ? いや水晶だし……」


「落ち着けって」


「落ち着けるわけ無いでしょう! 何やったんですか! 意味わかんないです!!」


「先生はそういう人です」


「どういう人ですか!?」


 なんか混乱している。クラリスから話を聞いているらしいのに。


「安心しろ。水晶玉はもう一個同じやつを作った。何かあればこっち使え」


「だからそれ女神界の技術を集めた……ああもうなんですかこの人は……」


「別に先生は勇者なんだし、このくらいできていいんじゃないの?」


「できませんよ! みなさんおかしいです!」


 言っていたら勇者パーティーが戦闘に入った。

 前衛二人。後衛二人か。バランスいいな。


「お、結構強いな」


 木でできた怪人みたいなやつを、バッサバッサと切り倒していく。

 基礎ができている動きだ。そこに冒険での経験が上乗せされているな。


「聞いてますか? いくら勇者といえど……あれ? そういえばどうやって出したんですかこれ?」


「勇者ならできて当然では?」


「みなさんの常識はおかしいです。勇者ってそういうものじゃないでしょう」


「大丈夫ですわティーナさん。わたくしも通った道ですもの」


「その暖かく見守る目はやめてください……」


 勇者が街に入ったか。

 装備は使い続ければ成長するタイプっぽいし、防具と道具の調達だな。


「あの武器が加護か」


「はい、本人が呼べば手元に来る、成長し続ける武器です。全員に身体能力の向上と、魔法の才能も付与してあります」


「結構スタンダードな勇者だな」


「この世界はそれほど難易度が高いわけではありませんから」


 まあ普通の異世界だな。

 特筆すべき強敵はいない気がする。


「加護を与えたら見守る。本当に危なくなったらお告げとかするんだ」


「基本見てるだけなのね」


「それで解決する世界も多いしな」


「危ないときって?」


「明らかにレベルに合わないダンジョン行こうとしたり、どっかの国が滅ぼされそうとかだな」


 あまり口出しし過ぎても成長を阻害します。

 よって見極めが肝心。


「じゃあ次のダンジョンに行く勇者を観察しよう」


「ではまた明日ですね」


「いや、ここだけ時間の流れ変えりゃいいんだよ。今日はもうやることないんだろ」


「はい?」


 ちゃちゃっと外との時間の流れを変える。

 勇者たちが宿屋に入ったのを見たらブラックアウト。

 プライバシーとかあるからね。


「で、出発から見たらいいんだよ」


 この世界の流れは把握している。

 もうこっちサイドにやることはない。

 さっさと次にいこう。


「えぇ……もうどういう……ああはい勇者ですもんね」


「ティーナさんが壊れかけていますわ」


「クラリスが絶対に勝てないと言っていた理由がわかりかけてきましたよ」


「今回結構勝手するわね」


「クラリスから手伝ってくれって言われてるんだよ。見学のお礼みたいなもんさ」


 なのでできる限り設備とかは改良して、今の時間早める技術もリモコンに入れておく。

 わざわざ面倒事に付き合ってもらっているので、そこは協力したい。


「まさかここまでぶっ飛んだ親切に遭遇するとは……実際助かりますけれど」


「助けられたならよかったよ。はいじゃあここから女神として、どう見守るか。その準備をどうするか考えてみよう」


 ここから授業に入る。今回は見守る女神という設定だ。


「まずダンジョンのマップよね」


「お、いいぞ。迷ったときの案内とかできるな」


「敵の種類の把握でしょうか?」


「別の国が襲われているか監視するというのはどうですの?」


「ありだな。けど各地の異常はセンサーとかあったよな?」


「はい。ピンチになると部屋に警報が鳴るはずです」


 女神界の技術は日々進歩している。

 より効率よく勇者をサポートし、世界を救えるようにだ。


「そういう機能があるから、今回はダンジョン対策だ」


「どうやら炎のダンジョンみたいですわ」


 溶岩が流れる洞窟だ。汗をかきながら探索する勇者が見える。


「水場のお告げはどうですの?」


「いいね。水筒持ってるみたいだし、水魔法も使えるみたいだから、本当にギリギリで教えような」


「パーティーの魔法って説明しましたっけ?」


「ステータス見といた」


 レベル30くらいだな。順調に育っているようで、洞窟の敵から見ても、簡単には負けないだろう。


「他にあるか?」


「うーむ……なんでしょう?」


「敵の種類やトラップの注意?」


「それはできれば勇者たちに気づいて欲しいかな」


 さじ加減の難しい問題だ。だが勇者を気遣う事ができている。

 そういう心が大切なのだ。それを学んで欲しい。


「敵に対しては氷魔法をぶつけていますね」


「うむ、ありきたりだが弱点だし」


「攻撃も効いていますわ」


「そっちは私の加護です。確実にダメージが入るようにしました」


「慎重に行動すれば安全に見えます」


 ところがそうでもない。勇者の旅は危険がいっぱいだ。

 人型の溶岩みたいな敵に炎を浴びせられ、前衛の男が負傷。


「あっ! どうするの? 助ける?」


「落ち着いて見守るんだ。敵は倒したし、応急処置もしているだろ」


 戦闘終了後すぐに冷やしながら回復魔法をかけている。

 冒険の日々で慣れたのだろう。なかなかに素早い手付きだ。


「人間はちょっとしたことで動けなくなるし、死にやすい。俺を基準にしないように」


「今の炎でも死にかけるのね」


「体が四割くらい焼けたらもう助からない。魔法があればちょっと事情は変わるけれどな」


「人間の脆さを考慮する必要がありますね」


「確かあれよね、内臓とか怪我するともうきついんでしょ?」


「おう。授業でも人体については軽くやっただろ」


 女神ってのは千差万別で、臓器が存在しないやつだっている。

 そもそも頑丈だし、宇宙や水中に適正がある個体もかなり多い。

 なので人間の弱さを知らないものもいる。


「ファンタジー世界なら魔法で治せる場合が多いけど」


「現代社会だと厳しいって習いました」


 意外にも現代社会というのは脆い。

 傷薬でも数日は怪我の回復に要する。

 内蔵なんて手術しても助からないケースだってあるし、病気も全種類特効薬があるわけじゃない。


「回復魔法や特殊アイテムがある世界ってのは、実は怪我だけなら地球タイプよりも治せる可能性も、回復も早かったりするのさ」


「逆に魔法頼りだと、衛生面や病気への対処が遅れがち、ですわね」


「そういうこと。学習の成果が出てきたな。偉いぞ」


 地球とそれ以外の異世界は優劣というよりは別個のものだ。

 どちらにも特徴があり、長所短所がある。

 そこは地道に学習するしかないかな。


「ふふっ、本当に学校なんですね」


「何の因果か先生なんぞやってるよ」


「できれば教わることがある限り、ずっと教えて欲しいですね」


「俺の胃がぶっ壊れるから却下だ。ずっと駄女神の相手なんぞしているとおかしくなる」


 冒険していた時代もきつかったぞ。

 駄女神と一緒に世界を救ったら次も駄女神とか。

 そうじゃないだけ有情なのかもしれないな今って。


「あら、でも勇者さん楽しそうですよ。いい先生って雰囲気でしたし」


「そうか?」


「はい!」


「感謝していますよ」


「そうね、そこは認めるわ」


「これからもよろしくお願いしますわ」


 ちょっと楽しいのは認めるよ。

 今までは冒険しつつ改善するというパターンだったからな。

 こうやって学校で女神に教えるという状況は新鮮で楽しい。


「まあお前らはきっちり立派な女神になってもらう……とか言っていたらもう最下層が近いぜ」


 さくさく進むな勇者一行。

 もうボスの手前まで来ている。

 どうやら結界張って休むみたいだ。


「ここからはボス戦とその準備を見ていこう」


 教材にもなるし、単純に応援しているぞ。頑張れ現地勇者。

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