主人公補正でも駄女神だよ
はい、おなじみの教室におなじみのメンバーです。
さて今日は座学でもしようかね。
「えー今回は勇者のピンチに対してどうするかを考えるぞ」
「どうするって?」
「多少ピンチになったからって助けると、勇者の成長を阻害します」
全部女神がやってはいけない。
人間の世界は人間が守るのだ。
「ほどほどに見捨てるのね」
「言い方悪いがそういうことだ」
「あくまで人間に倒させたいと」
「そうだ。女神ってのは派遣されているものだ。別の世界を救うため、移動もあるし、まず拠点が女神界だろ」
魔王や邪神を倒すところまでサポートし、そこからは育った勇者と現地人で平和な世界を過ごして欲しい。
そのサポートができないから駄女神なわけだよ。
「で、勇者パーティーがピンチになることもある」
「死んじゃったらおしまいよね」
「だな。だから覚醒させる。勇者の秘めたパワーを引き出すのさ」
「具体的にどうするのですか?」
「覚醒とかさせたい時に便利なのが主人公補正だ」
今日の授業はこれについてやっていく。
覚えておくとピンチをチャンスに変えられるのだ。
「漫画とかゲームにあるやつよね?」
「そう、あれだ。あれを自在に使えるようにする」
「漫画に詳しくないのですが……」
「わたくしもわかりませんわ」
女神も全員がサブカルにどっぷりじゃないからな。
ここは順を追って説明しよう。
「主人公が大ピンチな時に、ヒロインの応援とか、武器が光り輝いてとか、とにかく不思議な事が起きて秘めた力が目覚めたりするやつだ」
「なんとなく……わかるような……」
「あとでサファイアに漫画でも借りろ」
「覚えておきますわ」
「正直最強の能力だ。これが使いこなせれば、相手が最上級の神じゃなきゃワンチャンある」
ここから実践していこう。
まあ見てもよくわかんないだろうけどさ。
「俺に軽く攻撃魔法撃ってくれ。ランダムで主人公補正を使うから」
「こう?」
なんの躊躇いもなく魔力弾撃ってきたな。
手加減しているのはわかるし、俺なら怪我しないという信頼だろう。
なら応えてやろうじゃないか。
「そう、で……不思議なことおこれー」
俺に着弾する前に、ふわりと一陣の風が舞い、攻撃魔法をかき消した。
みんな驚いている。ここからちゃんと説明しよう。
能力のひけらかしが目的じゃない。
「今のは何ですか?」
「多分魔法をかき消す特殊な風が、偶然運良く俺の前に吹いた」
「先生が魔法を使ったのでは?」
「いんやなーんにも。強い勇者は今の風を浴びたことでパワーアップしたりできるぜ」
「なんて都合のいい……」
使っていて反則だと思いました。
改めて考えると理不尽極まりないな。
「もう一回やってみ」
「女神弾、弱め!」
サファイアの魔力を、どこかから差し込んだ陽の光が照らして消す。
「光に飲まれましたわね」
「今回はかき消すシリーズっぽいな」
「シリーズて……他にもあるの?」
「あるぜ。魔力の効かない体になるとか。突如伝説の鎧が防いでくれるとか」
「何でもありですわね」
ちょっと敵に同情してしまう。こんなん勝てないわなあ。
「修行すれば任意の効果で連発できる。ここまでくるとほぼ負けない。代わりに同じことができる勇者に会うと厳しい」
「勇者同士の戦いは壮絶になりそうですね」
「練度にもよるがな。ちなみに主人公補正が一番強い。その下にご都合主義と後付設定がある。今やったのは複合型だな」
「興味深いですが、まったく未知の領域ですね」
「広く普及している概念じゃないからな。授業だから特別に教えている」
そこから特訓や激闘にて覚醒するパターンなんかを説明。
意外にも漫画知識かサファイアの補足でスムーズに進む。
「こうして強い勇者は作られていく。女神が全部やらないように。適度な試練を与えるんだぞ」
「はーい」
「勇者も大変なのですね」
「大変だぞー。マジで面倒事に首突っ込むからな」
命の危機に陥ろうとも、悪を倒し、誰かを救う。
弱いままではいられない。そんなお仕事です。
「勇者になるために、何か条件や心構えはありますか?」
「勇者たるものこうあるべし、とかないの?」
「なりたきゃなっちまえばいいんじゃね」
「軽いわね……」
「いいんだよ、なりたいから勇者とか英雄やってますで。屁理屈こねたって、結局自分がやりたいからヒーローとかやるわけだ。俺も勇者になりたかったからやってるし」
やりたくないもんなんて続かない。
自分がどう思うかが大切なんだよ。
でなきゃ死にかける勇者なんてやっちゃいない。
「それだけでは勇者とは呼べないとか、訳知り顔で言うやつがいるじゃない。なろうと思ってできるほど簡単じゃない的な」
「知るか。強けりゃ救える命も増えるだろ。誰がどう評価しようが、救った命は救われたんだよ。俺が救った。それは俺が考える勇者だからな。全力でやるぞ」
「シンプルな思い故に強いということですか」
「わかりやすいだろ? 面倒な説明なんていらんよ」
複雑で難解でこんがらがった説明が偉いという風潮は何だろうな。
理屈ってのは、無傷で救われる命より立派なもんかねえ。
「勇者パーティーだって、どこまでも強くなる。限界なんて考えなくていい。だから見守ることも大切だぞ」
「了解です」
「ある意味信頼に近いですわね」
「似たようなもんだろ。ギリギリの勝負になるだろう。ちゃんと助けられるよう、お前らも強くなっとけよ」
ここまででかなり成長してきている。
それは間違いない。あとは勝負の勘を見に付けさせてやりたい。
「結局わたしも強くなんなきゃいけないのね」
「強くて損はないさ。そのためにも敵がいて欲しいが……どうすっかな」
「先生と組手をすればいいのでは?」
「俺とじゃ成長度がわかんねえだろ。バトルランクでも上げに行くか?」
ここにきて敵がいない問題に直面。
練習相手じゃない。敵だ。
明確に怪我するまで戦う敵がいない。
「バトルランカーか、もしくはクラリスのような武神でしょうか」
「クラリスか……それもなあ……」
「お呼びですか!!」
ドアをばーんと開けて入ってくるクラリス。
急だわ。急に来るなよ。なぜドヤ顔なのよ。
「呼んでねえよ。お前なんでそこにいる」
「先生に呼ばれた気配を察知しました」
「怖いわ」
「私が生徒を叩き潰せばいいのですか?」
「違うわ! ややこしくなるから帰れ!」
しっかり聞いて誤解している。
もうめんどくさいわあ。部屋の空気が緩んでいくのを感じるぞ。
「クラリスと戦ってもさ、なんつうか手加減されるだろ? されてもいいけど怪我もしない。ある程度ピンチになることが理想だ」
「手心が加わりますものね」
「つまり手加減無しで倒せばいいのですね? 先生のお望みとあらば」
「違う。お前も大概だな。落ち着け」
「結局どうすればいいの? 戦闘するなら女神界にどっかあるでしょ」
女神界は施設も多い。どこか戦闘に向いた場所、まあ俺がVRルームで作ればいいんだが、とりあえず個別に戦闘させてもダメだし……難しいな。
「正直よくわかんないのよ。勇者がどんなもんか、女神の仕事もわかんないし」
「カレンとクラリスだけが、実務を経験しています。私たちは想像で補うしかありません」
「なるほどな……行くか、お仕事見学!」
やはり知識だけじゃあいけない。
実際の戦闘や異世界ってもんを肌で感じる必要がある。
だがこいつらはまだ駄女神だ。
だったら話は簡単だろう。
「クラリス、女神女王神とも相談するけれど、どっか簡単な異世界に派遣されてる女神を見学できないか?」
「……なるほど、流石は先生! 柔軟で的確な発想! 素晴らしいです!!」
「面白そう! いいじゃないそれ!」
「他の女神を見学……興味があります」
「楽しそうですわ!」
生徒もやる気だ。ならばできる限り叶えてやろう。
「では私がどこかの世界を担当します! そこに……」
「それはダメだ。俺の強さを知らないやつで、できればこいつらも初対面がいい。なるべく公平に、お仕事感を出したい」
「なんて深い気配り!!」
「無理に褒めるのはやめろ。なんか怖いぞクラリス」
そんなわけでお仕事見学が授業に追加されることと相成りましたとさ。
これで立派な女神に近づいてくれるといいなあ。
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