真理も料理も駄女神だよ
授業のちょっと前。珍しく早く来ていたサファイアと暇潰しタイム。
「みずかがみ!」
「みみ」
「みとみつくに!」
「にがみ」
「またみ!?」
なんかしりとり勝負を挑まれたよ。
ちなみに八回連続『み』にしてやった。
意外と語彙力あるのねえサファイア。
「あーもうなんでそんな強いのよ!」
「俺にしりとりで勝てるわけ無いだろ」
「なんでよ!」
「世界の真理から引っ張ってきてるから」
異世界攻略の折、面倒だったり、できる限り早く救わないと危険だと使う奥の手だ。
「どういうことよ?」
「その世界が誕生してからの歴史というか、記録みたいなのがあるだろ?」
「……そういったものを世界の真理、真理に到達すると言ったりするやつよね?」
「そうそう、それぱぱっと読破して、そっから単語引っ張ってきてる。だから全世界の言葉を知っている前提じゃないと対等にならない」
「うーわ、きったないわね……真理なんて女神ですら発狂しかねない量のはずよ」
「勇者だからな」
「どこまでも卑怯ね先生……」
なんか呆れ顔半分、ふてくされ半分だな。
ちょっと大人気ないか。でもこいつに知力勝負で負けるとダメージでかそうだし。
「っていうか読むの面白いの? 複数の世界でやってるでしょそれ」
「どうしてもやることなくて暇な時間に読んだりするんだけどさ。意外と面白いぜ」
ぼーっと世界の成り立ちとか、エネルギーの仕組みとか見るの嫌いじゃない。
「しりとりにしか使えないじゃない」
「んなことないさ。薬の調合法とか」
「回復魔法あるでしょ?」
「敵の弱点探したりとか」
「殴れば倒せるくせに」
「俺は……脳筋なのか……?」
あれえ……味方には回復魔法でいいし。敵は殴れば死ぬし。
ひょっとして実戦で活かせていないのかな。
「いやあれだよ。超反則技とかできるし」
「先生が言うほどって興味あるわね」
「真理に、新しい単語書き込むんだよ。常識ですよーって追記して」
「意味わかんない」
「まったく新しいワードをなぜか常識として認識する。だからしりとりで無限に続けられるぞ」
「結局しりとりじゃない。結構遊びに夢中になるわよね先生」
遊びにしか使えない能力みたいに言われた。
なんだろう……凄いことですよね? 真理に到達して読破できて改ざんできるの。
自信無くなってきた。誰か教えてくれ。
「女神界の真理も読めるの?」
「読めるぞ。でもやらない」
「なんで?」
「プライバシー覗くみたいで気に入らん。女神界は秘密も多いみたいだし、真理へのロックもかなり厳重でな」
面白半分でロックを開けるのはなんか微妙。
誰だって秘密くらいあるだろうし、勇者っぽくないだろ。
「じゃあわたしの昨日のおやつとかわかるの? やってみせてよ」
「面倒な……芋ようかんだな」
まあ本人の了解取れりゃいいか。
ささっと調べて答えを出す。こんなん数秒あればできる。
「へー」
「わかんねえのにクイズ出すなや」
「そんな細かいこと、いちいち覚えているわけないじゃない」
なぜ胸を張る。こいつのアホさ加減は治らんなあ。
「何を話しているのですか?」
ローズとカレンが入ってきた。
俺たちが先に来ている状況が珍しかったのだろう。
不思議そうな顔と、多少の好奇心が見て取れる。
「世界の真理についてよ!」
「哲学ですの?」
「いや、そのまんまの意味だ」
経緯を軽く説明してやる。
みるみる呆れ顔になっていきますよ。
「そんなことをしたら勝てるわけがないでしょう」
「いやいや、昔の仲間とやったんだけどな、この勝負が熱いんだよ。どっちが早く書き換えて、それっぽく設定作るか。さらに相手の作った言葉に『ん』を書き込めるかっていう攻防が……」
「化物の共演について話されても困ります」
なにゆえ不評ですか。やってみると楽しいのに。
「他に楽しみはなかったのですか?」
「他ねえ……んー……料理かな」
「家でも結構作ってるわよね」
「家庭的な勇者というのも、また不思議ですね」
「俺にとって料理は空腹を満たすものじゃない。その世界を楽しむスパイスだ」
冒険で自炊の必要があった。
そして睡眠も食事も必要なくなった。
そうすると、食事は純粋な娯楽になる。
数が減っていく娯楽の中で、料理が残った。
「よし、今回は料理をします!」
お手頃で清潔なキッチンを召喚。調理実習いってみよう。
「前に授業で餃子作ったわね」
「今日は応用編だ。包丁を多めに使う」
そして野菜炒めと玉子焼きを作らせる。
全員分の野菜をちゃんと切らせて、包丁の練度を上げよう。
「雑にやるなよー。これも授業だ」
「野菜が多いわ……お肉ないのお肉」
「肉か。最近ちゃんと食ってないな」
「お魚もないですわ」
なんか一人暮らしが長くなると、魚って食べなくなるんだよなあ。
別に骨とか魔法で消せばいいんだけど、なんか避けがち。
そのへんまだまだ俺も人間なんだよ。
「んじゃそっちは俺がやるか」
アイテム欄からマグロ登場。まな板に乗り切っていない。
「なんで丸ごと一匹なのよ」
「刺し身とか焼き魚とか色々やる」
「解体ショーということですか。ここにそんな器具はありませんよ?」
「包丁でいけるぞ」
手を洗い直し、キッチンの包丁で軽く切っていく。
「いやいやマグロってそうやるもんじゃないでしょ!?」
「俺ならクジラでもこれでいけるぞ」
昔行った世界で、クジラ丸ごと捌いて出せっていう勝負あったからな。
「刺し身作ってやるよ。食えるか?」
「好き嫌いはないわ」
「数少ない長所ですわね」
「もっといっぱいあるわよ!」
いつも通りの会話を聞きながら、淡々と調理続行。
さっと皿に乗せて出す。久々にやると面白いな。
「ほれ、野菜切り終わったやつからそれ食ってろ」
「やった! 遠慮なくいただくわ!」
今まで料理を手伝わせていた効果が出ているのか、それなりに早いな。
雑にやっているわけでもないし、基本は身についてきたか。
「おいしい!」
「質が良いのは理解できます。ですが、どうやってただの刺し身でここまで……」
「まるで細胞単位で切る場所が理解できているかのようですわね」
「それくらいできないと、料理バトルでは勝てないんだよ」
こんなのできて当然。そのうえで極上の料理をお届けするのさ。
「ごく普通の包丁一本で、あんな料理ができるとは」
「料理はやればやるほど面白いぜ」
「確かに、地味な成長を感じます」
よしよし、料理にプラスのイメージが付いたな。
意欲を上げていこう。先生っぽいじゃないか。
「はいじゃあ焦げないように野菜炒めができたな。あとは玉子焼きだ。これができれば初級卒業な」
それぞれ作ったものを試食しながら指示を出す。
今回はだし巻き卵です。難しいから頑張るのだぞ。
「ん、美味いな。野菜炒めくらいならもう心配ないか」
サファイアのは味濃いめ。男の料理っぽい。
ローズのはきっちり分量測っての王道の美味しさ。
カレンの味付けはさっぱりめ。女の子の料理っぽい。
「全部食べるんじゃないわよ?」
「わかってるって」
「できましたわ!」
「よし食ってみろ」
まずカレンのやつからだ。
箸を入れると、きちんと焼けていないため、液状に出てくる。
「あらら」
「中まで焼けてなかったみたいだな」
「難しいですわ」
「よし、できた!」
続いてサファイア。火力が強すぎたのか、少し焦げているしちょっと硬い。
「うーむ……焼きすぎだな」
「ではこちらをどうぞ」
ローズ作の玉子焼きはちゃんと焼けているし、焦げてもいない。
ちょっと形が悪いが、それでも食える。
「ん、いい感じだな」
「形が整いませんね」
「そこは練習だな」
形はカレンが一番整っている。
そこから全員で四苦八苦しながら数回繰り返し、なんとか全員完成した。
「きっつ……料理しんどいわね」
「これを毎日やるのは疲れますね」
「簡単なものを作るにとどめたいですわ」
何度もやっていると疲れが出る。
そりゃそうだ。火を使うのは意外と体力消耗するもんだ。
「よし、よくやった。じゃあ野菜炒めと玉子焼き食って終わるぞ」
「もう冷めてるんじゃないの?」
「俺が料理の時間止めておいた。さ、食うぞ」
そんなわけで調理実習は無事終了。
熱心に取り組んでくれたし、ちょこちょここういう授業を入れていこうと思いました。
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