神っぽくないから駄女神だよ

「そろそろ新しい加護とかあってもいいと思うわ!」


 授業が終わって放課後。

 家のリビングでだらだらしていたら、サファイアがなんか言い出した。


「急だな」


「ですが、今の所武器スキルとマップ機能と属性魔法だけです。これでは勇者が死んでしまいます」


「ん……まあ一理あるか」


 まだまだ加護を与えるつもりではある。

 こいつらがもうちょい強くなってからにしようと思ったが。


「うーむ……まあそこそこ強くなってはいる……のか?」


「いきなり強すぎるものでなくとも、バリエーションを豊富にすればいいのですわ」


「現状ほぼただの脳筋です」


「よし、じゃあなんか考えよう。どんな加護がいい?」


 こうして晩飯前に欲しい加護の話をすることになった。


「じゃあ夕飯までに決めるぞ」


「夕飯……カレーが出せる加護とか」


「完全に夕飯に引っ張られたな」


「部屋が綺麗に掃除される魔法はどうですか?」


「掃除面倒なだけだろそれ」


「では洗濯もできる加護がいいですわ」


「洗濯機使えそんなもん。お前ら楽することばっかりか!」


 電化製品があればできることばっかりじゃねえか。

 めんどくさがりどもめ。


「家電などない世界もありますよ?」


「大抵魔法の道具とかあんだろ。今回は戦闘面で考えてくれ。家事は家庭科の授業で教える」


「武器があって、魔法もある。なるほど、これは案外難しいですね」


「あれよあれ! 特殊能力! ラノベとかであるやつ!」


 女神がラノベとか読んでいるのは、なんだか妙な感覚だな。

 長生きするとサブカルに偏るし、まあそれほど不思議じゃないんだが。


「なんですかそれは?」


「こう、生産系とか時間止めたり即死技とか超幸運とか!」


「あー……まあ便利っちゃあ便利だけどさ」


 昔使ったこともあるし、戦ったこともある。懐かしいな。


「やはり持っているのですね?」


「あるけど、もう随分昔に使わなくなった」


「殴れば解決するからでしょ? マジで脳筋一直線ね」


「否定できんのが痛いな」


 一応錬金術とか使ってますよ。完全なパワー押しではないです。

 違うんだよ。便利さと強さを突き詰めるとそうなるだけだ。


「使えば有利だと思いますが」


「全部強いやつが使えばな。でなきゃ無意味だ」


「どういうことですの?」


「たとえば時間を止めるだろ? 敵が不老不死の神とかだと、攻撃が効かないし、死なないから無意味だ」


 これが厄介なんだよ。そして克服する頃には、殴れば敵が死ぬ。


「幸運とかは?」


「そいつより運がいいやつがいたら詰み。即死も命がないやつには効かん。俺みたいにあの世とこの世を行き来できるやつもいるし、命のストックがあれば復活する」


「能力頼りだと、いざという時に不利なのですわね」


「そういうこと。それを踏まえて能力は身につけましょう」


「難しいわね……使いこなせる勇者が召喚されないとダメだし」


 そこも問題だよな。勇者がアホだと活かせない。これで失敗するケースもある。


「お前ら……そういやちゃんと勇者に説明とかできるか?」


 こいつらにまともな解説とかできる気がしない。

 おおう、急に不安になってきたぜ。


「そんなん余裕よ余裕」


「簡単に説明して、渡してしまえばいいのです」


「わたくしはどうでしたの?」


「ああ、カレンの説明はわかりやすかったぞ。能力もシンプルだし」


 各種ふりかけが出せます。非常にシンプルだ。

 最初はギャグだと思ったけどな。


「じゃあ軽くお前らをテストしたい」


「では先生は召喚された勇者という設定で来てください」


「わたしが完璧に加護を与えるわね!」


 なんか話が脱線している気がするが、まあいい。

 これも必要だろう。必要だということが問題児の証だけどな。


「えー……じゃあ勇者が召喚されました。おーなんだここはー」


「いらしゃいませこんばんはー!」


「コンビニか」


「どういうこと?」


「コンビニや古本屋じゃねえんだぞ。女神の威厳とかゼロだよ」


 あっぶねえ、よかった練習する機会に恵まれて。

 思わぬ落とし穴だよ。


「やり直し。もう一回いくぞ。はい勇者が来ました」


「ふっ……要件を聞こうか」


「こっちのセリフだよ。完全にお前が連れてきたんだよ」


「うちは様々な種類の加護を取り揃えております」


「店っぽくするのやめようか。すげえ庶民の感じ出ちゃってるからさ」


「やはりサファイアでは荷が重いのでしょう。私がやります」


 そして当然の権利のように服を脱いでいるローズ。


「ああ、言ってなかったな。全裸禁止なんだよ」


「そういう世界なのですね」


「多分ほとんどの世界でそうだからな」


 ささっと魔法で服を着せる。もう手慣れてきた自分が嫌だな。


「ようこそ勇者よ。私は女神ローズ」


「急に真面目にやんなよ」


 温度差考えて欲しい。風邪引くわこんなん。


「あなたには勇者として異世界を救ってもらいます。なあに、ただとは言いません。女神の素晴らしい加護を授けましょう」


「ではその加護をお願いします」


 そうそう普通にやってくれ。普通に終わろうぜたまには。


「ご一緒にポテトはいかがですか?」


「何の店なんだよ!」


「どうぞ、ウェルカムポテトです」


 ローズが皮もむいてない、素のじゃがいもを渡してくる。


「ウェルカムドリンクみたいに言ってるけどさ! お前これどうすんだよ!」


「当面の食料です」


「これ一個が!?」


「ご一緒にポテトはいかがですか?」


「もうもらったわボケ!!」


 今度はフライドポテトを渡してくる。

 あるならそっち出せや。なんで生で出した。


「そのじゃがいものように硬い、決して崩れぬ心を養いなさい」


「カットされた上に油であがってんだけど」


「では加護を授けます。はい、渡したことにします」


「もっとこう威厳欲しいよな。一応神だろ」


「神の中でも上位存在ですよ」


 女神界の女神ってのは、普通の神々よりも大抵は上である。

 力だけ見てもそれははっきりわかるのだ。

 だからタチ悪いんだけどな。


「神っぽい言動だよ。女神っぽさ出していこう」


「ふはははは! わたしは神! ひれ伏すがよい!」


「似合わねえ……」


「とりあえず神っぽく光ってみましたわ!」


 カレンから後光がさしまくっていてうざい。

 ソーラーパネル当てたらマックスまで電力充填できそう。


「やめろ眩しいわ! 別の方法考えろ!」


「魔力の翼とかどうでしょうか?」


 虹色の翼を広げるローズ。めっちゃカラフルだけど、なんか違う。


「派手なだけじゃねえか。見た目が派手すぎるのも下品だろ」


「注文が多いのよ! 具体案出しなさい具体案!」


「そうだな。じゃあ一回シンプルにファンタジーっぽい服を着よう。で、清楚さを出しつつほんのり、ちょっとだけオーラが滲み出る感じな」


 白いローブと修道服の中間で、ファンタジーっぽいものを着せる。

 そこから神聖な光だけをちょろっと出して完成。


「よし。わりかしまともだ」


「こんなんでいいの?」


「少しインパクトにかけると思いますわ」


「いいんだよ。基本は大切。女神ってのはごちゃごちゃ着飾る必要がないんだ」


 元来女神というのは、人類よりも遥かに美形である。

 よって、無駄な化粧やドレスが必要ない。

 だから素材を引き立たせる方向で伸ばすべき。


「ふーん……まあいいわ。最初はそんなもんよね」


「これで加護を与えればいいのですね」


「だな。さてどんな加護にするか」


「先生でも悩むのですね」


「そうだな。ぴったりこれっていうのが出てくりゃいいんだが」


 こいつらの素の戦闘力や才能を潰さない加護がいいな。

 そう考えると意外と選択肢は多い。だがハズレも混ざる。


「ぴったり出せる女神もいるはずよね。聞いたことあるわよ」


「確か女神界の重鎮で……特殊な女神がいるはずです。ほぼ自動で出せるとか」


「ほう、面白いなそれ。どうやってんだ?」


 完璧に与えられるとなると、余程の教養か、特殊体質だろう。

 その仕組みに興味がある。


「その世界と勇者にピッタリな加護を、その場で生成し引き当てる。あらゆる加護を持つことから無限加護の異名を持つ女神。確か名前はリー……」


「セーンセー!! 取材のお時間デース!!」


 美由希が話に割って入ってきた。

 そういや取材だったな。仕方がない。


「しょうがない、話は今度だ。飯の時間だし作りながらな」


「お手伝いするデース!」


 結局飯を作り、食いながら取材もすませた。

 加護は今度ちゃんと与えよう。

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