仲間と女神と思い出は続く 第二部 完

 戻って早々にヘスティアから『ごめんなさい』と頭を下げられ。

 なんのこっちゃと説明を求めれば、邪神だの魔王だのを集めていたと。

 どうも俺を楽しませられる敵を探していたらしい。


「うっし、んじゃいくか」


 まあちょっと怒ったけれど、俺のためにやったこと。

 邪神を集めたことで、詰みに入った世界を救っていたこと。

 そこまで追い詰めてしまったのに、気づいていない俺の不徳。

 そんなこんなで魔神空間の敵を叩き潰して終わることにした。


『気をつけてください、勇太さ……勇者様』


 空間の外へ通信魔法を繋いだ。こちらの映像も見えている。

 流石に空間内まで連れてくる訳にはいかないからな。


「おう、あんがとなリーゼ」


 そう簡単に勇太と呼ぶ癖が抜けないか。

 自然に出るほど、あの世界はリーゼにとって刺激になったのだろう。

 なら連れて行った甲斐があったというものさ。


『先生、本当に……その、悪かったよ』


「気にすんな。飯の前にちょっと運動するだけさ」


 無数に存在する異世界で、現地の勇者やヒーローが手に負えない凶悪な連中。

 そんな殺気立っている皆様を前に、なんだか心が踊らない。

 しょうがない。ちょっとふるいにかけるか。


「人間か……矮小な人間が、わざわざ食われに……」


「うるさい」


 黒くてデカくてキモい魔王を、軽く殴って消し飛ばす。


「今のを見て、それでも俺に勝てそうなやつから来てくれ」


 数十の邪神が突っ込んでくる。最低限光速移動はできるみたいだ。


「最初から全力で来い。必殺技があるなら使え」


「暗黒滅光波!!」


「インフィニティ・ナイトメア!」


「ダークネスブラスター!」


 よくわからない、俺にとっては大差ない黒いビームが飛んでくる。

 なんだろう。こいつらは香蘭より強い。それは間違いないのに。


「……つまらない」


 少しも心が動かない。軽く殴るだけで消えてしまう。

 悪意の塊を、儚いと思った。


「もっと強いやつはいるか?」


 魔王の動きが止まる。

 何か呪いや時間停止のような術をかけているな。

 即死能力を駆使している邪神もいる。


「小細工は無駄だ」


 もう因果がどうとか、神の力がどうとか、即死や呪いの異能がとか、そういう領域ではない。

 ただシンプルに強いか弱いかだ。

 そしてやはり俺には通じない。


「返すぞ」


 解析完了。指を軽く振り、今から技を使いますよと知らせて警戒させる。

 そして俺に向けられた技を十億倍にして、邪神にも効果があるよう改良してぶつけてみる。

 あまりにもあっけなく消えていく。耐えようとして、それでも抗えない邪神を見るのは何度目だろう。


「これでダウンか……いっそリーゼとヘスティアの教材にでもするかね。まだ見てるか?」


『見ているよ。けれど、そこにいる敵はリーゼには倒せない。私でもその数を相手にするのは、厳しいものがあるよ』


「そっか」


 となると、あまり参考にはならないか。

 これまで何度も味わってきた、見えない壁だ。

 俺は、勇者は人間とも神とも並べない。

 そこには溝というか壁というか、とにかく何かの線がある。


『……ごめん、先生。私の考えが足りなかった。先生を一人ぼっちにしたいわけじゃなかったんだ。もうその空間は消していい。先生の遊び場にはならない』


「謝る必要なんて無いさ」


 ヘスティアの声が暗い。

 女神の中じゃかなり強いほうだろうに、それでも線を超えられなかった。


『ごめんね。私がもっと強ければ』


 昔、なんとかヘスティアの限界を超えさせようと、二人で修行をしていた時期があった。

 けれどそれもやめた。あいつの、イヴのようになる可能性を、ほんの少しだけ考えてしまったから。


「ヘスティアはもう十分に強いさ」


 もっと強くなりたいと言ったのはヘスティアだ。

 けれど、それは俺の身勝手な願いを汲んでくれたのではないか。

 それでイヴのように俺を憎んだら。

 そう考えてしまう頃には、どちらが言い出すわけでもなく、修行をしなくなった。


「こちらを見ろ勇者! どこまで我らを虚仮にすれば気が済む!!」


 物思いに耽り、雑に殴っては消していった邪神たちからクレームが入る。


「悪い悪い。失礼だったな。謝るよ」


 世界を脅かす悪には違いないんだ。しっかり葬ってやらないとな。


「調子に乗るのもここまでだ勇者よ! 絶望に染まれ!」


 憤りをそのまま技に乗せて向かってくる。

 だが光速の何百倍で動かれようと。

 宇宙を何千何百壊せようと。


「違う」


 俺に傷をつけることができない。ダメージを与えられない。

 痛みを感じない。どんな状態異常も意味をなさない。

 そして全力に程遠い力で、拳で、魔法で散っていく。


『強い……勇者様は、いったいどれほど……』


 特忍の世界では、ここまで力を開放する必要がなかったからな。

 リーゼが驚くのも無理はないのだろう。

 なのに楽しかった。特忍の世界は、ここよりずっと楽しかったんだ。


『先生は最強の勇者だ。無理なんだよ。魔王や邪神に、先生を満足させることなんて……無理だったんだ……』


 別に最強になりたかったわけじゃない。

 勇者になりたかった。だから強くなり続けた。

 一人でも多くの人を救えるように。

 一人でも多くの笑顔を守るために。

 そのために強さが必要だった。


「グウゥ……バカな! 人の身でこの強さは何だ!! この化物が!!」


「はっ、邪神に言われてちゃ世話ねえな」


 どんな強敵だろうが、どんな理不尽だろうが、絶対に負けないように。

 溺れた人を助けられるよう、海の敵に負けないよう水中を克服し。

 宇宙人や悪の艦隊に負けないよう、宇宙空間で戦えるようになり。

 毒や麻痺に耐える体になり。神だろうが概念だろうが殴れるようになり。


「そんなことを続けた結果がこれか」


「ギャアァァ!!」


「グボアァ!?」


 爆散していく敵。この場に人間は俺一人。

 目についたやつを殴ればいいだけ。

 助けなきゃいけない人も、ついてきてくれるやつもいやしない。


「ついてきて……か。やっぱそうか」


 薄々感じていた。けれど、どこかで考えないようにしていたのだろう。

 ずっと前からそうだ。俺に同行するのは女神だけ。

 その女神もほとんどが世界を救えば別れることになる。

 長く背中を預けられる存在がいない。勇者パーティーはもう解散しているから。


「懐かしいな……あの頃はみんなと協力してたっけ。もう弱点なんてなくなっちまったからなあ……」


「不本意だが力を合わせるぞ! 勇者とて人間。必ず死を与えるのだ!!」


 融合できる邪神は融合し、魔王どもは陣形を組み出した。


「俺より邪神のほうが仲間が多いじゃねえか」


「これも貴様を殺すためだ! 勇者など死あるのみ!!」


 別に死なんてどうとでもなる。

 死後の世界で肉体を維持する方法は熟知しているし、天国でも地獄でも好きな時に遊びに行ける。

 大抵の場合は、その世界の閻魔に交渉すればどうとでもなるし、自力で自分を蘇生させることも、幽体のまま力を維持することも可能だ。

 そもそも死という概念自体が俺より弱い。


「くらえい! 我が全霊の拳!!」


 巨大な、それこそ宇宙なんて埋め尽くせそうな拳が迫る。

 それを壊すのにどの程度の力が必要か、理解できてしまう。

 予想と寸分違わず入れた力で、融合邪神は砕け散った。


「ごめんな。もういいよ。俺が欲しいのはお前らじゃない」


 手に聖なる光を集中。解き放てば邪なものは存在を保てないだろう。

 この空間ごと消して終わらせる。

 そしてまた、俺は勇者として、女神を育てながら世界を救う。


「これで終わりに……」


「醜悪な。悪とは外見までも醜くなるものですね」


 男の声だ。その声になぜか俺は動きを止めた。

 いつかどこかで聞いた声。その主を探し視線を動かす。

 真っ赤なバラが作る道の先に、そいつはいた。


「魔王も邪神も、よくもこれだけ揃えたものだ」


 黒が支配する空間に相応しくない、長く綺麗な銀髪。

 青空よりも透き通り輝く目。誰よりも自分の容姿に自信を持つ男。

 武術家か仙人が着るような長袖長ズボンには、豪華な刺繍が入っている。


「お前……どうしてここに……」


 俺はこの男を知っている。強烈に思い出として焼き付いている。

 だがもう二度と会うはずのない男で。


「勇者ともあろう者が、無様を晒していると聞きまして。笑いに来てあげました」


 近くまで来たその顔は、間違いなくあの頃のまま。

 俺の知る二十代のこいつそのまま同じ顔だった。


「人間……人間だ……」


「おのれ何奴!!」


「下衆どもに名乗る名はありません。精々私の美しさを引き立てて散っていきなさい」


 右足を軽く上げ、その場で横に一回転。


「ホオオォォォ……アアッチャアァ!!」


 やったことは一つ。ただの回し蹴りだ。

 魔力も霊力も超能力もない。ただ力を込めての回し蹴り。

 それだけで…………数億の邪神が消えた。


『な……今何が……?』


「本物か? お前なんでこんなところにいるんだよ? 嫁さんどうした?」


「ヘスティアという女神にお願いされましてね。相変わらず女神にだけはモテるようで。いい加減身を固めてもいいのでは?」


「やかましいわ。ってヘスティア?」


 確かにヘスティアと言ったな。あいつに教えたことはないはず。


『ヘスティア様が、あの男性をお呼びに?』


『ああ、スペシャルゲストさ。驚いたかい? 正直来てくれるか半信半疑だったけれどね』


 超驚いたさ。勇者やってて最近ここまで驚いたことはない。


「泣きそうな女神に頼まれては、行かないわけにもいきませんよ」


「我らを前に雑談か人間!!」


 無視されたのがお気に召さなかったのか、一斉に動き出す邪神ども。


「ホワッチャア!!」


 再び回転蹴りが唸る。

 世界が震えた。その暴力に怯えるように。

 計測すらできない、無限を遥かに超えた絶大なる胆力。


『なるほど、間違いない。先生と同じ領域にいる。本当に同類なんだね』


「この程度の雑魚に手間取っていたのか? 弱くなったものですね。私に称号を預けて、女神とでも戯れていなさい」


「………………ふっ、ふふふふ、ふははははははは!!」


 ああ本物だ。こいつはこういうやつだったな。

 笑いが止まらない。


『せ、先生!? お気を確かに!?』


 慌てふためく声が聞こえた。

 おそらくリーゼだろう。だがそれでも笑えてくる。

 懐かしさや困惑がごっちゃになって、もう笑うしかない。


「はー……あーもう笑かしやがって…………てめえに勇者を譲るほど、俺はなまっちゃいねえんだよ!!」


 俺が突き上げた拳が天を裂き、宇宙を貫き、その余波だけで数えきれない魔王が散っていく。


「十五億か。私なら……」


 俺に対抗するように突き出される拳。

 俺よりも目立たせようと、無駄に光り輝いた光の柱が邪神を祓う。


「三十億は軽いですね。やはり腑抜けたか」


「んなら俺は五百億だ!!」


 魔力も気力も霊力も関係ない。力をでたらめに開放して、一気に敵を消し飛ばす。

 隣でそれを眺めている。眺めていられる人間がいる。それがひどく懐かしい。


「それではただの暴力……やはり戦いは」


 バラの花びらが大量に舞い、邪神にひっついていく。

 そして同時に二千億くらいの邪神が飛び散り、残骸をバラが消す。

 その衝撃でさらに花びらが飛ぶ。一面バラで埋まりそうだ。


「美しくあるべきです」


「美しさだあ? バラに頼ってるだけじゃねえか。物に頼って得る美しさねえ?」


「頼るのではない。お互いを引き立てるのさ。それが私の美学」


 一連の行動を見ていた邪神どもから、明らかに怯えと恐れが見える。


「どうした邪神どもよ。怯えて逃げ惑うこともできないのですか?」


「そうだな。ちょっとくらい抵抗してくれないと、勝負にハリが出ねえ」


 せっかく楽しくなってきたんだ。

 せっかく背中を預けて暴れられるんだ。

 挑発してでも戦ってもらうぜ。


「数だ! 数で押せ!! 魔王と邪神の力を見せつけるのだ!!」


「いいぜ、もっとこい!!」


「乗せられやすい魔王ですね」


 気分が高まる。久しく忘れていた感覚だ。


『なんですかこれ……これが……戦い……?』


『勝負だよ。どちらが敵を多く狩れるかのね』


「はっ、やっぱ結婚して腕が錆びついてんじゃねえか? 手加減してやろうか?」


「寂しがり屋の勇者に気を遣われるほど、私は落ちぶれてはいませんよ」


 お互いに会話しながら邪神を消していく。心配など微塵もない。

 どうせこいつに勝てる邪神なんていやしないんだ。


『ヘスティア様、あの方はいったい……』


『彼の名はアレディ。純粋な身体能力において、先生の、勇者のインフレと呼ぶのもアホらしい成長に食らいつき、幾度となくともに異世界を救った』


 どうやらこいつのデータが手元にあるらしい。

 どんな手段で手に入れたのかは知らんが、その通りさ。


『彼はかつて、勇者パーティーで戦士をしていた男』


「ほう、やはりどこからか私の勇名を聞きつけたようですね」


「どんな伝わり方してんのか興味あるな」


「きっと私の美しさと強さを褒め称えるものでしょう」


 言いながら最後の一匹に向けて走り出している。

 残念だが最後に決めるのは勇者の仕事だ。


「最後の一体は!」


「俺がいただく!!」


 二人同時に魔王を貫き、勢い余って魔神空間まで完全に消し飛ばした。


「やっべ」


「加減を知りませんねえ」


「お前だって同じだろうが!」


 もともと消す予定の空間だ。

 完全消滅させたんで、ヘスティアとリーゼがいるカレー屋へ戻った。

 当然お互い無傷。俺達にとっちゃ軽いレクリエーションみたいなもんだ。

 今は四人で食事中。


「ごめんなさい先生。私は、あなたの心が理解できていなかった。気持ちばかりが先走り、真実を見る目が曇っていた」


 ヘスティアに神妙な顔でそう言われた。

 悲しそうで、どこか叱られている子供のようだ。


「なんて駄目な女神。私もまだまだ駄女神だね」


「そんなことはないさ。ヘスティアのおかげで楽しかったし、リーゼだって、今まで行った世界だって救えただろ」


「まったく……自分に関することは内密に解決しようとする悪癖、まだ直っていないのですね。パーティーからも女神からも直せと言われていたでしょうに」


「悪かったよ。でもヘスティアのサプライズで気持ちの整理もついた。踏ん切りもついた。離れていても、仲間が消えたわけじゃない。思い出はずっと俺を支えてくれる」


 結局、今の俺が欲しかったのは、強敵よりも仲間だったのだろう。

 心のどこかで諦めて、それでも無意識に望んでしまった。

 けれど俺の心にはもう、仲間との大切な思い出があったんだ。


「先生ってたまーに寂しがり屋だよね」


「本人は隠せているつもりのようですよ。それが一層腹が立つでしょう?」


「勇者様は昔からそういう人なのですか?」


「ええ、それはもう。女神がやきもきするほどに」


 カレーが美味しい。なのにこういう話は味がわからなくなるからやめろ。

 心配かけないようにしてんだよ。付き合いが長くなるとバレるけどな。


「しかもバレた時になんて言うと思います?」


「弱音を吐くなんて勇者っぽくない、とかだろう?」


「ええ、まったくそのとおりですよ。いい女神を相棒にしていますね」


「はっはっは! そうだろうそうだろう! もっと言ってやっておくれよ!」


 さっきのしょんぼりしていたヘスティアに戻ってもいいのよ。

 俺は勇者でいたいんだから、弱音や寂しさに負けてどうするってんだ。


「あの……アレディ様は、勇者パーティーにいたんですよね? どうして勇者様は今お一人なんです?」


「お、それは気になるね。先生のインフレについて行けているのに」


「いえいえ、ついていけているかは怪しいものですよ。少々本気にさせることは可能かもしれませんが、何度やろうが私の負けでしょう」


「あんなにお強いのに……」


 むしろまったく衰えていないことに驚いたわ。

 鍛錬は欠かさなかったんだろう。変なところで真面目だからな。


「本気で修行すりゃいい勝負になるって何度も言ったんだけどな。それもできなくなっちまった」


「それはまたどうしてだい?」


「私に大切な人ができたからですよ」


「大切な人?」


「妻と子供がいます」


 これである。このため異世界旅に同行させるわけにもいかなくなった。

 その後、各々が好きなことをやるために別れて旅を続けている。


「家庭のために……それも素敵です。やはり勇者様のパーティー、皆様素晴らしい方ばかりなのですね!」


「遊び人で、無職童貞を極めて最強になったやつもいるぞ」


「遊び人って……そんなのいたのかい……」


「今にして思えば、パジャマで二十四時間過ごしている変人を、よくパーティーに入れていたものですよ」


「あいつはやばいぜ。チェスだろうが将棋だろうがFPSだろうが、一瞬でも気を抜くとマジで負けるぜ」


 あいつとするゲームは本当にスリリングだ。

 一時期は魔王や邪神を何百倒しても得られない興奮があった。

 今は女神を相棒に、異世界を漫遊して遊び尽くしているらしい。


「ゲーム限定の強さということかい?」


「魔神空間くらいなら無傷で秒殺できるぞ」


「やっぱり化物だ!?」


「賢者よりも賢者タイムとかいうキャッチコピーつけてた時期があったな」


「シモネタじゃないか!?」


 過去の話に花が咲く。これも久しぶりだ。

 ずっと出会いと別れの連続だった。

 異世界を救い続けた弊害かもな。


「ヘスティアが話相手だったんで、寂しさなんて無い気がしてたんだけどな」


「実は満足していなかったと」


「満足してたよ。住心地はいいし、カレーも美味いしさ」


「そうかい。なら最後になるかもしれないんだ、ちゃーんと味わっておくんだよ?」


 どういうことか聞く前に、ヘスティアが語りだす。

 その表情は晴々としていて、何かが吹っ切れたようだった。


「私は女神界に戻るよ。カレー屋はやめて、一から修行し直して、先生の後追いじゃなくて、もっと強くて凄い女神になって、こっちから会いに行く」


「私もヘスティア様について行って、もっともっと凄い女神になります!」


 リーゼはもう、加護の指定もできるようになってきている。

 女神としての修行は、やはり俺よりも女神に教えてもらうべきだろう。


「そっか、そうだな。頑張れよリーゼ。どうしても越えられない壁とかあったら相談に乗るぜ」


「ありがとうございます。勇者様に教えていただいたこと、絶対に忘れません!」


「修行サボっていると、先生を追い抜いちゃうからね」


「期待してるよ。二人なら強くなれる。勇者の名にかけて保証する」


 そんな女神を見て、戦闘中から考えていたことに決心がついた。


「俺ももっともっと強くなる」


「この男はまだ強くなる気ですか」


「おう、今よりずっと強くなって、知らない世界で新しい力を調べて、世界を救って、そんでまあ……女神をしっかり育てていくのも悪くないかなって。先生っぽいことをもっとやってみようって思ったんだ」


 もしかしたら、もっと本格的に女神と関わるかもしれない。

 そして困っている異世界にも、俺の旅にも、やはり女神が必要だ。

 そいつらを育てる。案外悪くないなと、思っていたりする。


「あなたはあなたの道を行く。そして必ずやり遂げる。心配はしていませんよ」


「当然。アレディも嫁さんと子供を大切にな」


「それこそ当然。言われるまでもありませんよ」


 こうして生きている限り、出会いと別れを繰り返す。

 けれど俺は一人じゃない。出会った仲間が、女神がいる。

 救えた異世界は、これからも平和が続いていくだろう。

 そこでまた、誰かが繋がる。絆を紡ぐ。


「心は離れていても一緒。一見陳腐な綺麗事だが」


「いいじゃないか。先生は勇者様なんだから」


「そういうのは王道というのですよ」


「なんといっても、勇者様ですからね!」


 そう、俺は勇者だ。そういう綺麗事を綺麗なままで終わらせる。

 平和とか、絆とか、夢や希望。そういったものが失われないように。

 人生かけて綺麗事を実践するのさ。


「ああ、それと先生」


 その時のヘスティアの笑顔は、普段見ているものとは全く別で。

 俺の心にきっちりはっきり焼き付くことになった。


「もう一度会ったら言いたいことがあるんだ。だから私との思い出、しっかり覚えておいてね!!」


「忘れないさ。この先何があろうとも。今日あったこと全部を忘れない」


 こうして長く拠点としていたカレー屋を離れ、再び勇者として異世界へ渡る。

 もう一片の迷いも寂しさもない。

 この日、仲間に誓った道は、胸を張って進める道だから。


「よし、待ってろよ次の異世界!!」




 第二部 完。

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