リーゼの体質と初任務

 学園に来て数日。忍術は霊力を引き出すことで形にしているっぽい。

 人間には誰でも霊的エネルギーがあり、それを使える一握りが特忍であることが多いんだとか。


「むむむむ……ええい火遁!」


 ここは忍術の練習場。忍術を使ってもいい広い部屋だ。

 大きな壁鏡とかあるし。トレーニングジムという表現が近いだろう。

 んなことを考えていたら、リーゼ……この世界ではエリゼの手から水しぶきが迸る。


「あらら? また失敗ですか……」


 どうやらガチャ体質が原因っぽい。

 出る術が攻撃・回復などの大まかな枠組みの中でランダムになってしまう。


「焦らなくていいさ。ゆっくり慣れていけ」


 忍術は多彩な属性と応用力が売り。

 つまりエリゼの基礎を固めるのには最適だ。


「当たりの世界だな」


「なにぶつぶつ言ってんだ?」


「なんでもない」


「んじゃ組手しようぜ!」


 龍一は強いヒーローになるために実戦経験を積みたいんだとか。

 向上心があるのはいいことだが、俺はエリゼを監督したいんだよなあ。


「んー、よし。エリゼと組手してみろ」


「私ですか?」


 俺以外と戦うことで、さらに強くなればよし。

 その過程でガチャ体質を改善できればなおよし。


「エリゼも強いのは知ってるけどさ。俺は勇太と戦って……」


「エリゼが強くなったら、そんときは俺が戦ってやるよ」


 頭をポリポリかきながら、しばし考える龍一。

 こいつは戦闘狂というより、戦いで自分を伸ばしたいタイプ。

 あまり乗り気じゃないんだろう。


「しゃあねえなあ……エリゼもそれでいいか?」


「はい、よろしくお願いします」


 それでも頼みを聞いてくれるあたり、いいやつなんだろうなあ。

 ちゃんと組手はしてあげよう。

 そんなわけで壁に寄りかかって戦いを見る。


「いくぜ!」


「はい!」


「のんびり見物とは、あんたもわかんない男ね」


 フランが横に来た。Sランクであるこいつには、挑戦者もいないし暇なんだろう。


「あんた、本当はどれくらい強いの?」


「どういう意味だ?」


「龍一との戦闘を何度か見たわ。あんたはおかしい」


「なんだそりゃ?」


 俺を疑っているというか、不審者を見るような目だな。

 警戒されているのだろう。いやなんでされてんのさ。


「明らかにおかしいわ。龍一はAランクの中でも戦闘に特化、それも近接戦に長けているタイプ。あたしだってそう簡単には勝てない。Sランクのこのあたしがよ」


 実際龍一は強い。攻撃も真正面からだけではない。

 技術に裏打ちされたフェイントや、独特の歩法も複数ある。

 忍術も優れており、全体的に勉強熱心なんだろう。


「なのに、二人の戦いはどう見ても指導よ。大きく実力の開いている者が、嫌味なく弱点・欠点を戦いの中で悟らせる。そんな弟子の成長を促す組手のよう」


「気のせいじゃないか? 龍一にそんなん言われたことないぜ」


「あたしじゃなきゃ気づかないわ。それほど自然に龍一の腕を上げようとしている。そんな気がするの」


「Sランクの勘ってやつか。それも経験からくるものかな?」


「ふざけないで。並の忍には絶対にわからないわ。けれどSランクの学生か、それ以上のプロにはぼんやりわかる。それが意味わかんないのよ。目的は何?」


 やはりこいつは強い。戦闘センス。俺を問い詰めようとする思い切りの良さ。

 横で壁によりかかりながらも、警戒を解いていない。いいね。


「ただ強いやつと戦ってみたいだけ。強いやつが増えたら、この世界は平和になるしな」


 しばらく俯いて物思いに耽っているフラン。

 顔をあげると、何か縋るような目だ。


「…………どうやったの?」


「何が?」


「どうやれば武術も忍術も無くそこまで強くなれるの?」


「何で無いって言い切れる?」


「少なくとも、何かの格闘技や古武術じゃない。ただ攻撃が来たから避けて、敵の弱い部分をギリギリで回避できるよう雑に攻撃しているような……ただ雑に、素人が動く感じで。小学生がドッジボールで避けているような。なのに圧倒的な差を感じる」


 そう、普通の動きだ。攻撃や足運びだってそう。相手を倒すことが目的じゃない。

 成長してもらうために、絶対に壊れない実験台として俺がいる感じ。

 その方が強くなってくれる気がするから。


「避ける時も隙だらけ。なのにそこを狙って攻撃しても当たらない。あたしにも見えないスピードで避けていることがある。こっちが本気を出して、限界を超えて戦っているのに、差が伸びも縮みもしない」


 特忍のAやSランクは純粋に身体能力が高い。

 なので伸ばせばどんどん強くなる。それが楽しくてついやってしまった。


「ほら、エリゼと龍一のバトルが終わったから、この話はまた今度な」


 ちょうどいいことに二人の試合が終わった。

 水を渡して、反省会でもするか。


「勇太さんどうでした?」


「おう、いい感じだ。形になってきたな」


「エリゼって意外とパワータイプなんだな……意識飛びかけたぜ」


 女神のパワーを、手加減したとはいえ耐えているのは評価に値する。

 力で勝るが経験の少ないエリゼに、攪乱戦法と忍術で終始優勢だった。


「やっぱ面白いな」


「何にやにやしてんのよ?」


「別に、それより今の勝負だが……」


 反省会開始。真面目に意見交換とかしているので、俺も真剣に答える。

 その中で、次の任務は四人で受けてみないかと誘われ、これを了承。


「んじゃ任務が来るまで修行でも……」


「ここにいましたか、フラン」


 部屋に入ってきた女がこちらに声をかけてきた。

 どう見ても学生じゃない。お付きの忍者も数人だが、上忍が混ざっているな。


「ミコト様!?」


 ミコト様と呼ばれた女は、見た目は二十代後半か。

 黒髪で、真っ白な陶器のような仮面で顔を隠している。

 忍装束のためか、体系すら曖昧だ。


「何故このような場所に!?」


「少々会議がありまして。ついでに寄ってみたのです」


 二人が片膝をついており、なんとなく俺達もそれに倣う。


「それでは、次の特別任務を伝えます」


 ミコトが忍術結界を張り、俺達四人を隔離した。

 今までと同じ場所なのに、ここには五人だけ。


「……なぜこの場にいるのです?」


 フランも龍一も驚いているようだ。いちゃまずい系か。


「その方、名は」


「勇太です」


「エリゼです」


 どうやら精神に探りを知れて、真実を見抜こうとしているみたいだ。

 嘘か本当かだけを見分ける簡単なものっぽいが。

 暇だしちょっといたずらしよう。俺の精神内に忍術で結界を張る。

 偽物のゴールも用意して、さてどのくらいで解除してくるかな。


「なぜこの場にいる。答えなさい、勇太」


「友人です。俺達は転校してきて日が浅いので、一緒に行動してくれているんです」


 お、解除してきたな。偽ゴールで満足してくれたみたいだ。

 そこからもっと真実を追求する気はないらしい。

 敵じゃないし、初対面だからかな。


「何故結界の中にいるのかと聞いているのです」


「フランの近くだったから……でしょうか」


 この人を傷つけないごまかし方を、大至急教えてください。


「知らず知らずに結界を拒む霊力があると。四人で任務を受けるとも聞こえましたが?」


「はい。二人には素質があるようなので、実戦を経験させようかと」


 フランの声が少し震えている。上司か何かなんだろうか。


「俺達は任務の経験が少ないので、フランに教わろうと思いまして」


「それはまたの機会になさい。半端なランクでは死にに行くだけですよ」


 どうやら密命とかそういうあれらしいな。興味はあるけれど、転校生じゃ無理か。


「お言葉ですが、勇太もエリゼもAランクであり、優秀です。戦闘では私に引けをとらないかと」


「ほう」


 仮面越しの声に、ほんの少しだけ興味の色がつく。

 碌な事にならない気がするわ。


「ではテストをしてあげましょう」


 そう言うと、そこそこ速い霊力の斬撃を放ってきた。

 横薙ぎに振るわれたそれは、まあ音速には達しているっぽいかな。

 既に三人共バックステップでかわしているのを確認。

 よしよし、被害は出ないな。じゃあ俺も避けておこうか。


「よっと」


 軽く下がる。地面に亀裂が走り、やはり力の入った一撃であることが伺えた。


「凡人よりはましですね。いいでしょう。フラン」


「はい」


「どうしてもというのならば連れて行きなさい。内容はこれに」


 上忍さんがフランに巻物を渡している。

 おぉ、なんか忍者っぽい。


「この学園に来たからには、半端な覚悟で卒業などできないと思いなさい」


「はい」


 まーだ俺の精神を覗いたままでいやがる。

 よっぽど自信があったんだな。身のこなしからして、横の上忍かそれ以上だ。

 なら実力に裏打ちされたものだろう。


「では失礼致します」


 こいつもかなり強いっぽいし、もっと上を目指してくれたら嬉しいのにな。

 んなこと考えながら、四人で部屋を出た。


「さ、任務の準備しようぜ」


「マジについてくる気かよ」


「おう、よろしくな」


 あとでミコト様ってのについて調べておこう。

 まずはこの世界での初めての任務だ。張り切っていくぜ。

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