勇者VS勇者
カレー食い終わって食後の腹ごなし。
広大で真っ白なVR戦闘ルームに集まる、俺と女神二人に女勇者。
「よし、それじゃあ必殺技撃ってくれ。全力でな」
「はい! よろしくお願いします!」
勇者の全身を鎧が包み込み、同じ粒子で大剣が現れる。
あれはフォトンアーマーという、まあ霊力とか精霊パワーっぽいやつを持っている素質がある人だけ使える装具らしい。
「増えたなあ女勇者」
なんかよく見る気がします。魔王も女が増えたね。
「おや、女の子が戦うのは反対かい? ロマンを感じる層もいるというのに」
「別に。譲れないもんか守りたいもんがあればいいんじゃね? 男女どっちがやろうとな」
「そんな簡単になれるのですか?」
「なりたきゃなっちまえばいいんだよ。勇者なんてそんな感じだ」
プロの勇者がいたり、村や町ごとに勇者がいたりする世界もあった。
つまり自分の中の勇者像があればよし。
「んじゃ稽古開始だ。必殺技撃って来い」
「御伽リリカ、行きます! はあああぁぁぁ!! 必殺!!」
大剣をぶん回して遠心力を加え、特殊なフォトンエネルギーを上乗せする技か。
シンプルだが強いな。もうちょい近くで見ようと歩み寄る。
「ちょ!? ちょちょちょなにやって!? うわちょああぁぁぁ!?」
なぜか直前で剣を消し、体を捻って俺の横をごろごろ転がっていく。
「なにやってんだ?」
「こっちのセリフですよ! なんで回避とか防御とかしないんですか!!」
「したら威力がわかんねえだろ」
「せめて防具とか着ましょうよ!!」
邪魔くさいから防具嫌い。剣とかかさばるし。
不安定な技なのかもしれない。次は立っているだけにしよう。
「あー……リリカ君……だったよね?」
「はい!」
「君の剣でこの岩を切ってみてくれるかな?」
ヘスティアが目で任せてくれと言っているので、好きにさせよう。
こういう時に俺は手出ししない方がいい。悪化するからだ。
「ええっと……セイヤー!!」
ためらいながらも正確な斬撃だ。
だが無情にも岩に傷をつけることはできない。
「うぅ……切れませんでした」
「だろうね」
「だろうね!? ひどくないですか!?」
単純に呼び出した岩が硬すぎるんだ。オリハルコンとかそのへんだなあれ。
「ではこの岩を……先生、ちょっと失礼」
「おう、いいぞ」
俺の頭に全力でぶつかってくる岩。
結構な音を立て、粉々に砕け散っていった。
「…………えええぇぇぇぇ!?」
「わかったかい? 先生にダメージなんて通らないよ」
「……人間ですか?」
「どういう質問だ。純度100%の人間だよ」
人を化物みたいに言うんじゃない。
勇者なんだから防御力も高いに決まっているだろう。
「それじゃあもう一回スタートだよ」
「よろしく頼む」
「は、はい! よろしくお願いします!」
ぺこりとお辞儀してくる。礼儀正しい子なんだな。
活発なイメージだったから、ちょっと意外だ。
「はあああぁぁぁ!! ライジングウウゥゥストラアアァァッシュ!!」
横薙ぎに振るわれる剣を、今度こそ首にくらう。
パワー・スピード・テクニック。どれも高いレベルでまとまっているな。
雷撃を纏うのは鎧の効果なのか、彼女の特性なのか知らんが効果的だろう。
「いい感じだ。センスがあるな」
「…………本当にびくともしませんね」
「勇者だからな」
「わたしも勇者なんですけど……」
「ならいずれこうなるさ」
「いいことなのかなあそれ……」
そんなわけで各種必殺技を撃ってもらい、簡単にバトルに入る。
「じゃあここからは実戦っぽくいこう。ヘスティア」
「ちゃんと録画しているよ。あとルールだけど、先生はちゃんと避けるしリリカ君に攻撃や撹乱をかけてくる。制限時間は五分。それまでギブアップもない。好きなだけ先生と戯れていい」
「修行って五分だけですか?」
「まさか。休憩入れるんだよ」
結構な額を貰っているもんでね。中途半端はしない。
勇者は困っている人をいい加減に扱ってはいけないのである。
「ならもっと長くてもいいですよ? 鍛えていますし」
「まず五分をおすすめする。先生は異常だ。常識や自分の感覚で考えると死ぬよ」
「死ぬ!?」
「死なねえっての。手加減はする。そのために技を使わせた」
それで力量を計っていました。まあかなり優秀だ。
元々武術か何かの経験と知識があるっぽいし。
そういう家柄なのかも。まあ完成されていると伸ばしにくいんだけれど。
「まだまだ眠っている素質がありそうだしな。来い」
「いきますよー!」
足と背中のブーストを吹かし、音速の世界へ入ってくる。
本来人間の死角から放たれる蹴りを、ぎりっぎりまで引きつけてかわす。
「消えた!?」
俺の頭を狙い、脚が髪の毛に軽く触れた瞬間に動いたからな。
確実に入ったと思っただろう。背後から声をかけてみる。
「油断しすぎだぞ。入らないことも想定するんだ」
「はい!」
言いながら剣を振り下ろしてくる。
いいね。戦いというものが理解できている動きだ。
だがもっと殺す気でやらせよう。
「足りないな。俺を殺す気で全力を出せ。この部屋は決して壊れない」
「はい!!」
ちょっと反撃しようと思い、突っついてやろうと手を伸ばして引っ込める。
こいつの鎧は両腕両足と背中意外が、なんかぴっちりした形状なんだ。
これヘタな所触るとセクハラじゃないか?
「どうしました?」
「いや……」
「……セクハラ勇者」
「ヘスティアうっさい!」
俺の思考を感じ取りやがった。腐れ縁はこういう所が面倒だ。
「しょうがねえな……ほいっと」
拳で大剣を弾き飛ばし、拳圧でリリカを吹っ飛ばす。
「うあうっ!?」
軽く転がってすぐに立ち上がり、剣を探している。
だがその剣は俺の手の中だ。
「さっきの技だが、回転中に無理に軌道修正しようとして、勢いと鋭さが落ちている」
見よう見まねだが、まあ電撃くらい出す手段は山ほどある。
「ちょ、それって……」
「実際に食らってみな。ライジングストラッシュ!!」
「うああぁぁ!?」
まさか自分の技が即興で真似されるとは思わなかったのだろう。
驚きで回避が遅れ、飛ぶ斬撃をモロに食らって壁にぶつかる。
「うぅ……」
「剣は返すぜ。まだいけるか?」
「いけます……やってやります!」
「いいね。勇者っぽいぜ」
剣を拾ったのを確認して、指先から軽く炎の渦を出す。
「うえぇ!? なんですかそれ!」
「魔法だよ」
「そんな当然のように!?」
驚きながらも回避している。よしよし、この程度なら避けられるんだな。
「そっちの勇者は使えないのか?」
「身体能力のアップと……あとは固有のスキルっていうか」
「そっち系か。でもこういう敵も出るかもしれないぞ」
次は氷の槍を連射。さてどう出る。
「ライジングフィールド!!」
剣を床に刺し、雷で円筒形のバリアを張る。
そういう事もできるのね。面白い。
「だが背後を気にしていないのはマイナスだ」
瞬間移動して後ろに回り、蹴りの風圧で打ち上げる。
「うあぁ!?」
「絶対安全な状況は少ない。油断は禁物だ」
「結界に反応しなかったのに……」
「そりゃ瞬間移動だからな」
更に背後に飛ぶ。次の瞬間リリカの蹴りが来た。
「反射的に後ろにヤマはって蹴ったか。いいね。学習している」
だが空中でも俺は自在に動ける。何もない場所を歩いて移動。
「なんで、当たらないの、かなっとうわあぁ!?」
「そいつは残像だよ」
わざと残像を蹴らせ、すり抜けると同時に残像のパンチがリリカを襲う。
完全に想定外だったのだろう。防御もできずに地面に急降下。
「まだまだ!」
ブーストにより、ゆっくりと地面へ着地。
やるね。楽しくなってきた。
「残像に注意だぞ」
「殴られましたけど!?」
「拳にだけ質量持たせたからな」
「ずるい!?」
今度は軽く、ぎりっぎりで回避できるくらいのスピードで蹴りを入れていく。
「避ける技術もあるんだな」
「もしかしてそうなるように手加減してます?」
「わかるってことは凄いことだぞ。んじゃスピード上げてみるか」
剣で受けるしかできない速度での回し蹴り。
「うぐ……うぅ……重い!」
しっかり受けて両足で踏ん張っているようだ。
地面をこすりながら後ろに下がっていく。
そんな感じで修行は続く。
「大丈夫か? 一回休憩しようぜ」
「だい……じょう……ぶで……」
「はい、五分経過。こっちでおやつ休憩にしよう」
ここでタイムリミット。リリカはもう汗だくだ。
これ以上は訓練しても意味がない。
ふらふらと椅子に座り、ぐったりするリリカ。
「や、やっと五分……」
「五分で終わってよかっただろう?」
「はい。この人……どういう……」
「気にしない気にしない。勇者だからで済ませるんだ。あの人は完全にイレギュラーだから」
そこにリーゼがやってきた。
手に持った皿には、冷たい紅茶とチョコレート多めのクッキー。
「お疲れ様です。おやつどうぞ」
「ありがとうございます!」
「すまないな。これ手作りか?」
上品で甘いいい香りだ。
なんとなく市販のものとは違う気がした。
「はい。こういうの好きなんです」
「女の子っぽいねえ。癒される女神様だ」
「ヘスティアに足りない部分を補ってくれているわけだな」
「もうカレー作ってあげないよまったく……」
ひとくち食べてみると、甘さがふわりと広がり、サクサクの歯ごたえととろけるチョコが絶妙のバランスである。
クッキーひとつをここまで美味しく作れるのは凄いな。
「お、こいつは美味い」
「すっごく美味しいです!」
「これはいい拾い物だったねえ。今度うちで出してみようか」
「やめい。カレーと合わないだろ」
一息入れたら反省会開始。
空中に巨大モニターを出して、さっきの戦いを再生する。
「ライジングストラッシュだが、ちょっと力が入り過ぎているな」
俺とリリカを同時再生して見比べてみる。
気持ちが先行して、それでいて型にはめようとするから崩れるのだ。
「この部分をちょっと修正したらどうだい? こう踏み込むときにだね」
ヘスティアが好き勝手に魔力で動画を編集し始める。
一応指示は的確なので俺も乗るとしよう。
「そこはこう、型にこだわらないで、自分のベストを出すイメージだ」
「なるほど……わたしこんな風に戦ってるんですね」
このモニター反省会は結構効果があるようだ。
休憩を終えたら早速バトルで体に叩き込もう。
そんなこんなで修行は続いていったのであった。
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