第46話 バトルランクも駄女神だよ

 いつか来た闘技場。女神バトルランカーが集い、日夜死闘を繰り広げている。


『勝者サファイア!』


「よし、楽勝よ!」


 そこに駄女神三人を放り込んでみた。


「この短期間で随分成長しましたね」


「元々あいつらは素質があるんだよ」


 俺は観客席で見ている。隣にはクラリス。偶然会った。


「クラリスもランク上がったんだろ。おめでとう」


 なんかランク五位になったらしい。まだ成長の余地があるってのも凄いな。


「ありがとうございます! しかし、まだまだ先生には遠く及ばず」


「いいんだよ。お前が強くなっているのは事実だろ。俺と比べる意味はない」


「できれば先生の強さに近づきたいのですが」


「ランクが上がってんだから、近づいているってことだろ」


 しかしクラリスで五位か。なんとなく過酷なんだろうと思う。

 そういや過去のクラリスって、手足のリストバンドをしてなかったな。


「なあ、その手首と足首のやつ、昔は付けてなかったよな?」


「これは重りです。日常生活でも外したことはありません」


「なんでそんなもんを」


「この程度の修行に耐えられないようでは、先生に近づけません」


「重症ですね」


 ローズとカレンが帰ってきた。ちょっと呆れ顔だ。


「ガチ勢すぎて引きますわね」


「お疲れ。動きに無駄がなくなってきたな」


 太陽と服の力を手に入れたローズは、ランク六十位まで駆け上がった。

 カレンは六十五位。実践の勘も戻ってきたようだ。


「サファイアは?」


「もう一戦やると言っていました」


「まだ焦ってんのかねえ」


「焦る?」


「ローズのとき、なんもできなかったの悔やんでるっぽい。強くなりたいんだと」


 正直心配だ。貪欲に強さを求めると、どこかで横道にそれる可能性が出てくる。


「焦りは油断を生む。危険だな」


「昔のお前みたいにな」


「せっ先生!?」


 実はクラリスも同じように焦り倒していた時期がある。

 自分を重ねてしまっているのだろう。ちょい顔が赤い。


「ほう、興味がありますね」


「聞いてみたいですわ」


「先生、お戯れはやめてください。サファイアの試合が始まります」


「へいへい。お、あいつは……」


 でかいモニターに映し出されたのは、なんとグラ子。


「久しぶりに見るな」


「ランク五十二位……下がっていますね」


「さてどうなるかな」


 女神が戦うにふさわしい神性で広大な舞台。

 そこに立つは二人の女神。と考えるとそれっぽいが。

 駄女神なんだよなあ……もったいない。


『ランカーバトル、レディー…………ゴオオォォォウ!!』


 開戦の合図とともに走り出す両者。


「まさかこんな形で戦うことになるとはな! 今日はお仲間のアシストはないぞ!」


「あんたくらい、わたしでも倒せるわよ!」


 グラ子の大剣と、サファイアの槍がぶつかり、衝撃が客席まで届く。


「ぐうっ……なんという重い一撃。スピードもあの時とは桁違いだ!」


「わたしは、強くならなきゃいけないのよ!」


 サファイアが押している。最初っから音速を超え、さらに速度を増していく。


「焦っていると聞きましたが、そうは見えませんわね」


「野性的っつうか、戦闘面の勘が異常だからな。戦いに入っちまえば、焦りとか消えるんだろ。正確に急所を探って、確実に相手の攻撃を捌いている」


「本格的に野生児として覚醒しつつありますね」


 ここでグラ子が距離を取る。

 その隙を突くため走るかと思いきや、サファイアも下がった。


「ブリューナクボンバー!」


「ぬうおおおぉぉぉ!!」


 槍を掴んで止めようとしたグラ子の前で大爆発。

 あれ止めても爆発するのエグいな。


「戻れ槍よ!」


 そして自動回収。便利な武器と能力だよ。

 ピンチを悟ったのか、グラ子が光り輝き始める。


「前に一度見せているな。この姿になれば、敵を倒し尽くすまで止まらんぞ!」


 体が四倍くらいになって、電球のように内側から光っている。

 前回より強化されているな。ちょっと厳しいかも。


「やってやろうじゃない。力を上げるだけなら……わたしもできるわ!」


 サファイアの全身から魔力が迸っている。

 力を制御できるようになれば、一時的に倍加させるくらいは可能だ。

 魔力制御の訓練も役立っているようでなにより。


「いくわよ!」


「我が力にて冥府へ落とす!」


 いや落とすなや。殺しNGだろこの戦い。


「うりゃりゃりゃりゃりゃ!!」


「なめるな!!」


 超高速の戦闘は続いていく。体格差をものともせず、互角に打ち合い続け、地道にローキックやボディブローで体力を削ぐ事も忘れていない。


「グラ子は自己再生型だ。再生を遅らせても、地味な攻撃じゃあ決定打にはならない」


「どうする気なのでしょう」


「全力を出せばいけると思いますわ。でもそれは……」


「グラ子が耐えられない。まず死ぬだろうな」


 さあどうする。手加減は難しい。

 手加減して相手に負けを認めさせるのはもっと難しい。


「悪いけど、完全に、完膚なきまでにあんたを倒すわ」


「ぬかせ! どう足掻こうが我の装甲と回復能力は超えられんわ!」


「そう……ならその力、弱めていけばいいのよ」


「なに?」


 サファイアの魔力が膨れ上がり、舞台上を暴れまわる。

 これは俺に使った新技か。


「なんだか知らぬが、小細工のできんうちに潰す!」


「もう遅いわよ!」


 グラ子の右ストレートを避け、腹にケリを入れて吹っ飛ばす。

 舞台を転がり、体勢を立て直したグラ子の顔が大層驚いているじゃあないか。


「なんだ……まだ魔力をあげられるのか?」


「違うわ。あんたの魔力が減ったのよ。降参しなさい。もう勝ち目はないわ」


「ふざけたことを……ならば全霊の拳、受けてみよ!」


「無駄よ!」


 お互いの拳が真正面からぶつかり、衝撃で吹き飛ばされたのはグラ子であった。


「こんな……こんなバカな!!」


「ありがとうグラ子。あんたのおかげで、ちょっとは強くなってるって実感できたわ……さよなら」


 完全にダメージが抜けきる前に、ボディーブローで意識を刈り取った。


『勝者サファイア!!』


 闘技場を歓声が包む。軽く右手を上げて応えた後、俺達のもとへと帰ってきた。


「おつかれ」


「やりましたわね」


「お見事です」


「まあざっとこんなもんよ!」


 サファイアは嬉しそうだが疲れが滲んでいる。

 回復魔法をかけてやり、体調チェック。ついでにストレスも和らげておく。


「強くなってるのは実感できたわ。本当に先生がいると、自分の強さがわかんなくなるわね」


「そもそも俺より強くなるのが目的じゃないぞ。異世界を救う立派な女神になることが大切だ」


「うむ、そこにこそ先生の教えが凝縮されているのだ」


「お前らは道を間違えないでくれよ。俺を超える必要もないし、俺は敵じゃない。勇者なんだ。恨まれたいわけじゃない」


 ちょっとだけ昔の事を思い出した。記憶の隅に残っていたみたいだな。


「先生? どうしたのです?」


「ああいや、なんでもないよ」


 生徒が怪訝な顔である。いかんいかん。しゃきっとしよう。


「お前らは強い。力の使い方によっちゃあ神でも殺せる。それを常に心の、すみっこでいいから忘れずに置いておけ」


「気をつけます」


「わかったわ。楽しても先生みたいにはなれないのね」


「そういうことですわ」


 加護なんて使い方次第だし、ぶっちゃけ殴ればいいのだ。


「じゃ、飯でも食おうぜ。また牛すじとカレー食うか」


「新メニューにラーメンできたらしいわよ」


「んじゃそれだな」


 全員で売店まで行こうとしているその時、見知らぬ女神が声をかけてきた。


「お久しぶり、クラリス。そちらはあなたの弟子?」


「……すまない、どこかで会ったか?」


 知り合いっぽい雰囲気全開だったのに、クラリスは知らんらしい。


「ワタシよ。リュカ。覚えていない?」


「リュカだと?」


 緑髪を後ろで縛った女だ。鍛え抜かれた体と赤い胴着が特徴だな。

 多少小柄だが、纏っている魔力で大きく見える。

 というかなんだこの禍々しい魔力は。


「やっぱり知り合いか」


「知り合いのリュカです。魔力は同じだが、おかしい。リュカは紫色の髪だったはず。それも大人の女性だ。似ても似つかない」


「強さを求めた結果よ。この姿が一番馴染んだの」


 リュカの後ろに同義の女神がやって来る。

 十人くらいいるな。リュカを探していたらしい。


「この子達は同門よ。ランカー試験全員合格。少しヒヤヒヤさせてくれたけど」


 さらに走ってくる女神が数人。なるほど、弟子とか取るのか。


「武術家ですわね。それも暗殺術に近いものを感じますわ」


 武術を使えるカレンは気付いたか。

 俺は武術を使わなくなった。使う相手がいなくなったからだ。

 なので失伝しないよう、カレンに色々叩き込んだのさ。


「ふーん、わかるのね。どう? クラリスではなく私の道場に来ない? そこそこのセンスがありそうだし」


「せっかくですが遠慮いたしますわ。わたくし、クラリスさんの弟子でもありませんの」


「なに?」


「話があるのなら、手短に頼む。先生をお待たせするわけにはいかない」


「先生? 貴女がどこかの道場にいるという話は聞いていないわ」


「関係ないだろう。要点を言え」


 知り合いに会ったってのにそっけないな。

 もうちょい女神に優しくてもいいのに。要改善かね。


「そ、しょうがないわね。じゃあばっさりと、サファイアさん、一緒に来る気はない?」


「……なんですって?」


 意外にもスカウトに来たようだ。サファイアは素質だけなら超一流。

 目のつけどころはいいが、なんだこの胡散臭さ。


「強さを得るには、もっともっと貪欲に、ひたすら魔力を高めていかなきゃダメよ。貴女は焦っている。今の自分じゃあ、絶対に届かない壁に悩んでいる。そう見えたの」


「余計なお世話よ」


「そう邪険にしないで。どんな女神をも超える力を手に入れる。それがワタシたちの目的。どうかしら? 地道な練習では到達できない場所もあるのよ」


「大きなお世話。わたしはここで強くなる。お話はここまでよ」


 きっぱり断るか。即答するとは思わなかったぞ。


「そう、そちらのお二人は?」


「お断りいたしますわ」


「同じく、お断りします」


「そう、残念」


 あまり期待していなかったのか、あっさり引き下がるリュカ。

 そして最後に俺を見る。じろじろ見ているのは、男が珍しいからかな。


「それと、勇者で先生ってあなたよね?」


「ああ、多分この世界に勇者は俺一人だと思うけど」


「そう……楽しみにしていて。もうすぐ会えるって言ってたわ」


 善人には見えない、なのに無邪気な微笑み。

 この女への不信感が増していく。


「会える? 誰にだ?」


「貴女のことを想う女神。死ぬほど、殺したいほど貴女を想い続ける女神よ」


「そりゃ物騒なやつがいたもんだな」


「どういうことだリュカ。先生に何をする気だ!」


「さあ……ふふっ、なんでしょう。少なくとも、ワタシは勇者様に興味はないわ。勇者なんて珍しくもないもの」


 転移魔法陣を展開し、弟子とともに消えていくリュカ。


「伝えたわよ、さようならセ・ン・セ・イ」


 不敵な笑みを残して消えていった。狙いがわからん。


「なんだったのかしら。まあいいわ。ご飯食べましょ」


「そうだな」


 ひとまず忘れよう。妙なことがありすぎる。

 みんなでラーメン食っているうちに、心のもやもやは消えていった。

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