駄女神バトル サファイア編

「先生、わたしと勝負して」


 授業が終わり、帰ろうとしていたらサファイアに引き止められた。

 いつになく真剣な顔で言われたので、二人して校庭に出る。


「本気でやる。先生もちゃんとやってよ」


「わかった。でもなんで急に?」


「ちょっとね、わかんなくなったのよ。色々と。お願いね」


 マジな相談か。ならば本気で応えよう。

 それが先生であり、勇者である俺のやるべきことだ。


「ふっ!」


 サファイアの姿が消え、背後から猛烈な殺気。

 横薙ぎに振られた槍を交わすと、さらに左手から魔力波を撃ち込まれる。


「はああぁぁ!!」


 避けて距離を取るも、光速に達していそうなほど速く駆けるサファイア。


「うりゃりゃりゃりゃりゃ!!」


 文字通りの光速突きをくぐり抜け、ちょっと反撃してみる。

 拳を音速越えてくり出すと、槍の柄で弾き、こちらの体勢を崩しながら刃で反撃に転じてきた。


「やるね」


「舐めんじゃないわよ!」


 背中から無数の魔力弾が飛んでくる。色とりどりで、綺麗な羽のようだな。


「魔力のコントロールもできるみたいだな」


 魔弾は追尾タイプか。一発打ち落としてみると大爆発。

 いいね。次々はたき落とすが、最低限水爆の数十倍は出ている。

 そのくらいの爆発はしてもらわないとな。


「飛びなさい!」


 ブリューナクを地面に突き刺すと、いつの間に書いたのか、魔法陣が発動。

 俺を空へと持ち上げる。そこからドリルのような回転を加えた一撃が襲ってきた。


「螺旋女神改!!」


 こういうのは先端を抑えて回転を止めりゃいい。

 魔力を指先に集中。完全に停止させて打ち消した。


「落ちなさい!」


 大出力の範囲魔法で強引に俺を地面へ落とす。


「いい感じだな」


 最初のバックアタックからここまで二、三秒か。

 こいつ、恐ろしいスピードで成長してやがる。

 戦闘に関しちゃ、そこらの勇者も女神も凌駕してんぞ。


「あーあ……やっぱり半端じゃダメね」


 言いながらも顔と声に諦めの色はない。

 全力というより小手調べだった。なにか隠し玉があるのだろう。


「十秒よ」


「なに?」


「今からジャスト十秒で……マジに先生を倒すわ」


 上空へ飛び、自分の全魔力を解き放っている。

 狙いは何だ。ここまで来て無意味に開放するわけがない。


「はああああぁぁぁぁぁっ!!」


 世界が揺れ、一瞬何かが周囲を覆う。

 妙な感覚だ。デバフ魔法に近いかな。

 能力の正体を知りたいので、無効化はしない。


「今……先生の全能力は半分になった」


「ほほう?」


「力っていうのは、自分だけじゃない。他人の力をも理解し、利用する。それはつまり、全存在の力を操作できるということ!!」


 よくわからん。この理屈は半分正解ってところだろう。

 勘だけで生み出した能力に、無理矢理な理屈をつけたのか。


「さらに! 半分の次はまた半分に! これを一秒間に百回続ける!」


「おー凄いな。面白い。くらってやるよ」


 自分で食らうと決めたが半信半疑だった。

 本当に減り始めて感心。やるね。


「余裕ぶっこいていられるのも今のうちよ! こうしている間にも、ステータスは減り続けている!!」


 どうやって身につけた力か知らないが、これはかなり強力な部類だろう。


「さあ、これでジャスト十秒! このわたしの力の前にひれ伏しなさい!」


 さらに天高く舞い上がり、ブリューナクに全魔力を集中させて突っ込んできた。


「究極女神雷砲……爆! 滅! 波あああぁぁぁ!!」


「…………はあっ!」


 真正面から右ストレートを合わせてやる。

 膨大な力がぶつかり、そして砕けた。砕いちゃった……ブリューナク。


「うーわやっちまった」


「そん……な……」


 やはり全身全霊の一撃だったのだろう。

 ふらふら降りて、その場にへたり込んでいる。


「わたしの全力が……今度こそ勝ったと思ったのに……っていうかブリューナクどうしてくれんのよ!」


「いや悪かったよ……ちゃんと手加減はしたんだが……」


「手加減!? この期に及んでまだ手加減してたの!?」


「しなきゃ壊れちまうと思ってさ」


 実際ブリューナク壊れちゃいました。

 まあサファイアが無傷っぽいのでセーフ。セーフですよ今回は。

 次回があったらマジで気をつけよう。


「悪い。別の武器やるよ。なんだったらブリューナクもやる」


「どうやってよ?」


「普通にあと五本くらいストックがある。前に言ったろ、武器集めに凝ってた時期があるって」


 伝説の武器って一本限りのお得品だからな。

 自分で複製するか、似たような異世界で手に入れていた。


「で、なんでいきなり戦おうとした?」


「悪かったわよ」


「責めている訳じゃない。向上心があるのはいいことだ。俺っていう強いやつがいるんだから、こうやって試合とかして強くなるのはいい傾向なんだよ」


 これはむしろ褒めるべき。自分から成長しようとしているのだ。

 原因をしっかり聞き、ちゃんと伸ばす。それが教師というものさ。


「わかんなくなっちゃったの。自分が強いのかどうか。ローズも、カレンも、新しい力を手に入れて、どんどん強くなっていって。でもわたしは魔力が高いだけ」


 特殊能力に目覚めている二人と違い、サファイアは純粋なパワーが売りだ。

 それを差をつけられていると感じたのだろう。


「必死に編み出した技は先生に通用しないし……」


 これはどう声をかけたものかな。俺に効いてはいた。間違い無い。

 それを上回るくらい、俺の能力が高かった。

 これを嫌味なく伝えるのは難しいぞ。


「経験じゃカレンに勝てない。能力も無効化される。ローズは太陽の力を手に入れた。わたしだけ弱いまま。またローズの時みたいに、誰かがピンチになっても……わたしは何もできない!」


 こいつはこいつなりに、ローズを助けに行けなかったことを悔やんでいるんだな。


「それは違うさ。お前は強くなっている。それは俺が保証するよ」


「でもローズが消える時、何もできなかった!」


「あれは本来どうにかできるものじゃない。女神女王神が無理なもんは、どうにもできなくて当然だ」


「でも先生にはできたじゃない」


「そこまでに何千何万の戦いがあった。何百個も異世界を救い続けた経験が、その過程で得た強さがあったからだ」


 流石の俺も昔ならちょっとやばかったかもしれない。

 太陽のもとは異常だった。半端な邪神じゃ足元にも及ばないだろう。


「いきなり強くなろうとしても、体がついていかないさ。今のサファイアは強いよ。最初に比べたら本当に見違えるほどだ」


「昔より強くても、通用しなきゃ弱いままよ」


 思い詰めているな。これは分岐点だ。

 ここで力を求めすぎて邪道に入ったやつを知っている。

 道は本人が決めること。だが、できればまっすぐ育って欲しい。


「こんなんで世界なんて救えないわ」


「できれば勇者に救わせて欲しいんだけどな。今だって半端な魔王より強いと思うぞ。女神界でも強い方だろ」


「うぅ……納得いかない……そうだ! ヴァンパさんの世界はいつ救うのよ!」


 思い出しやがったなこいつ。どう話そうか考えているうちに忘れかけていたよ。


「…………そこに気づいたか」


「なに? 滅んだの?」


「逆だ。平和に向かっている」


 一応は救う予定の世界だからな。調査は続けていた。


「勇者が勝ったの?」


「結論から言おう。ヴァンパさんが魔王ぶっ飛ばしちゃった」


「…………はあ?」


「吸血鬼の弱点全部克服してあげて、全ステータス死ぬほどぶち上げたら魔王とか雑魚レベルになっちゃった」


「つまり先生のせいね」


 それを言われると痛いな。なかなかに鋭いじゃないの。


「魔王が軟弱だったということでひとつ……」


「ごまかさないの」


「悪かったよ。ヴァンパさんは魔王ぶっ倒して魔族の王になった。で、魔王ってことは結局俺達が倒しに行くわけだから」


「悪さしてないのね」


「正解。人間と和平の道を模索中だとさ」


 これは素直に応援している。

 長い戦いの歴史があるんだから、一筋縄ではいかないだろう。

 それを承知で選んだのだ。


「偉いよなあ……吸血鬼なのに人間ができてらっしゃるよ」


「先生に絶対勝てないからじゃないの?」


「…………それでも立派だよ。解決法は力だけじゃないってことさ」


「力だけじゃない……じゃあ、強さってなんなの?」


「それを考えるのも修行さ。なんせ答えは全員違う。こればっかりはサファイアが自分で決めるしかない」


 先生は教え、導くもの。けれど、自分の思想に染めていいわけじゃない。

 大切な生徒だからこそ、答えは自分で出して欲しいんだ。


「まだ……弱いまんま……弱いうちは答えなんて出せない気がするの」


 サファイアを強くするために必要なのは、なんだろう。

 そこで強くなるというより、修行になるものを思い浮かべる。

 あるじゃないか。うってつけのやつが。


「んじゃ行ってみるか。バトルランク上げに」


 せっかく取ったランカーだ。最大限利用すりゃいいのさ。

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