第36話 先生との出会い美由希・アリア視点後編

 先生と一緒に小さな依頼や事件をこなし、少しだけお仕事が入ってくるようになりました。

 今日も今日とて自分の宇宙船にあるトレーニングルームで修行中です。


「セイヤアアァァァ!!」


 仮にも女神である私の全霊をかけた一撃。

 下手なミサイルなど比較にもならない威力の一撃を、防御もせず食らう。


「いいぞ。その調子だ」


 なのに先生は微動だにしない。ピクリとも動かないし、傷つかない。

 先生の身体はどうなっているのか。


「魔力を流すのが得意っぽいな」


「魔力をぐるぐるさせて、強くするのが得意デス。空気や物に伝えるともっと早いデス。ネオホープに魔力がいっぱい流れるデス」


「なるほど。拙いからこそ、魔力で伝えようと……か。女神ってのは不思議だな」


 よくわからない事を言っている先生。

 ペンを取り出し、魔力を込めて回転させている。


「これは魔力だけで回している。美由希の魔力は精密動作性を上げれば上げるほど強い。このペンはちょっとやそっとじゃ砕けないから、練習に使え。高速で回したり、魔力の種類を変えたり、色々やってみるといい」


「はいデス!」


 この訓練は難しく、合間合間にできるため、理にかなっていた。


「よし、じゃあ次はロボ組手するぞ」


 そして宇宙空間で、ネオホープに乗った私と、長袖長ズボンで運動靴を履いた先生が対峙する。


「よろしくお願いしマス!」


 なぜ先生の声は聞こえるのだろう。

 なぜ普通に宇宙空間に立っているのだろう。

 私は考えるのをやめた。先生は先生だから凄くてなんでもできる。


「よろしく。さあ、新しい武装を見せてくれ」


 こうして新武装を先生で試し、敵を倒してお金を稼ぐ。

 自分の訓練と、最近では家事を教わる機会も増えた。

 自分の生活が充実していると感じる。


「いっきますよー!」





 そして月日は過ぎ、先生との同居も違和感が消えるほどの長さとなった。

 そんな私は今、宇宙船で報告書に追われていた。


「ううぅ……女神界はもっと神聖な感じでいいと思いマス」


「手伝うか?」


「結構デス! ワタシはまだやれる子デス!」


 じっくりと経験を積み、大規模な作戦にも参加し、成長していることも実感した。

 けれど宇宙船は最初のまま。メンバーも先生だけ。

 なんとなく、住み心地が良くて、この先生との空間に誰かが入ってきて欲しくなかった。


「そろそろ助けたいぞー」


「却下しマス! センセーは見守っていてください!」


 私はまだ、一度も助けて欲しいと言っていない。

 先生がそれとなく、私に気づかれないように、細かいところでサポートしてくれているのは知っている。

 それにはお礼を言いながら、私自身の未熟さを恥じたりした。


『こちら管理局。美由希・アリアに告ぐ……』


 通信が入った。なんでも先日倒した黒い機体の軍勢について話があるとのこと。

 管理局の女神直々に会いたいと言っているらしい。


『本人と機体のみで来るように。人間の同行は許可しない』


「妙な注文だな」


「大丈夫デス。きっと今までの働きが認められたのデスよ」


 先生には管理局のある星で、宇宙船と一緒に待機してもらうことにした。

 私だけがネオホープに乗り、宇宙まで届く巨大な塔へと入る。


「失礼します! 美由希・アリア入ります!」


 そこは異様な光景だった。真っ白な床と真っ赤な絨毯。どこまでも広がる青空。

 そこに立つ、真っ黒なドレスを着た巨大な女神。

 少女趣味な家具や、宇宙を見渡すモニターもある。

 広さからして別の空間だろう。全てがアンバランスだった。


『あんたが美由希ちゃんね。最近調子いいらしいじゃない』


 この世界のトップと言っても過言ではない女神、マリアがいた。

 金髪碧眼。美しい容姿。女神である……はずなんだ。

 妙に響く、綺麗なのに気味の悪い声。嫌な感覚だ。

 とりあえず当たり障りのない返答をする。


「恐縮デス!」


 マリアは十メートルくらいあるだろうか。

 女神というのは人間と同じサイズのはず。巨大化する魔法もあるにはある。

 けれど何か違う。この女神は……なにかもっとおぞましい力で溢れていた。


『とりあえず機体から降りて』


「はい、失礼いたしました」


 機体から降りると、その異様な大きさが怖くなる。


『あんたらさ、このあいだ真っ黒の機械軍団倒したでしょ?』


「はい!」


『どうしてくれんの?』


「……は?」


 質問の意図がわからず、答えを探していると、いきなり現れた何かに脇腹を殴りつけられた。


「がはっ!?」


 突然のことで防御もできず、そのまま地面を転がる。

 激痛が全身に広がっていく。その感覚に悶える間に、魔力で浮かされ、マリアの目の前まで引っ張られる。


『あんたらが無駄に張り切ってくれちゃったせいでさ、犠牲者がほとんど出なかったんだよね』


 私の体より大きな目が、綺麗なはずの眼が、とても濁った汚いものに見えた。


「それなら……どうして……」


『どうして? せっかく面白くなりそうだったのにさ。あんまり調子乗って強くなられても困るんだよね。駒が減っちゃった』


「駒?」


 ドレスのスカートから、つい最近倒した黒の騎兵が現れた。

 首と僅かな胴体しか残っていないそれは、確かに倒した敵。


「な……どうして?」


『あんたそれしか言えないの? あたしが世界を面白くしてあげてんのにさあ。なに邪魔してくれちゃってんのよ』


 巨大な剣が私に叩きつけられた。剣と認識するまでに一瞬の隙が生まれ、両腕の防御もむなしく吹き飛ばされる。


「きゃあぁぁ!?」


 本来死んでいてもおかしくないのに、私の体はつながっている。

 胸のあたりが暖かい。原因はわからないけれど、傷も癒えていく。


『うーわ、タフだねー。そこまで強くなったんだ。嬉しいわ。あんたを取り込めば、あたしは最強に近づくってことでしょ』


「取り込む?」


『そ、あたしが評価を下すことで、女神に競争心を植え付ける。いい暮らしを目指して強くなる。この子達と戦わせて、限界が見えたら呼び出して取り込む。これを繰り返していけば、あたしは最強の女神になれる』


「そこまでして……なぜ最強に……」


『女神界をあたしのものにするためよ。全世界の頂点である女神界さえ掌握できれば、世界はあたしに跪く』


 そんな、そんな理由で人々を脅かし、女神の命を奪ってきたというのか。

 なぜそんなことができるのか。同じ女神だと信じられなかった。


『バカよねえ。利用されているとも知らずに、一生懸命戦っちゃって。ふふふ、あーっはっはっは!!』


 つまり、つまりこの世界の戦いは……今まで沢山の人が、何人もの勇者が、平和を求めてその命を散らしていたのは。

 戦いは、この女神がいる限り。



 ――――――永遠に終わらない。



「う……うあああああぁぁぁ!!」


『うるさい。黙れ』


 また床に叩きつけられた。私の心もどん底まで落とされた気分だ。

 世界の平和を信じて。みんなが笑って暮らせる世界のために。ただそれだけのために……それなのに、そんな人々の思いを踏みにじって。


『ついでにあんたの機体、ネオホープだっけ。まあいいわ。使ってあげる』


 機体が黒く、暗い力で染められていく。

 私と先生の希望が、思い出が汚されていくようで……無意識のうちに叫んでいた。


「やめて! その子は……その子だけは!!」


『指図すんなよ』


 大きな魔力が打ち付けられ、また私の体が悲鳴をあげる。

 マリアのにやついた笑みが気に入らない。こんなの女神じゃない。


『頑丈だねー。なんで一回も死なないわけ? あんたマジでどうなってんの?』


「鍛えて……もらったから……かな?」


『あっそ、じゃあ自分の機体に潰されなさい。自分の希望に握り潰される。悪くないでしょ』


 ネオホープの黒い手が、私を包み込んで握り潰そうとする。

 体がまともに動かない私は、あっさりと捕まってしまう。


「うああああああぁぁぁ!!」


『いい声ね。そのまま潰れてちょうだい。死んでからでも取り込めるもの』


 全身が軋む。逃げ場がない。痛い。身動きすらできず、ゆっくりと自分の体が歪む。目の前にこの世界の悪が、元凶がいるのに。

 抵抗することすらできないのか。私は、無力なままなのかな。


「う……あ……」


 また暖かい力が私を癒やす。同時に拘束が解け、ネオホープの手が開く。

 その手は白く輝いていた。


『何? まだ抵抗するだけの力があんの?』


 そんなものはない。今だって、地面に向けて真っ逆さまだ。

 このまま落ちて潰れてしまうだろう。


「あたた……かい……」


 私の予想は外れ、ゆっくりと、私を包む光によって床へと降ろされた。

 この胸の暖かさ。その原因がやっとわかった。

 服の内側に、いつも大事にしまっていたハンカチ。


「守って……くれてたんだ……」


 先生がくれたハンカチ。辛い時は、こっそりこれで涙を拭いて、また前を向く。

 ずっと守ってくれていた。離れていても、私を守ってくれていたんだ。


「そうだ…………勇者なら……勇者のパートナーなら……」


 身体は悲鳴を上げている。膝が笑うし、吐き気もする。

 だけど、ここで諦める訳にはいかない。

 私は先生のパートナーなんだ。なら、諦めちゃいけない。


「絶対に……諦めない!!」


『あんたになにができるっていうの?』


「そんなもの……やり終えてから考える!!」


 体に鞭打って、ネオホープへと駆ける。


『そんなにこの子が大事? なら、この子の手で死になさい!』


 動きのぎこちないネオホープのパンチをかわし、その腕を伝ってコックピット部分へ。装甲の外からでも、私の魔力さえ流せれば。


「お願い……伝わって!!」


 ありったけの魔力を流し込む。魔力の操作訓練は毎日してきた。

 操作パネルがあるはずの場所へ集中。無理やり外から動かしてみせる。


『無駄無駄。あたしがどんだけ女神を取り込んだと思ってんの? 邪悪な力は半端じゃないよ?』


「動いて……お願い……二人で……あいつを倒すの!!」


 上半身だけが、徐々に白く戻っていく。

 伝わっている。全開の魔力なら、マリアの邪悪な力を押し戻せる。


『うっざ。無駄に魔力があるみたいだけどさ、調子に乗ってんじゃ……』


 上半身だけ動かせればいい。機体の両手のひらをマリアの前に突き出し、私とこの子の全エネルギーを集中。ネオホープの総力を込めたビームが撃ち出された。


『なにっ!?』


「いっけええええええぇぇぇ!!」


 アリスの巨体すらも飲み込む光の渦。魔力が尽きるまで、手は抜かない。

 ありったけ撃ち尽くしてやる。徹底的に、この世界の悪意を消し去るんだ。


「負けない……勇者は……女神は……負けちゃいけないんだああぁぁぁ!!」


 光の中に影がある。それは徐々に大きくなり、こちらへと迫る。


『この……糞ガキがああぁぁぁ!!』


 マリアだ。鬼のような表情で、ボロボロのドレスを気にすることもなく、こちらに特大の魔力弾を放ってきた。


「きゃあああぁぁぁぁ!!」


 今度こそ為す術がなかった。魔力は使い切り。機体から振り落とされ。

 魔力弾の衝撃で破れた服から、落下中にハンカチを落としてしまった。

 最後の力を振り絞ってなんとか着地するも、全身は言うことを聞かない。


『ふざけやがってええぇぇぇ! 殺す! 殺してやる!! もう取り込むのはやめだ! この世から消してやる!!』


 終わりだ。もう一度魔力弾が来る。避けることすらできないだろう。

 座り込み、動かなくなった足に触れるも感覚がない。

 足の感覚も、手の感覚もだ。ハンカチが、私の最後の希望だった。

 完全に心が折れた。


「…………センセー……ごめん……なさい……」


 頑張ったけど……もう……私はダメみたいです。

 一緒に世界を平和にするって約束、守れませんでした。


「約束守れない……悪い子で……」


 死ぬ間際に思い出すのは、先生の優しい笑顔。温かい手。

 私を励まし、褒めてくれる声。一緒に訓練をして、料理を教えてくれて。

 そういえば、今日は一緒にお鍋をしようっておはなししたなあ。


『死ねえええぇぇぇっ!!』


 私ってば先生の事ばかりだ。

 大切なことは全て先生から教わった。先生が全部教えてくれた。

 もっと一緒にいたかったな。もっと好きなものも作ってあげたかったし、聞きたいことだっていっぱいあった。


「…………センセー」


 まだ一緒にいたい。死にたくない。

 約束も守れないのに、ちょっとわがままかな。

 それでも願いが叶うなら。私のわがままが通るならどうか。


「………………助けて…………ください……」






「まかせな」





 軽い破裂音。風船が割れるような音がして、迫る魔力が消えた。


「う……あぁ……」


 そこにあったのは見慣れた背中。間違えるはずがない。

 いつも私を支えてくれた、大きな背中。


「センセー!!」


「おう、助けに来たぜ」


 優しく私の頭を撫でてくれる。それだけで痛みが消えた。

 服も元通り。こんなことができるのだ、先生に違いない。


「本当に、センセー……」


「おう。美由希のセンセーだ」


 ゆっくりと抱き起こされた。勢いのままに先生の服を掴み、その胸に顔を埋める。

 泣き顔を見られたくなかった。もう涙は止まらない。


「うっ、うわああああぁぁぁん!!」


「よしよし、怖いのに頑張ったな。俺が来たからもう大丈夫だ」


 何度も何度も慰めの言葉をかけてくれる。

 心が満たされていく。もう不安も迷いもない。


『そいつ誰? 人間を連れてこいとは言ってないんだけど?』


「ちょっとだけ、いい子にしてるんだぞ」


 新しいハンカチで私の涙を拭い、手渡してくれる。

 そっと私から離れ、マリアに向き直る先生。

 堂々たる佇まいは、強大な悪意に少しも怯んでいない。


「そうか。美由希を泣かせたのはお前か」


 空気が変わる。揺れる。プライドの高い女神だ。人間に舐めた態度を取られて、機嫌が悪くなったのだろう。


『オマエ? 人間ごときが、神をオマエと呼ぶの?』


 私にも振るわれた大剣が、先生を襲う。

 女神でも重症を負うというのに、先生は立ったまま微動だにせず受ける。


「お前は女神じゃないさ」


『うるさいよ、クズが』


 平然と、防御すらせずその身に受けて、悪意を一身に受けているのに。

 目で追えないほどの猛攻を受け続けて、先生は傷一つつかない。


「美由希はいつだって平和のため、誰も傷つかない世界のために戦ってた」


『うるさいっ!!』


 相手は邪神なのに。女神を吸収し続けた最強の女神なのに。どうしてだろう。


『なんだ! なんなんだよオマエ!! 倒れなさいよ!!』


 負ける姿が想像できない。


「お前は女神じゃない」


 巨大な剣は、人間の拳によって粉々に砕かれた。

 先生の拳に、砕けないものなどありはしない。


『うっざい! やっちゃえ!』


 立ち塞がる黒い機体。色は変わっても、間違えようのない機体。

 私と先生の希望。ネオホープ。


「ああ、悪かった」


 軽くジャンプし、先生の手が優しく、壊れかけのネオホープの頭に触れた。


「助けるのが遅れたな」


 それだけで邪気は消え、見慣れた白い姿が戻ってくる。


『うそ……なんでよ!!』


「お前も頑張ったな。よく美由希を支えてくれた」


 優しい声でネオホープを撫でている。私の時と同じだ。もう傷跡すらない。


『クソが! あたしはこの世界の管理者だぞ! あたしの報告ひとつで世界が、女神が敵に回るんだ! それをわかってんのか!』


「そうかい、なら報告はひとことでいい」


 まるで散歩に行くかのような気軽さで、さらりと告げる。

 先生の両手に光が満ちた。それは女神よりも神聖で、全てを浄化してくれる光。


「世界は平和になりました、ってな」


『バカな……こんなはずがあああああぁぁぁぁ!!』


 とても大きくて綺麗な光は、マリアを断末魔の悲鳴ごと飲み込んだ。

 その日……邪神は、世界を覆う悪意は、あっけないほど簡単に消えた。


「よし、帰ろうぜ。俺たちの家に」


 そんな偉業を成し遂げた勇者は、私と二人で買い物袋片手に帰ってきた。


「ふっふっふ、カニゲットできたぞ。さっそく鍋に入れようぜ」


 他人に話して信じてもらえるだろうか。

 その日の鍋は、いつもよりちょっぴりしょっぱかったことを、今でも覚えています。


「しかし、今回はまた報告書が大変そうだな」


「うぅ……それは……」


「手伝うかい?」


「お願いします」


 私たちには、この世界の真実を女神界に報告するというお仕事がありました。

 これがまた大変で、かなり時間を使いましたとさ。





 長い長い後始末も終わり、世界が平和になったことで、私は女神界に戻された。

 そして私は記者の道を志す。

 知って欲しかった。人知れず世界にために生きるもののことを。

 それを、誰も知らないままで終わらせたくなかった。


「先生のことを……私を救ってくれた勇者のことを忘れないために。悲しみを終わらせてくれた人が、誰にも知られること無く終わって欲しくない!」


「そう……あなたも先生に助けてもらったのね。いいわ、やってみましょうか」


 たまたま先生を知っている女神と知り合えて、小さなコーナーから始まった。

 最初はちょっとした特集を組めるだけ。

 それでも購読者は増えていき、実際に先生に助けられた女神にインタビューして、それを記事にしたりした。


「先生は……本当にどこに行っても先生デスね……」


 話を聞く度に、まるで先生の冒険を追体験しているかのような気分だった。

 そんなことをずっと続けている。

 今日もまた、一人の女神にインタビューを終えた。


「これじゃまた……ワンパターン創作雑誌扱いデスねえ」


「本当にあの人は……ちょっとは苦戦しなさいってのよ」


 女神を超越し、世界を救い続ける人間の男。

 そんなものを特集していれば、オカルト雑誌のような扱いを受ける。

 完全な創作と思っている女神が大半だろう。


「ふふっ、先生が苦戦……全世界の危機デスね」


「洒落にならないわね。女神界もなくなるんじゃないかしら?」


 なにせ相手がどんな魔王だろうが邪神だろうが、絶対に勝つ。

 苦戦しているという話すら聞かない。

 あまりにも現実離れしている。そりゃ信用されないに決まっていた。

 圧倒的な強さは女神ですら、いや女神という絶対強者だからこそ受け入れがたい。


「そんな先生に関する特ダネよ。最近、駄女神が増えたからって、女神女王神様が作った施設があるでしょう?」


「あーありましたね。再教育施設だとか」


「そこの先生がね、あの人らしいのよ」


 心が跳ねる。もう一度、先生に会えるかもしれない。

 不確かな情報だけれど、別人かもしれないけれど。

 でも、あのぬくもりと優しさに触れられるかもしれない。


「で、それを話したら取材に行きたいって、みんな来ちゃってね」


 先生の教え子で、同僚のみんなが立っていた。

 みんなやる気に満ちている。


「ここは公平にじゃんけんとくじ引きで決めるわよ」


「ふっふっふ……負けないのデス! この企画はワタシが始めたもの! センセーに密着取材をする権利は我にありデース!」


 待っていてください先生。

 大きくなった私は、あの頃とは一味も二味も違います。

 今度こそ、あなたの全てを暴いてみせますからね。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援した人

応援すると応援コメントも書けます