定食屋でも駄女神だよ

 手頃な和風の定食屋。なるほど安い値段で小奇麗だ。

 四人で靴を脱いで、座敷へ座る。ファミレス以上、料亭未満だな。

 なのにメニューが手頃。素晴らしい。これで味が良ければ通うとするか。


「俺は唐揚げ定食で」


「先生と同じものにします」


「私はハンバーグカレーを」


「わたくしはハムカツオムハヤシで」


「わたし焼肉定食ね」


 メニュー抱負すぎませんここ。いや嬉しいけどね。


「ここは少々特殊でして、ご飯が麦とおこげも選べます」


「おこげってなに?」


「ザックリ言えば、ちょっと焼いた飯だな」


「チャーハンですか?」


「いや、白米を……いいや、俺が頼むよ」


「んじゃわたしもそれにするわ」


 注文して雑談タイム。クラリスのこともしっかり思い出した。


「先生が女神界へ……気づかなかったとは不覚……」


「この前雑誌の取材も来たわよ」


「なんだと!? くっ、まだ買えるだろうか……」


「そこまで欲しいもんじゃないだろ」


 ぷるぷる震えている。そんな悔しがられても困るわ。


「そんなことはありません。先生のお言葉を聞き逃すなど、あってはならないこと」


「暑苦しいっていうより、硬いのね」


「ああ、昔からお硬いまっすぐなやつでな。世界を救うために頑張っていたんだが、いかんせん難易度が高すぎた。あれは加護を与えた人間が数人いても無理だったよ」


「本当に……本当に先生には感謝しています。私を鍛えていただいて」


「いいさ、世界を救うのも仕事だし」


 順調に強くなっていた俺は、女神を強化したらどうなるかに興味を持った。

 そこで、強くなりたいというクラリスを鍛えてみたわけで。

 まあ大当たり。こいつはめきめきと成長し、無事立派な女神になったわけさ。


「苦労されて……大変でしたわね」


「だがおかげで強くなれた。先生の強いを通り越してもうキモいパワーは、世界も私も救った。先生への賞賛の言葉は尽きない」


 言っているうちに飯が来た。そこそこのボリュームだ。大きめの唐揚げ十個。

 キャベツと味噌汁付き。よしよし、結構美味そうだ。揚げたてだとわかる唐揚げもいいグッドだ。


「いただきます」


 さっそく全員で食べ始める。いいね。サクっと歯ごたえ。肉汁が少し。

 ここでやたら汁が出るやつ嫌い。なのにジューシーだ。うむ、腕がいいんだな。

 軽くおこげと一緒に食う。ほほう、こりゃまた白米に合うようになってやがる。


「美味いじゃないか。いい店知ってんな」


「恐縮です」


「美味しい! なにこれ! この焼けた感じ凄いいいわ!」


「揚げ物がちゃんと注文されてから作られていますわね」


「カレーがとことん煮込まれています。いい腕のシェフがいるようです」


 みんな好評のようだ。味噌汁も濃すぎない。あくまで引き立て役。

 キャベツも多くない。あくまでメインは唐揚げであると理解できている。


「定食なのに下品さがあんまりないわね」


「店のレイアウトや食器、料理の盛り付けなどに気を遣っているのでしょう」


「相変わらずいい味だ。先生の前で恥をかくことがなくてよかった」


「大げさなんだって」


 みんなでわいわい飯食うのは楽しいな。

 全員過度に騒がないし、最低限綺麗に食う。

 最低限なのは定食屋だから。きっちりマナーよく食う場ではないし、俺も飯かっこんでるので、強く言う気はない。


「おかわり欲しいわね」


「よく食うな」


「ちゃんと食べないと強くなれないわよ」


「そうですね、救える世界も救えません」


 こいつら人間の男より食うな。食欲があるのはいいことだ。

 腹減らして救う世界はしんどいからな。


「グラ子さんが来ても勝てませんね」


「グラ子?」


「ああ、女神ランカーだよ。そいつに負けたんだ」


 グラ子の話をかいつまんでしてやる。食い入る様に聞いてくるのに戸惑うわ。


「そちらの三人が……まあ高ランカーは手練揃いです。私も倒すなら苦労します」


「四十八位って言ってたわよ」


「まだ授業は始まったばかりだ。最初から強いわけじゃない。それはお前も一緒だったろ」


 言いながらおかわりを注文する。メンチカツあったので頼んでおこう。


「はい。大切なのは強くなろうとし続ける姿勢です。そう教わりました」


「次はもっと強くなって、勝てばいいのですわ」


 順調に強くなっているし、まあなんとかなると思う。

 グラ子を倒すのは一つの目標になっているみたいだし、いい刺激だな。


「ちなみに私はランク五位です」


「えぇ!?」


「お強いのですね」


「ほー、頑張ってんだな」


 メンチカツさんが超サクサクしていらっしゃいますよ。

 美味いな。ここたまに来よう。


「はい、少しでも先生に近づけたらと初めたことですが、ランクに応じて給料も出るので」


 ランカーについて話してもらった。

 女神の実力の底上げと、ライバルを探すために作られたバトルランク。

 上位五十位以内ともなると、それだけ強い女神であり、女神界に貢献しているということで、かなりの金が出るらしい。


「俺も給料少なかったら出ようかな」


「先生なら優勝できますわ」


「当然だ。出た時点で優勝が確定する。先生の力は女神などとっくに超えている」


「あんた知り合いの女神から評判いいわね」


「一応世界とか救ったからじゃね?」


 勇者やっていた時の偉業とかが積もり積もってんだろ。


「先生は偉大だ。一度でも先生の戦闘を見ればわかるだろう?」


「私とサファイアは、先生がまともに戦っているところを見たことがありません」


「そういえば本気って見たことないわね」


「訓練してやったろ?」


「ぼーっと立ってシールド張ってただけじゃない」


 そういやそうか。あの程度なら、できる女神は多い。

 強さを誇示する意味がないし。俺は教師。立派な女神にすることが本業である。


「別に強いと思われたいわけじゃねえしなあ」


「私としては、もっと先生の強さに触れ、教育する女神が増えてもいいかと」


「いらん。こいつらで手一杯だ」


 三人で限界だよ。これ以上増えてたまるか。胃がぶっ壊れるわ。


「できれば私も先生と戦いたい……今の自分がどれだけ強いのか……」


「五位なのでしょう? ならば充分強いと思われますが」


「あくまでランカーとして参戦している女神の中で五位だ。足りん。先生の強さに追いついていない」


「追いつけたら一位ですわね」


「ふーん、よくわかんないわ」


 ちゃっかりおかわりした肉を食い終わっているサファイア。

 ローズも追加で頼んだ西京焼きを食っている。ずるいぞ俺にも食わせろ。


「女神女王神様なら、先生の本気を出すに相応しいかもしれません。あの方は殿堂入りされていますし」


「ああ、あいつ本気出せば強そうだったな」


「でも倒しちゃいましたよね?」


「お互い本気じゃなかったよ。あいつはもっと強いはず。なんか使っちゃいけない力があって、縛りがある気がした」


 人間相手で油断もしていただろうし、なにかを制御している気がした。

 思ったより女神界には秘密がありそうだ。


「一回ちゃんと戦ってみたいけど……もう乗ってくれそうにないな」


「そうですか……本気の先生が見られるチャンスかと思いましたが」


「本気か……出してないな……もう何年も出してないぞ……今どれくらい強いんだろ」


「わたくしの世界では本気ではありませんでしたわ」


「無論、こちらもだ。つまり……現時点での先生の強さがわからない」


 自分がどの位置にいるか不明だと、目標が立てられない。

 これがかなり不便で、モチベーションが下がりまくる。


「俺もランキング出らんない?」


「無理でしょう。女神ではありませんし、流石に場を荒らすだけかと」


「そりゃ駄目だな。いやみったらしいし、勇者っぽくない」


「初狩りはマナー違反よ」


「わーってるよ。んじゃお前らが出たらどうだ?」


 適当に言ったが、これ凄くいい案な気がする。

 こいつらには実戦が必要だ。ヴァンパさん戦で才能の片鱗は見えた。

 あとはどう訓練を活かす場を作ってやるか。それを悩んでいたところだ。


「そうねえ……ちょっと面白そうね」


「異論はありません」


「もっと強くなる必要がありますもの」


「流石は先生。この短時間で生徒を思いやるその御心……感服いたしました。私から推薦しておきます。遅くとも三日ほどで通達が行くでしょう。改めて闘技場で検査を受け、ランカーになってください」


「何から何まで悪いな。今度なんかしてやるよ」


「本当ですか! では…………くっ! いざとなると絞りきれない!」


「ゆっくりでいいよ。期限はない」


 そして完食。かなり食ったな。腹一杯だ。大満足。

 会計して店を出る。給料入るまで、俺の財布はかなり寂しいことになった。


「ごっそーさん。またな。ちゃんとお礼すっから、いつでも家に来い」


「はい!!」


 ランク戦で駄女神の強さを調べよう。周囲の女神とどう違うか。

 細かい差異を知っておくことも必要だろう。

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