第15話 キャンプでも駄女神だよ

 俺たちは山の中。綺麗な川の流れるキャンプ場に来ていた。


「えー今回はなぜかキャンプに来た。マジでなんで?」


「女神女王様が『キャンプ行ったら楽しかったわ。あんたらも行ってきなさいよ』とのメッセージを残してどこかへ逃げました」


「ちっ、逃げやがったか」


 毎度のごとく、女王の思いつきか。はた迷惑な女だな。


「ヤーッホー!」


「それは川でやることじゃないぞサファイア」


「うーみだー!」


「山だよ」


「一日くらいのんびりしてもいいのでは?」


「そうですね。綺麗な川もありますし。今日はリフレッシュということで」


「まあ悪くないか。んじゃ今日はキャンプ。林間学校? ってやつをやってみるか」


 そしてカレンとローズを料理組。俺とサファイアをテント組にしたわけだが。


「テントというか、道具どこだ?」


「ないわよ?」


「はあ? さらっとないとか言われても困るぞ」


「キャンプ場って丸太の小屋があるんじゃないの?」


「見渡す限り大自然だが」


 遠くに大きめの小屋が見える。なんだあるじゃないか。


「あれだな。行ってみるぞ」


「あそこの鍵だったのねこれ」


「鍵持ってるんかい」


 中は手入れがされており、水も出る。埃も積もっていない。

 魔法で手入れがされているクチだな。


「じゃ、わたしは寝てるから」


「まてや。飯の準備手伝うぞ」


「起きたらやるわ」


「寝るな!」


 サファイアを引きずって外へ出る。はんごうで飯を炊くローズが見えた。


「どうだ、トラブルとかないか?」


「無事、火をおこし、順調にお米が長けていると自負します」


「そうか、火加減に気をつけないと難しいぞ」


「まったく……脱ぐヒマすら無いとは……」


「そのまま米を見張れ」


 いいぞはんごう。そのままローズを動けなくしているのだ。

 自分のご飯がかかっているだけあって、ローズは真剣だ。任せてもいいだろう。


「カレンを手伝うぞ」


「釣りとかしたい。キャンプって釣りとかするでしょ」


「今日はカレーだ」


「えー」


 ちょっとやってみたいけど、飯は多くても食いきれない。

 ちゃんとカレーを作ろう。


「先生、お疲れ様です」


「おう、順調か?」


「はい、今は野菜を切っています」


「よし、サファイアもやれ。包丁の使い方覚えろ」


 ここで料理スキルを上げてやろう。カレーなら簡単だし、キャンプ感も出るしな。


「しょうがないわねえ。何切るの?」


「ニンジンからいきましょう」


「嫌い」


「俺も好きじゃねえけどカレーだしな」


「先生も好き嫌いがありますからね」


「栄養なんて取らなくてもよくなるとな、好きなもんだけ食いたくなるんだよ」


 常に健康な不老不死になると、嫌いなものを我慢する必要がない。

 太らないし、病気にならないからだ。


「栄養バランスが偏るから、好き嫌いはダメなんですよ」


「バランスどころか食わなくても支障がないけどな」


「あんた便利な身体ねえ」


 なのに好き嫌いはいけないとか言われるから面倒なんだよ。

 ニンジンの切り方を教えながら、なぜ人は無理矢理野菜なんぞ食ってまで生きるのか。そんな哲学に入り込みそうになる。


「わたしも不老不死になれば、好きなものだけ食べてていいんじゃない?」


「女神に寿命とかねえだろ」


「でも先生なら女神も殺せるんじゃないの?」


「そうか、そういう意味じゃあ不死じゃないんだな」


「なんですかこの物騒な会話は」


「サファイア。包丁の持ち方危ない。指が当たらないように切るんだよ」


「難しいわね。あ、指ぶつけた。もうめんどい」


 指が当たって包丁が欠けそうになっている。

 流石は女神。頑丈にできてやがるぜ。


「こう……こう? よしできた! イモ貸しなさいイモ。ニンジンができて、イモができないはずがないわ」


「はいはい。イモは難易度高いから気をつけろよ」


「余裕よ余裕!」


 野菜は任せておくか。せめて家事くらいはできるようになってもらうぞ。


「肉は?」


「切ってあります。定番の牛肉です」


「定番ね。変化球でもいいのに」


「うまくやりゃマトンとかいけるんだが、今日は基本でいく」


「美味しいの?」


「美味いぞ。失敗すると超臭いけどな」


 取扱の難しい肉である。上物以外は、ちゃんと扱っても臭いことがあるし。

 まあ女神界ならなんでも揃うし、上物もあるだろう。


「次はマトンにしてみましょうか」


「いいだろう。女王にでも準備させるか」


「あの人ろくなことしませんよ?」


「金だけ出させよう」


「ヒモみたいね」


「まだ給料出てないからな」


 そういや給料についてちゃんと聞いてないな。

 月末に出るらしいが、どうも金に執着がなくなってんだよなあ。


「お給料は円とドルどっちを希望しました?」


「選べんの!?」


「どっちも女神界じゃ使えないじゃない」


「じゃあなんで選ばせるんだよ!?」


「多分嫌がらせですね」


「あいついっぺんしばく」


 ノリだけで生きやがって。俺の教師生活なんだと思ってやがる。


「先に確認しないなんて、先生ってお金に無頓着ですよね」


「錬金術くらいできるからな。例えば捨てるニンジンの皮あるだろ」


「ありますね」


「これをこうすれば金にもダイヤにもできる」


 適当にひとつまみして、純金に変えてからダイヤに変える。

 純金は結構錬成が楽。ダイヤはこつがいるのだ。


「はー……そりゃ興味もなくなるわね」


「ダイヤにした包丁で切ると、皮が切った先からダイヤになりまーすっと」


「なんですかそのブルジョワなかくし芸は」


「暇だったんで覚えた。やることないと無駄に芸が増えるんだよ」


「どうでもいいけどカレーに混ぜないでよ。食べ物じゃないんだから」


「もう全部皮に戻したよ」


 金粉を食う文化もあるが、カレーには入れないだろう。

 高級品じゃないと相性悪い気がする。


「ルーどうする? 俺が作るか?」


「カレーの女神様甘口があるわよ」


「あんのかよ。んじゃそれ入れて煮込むぞ」


 材料全部入れてじっくり煮込む。ここでカレーの良し悪しが決まる。


「絶妙ないい匂いが食欲をそそりますね」


「そうだな。じっくり煮込めば煮込むだけうまくなる」


「先生、ご飯がたけました」


「急ぐのよ! ご飯が冷めるわ!」


「しょうがねえなあ」


 鍋の時間を早めて一気に仕上げる。冒険中にもやった手だ。

 時間短縮できるので、単純な作業向き。


「よし、んじゃ食うか」


 四人でテーブルに座って手を合わせる。


「いただきます」


 一口食ってわかる。美味い。キャンプのカレーは美味いのさ。


「いい味です。コクがあってご飯がすすみます」


「やっぱり先生のカレーは美味しいですね」


「美味しい! まあわたしが作ったし当然よね!」


「よくできてるな」


 ちゃんと食える。しかも美味い。上出来だ。

 シンプルな料理といえど、美味しくするには根気が必要になる。

 そういうことを学ばせていく。これも教師の勤め。


「初めてなのに美味しくできたわね」


「ちゃんと手順守って真面目にやれば、大抵はそれくらいできるんだよ」


「基礎は大切なんですよ」


「野菜も切れるようになるしな。できることが増えたじゃないか」


 できたことは褒める。厳しい、怖いとクズは別物だ。混同するアホが多すぎる。

 そこが理解できないやつは、物事を教えることに向いていない。


「飯もちゃんと炊けているし、カレーは大成功だ。こうやって料理のレパートリーは増えていく。緊急時に作れる料理も増える。できて損はないのさ」


「おかわり!」


「聞いてるか?」


「聞いてるわよ。ご飯時にあんまり難しいこと言うんんじゃないの」


「ん、一理あるな。俺もおかわりで」


「まだ余裕がありそうですね。私もお願いします」


「はいはい、ちょっと待って下さいね」


 こんなとき、自然とカレンが世話係みたいになる。

 なぜかは知らんが、感謝はしているぞ。


「食べたらキャンプファイアーよ」


「あれって燃やして何するんだ?」


「火を見ると気分が高揚するのでは?」


「してどうする?」


「謎ですね。今世紀最大のミステリーですよ」


「まず今は何世紀だよ。まあやるだけやるか?」


 あれはどうするものなんだろう。なにかの儀式や風習が形骸化したものか。

 あれだけ大きな火が出る仕掛けを、なんの意味もなくするとは思えない。


「釣った魚でも焼きます?」


「それはありだな」


「じゃあ夜食のために釣りでもしましょうか」


「釣りやってみたい!」


「んじゃ釣りで」


 幸い川には魚がいるようだし、釣りの基本でも教えるか。


「よーし、じゃあ釣り竿貸してやるよ」


 メニュー画面で倉庫を呼び出し、初心者用にカスタマイズされた、最高性能のやつを貸してやる。


「おお、なんかそれっぽいじゃない!」


「こう見えても釣り大会で優勝経験がある。まず餌をつけよう」


「うえぇ……ミミズ気持ち悪い……」


「ルアーではいけませんか?」


「ルアーなんて自然に生えてないぞ。サバイバル訓練も兼ねているから、ちゃんとやること」


「そういえば授業の一環でしたね」


 多少手伝ってやって、なんとか形にはなった。

 正直これは練習が必要なので、初回から完璧にできるとは思っていない。


「あとはじっと待つ。待ってりゃ……お、かかるの早いな」


 俺の竿が引いている。確かに魚がかかっているな。


「ここで気をつけるのは焦らないことだ。焦ると逃げる。ゆっくりと、じっくりと糸を巻くんだ」


「露出のタイミングや興奮する脱ぎ方と共通していますね」


「なにと繋げてんだ!? ああもう、で漫画みたいにドバーっと持ち上げなくていい。しっかり巻いたら、ちょっと引き上げて」


「うわ、びちびちいってるわよ」


 結構活きがいい。大自然で育っているからかも。丁寧にいこう。


「そのへんの石で囲ったスペースにおろす」


 川のすみっこに、石を積んで小さな生け簀を作る。

 そこに入れておけば、調理する時まで死なない。


「おおー面白そう!」


「無闇に釣るなよ。ちゃんと食わないとダメだ。一回釣ったら針のせいで生きていくにはしんどいんだから」


「はーい!」


「ではいきます」


 麦わら帽子にシャツとズボンのローズ。いつ着替えた。


「ふっ、これが釣りスタイルです。せい!」


 完璧なフィッシングである。こいつ変な才能が開花し始めているな。


「じゃ、わたくしとこっちで釣りましょう。釣りは静かな時間を楽しむのですよ」


「そうだな。あとで魚をさばく時に手伝ってくれよ」


「はい、お任せを」


「ええぇぇい負けるかああぁぁ!」


「サファイアうるさい」


 ほどほどに釣りを楽しみ、やはり調理時に騒がしかった。

 魚は一からさばくと結構グロいのである。まあこれも教育だ。

 キャンプファイアーの火を借りて塩焼きにし、釣った分は全て美味しく頂いた。

 これもいい経験だろう。明日からの授業プランに、こういう実習を入れてもいいかもしれない。そう思えるくらいには、キャンプは大成功だった。

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