料理でも駄女神だよ

「晩飯を全員で作るぞ」


「そのためのエプロンなのですね」


 夕飯の材料を買って、ついでに全員のエプロンも買った。

 今日はこいつらに簡単な料理を教える。


「女神に料理をさせるなんて……」


 サファイアは青いエプロン。ローズがピンク。カレンが緑。

 俺は紺色。適当に選んだ。


「料理は危険なので脱がないように」


「私の価値が消えましたね」


「むしろ脱ぎすぎると価値が落ちる気がするぞ」


「いいからさっさと作るわよ。お腹が減ったの!」


「お前ら料理できるか?」


 俺とカレンはできる。問題はこいつらだが。


「できなくても困らないわ!」


「魔法以外は専門外です」


「まあそうだな。今日はがっつり食うために餃子だ」


 米は炊いておく。スープは中華スープ。卵でも入れときゃいい。


「よし、材料切るぞ」


「ではみんなでやりましょう」


「指切るなよ」


「わたしの指は包丁ごときでは切れないわ!」


「女神の体って便利だな。いいか、包丁はこう持ってだな」


 持ち方から教える。長ネギからいこう。

 猫の手っぽくして、慎重にかつ大胆に切る。


「こう細くトントンと」


「おぉ……手慣れていますね」


「冒険者やってたからな。料理スキルもカンストまで上げたし」


「器用なもんねえ。こうかしら……あ、指当たった」


 よそ見しながらやるもんだから、サファイアの指に包丁が当たっている。


「気をつけろよ。今のが切れ味よかったら危ないぞ」


 結構目が離せないもんだな。だがこうしてなにかを教えるのは楽しい。


「コツというものを掴んだ気がします」


「おぉ、ローズちゃんやりますね」


「ふん、ローズにできて、わたしにできないはずがない! 女神乱舞!」


「めちゃくちゃに切るのはやめろ!」


 しばらくして、具を細かく切っていく作業に入る。

 肉は難しいので俺とカレンでやった。


「入れたい具は届いているな?」


 それぞれリクエストした具が用意されている。

 女神界はなんでも揃うぞ。


「当然よ! さあ刮目しなさい! これが最高級大トロよ!」


「なんでだ……海産物ならタコとかイカがあるだろ」


「高い方が女神っぽい!」


「意味がわからん。もう全部わからん」


「だって食べてみたかったんだもん!」


「食ったことねえのかよ!?」


 とりあえず入れてみる。魚の臭みをにんにくでカバーしよう。

 にんにくは入れるものと入れないものを用意。


「ローズは何にした?」


「獣の皮を捧げます」


「言い方が怖い!?」


「北京ダックの皮です。無論。皮以外も具に入れますし。お肉をちょっと焼いて食べます」


「いいな。露骨に腹が減るもん用意しやがって」


 いいね。早く食いたい。これは見ているだけで腹が減る。

 服さえ脱がなきゃ、俺とセンスも近いし優秀なんだよなあ。


「わたくしはふりかけです!」


「知ってた。マジで」


 ちなみに地味に美味い。基本的に餃子が万能であり、ふりかけはスパイスだ。

 壊滅的な組み合わせじゃない限り、まずくはならない。


「じゃあ皮に包んでいく。量が多すぎると」


「はみ出るのね」


「手遅れだったか」


 すでに盛り過ぎてはみ出ている餃子発見。

 ちょっと調整して戻す。具は難しいので俺が作った。


「地味な作業ですね」


「女神がやるにしては、華がないわね」


「餃子作る女神とか前代未聞だからな」


「あんたがやらせたんでしょうが!」


「その件につきましては、こちらではお答えできかねます」


「事務的な対応!? っていうか首謀者でしょうがあんた!」


 そしていよいよ焼く作業に突入。綺麗に並べて、水入れてフタをする。


「よーしいいぞいいぞ。これは美味いはずだ」


「できるまで長いわねえ」


「安心しろ。あと十秒だ。中の時間を早めている」


「流石先生ですね」


「はいはい、さっさと食うぞ」


 フタを開けると最高にいい匂いがする。

 全員の腹が鳴ったので、急いでテーブルまで持っていく。


「米もよそったな。よし、いただきます」


 全員で食い始める。美味い。

 パリッともちっとした皮と、中身の肉汁が最高に美味さを引き立てる。


「あっつ!? 舌火傷したじゃない!」


「回復魔法で治しとけ」


「素晴らしいですわ。美味しくできましたわね」


「これはたまりません。料理。実に興味深い」


「わたしが作ったんだから、美味しくて当然よ! いいわ! 素晴らしい出来栄えよ!」


 大好評である。久しぶりに食ったけど、やっぱ餃子は凄いな。

 人の腹と心を満たす。ガンガン食っていこう。


「マグロ悪くないわね」


「まあしっかり焼きゃいいんだよ。普通に焼き魚だし、味付けもシンプルだ」


「醤油につけるとなんでも美味しくなるわね」


「普通に肉入れたのと味が違うが悪くない。五個のうち一個くらいならいいな」


 出来る限り美味しくなるように工夫しておいたからな。

 普通に焼いて塩振ったマグロも美味い。


「やはり北京ダック万能説を提唱すべきですね」


「万能だな。ほんとうめえ。なにつけてんだそれ?」


「北京ダックに塗るあのタレです。美味しさ倍増ですよ」


 ダックに塗る時しか使われない気がするあの味噌だ。

 あれを醤油の代わりに付けて食うと美味い。このタレ最高だな。


「うんめえなあ……」


「美味しいわね! このタレもっといろんな料理に使われるべきよ!」


「確かにな」


「一理ありますね」


 野菜餃子ふりかけ入りを食す。野菜にして栄養バランスを考えるわけだよ。


「懐かしい味だ」


「冒険中に何回か作りましたね」


「初めて会ってから、そんなにたってないはずなのにな」


 単純に餃子でも、同じ味を食い続けると飽きる。

 それを解消するためにやってみた。

 そして米には別の種類のふりかけとかやってみたのさ。


「悪くないわね」


「まあ、美味しい部類でしょう」


「順番が……順番が悪かっただけですわ」


「ダックの後じゃなあ……美味いんだからまあいいじゃないか」


 ノーマル肉餃子も作ってあるので、一緒に食う。

 足りなくなったら予備を追加で焼く。


「ふっふっふ、料理ちょろいわね!」


「まだまだ初歩だっつうの」


「次は私が焼いて、ヘラでガッとひっくり返してみたいです」


「いいぞ、じゃあ蓋を開けるからやってみ。上手くやんないと皮が鉄板にくっつくぞ」


 餃子を入れて、ちょうどいいタイミングでフタをあける。

 湯気と匂いがいい感じ。


「力を入れすぎてもダメだぞー」


「ふぬぬ……おっ……おぉ……半分はがせました」


 必死で餃子と格闘しているローズ。なんか微笑ましいな。


「よしよし、そのまま慎重に剥がして、くるっとひっくり返すんだ」


「こう……はっ!」


 無事に羽つき餃子の完成である。いい焼き色だ。


「ふっふっふ……これでひとつ大人になりました」


「えらいえらい。最後まで気を抜かず、慎重にやったからだぞ」


 成功体験は地味でも積ませよう。そういう細かいことが響く。

 弱かった俺もそうだった。


「次はわたしがやるわ!」


「よーし並べるところからな。具を入れて」


「はい、こっちにまだ皮がありますよー」


 仲良く餃子パーティーは進んでいった。


「ふはー、いやあ食べたわね。もう入らないわ」


「非常に満足です。次回も期待していますよ」


「またお料理しましょうね」


「おう、期待しとけ」


 次はもうちょい難易度の高いことをやらせてみるか。

 そんなことを考えながら、俺はカレンと後片付けに入った。

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