第4話 露天風呂でも駄女神だよ

「いい湯だ……今日一日の疲れがギリギリなんとか取れそうだ」


 飯食って食器洗ったら風呂だ。まず露天風呂とやらに入る。

 ヒノキと岩で構成された浴室は、それはもういい雰囲気だった。

 景色が普通なのは残念だけど、俺以外に誰も居ないので落ち着ける。


「いいやっほおおぉぉい!」


 アホ丸出しの声を上げながら、風呂に飛び込んできた誰か。


「うぶっ!? てめえ風呂に飛び込んでんじゃねえよ!」


「いいじゃないこんなに広いんだし。わたししかいないんだし」


 広いさ。めっちゃ広いよ。二十か三十人は一緒に入れるだろうさ。


「だからって飛び込むなよ」


「いいじゃなうるさい……わ……ね……」


 声の主はサファイアだった。やはりうるさい。

 なんか硬直していらっしゃる。そのまま動くな。喋るな。そうすりゃ女神っぽいよ。


「きゃあああぁぁぁ!?」


「うっせえ!? お前なんなんだよ!?」


 やっぱうるさいじゃないか。こいつ本格的に喋らないで欲しい。


「なんでいるのよ!?」


「入るっつったろうが」


「大浴場の方じゃないの!?」


「あー……なるほど。伝達ミスか。そりゃすまんな」


 風呂に入ってくる。俺の言ったのはただそれだけ。

 そりゃ風呂が二つありゃ勘違いも起きるってもんだな。ちょっと反省せねば。


「っていうかなんで平然と会話してんのよ! 女神様が裸なんですけど!?」


「風呂だからな。安心しろ。やましい気持ちはない」


「そう、お風呂では皆平等に全裸なのです」


 全裸で仁王立ちするローズがいた。

 まあ風呂だ。服を着ろとは言えない。策士だな。


「お前はもうちょい隠しな」


「そうよ! 男に見られるのよ!?」


 言いながら方まで湯に浸かるサファイア。そうすりゃ湯と煙で体は隠れるな。


「ええ……新鮮ですね。今までにない興奮が私を満たしています」


「その感想はどうなんだ?」


「あんたもあんたでさあ……もうちょっと顔赤くするとか、鼻血出すとかないわけ?」


「昔の漫画かよ……安心しろって。俺にとっちゃ女神ってのは、世界ごとに変わる面白オプションだよ。そんなもんに欲情するかっての」


 猿じゃあるまいし。今時女のケツおっかけて、人生無駄にしているヤツの方が珍しいだろう。


「誰が面白オプションよ! もっと女神を敬いなさい! 崇め奉るのよ! 社が足りないわ社が!」


「駄女神のくせに何を言う。お前らみたいなのが何十人いたと思ってやがる」


 それはもう試練としか言いようがないものだった。

 その世界の勇者の試練なんぞ比べ物にならんほどにしんどかったよ。


「苦労されたのですね。まあここは私の裸体でも見て興奮してください」


「それができねえからやめろっつってんだよ」


「わたしの方がいい体をしているわ! 豊満な肉体! 性欲を高ぶらせる究極の女神!」


 二人揃って仁王立ち。ただしサファイアは顔が赤い。無理しているな。


「無料生放送で脱いじゃう売女みたいだな」


「そんな安っぽいアホと一緒にすんじゃないわよ!」


 アホ度ではお前の圧勝だよ…………いやそうでもないか?


「背中……流しましょうか? 胸で」


「なぜ胸でとか付け足すのさ。ほのぼのでいいじゃん」


 一緒に風呂に入るという行為は、くつろげるなら歓迎しよう。


「ほのぼので性欲が満たされるとでも?」


「満たすなや」


「お風呂とは、全てを洗い流せて清潔にできる素晴らしいスポットです」


「それを汚そうとしているのがお前だよ」


「よしさっぱり! あんたらはそこで一生いちゃついてなさい」


 サファイアはマイペースに出ていった。

 俺も温まったし出るか。


「じゃ、俺も出る」


「放置ですか? せっかく不快感のない男性が現れたというのに、もう少しサンプルを……」


「本来風呂とは孤独に楽しむものだ」


 風呂を出てパジャマに着替えた俺を、カレンが出迎える。


「はい先生。コーヒー牛乳です」


「すまんな」


 瓶のコーヒー牛乳を渡される。女神界ってなんでもあるな。

 すでに飲みきったサファイアが自室に帰ろうとしていた。


「ちゃんと歯を磨けよ」


「女神が病気になるわけ無いでしょ。魔力で虫歯にもならないわ」


「口臭くなるだろ」


「ならないわよ!」


「なるぞ。他の女神で実証済みだ」


「……しょうがないわね」


 渋々洗面所に消えていった。

 女神の肉体は千差万別。だがなぜか人間と似ている。その理由は俺も知らん。


「大変ですわね」


「これからの一年に不安しかないわ」


「世界を救うよりは簡単ですわ。冒険の必要もありませんし」


「一年間は続ける必要があるだろ。魔王がいる世界を救っている方がいい。簡単だし」


 直接魔王城やら暗黒空間に行けばいいだけ。楽勝だ。世界救済RTAできるはず。


「魔王を倒さないと終わりませんよ?」


「殴れば死ぬだろ」


「魔王も序盤の敵も一緒ですか」


「最近はデザインも似たり寄ったりで飽きた」


 とりとめのない会話をしながら時間は過ぎていく。

 なんだか二人で冒険していた頃に戻ったようだ。


「でも女神は美少女揃いですわ」


「興味がない」


「ですよねえ……なぜなのでしょうね? 種族の壁ですか?」


 多分違う。見た目は人間だ。むしろ人間より上だ。だから種族の壁じゃない。


「単純に興味がない。おそらくだが……強くなりすぎた」


「どういうことですの?」


「ほぼ無敵だからな。子孫を残そうという危機感がない。ぶっちゃけ若返りも不老不死も自由自在だし」


「ああ……そういうことですか……大変ですわねえ」


「不自由はしないよ」


 不便だと思ったことはない。毎日楽しいさ。

 すべてが手に入るとつまらないとか、ずっと楽しいと退屈に感じるとか。

 そんなもんは所詮酸っぱいぶどうというやつだ。

 俺はずっと楽しいままだよ。


「はいこれ。資料です」


「また資料か。明日の予定?」


「はい。まず校庭で実力テスト。その後、本格的に加護を与えていく訓練です」


「かなり後だが、課外授業があるな」


「はい。実際に三女神でひとつの世界を救ってみようというプログラムです」


 いいかもしれない。実践は大切だ。

 女神が強くなれば、それだけ加護も強力になる。


「先生も一緒ですわ」


「ま、そりゃそうだわな」


「明日から本格的に先生です。心の準備はよろしいですか?」


「おう、やるだけやるさ」


 やると決めた以上、俺の一年は教師として使おう。

 ちょっと面倒でうるさい連中だが、まあじきに楽しくなるだろう。

 俺は資料を眺めながら、さっさと部屋に帰って寝ることにした。

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