異世界を数百個救った勇者の俺は駄女神学園で先生をしています
白銀天城
第一部 駄女神の先生になりました
ご覧の駄女神だよ
ちくしょうやっちまった。
世界は無数に存在する。俺はそんな世界を救う勇者として、旅をしてきた。
その世界を守護する女神達と協力し、時には敵対しながら数々の世界を平和にしてきたのである。
それがまずかった。
「よろしくしてあげなくもないわよ! わたしの威光にひれ伏しなさい!」
どんな世界の女神とも協力し、最後には勝利を勝ち取る力。
「まったく、なぜ私が再教育など……とりあえず暑いので脱いでもいいですか?」
それはつまり、どんな『駄女神』であろうと立派な女神にできる男の証。
そう勘違いされたのが運の尽き。
「カレンです。手からふりかけが出せます! またよろしくお願いしますね先生!」
目の前には、いかにもなダメっぷりがオーラとして見えそうになる女神たち。
俺はこれから、こいつらを立派な女神に再教育せねばならない。
俺の悪夢の一年間が始まった。
時間は少し遡る。
俺が何百個目かわからない異世界で、滅びの元凶である邪神を倒したその日。
「本当にありがとうございます! 勇者様がいなかったら……わたくしは……この世界はどうなっていたか。本当に、感謝してもしきれません」
「気にするな。俺がやりたくてやってるんだ。お前との旅も楽しかったよ、カレン」
世界を救った祝勝パレードから抜け出し、その世界の女神カレンと別れの挨拶をする。
俺にとっては最早恒例行事であり、ここまではいつものことだった。
「わたくしも……楽しかったです。そして本当にごめんなさい。最初は手のひらから大量のふりかけが出せる能力しか与えられなくて」
こいつは自分に自信がなく、新米女神だから与えられる加護も弱かった。
俺が強かったから平和になったが、一般人ではきつかっただろう。
「ここは米が主食の世界だから、むしろ助かったよ。鮭とか、おかかとか、何種類も出せたしな」
俺のふりかけ屋は繁盛し、ちょっとした金持ちにもなった。
金さえあれば冒険は楽である。こいつといる時間も楽しかったしな。
「それに最後には、一年に一回ならどんな願いもひとつだけ叶えられる力をくれたじゃないか」
「はい! これも先生のおかげです!」
笑顔が眩しい。長い銀髪が夜風になびいて、月明かりで輝いている。
この笑顔には何度も救われた。
「ははっ、もう先生はやめろって。別の女神とやったことを教えただけさ」
「いいえ、先生のご指導あっての私です!」
別世界の女神との旅。そこでこなした修行。戦闘による女神自身のレベルアップ。
そんなことを教えていくうちに、こいつは駄女神から立派な女神へと成長した。
今はもう、様々な能力を与えられる、この世界の女神様だよ。
「それで先生。結局願いは使わなかったじゃないですか」
「ああ、大抵のことは自分でできるようになっちまったよ」
「そのお願い……わたくしが使ってもいいですか?」
「そうだな。この世界ともお別れだ。いいぜ、記念にどんな願いもひとつだけ叶えてやろう」
これが失敗の始まり。大失敗。破滅への序曲。地獄の一丁目。
「あの……ですね。最初のわたくしみたいな、駄女神って結構いるんですよ」
「だな。何人か知っている。いや何十人も……いやもっとか」
聞きながら願いを叶えてやるために魔力を発動。
一応俺の能力が奪われたり、消されたりしないように細工はした。
つまりこの時点で考えが甘かった。
「先生はそんな駄女神を立派な女神にして、しかも世界を救い続けてきました。そのことで、女神界では救世主扱いでして」
「初耳だよ。女神界で噂になってんのか」
女神界。女神しかいない世界。こいつらの故郷。
そこから女神は異世界へと派遣される。
「なんて言われているんだ?」
「わたくしみたいな駄女神を、立派な女神に再教育して欲しいくらいだって」
「おいおい、大げさだな」
「だから……だから、駄女神再教育施設で、先生をやってください!!」
「…………はい?」
魔法は発動した。こいつの願いは見事に叶えられ、解除する間もなく女神界へと飛ばされたのである。
そして女神界で、女神女王神というわけのわからない肩書をもつ女に、武器を突きつけられてこう言われた。
「ふっ、かかったわね! この大間抜けが! まずは力の差を思い知らせてあげるわ!!」
とりあえず泣いて謝るまで攻撃しておいた。
「うわああぁぁぁん!! なんでよ! 女神界の女王で、女神の神なのよ! なんで人間に負けなきゃならないのよおおおぉぉぉ!!」
「うるさい。どういうことだこれは」
何百個も世界を救い、星の数なんて超えるほどの技能と、全宇宙を滅ぼす圧倒的な身体能力を持つ俺が、いまさら女神に負ける理由はない。
「本年度から、新たに駄女神更生施設というものを作ったのよ!」
「そこにお前をぶち込めばいいのか?」
「私にそんなものが必要だとでも?」
「お前に一番必要だよ」
無駄に自信満々で金髪で、ひたすら光り輝く美女。うざい。果てしなくうざい。
なんでも俺の評判を聞き、その施設の先生をやって欲しいとのこと。
「普通に頼めよ」
「カレンちゃんカモーン」
「あ、どうも先生。色々とすみません」
カレンめ、せっかく願いを叶えてやろうと思ったのに、罠にはめやがって。
「女神女王神様に脅されました」
「言わないって約束したでしょカレンちゃん!!」
「すべての元凶はお前か」
「えーとりあえず! 学園っぽい施設を作ったので、駄女神の先生になってください! カレンちゃんはお世話係と生徒につけてあげる!」
カレンが嫌そうな顔をしている。うんざりって感じだな。
「普通に頼みに来るってことができんのか。女神になにか教えればいいだけだろ? 世界を救うより楽そうじゃないか」
「女神女王神様みたいなのがいっぱいいますよ?」
「よっしゃ帰るか!!」
やってられん。やってられるか。
初対面で、これだけポンコツだとわかるアホが複数いるとか胃がもたない。
「なので願いの力で呼んだのよ。我ながらグッドアイデアね」
「本当にすみません先生」
「いいんだよカレン。お前もつらかったんだな」
同情してしまう。カレンへの恨みはもうない。
逆にこの駄女神のトップをどうしてくれよう。
「いいじゃない。女の子に囲まれて先生やれるのよ? とりあえず試験的に三人入れておいたから、いけそうなら三十人くらい送るわ」
「三十人!? お前みたいなのが三十人も来んの!? 無理に決まってんだろ!」
「三十人か三人かどっちか選びなさい!」
「まだ先生やるって言ってねえよ!」
「いいじゃない! 豪華な部屋と、充実の設備。三食ついてお給料も抜群よ!」
「ここにきて普通の勧誘!?」
「一年くらいやってみなさいよ。カレンちゃんも喜ぶわよ」
どうせ世界は救っておいたからヒマだ。女神が優秀なら俺が救う世界も減る。
最近は無数にある世界を救うのがハイペース過ぎた。
ちょっとくらい腰を落ち着けてみるのも悪くはないのかも。
「一年か……絶対一年で終わるのか?」
「おぉ? なになに? 一年ならいい? じゃあ最悪十年でも?」
「最悪すぎるだろうが! 絶対一年つってんだろ!」
「一年ならいいのね! じゃあ豪邸を建ててあげるわ! 感謝してむせび泣きなさい!」
ここで帰っておけばよかったんだろう。
なんとなくカレンが残って欲しそうで見捨てられなかった。
「それじゃあお風呂と壁は必要として……屋根とか窓ってあった方が嬉しい?」
「お前もうなんなんだよ!? なきゃダメに決まってんだろ!!」
「あ、いっけない。よく考えたら床もいるわね」
「誰かああぁぁ!! 誰かちゃんとした人きてえええぇぇぇ!!」
家は高級温泉旅館のパンフレット見せて、そのまま作ってもらうことにした。
「どこに建てよっかなー」
「施設に近くないと通うのが面倒だぞ」
「じゃあ学園にくっつけるわね」
「近すぎるわ!!」
まずい。こいつ限度とかないぞ。目が離せん。
「そうだ、せっかくだから寮として使いましょう! 共同生活の中で立派な女神になってもらえたらお得じゃない」
「どう繋がるんだよそれ?」
「あなたと一緒に冒険した女神は成長したでしょ? なら一緒に暮らした方がよさげだし」
「なるほど。先生とまた一緒に住めるのですね」
カレンさん。なぜ賛成側ですか。
いやまあ温泉旅館だから部屋なんて余るだろうし。
俺は住む所に困らなきゃいいけどさあ。
「よーしさっそく授業行ってきて!」
「今から!?」
「がんばってくださいね、先生!」
そして最初の授業に向かうのであった。
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